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忘却戦記  作者: 一久一茶
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忘却戦記【Ⅰ】第7話〜双霊山の雄 ドラニウム〜

こんにちは、一久一茶です。


ついに始まったナミとの旅。彼の知り合いに会おうと、二人は双霊山を登り始める。そんな内容です。


是非最後まで楽しんでってください!

7







 古代人と妖怪が増え、後世にて妖霊の時代と呼ばれる世界になるまで、つまり神代の時代の後期においても、私はまだ人格などというものを持ち合わせていなかった。ただ今から思えばあの頃から、神々の私に対するニーズが増え、より私という存在が重視されていったと思う。


 ディオスは三柱の努力を褒めた。古代人、そして妖怪はそれぞれ高度な文明を構築しつつある。その日々はまさしく神々が考えていた暇潰し、娯楽そのものであったからである。そうでなければ、ディオスとしても神の介入による星の揺らぎや宇宙のバランスの調節で忙しくなるようなものだっただけに、途中でやっぱり止める、という話にもなっていたことであろう。


 また、互いの成長の方向が違うことも神々の興味を引いた理由だろう。かたや知力と霊力をもって自然と調和しつつ、その恩恵を全面に受け発展するもの。かたや強力な武力、妖力をもって互いで生存競争をしながら、社会性と生物としての発達を続けるもの。そこにそれぞれの思惑が合わさることで更なる成長が見れるとあって、神々は夢中になっていた。ある神は私の報告に張り付いて。ある神は神龍に乗り下界を自らの目で確かめて。



 そしてアクセントとなっていたのは、ポレンが作り出し苗床に植えた愛憎の種の芽だ。



 それぞれの思考、理解に愛憎というピースが加わることで、神からすれば一見合理性に欠けるような選択をとるものが少なからずいたからだ。愛憎による心の揺れ動き。それはとてつもないエネルギーをもって両者を突き動かし、神々では思いつかないことが起こる。それにより起こる苦難を超えるため、再び思慮する姿。それに大いに一喜一憂した。そして私や神龍は、いつしか天使のような役回りを担うようになっていく。


 一応天使は存在していたが、管轄は調停とバランスの神、スリイバ。ディオスの命を受け地上に降り立ち、星と大地のバランスを整える存在。であったため、いざ動かすとあればそれなりの理由がいる。その点私たちは動かしやすく、それでいて神々の望みに対応しうる力があったこともその原因だろう。これも今から思えばという話ではあるが、単なる記録とその保持のみを行う、思念も魂も肉体も持たない私に比べ、その三点を持ち合わせている神龍たちには忙しい日々であったに違いない。


 数千年の時を経て、古代人と妖怪の文明は成熟していく。そしてここから更なる苦難が両者へ降りかかるのだが、それさえも神々の興味を惹く事象でしかなかったことはいうまでもない。







 一度双霊山の麓、森の端で野営をして一夜を明かした私とナミは、いよいよ本格的に山道を登りはじめた。


 途中までは順調に見えた。昨日までの私の話の続きをしながら進む。双霊山は山として見ればそこまで険しいものじゃない。寒さにさえ気をつけていれば大丈夫だとも言われている。勿論普段ならその他の事で危険度が増すのだが、今回はその心配はない。そうたかを括っていた。



 だからこそ、今の状況は予想外で二人とも混乱している。



「ちょっとナミ! どうなってんのよこれ!」


「僕だって分からないよ! おいお前たち! 僕だよ僕! ナミだってばっ! うわっ! っあ、危ないじゃないか!」


 跳びのいたナミのすぐそばを、雷の槍が貫いた。空を見上げればどんよりとした曇り空の中、青い鱗を持ち、細長い体躯とその倍ほどの幅がある翼を広げた亜龍、ドラニウムが旋回している。その数、十数。そしてこちらを伺いながら炎や電撃を飛ばす。私も子どもの頃から絵本や図鑑で見てきた神々しい姿、額から伸びる角は黒く、鋭い。その角で魔術を展開し、無数の砲撃が地面を抉る。


