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もふっとにゃ!  作者: 蜜りんご
第3章 子ネコーの朝活 
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パン泥棒とおきゃわり

 ついほんのさっき迄は、あんなに幸せに包まれていたのに。

 にゃんごろーは、信頼していたはずの長老によって、奈落の底まで突き落とされてしまった。


「しょ、しょんにゃ……。ちょーりょーまれ……」

「体の大きさを考えい、と言ったじゃろ。今までだって、ネコーの分は、人間たちよりも少なめじゃったろ?」

「しょーらけりょ! れも! みんないっしょにゃら、にゃんごろーも、しょーおみょうけりょ! ちゃんと、みちぇ! クリョーらけ、みんにゃより、いっぴゃいらよ!」

「そりゃ単に、若い男子だから、いっぱい食べると思われてサービスしてくれたんじゃろ」

「ちらうもん! クリョーから、ちょりもりょしぇびゃ、みんにゃ、おんにゃじににゃるもん!」

「…………算数なんか、出来んくせに。こういう時は、ちゃんと分るんじゃのー……」


 クロウのバターロールは四つ。にゃんごろーと長老は一つずつで、残りのみんなは、二つずつ、お皿の上にはバターロールが載っている。

 にゃんごろーは、まだ算数というものを教わっていないし、自分で勉強もしていないし、よく分かっていなかった。けれど、食いしん坊的直観で、見抜いていたのだ。

 クロウから盗まれた(とにゃんごろーは思っている)バターロールを二つ取り戻して、にゃんごろーと長老に一つずつ返せば、ネコーも人間もみんなのバターロールが二つずつ平等になるということを。

 それなのに、鋭くそれを指摘したにゃんごろーの渾身の訴えも、長老には届かなかったようだ。長老は、呆れた顔でにゃんごろーを見ているだけで、バターロールを取り戻そうとする様子はない。

 悲しみと絶望に、子ネコーのお目目がウルウルと潤んでいく。

人間たちの方はと言えば、片一方だけが緊迫したネコーたちのやり取りに、笑いの発作は完全に鎮静化していた。みんな、ハラハラしながら長老と子ネコー見守っている。オロオロしつつも余計な口を挟まずに見守りに徹していたのは、ここは保護者である長老に任せた方がいいだろうと判断したからだ。

 そんな中、子ネコーが俯いた。

 その拍子に、一粒の涙が零れ落ちていく。


「ひぃっく……」


 子ネコーがしゃくりあげる。和室が、凍りついた。

 長老は呆れた顔をしていたが、人間たちはみな、見るからに氷点下な顔で固まっている。いや、クロウだけは氷漬けにはなっておらず、子ネコーが本格的に泣き出す前に、大慌てで弁明を始めた。このままでは、まるで自分が泣かせたようではないかと、クロウは大いに慌てていた。

 

「ちょ、おい! 泣くなって! いいか、ちびネコー? 俺は泥棒なんてしていない。いっつもパンをおかわりしているから、食堂の奴らが気をきかせて大目に用意してくれただけだ!」

「…………おきゃわり?」


 子ネコーが顔を上げて、涙にぬれた瞳をクロウに向けた。

 初めて聞く言葉だった。

 ネコーの住処では、聞いたことがない。

 けれど、食いしん坊の本能が、『おかわり』とは、とても素敵なものであるとにゃんごろーに囁いた。

 にゃんごろーが『おかわり』に興味を示したことを察して、泥棒疑惑は一旦脇へ追いやって、クロウは『おかわり』の説明で畳みかけることにした。


「そう、おかわり。うちの食堂、パンとご飯は、おかわり自由なんだよ。だから、おまえも足りなかったら食堂へおかわりしに行けば、追加のパンがもらえるって。なんなら、俺がもらってきてやってもいいし」

「……………………! 『おきゃわり』は、『もうちょっと』のことにゃんら! おふねのしょくりょーれは、『おきゃわり』っていえば、パンをもうちょっと、もりゃえるんりゃね・・…?」

「そうそう。そういうこと」


 奈落の底で打ちひしがれていた子ネコーの瞳に、再び希望の光が灯った。

 泥棒疑惑が晴れたわけではなさそうだが、子ネコーが大泣きする事態は何とか免れたようで、クロウはほっと胸を撫でおろす。

 クロウは泥棒なんてしていないし、クロウが悪いわけではない。なんなら、トドメを刺したのは長老ともいえるのだが、それでも、だ。元をただせば、クロウの年相応に旺盛な食欲への配慮で多めに配膳されたバターロールが発端ともいえる。それが原因で子ネコーが大泣きしてしまったとあっては、さすがに寝覚めが悪い。

 直前まで、ご機嫌で朝ごはんを楽しんでいた子ネコーの姿を見ていただけに、尚更だ。


「うふふ。おきゃわりか……。にゃんごろー、おきゃわりは、はじめちぇなんらよね。うふふ、ちゃのしみ。はやく、おきゃわり、しちゃーい」


 まだ、朝ごはんは半分近く残っているのに、早くも『おかわり』にウキウキしだす子ネコー。すっかり機嫌は直っていた。

 食いしん坊だけれど大食漢というわけではないにゃんごろーは、『おかわりも』も『もうちょっと』もしたことがない。用意された分量で、十分お腹がいっぱいで、満足してしまうからだ。お船のごはんは、ネコー用に量が減らされているが、それでもにゃんごろーには少々多目で、食べ終わればいつもお腹はパンパンなのだ。

 それなのに、にゃんごろーは今からすっかり『おかわり』をする気満々だった。

 せっかく直った機嫌に水を差すようだが、長老はしっかりと釘を刺した。


「にゃんごろーよ。おかわりは、全部食べ終わって、まだ足りなかったらするものじゃぞ?」

「む! わきゃっちぇるよ! おおめにもりゃっちゃのに、おのこししゅるのは、おぎょーぎがわりゅいもんにぇ!」

「うむ。そうじゃ」


 長老の日頃の教育のおかげか、釘を刺すまでもなく、子ネコーはちゃんと分っているようだった。


 子ネコーが分かっていないのは――。

 どうやら、自分のお腹の容量だけのようだ。

 


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