忘却戦記【Ⅰ】第8話〜旧友の裏切りと限界〜
こんにちは、一久一茶です。
間は空きましたが、次話投稿です!
最後までお付き合いくださいな。
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長い時間が経った。あくまで自分の感覚だから、実際はそんなに経っていないのかもしれないけど。
「もう無理、腕が続かないわ」
もう何体撃墜したか。鎖を操る魔力はポーションで何とかなっても、それを握る力が持たないんじゃブランコは出来ない。着地したけど立っていられない。腕だけじゃなくて全身を使った動きだからか、今襲われてもどうしようもないかな。
「馬鹿は馬鹿でも極めればすごい。ロウミィ、少し休んでいろ」
「ごめん、全部落とせなかったよ」
「いやいい。そもそもドラニウム相手にあの立ち回りだ。強いとは思っていたがまさかここまで常識から外れているとは思わなかった。それに私も休めた」
「へへ、褒めるなんて珍しいじゃん。でも私本来こっちが本業だからね、むしろ先にダウンしちゃったから誇れないよこんなの」
これだけ落としても、減ったとは言えまだ上空にはドラニウムが残っている。こちらを警戒して更に高くで旋回しているものの、気を抜けば縮こまるような視線を感じる。
「お前たち、まだ正気に戻らないか。いい加減にしろ」
ナミは休めたって言っていた。けど、私が落とした相手を拘束魔法で縛りつけていたのだから彼も彼で相当消耗しているだろう。私には分かる、この漂う妖気はあの日、私と戦った時と同じ。いやそれよりもっと消耗が大きいのか、弱々しいものだ。
「ナミ、半妖のままじゃ戦えないの? あなたもう限界じゃないの?」
私は祠での日々を知っている。彼は少なくとも、半妖の状態であっても臨戦態勢にある冒険者を一撃で組み伏せられる。強力な魔法や圧倒する力はなくとも、ある程度戦えるはずなのだ。それにあの姿、消耗しているだけとは思えない。いや、実際消耗はしているのだろうけど、それは魔力か、妖力か。
私の言葉を無視して、比較的低い位置で偵察しているドラニウムへ、拳を叩き込む。確かに人間離れはしているけど、はじめのような打撃音もしなければ、それによってドラニウムも、バランスこそ崩すものの落ちることもない。
ふと、ゾーラに初めて会った日の言葉を思い出した。
彼は言っていた。妖怪のままで戦えば持たないと。死ぬぞど。あの時はここまで追い込まれているナミを見ていなかっただけに分からなかったけど、今なら分かる。今の彼はもっと違うものを消耗させている。それこそ生死に直結する何かを。
「グギャアアアア!」
「ぬ!」
動きが鈍くなった分、ドラニウムに捉えられていたのか。飛び込んでくるナミに尻尾が激突する。
「だ、大丈夫! っ! 痛いってもう」
咄嗟に駆け寄ろうにも、足元がおぼつかない。岩肌に足を取られてすぐ転んでしまう。やっとの思いで首を上げるも、そこはもう私たちの限界を示していた。
地面に叩きつけられたナミ。すぐに立ち上がるが何体かが弱っていることを悟り地上へ降りてくる。私は動けないから後回し、ナミから片付けようということか。
「わ、私だって! おりゃ!」
まだ比較的動く右手に鎖を持って、ドラニウムに投げつける。魔力を帯びた鎖は私の思い描いたようにドラニウムの首へ巻きついた。でも思いっきり引こうにも、上手く力が入らない。もはや牽制にもならない。
ドラニウムの動きに合わせて私も引きずられる。でも、これでもいい。ちょっとでもドラニウムの動きが鈍るならそれでいい。
「ナミ! 今すぐ逃げて!」
咄嗟に結界を張ったのか。ナミの周りが緑に光っている。あれは対物理結界。噛みつきや体当たりをするドラニウムを寄せ付けていない。ここまで来ても適切で強力な魔法発動が出来ているのは驚きだけど、それでも長くは持たないだろう。それに至近距離からあの砲撃を浴びせられれば対物理結界ではどうにもならない。
「ロウミィ。お前こそ、引きづられてないで早く逃げろ」
よく見れば結界の中で何か作業をしている。何かこの場を打開する策でもあるのか。右手で上体を起こして、更に目を凝らす。
その瞬間、鳥肌がたった。
彼の右手が黒ずんでいる。魔力的に右手の周りに対魔法結界を張っているのは分かったけど、その黒ずみを見た途端、鼓動が急激に速くなった。何をしようとしているのかは分からない。けど彼の右手の周りにはとんでもないほどの妖気を感じた。
「何してるの! ちょっと!」
「早く行け。お前まで巻き込む」
「巻き込むってどういう事? 危ないことしようとしてるでしょ!」
「大丈夫だ。気を確かに持てば、死ぬことはない。それよりお前はそこを避けておけ。早く」
気を確かに持てばって、それかなり危ないやつじゃないか。よく分からないながらも分かる。あれは自爆にも近いような攻撃だ。待て待て、ここであなたに死なれたんじゃ私の夢が破れるし、それよりなにより単純に死んでほしくない。
「光学迷彩【対象限定】!」
ナミがドラニウムの角より深い黒に染まった手を振り上げたその時、聞き覚えのある声があたりに響く。ナミを取り囲んで攻撃していたドラニウムは、まだそこにいる標的を見失ったかのように辺りをキョロキョロ見渡し、空へまた戻っていく。あ、やべ鎖解かないと。