 というか、襲ってこないって言ってたじゃん。


「どうするのよ、逃げ回ってても埒があかないじゃない! て、ちょっ、ファイアーウォール!」


 今度は火の玉が飛んできた。咄嗟に防御するけれど、私火にしか適性ないんだって。同じ属性の防御魔法なら余程実力差がないと防御しても勢いを多少殺すことしか出来ないし、結局大きく身を投げ出して避けている。地面だって岩ボコだし、結果細かい傷が増えていく。


 火球は地面に着弾、周囲の雪を溶かし湯気が上がる。ドラニウムは単体でもAランク、しかも空中戦を得意とするためそのまま戦っていても分が悪すぎるのだ。それが十数体、ランク換算すれば余裕でSランクの群れにになっている。


「でも、攻撃しちゃいけない。傷つけたらもっと攻撃されるから!」


「そんなの、今でも十分攻撃されてるわよ! もういい!」


「ちょっと、ダメだって!」


 【緋】を抜き、構えた。流した魔力で刀身が赤く光りる。


「分かってる! 牽制と防御に徹するから、ナミはどこか逃げ場を探しながら進んで!」


「りょ、了解!」


 飛び交う砲撃を刃と迸る炎でいなしつつ、少しずつ進む。困ったな。空を見れば更に数が増えている。どう考えたってナミから聞いていた話とは違う。


 すると、飛び道具だけでは向こうも埒があかないと踏んだのか、勢いよく急降下する影が見えた。ヤバい、ナミを一瞥したが別の個体に気を取られている。


「ナミ! 左に跳ぶ!」


「へ、うわっ!」


 ナミの身体の十倍はあるような体躯が、ものすごいスピードで地面に突っ込んできた。地面が抉れ、岩の破片と土煙が辺りに舞い上がる。あれだけ身体能力の高いナミでも受け身を考えない避け方しかできていない。いや、妖怪の力を使えばまだマシなのだろうけど、言葉遣いとかを見ると半妖のままで対処しているみたい。


「ナミ、大丈夫なの?」


「うん、今のはビックリしたよ。それにしても無い、ここには隠れる場所なんて」


 ナミも必死に魔法で応戦しているけれど、中々捌き切るのは難しいようだ。既に袖は焦げ、頬にも煤がついている。空からの死角など、ほぼない。突っ切るしかないのかな。でも上へ向かうほどドラニウムは増えそうだけど。


「本当に集中しなさいよね、どこから飛んでくるか分かんないから! 聞いてる?」


「分かってるけどさ、ドラニウムたち、我を失ってるんだよ。こんなに獰猛な子達じゃないんだよ、普段は。本当にどうなってるんだあぁぁぁぁああ! いだいってー!」


「ちょっ! 大丈夫?」


 電撃がナミに直撃した。湯気が頭から出ている。生半可な冒険者なら即死するほどの威力。あれはやばいかも。


「・・・・・・お前達、いい加減にしろ。こちらが下手に出ていれば、調子に乗るんじゃない」


 あ、空気が変わった。土煙と湯気が歪む。よく見れば目も黒くなっている。今のでキレたみたいだ。早速その力を使って逃げよう・・・・・・っておい。


「ちょっと!」


 彼の周囲が少し歪んだのも束の間、勢いよく跳んだ。その高さは尋常じゃなく、空を舞うドラニウムまで一瞬で到達し、そのままナミの身体ほどある頭めがけて拳を突き出した。


「ガァァァア・・・・・・」


 拳だとは思えない打撃音とともに、一撃でドラニウムは失神したのか、力なく落ちてくる。いやいや待って私の真上にドラニウムを落とさないでよ!


「ちょっと、攻撃しちゃダメじゃなかったの? それに危ないってば!」


 思いっきり走ってその場を避けた私。フワッと着地したナミを睨むと彼も見たことのない顔をしていた。


「悪いな、ここからは私たちも攻撃するぞ。おい、お前達。今なら止めも刺さない。引くなら今だ」


「わ、分かったわ、私もいくから空の方は任せるね!」


 空からだけでなく、地上から攻撃を仕掛けるものもいる、ここは役割分担で撃退といきましょうか。


 ドラニウムは温厚な性格で人語を理解し、ある程度歳を重ねた個体なら人語を話すこともできる種族とされているが、ナミの語りかけにも反応せず。砲撃は勢いを増すばかり。ここからは私も攻勢にでる。電撃と火球を駆使した空中戦を得意とする亜龍。ただあくまで電撃と親和性が高く、幸い火は逆に通る身体となっているらしいから、私の魔法も使えるだろう。


「はあ!」


 柄を握る手に集中し、当たる一瞬に魔力を込めて叩き込む。剣技【炎の破砕】、硬い相手と戦うときに私がよく使う技。【緋】の中でも特に派手な部類に入るほど爆発が伴うだけある、一振りで視界がオレンジに染まり、鼓膜が震えているのが分かるほど大きな破裂音が響く。ただ流石、数枚鱗が飛んだけれど、それまで。むしろ羽虫を追い払うかのように、尻尾を振り上げてくる。


「バカ、そう簡単に諦めないわよ!」


 普通なら大きく後ろに飛びのいてやり過ごすのだろうけど、舐めないでよね。


 尻尾の軌道を予測し、ギリギリ当たらない場所まで一歩で近づく。後ろ髪が切り裂かれた風になびいた。とは言えここからが本番だよ。ちょうど、尻尾の付け根。しかも振り抜いた方とは逆に陣取った。単なる死角と言うだけではない。こちら側の筋肉は弛緩し若干柔らかく、しかもその伸びに合わせて鱗に隙間が出来る。これを狙ったのだ。


「おりゃぁぁぁああ!」


 柄を両手で握り、振り上げ、鋒を下に向け鱗の間めがけ思い切り突き刺す。全体重をかけた突きは鱗の隙間を貫き、肉まで届いた。鉄錆の匂いが鼻をつく。


「ギャアァアー!」


 死角からの攻撃に、痛がる素振りを見せて怯んでいる。【炎の爆砕】より大きな咆哮で既に頭がガンガン痛んできた。


「うるさいわね、まだまだこれからよ!」


 剣が刺さったことを確認して、すぐさま身体を反転、そして柄を背負うように両の手で握りしめ、魔力を込めながら思い切り身体を縦に回転させ肉を切り裂く。ここの場所は尻尾が当たったとて遠心力のかかる場所ではない、後脚にさえ注意を払えば比較的安心して立ち回れる。剣を引き抜くように始まった斬撃の勢いを殺さぬように、今つけた傷口めがけて更に剣を叩き込む。血が吹き出す音と肉の焦げる音、迸る炎の音、刃が鱗を弾き飛ばす音、肉を切る音。立て続けに耳をつくその音にまで集中し、炎で見えない少しの傷口を音で的確に狙いを定め続けざまに何度も剣を振る。


「ギャアァアー、ガァァアァア!」


 必死に尻尾を振っているが当たらない。私とて無駄に十年も冒険者をやっていないのだ。長さと太さ、振り上げた時のしなりを見て、可動域を計算して届かないであろう場所にきっちりつけているのだ。


「ロウミィ、後ろだ」


「分かったよっ、っと!」


 声が聞こえた。経験則上、こんな感じの指示が来た時は、その方を見てから対処するよりまずその方向以外へ逃げることが一番安全なのだ。思い切り地を蹴り、ドラニウムの背に乗った私は、更に尻尾の範囲外へ飛び退くべくゴツゴツの背を蹴る。でも避けるだけじゃもったいないし、私の跳躍では少し距離が稼げないと咄嗟に思い、魔法を展開した。