「ナミ、旅に出るなら言ってくれや。それより何やそれ、また死にたいんかお前。アホが。そこまで溜めたらお嬢ちゃんまで巻き込むやろ」
空から颯爽と現れたのは、オレンジの鱗に覆われた亜龍。この声、喋り方、そしてこの姿、見覚えがあった。
「ゾーラか。すまない、私とて無事では済まないとは分かっている。だが、これしか奴らを止める術を知らないのだ」
「何寝ぼけたこと言っとんねん。知識溜め込みすぎて退化しとるやないか。・・・・・・まぁな、無事で良かったわ」
ゾーラだ。助けに来てくれたのか。
どうやら光学迷彩魔法で私たち三人の姿はドラニウムに見えていないらしい。旋回を続けていたドラニウムも、獲物がいなくなり何処かへ。私が落としたドラニウムたちも飛びはせずともどこかへ歩いていく。
「派手にボコったな。どないしたかは知らんけど、ドラニウムの群れ相手にここまで立ち回れるやつおらんやろ。ナミも大概やけど、お嬢ちゃんも中々無茶してたみたいやな。おい、大丈夫か? 背中のれるか?」
「ちょっと今、全く立てないの。ごめんなさい」
「いや、ええんや。ちょっと待ってや」
魔力の質が変わる。身体が縮んで人の姿になった。その姿のまま私を背負い、また変化する。
「ナミも乗ってくか?」
「ああ、助かる」
「ならその状態なんとかせぇや。乗っけてるときにワシ死んでまうわ」
「ああ、すまない・・・・・・じゃあ、失礼するよ。ロウミィも僕の服をしっかり掴んでおいて」
私の前に乗り込んだナミ。所々破けて血の赤と、焦げの黒が染みついた服を見て、ここまで無理していたんだと思った。
「一旦、ワシの住処へ案内するわ、すぐ近くやけ。とは言えワシの魔力的に光学迷彩も時間的にきついけ急ぐど!」
翼は他の亜龍より退化し、自身以外を乗せて飛べないカメレニウム。それでいて脚力もしれている。そんなゾーラの背中でここまで風を感じるのだから、急いでくれているのがすごく分かった。激闘で岩肌が露出し、残った雪の部分も紅い山道を登り、三人はゾーラの住処を目指した。
※
神々は、妖怪と古代人の両者を駒とした遊びののち、はじめて反省をした。自分たちの介入で、甚大かつ深刻な損害を生んだことを。
故に彼らはそれ以後、積極的な下界への介入を控えるようになった。とは言え私を通じて逐一観察はしていたが、以前のように神龍を使い自らが下界に降り立ったりすることは少なくなった。
ただ、ひとつだけ例外があるとするならば、私や神龍に復興の手助けを命じたことか。
ディオスの命を受け、イグノは下界のものに儀式を通じて私の記憶の一部を見る権限を与えた。そしてオクトマは、神龍に命じ新たなエネルギー因子を開発させた。魔素である。特にこの魔素は、その後の世界を大きく変える発明であったと言えよう。
魔素の粒から放たれるエネルギーが現代でも広く使われる魔力だ。先の戦禍にて大量に残った妖力の残滓や妖怪の屍から滲み出る妖素を原料として、妖素の粒を小さく砕き、それぞれの種族固有の形を均一化することで、より多くの生物に馴染み、内包するエネルギーは少ないものの害がほとんどない因子へと変えた。もとより魔素は妖素の自然風化で生まれるものではあるのだが、天候を操りより魔素への変換が起こるように調節。個体ごとで利用可能な量を供給出来るようにしたのだ。
魔素は呼吸をすることで体内に溜まってゆく。妖怪であるならば妖力へ再構築することで回復を早める、古代人には新たなエネルギーとして利用させて復興を助ける狙いがあった。すぐに古代人たちはその有用性に気づく。霊力という、妖力と反応することで初めてエネルギーを産む因子ではなく、能動的に力を生みだせる因子。研究はどんどん進められた。
とは言え古代人は霊力が強く体内に魔素をあまり溜め込むことは出来ない身体。個体ごとでそれなりのエネルギーへ変換することは出来なかった。妖怪にとってもそれらを利用するより自らの妖力を使った方が余程大きいエネルギーを産むとあって、劇的に勢力図が変わることはなかった。戦争の爪痕が大きく残るこの時代、そこまで計算して魔力を生み出した神龍には感服する。
ただ古代人は私への繋がりを使い、日々研究を進めた。より効率的に力を生める方法を模索し、霊力を含み魔力を打ち消してしまう身体ではなく、外部へ溜めることを考え出す。現在で言うところの魔石、これを生産することで現代より遥かに進んだ魔道具製作が進み、古代人は戦争以前より繁栄することになる。また妖怪たちも魔素の恩恵を大きく受け個体数を伸ばし、より多くの種族が生まれ繁栄していく。
今度の繁栄は神々の介入、遊びが入らず、長きに渡った。天界においてもその発展は興味深く見守られた。平穏な時代が数千年に渡り続いていき、それは下界の双方にとって更なる繁栄をもたらした。
※
to be continued
ここまで読んでいただきありがとうございました!
次回も楽しみに!
一久一茶でした!また!
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