「爆裂魔法【中】!」


 大きな爆発ではなく、あくまで私の跳躍に少し爆風で手助けしてもらえる程度を見切った魔法だった。


「ガアッ! グルルルルゥ・・・・・・ゥギァッァア!」


「ガアァッ!」


 振り返れば私めがけて突進して来たドラニウムが、私が切り刻んでいたドラニウムに激突していた。後一秒遅ければ、あの角がお腹を貫通していただろうが、今は逆に私が斬り込んでいた場所に角が深々と刺さっている。とりあえずこの二匹に関してはしばらく動けまい。


「ありがと、ナミ」


「いや、いい。それより無茶が過ぎる。最後の一撃もひやひやした」


 高く跳んだ衝撃を上手く下半身で吸収し、着地する。ちょっと髪が焦げたかな。すぐ後ろにナミもフワッと降りて来た。ここ最近、ナミを見て学んだ着地、それでもまだ上手くないから衝撃が膝まで上がってジンと痛む。


「身をもって私のやり方知ってるでしょ。今更変えらんないのよ」


「分かっている。来るぞ」


 再び、二手に分かれて戦うとしよう。明るくつとめているものの、実は爆裂魔法やら【緋】のインパクトの瞬間を狙った【炎の破砕】やらは魔力をガンガン食う。魔素量には余裕はあるし、ポーションもあるけれど、実の所このままならジリ貧、ギリギリで戦っている。それはナミも同じだろう。まだ彼が妖怪化して五分も経ってはいないものの、それでも消費はかなりのものだと思う。それに一度まともに電撃を食らっているし、この動きで圧倒できるのも後何分か。


「ナミ! 一旦山を降るしかないんじゃないの?」


 こうして考えている間も私たちはドラニウムの波状攻撃をいなしているわけで。降りる選択肢も持っておかないとダメかもしれない。


「それは無理だ。此奴ら私たちを追って来ている。降りて村まで押し込まれても困るだろう」


 たしかに、はじめは逃げていたけど、何もせずとも追って来ていた。村にこんな魔獣の群れなんて出たら数分で火の海だ。それだけは防がないといけない。


「弱点とかないの? ここをやれば動けなくなるみたいなとかろとか」


「言えるわけないだろう。此奴らも私の友だ。殺すなどできようもない」


「分かってる! っ! だからこそよ! とりあえず動けなくなるなればそれでいいの。治る程度で、今のところの戦力を削いでおきたいから!」


 先程は尻尾が狙い目だったから狙ったものの、血をたらしながらもあの個体は既に仲間の角を引き抜き、空から電撃を繰り出している。どこから相手の戦意を削ぐ狙い目があれば。


「そうか、仕方ないな。三つ教える、ひとつは逆鱗。もうひとつは角。この二つは狙うな。死にかねない。後ひとつは・・・・・・」


 ナミの視線を追う、そこだね。分かったよ。よく見ていれば分かること。私も少し混乱していたみたいだ。


「言っておくが硬い。魔法ではびくともしない」


 ナミは無言で目を配った。狙い目は翼。竜種であれば翼の力だけでなく魔術の補助を大いに受けて空を飛ぶものがほとんど。だが、彼らはもともと空を飛べるだけの筋力と体躯、そして翼をしている。


 彼らの主戦場は空なのだ。そして彼らは魔術ではなく身体のポテンシャルのみで飛んでいるのならば、翼を狙えば機動力を削げる。依頼で竜種と戦っていたときは、翼を狙う意味もなく、素材として売ることを考えればむしろ綺麗に残す癖がついていた。魔力の収束を見ればすぐ気づきそうなものなのに、私もまだまだだな。


「ナミ、ちょっとだけ時間ちょうだい。一分でいい」


「分かった。任せよ」


 小瓶のコルクを親指で弾き、一息であおった。口の中の苦味と身体の中に染み渡る感覚とを感じる。その苦味で頭が冴えた。よし、あれを使うか。


 実は村長から餞別として、ある品を渡されていた。亜龍の背中の甲殻を素材とした盾である。これと私が帝都でよく使っていた鎖を組み合わせてみよう。見とけ、私が帝都にて恐れられた、二つ名とはまた違う呼び名の意味、教えてやろう。


 盾の持ち手に鎖を繋げる。この鎖も単なる鎖じゃない。ドラニウムと同じくらいの長さ、それぞれの輪に魔力回路が張り巡らされ、鎖の持ち手の逆側半分には棘をあしらっている。私が考えた竜種の攻略方法。帝都では誰も真似してくれなかったけど、それを応用してその翼、ズタボロにしてやる。


「まだか」


 私が準備する間、ずっと結界を張ってくれていた。ナミもキツいだろうに、でも無駄にはしないよ。


「いえ、あと五秒でいいわ」


 盾の方には棘のある方の端っこを、そして逆側を盾の持ち手とともに握った私は、魔力を剣の持つ手で収束させる。


「大丈夫、もういいわ。じゃ、行くわよ。爆裂魔法【大】!」


「お、おい。馬鹿・・・・・・!」


 さっきドラニウムに浴びせた【中】の倍ほどの威力の出る爆裂魔法。それを私の足元に展開させた。すぐに魔力が陣の中央に集まり、光を放つ。そして次の瞬間、轟音が辺りを包み、私は空中へと飛び出した。


 自爆ではない。爆発のタイミングはよく知っている。だからこそそれに合わせて盾に乗り、魔法陣の上へ。そして盾とともに吹き飛んだその瞬間、盾のみを手放しそれを足場に更に上へと跳躍する。爆発の勢いのみを利用した、言わば盾の性能頼りの作戦だったけど、上手くいった。


 ここからはいつも通りに行くとしよう。


「おりゃぁぁあ!」


 空中で体勢を整えて、鎖を思い切り振り回す。狙い目は勿論ドラニウムの翼だ。先に盾という重り付いている分振り回しやすい。ドラニウムも何が起こったのか理解が出来ていないうちに鎖を翼に巻きつけた。そして次は思いっきり引き寄せる。


「ガァ! ガァ!」


 空中で暴れるものの、私の魔力である程度コントロールした鎖が解けることはない。振り子の要領で立体的に立ち回る。これこそ私が考えた戦法、ブランコだ。


 そのうちバランスを崩し、必死にはばたくドラニウムへ勢いよく接近した私は、両の手に魔力を込めた。


「はあぁぁぁああっ!」


「ギャァァァァアアアア!」


 右の剣で【炎の破砕】を。そして左手の鎖は魔力に反応して棘が一瞬で刃と化している。食い込んだ傷口目掛け、思い切り剣技を叩き込んだ。爆発と鎖の刃、そして私自身の速度を足した剣戟は凄まじく、爆音とともに周辺の鱗は飛び散り、皮翼へ大きな穴をあけた。


 血飛沫とともに巨体が落ちていく。翼がこれ以上なく傷ついた彼はしばらく飛べないだろう。


 ただこの戦法、これで終わりじゃないのだ。叩き込んだはいいものの、私の身体はまだ遠心力に振られて空中を移動している。鎖を操作して翼からほどいた私は、また同じように別の個体へ投げつける。


「ロウミィ! 馬鹿が! 気でも触れたか!」


 流石ナミ。私を見て帝都の冒険者仲間と同じ反応をしている。よく言われた台詞だよ。そのうちあの頃のと同じように、空飛ぶ馬鹿とか阿保は高いところが好きとかいい出したらゲンコツをくれてやろう。


 風を切る音がより大きくなる。ドラニウムが複雑で高度な飛翔技術を持つ故に、つられて私の動きも複雑なものになっていた。暴れるドラニウムの視線を尻目に、更に勢いをつけようと全身に力を入れる。睨まれたとて怯むことはない。むしろ高所で振り回されるこの状況が平気な私にとって、相手に睨まれて怖いなどという感覚などもはや無くなっていた。


 それにこの作戦、何を隠そう攻防一体の手だってところがミソなのだ。鎖を巻かれた敵がこちらへ向き直り攻撃しようとすると、その動きにつられて私も振り回されるから、狙いなんてつけようがない。追いかけようとて同じこと。そして仲間がブレスや砲撃を出そうにも、ブンブン振り回される私とその近くに仲間がいるわけで。


 つまり私の腕の筋力、特に握力、そして魔力が持つ限り無限に繰り返される攻撃。空中に魔法で足場を作って空で戦う。魔法剣士にありがちなそれが使えない私が編み出した言わばアレンジなんだけど、誰も真似しようとはしなかったな。


「んしょっ!」


「ギャアァアー・・・・・・」


 そんなこんなで三体目撃墜。次のターゲットへまた鎖を投げつける。


 一瞬、ナミが視界に映った。妖怪化して凛々しい雰囲気を纏う彼も、あんぐりと口を開けて上を見ている。


 おい、落とした奴ら何とかしておいてよね。







 いつの世も、成熟した勢力や文明がいくか存在するならば、その間での争いごとは付き物である。


 ましてや全く逆の力を、しかもそれぞれが強力であればあるほどその規模は大きくなるのも容易に想像出来るであろう。この星の歴史上、初めて戦争と呼べるもののときもそうであった。以後沢山の戦争はあれど、この時ほど双方に大きな傷と遺恨を残した戦いはない。


 しかしこれも、元はと言えば神々の遊びによって起きたものであった。


 その頃の天界は、空前の下界ブーム。徐々に古代人を応援する神と妖怪を応援する神とで二分されつつあった。特に古代人は、神々が連想するいわゆる「神らしさ」に近いものを持っていたため、支持する勢力としては多かった。そんななか、どこからともなく両者を戦わせればどちらが強いのか、そんな会話が飛び交うようになっていく。


 そもそも、妖怪と古代人はそれぞれの心臓ともいえる部分を握りあう存在。霊力に当てられれば妖怪は妖力を失い霧散する、逆に妖力をまともに受ければ古代人の身体は中から壊れてしまう。戦わせれば互いに無傷ではいられないのは明らかであった。しかもこの時点では、両者は関わりは持っていたものの、とても良好な関係性を築いていた。戦争など起きようもない状況だった。


 しかし、それがどれほど愚かであろうと、どれほど困難であろうと、直接的、間接的を問わず実現出来てしまうのが天界に住まうものたちだ。戦わせてみたらという会話が広まって、それが実現するまでに時間はさしてかからなかった。


 私と神龍、ここでも両者は神々の意思を伝える天使のような役割を担うこととなる。今なら、思考と理解、そして人格を持った今の私のなら分かる。自らが役割を果たすことで起こることが、どれほど空虚で何も生まないものなのかを。神龍も同じ考えであっただろう。ましてや古代人、妖怪両者と良好な関係を持っていた神龍の胸中はもっと荒れていたに違いない。


 ただ辞める選択肢はなかった。上位の存在である神からの指示。私たちもまた、神からすれば道具としてしか見えていなかったのだろう。当時の私で有ればまだいいものの、そういう面でも神龍は歯痒い日々は続いていた。


 そもそも遊びなのだから、神とてこれを問題として捉えておらず、故に誰も仲介することなく、長期にわたり続いた。そして妖怪の中ではなし崩しで局所的な衝突から始まったこの戦いを知る者も少ない。


 訳は単純、双方の一割を残してあと全てが犠牲になる程苛烈な戦いであったから。一応現代の神聖教の始祖がこの戦いで活躍したとされる人物であるため、経典では『旧妖霊大戦』と表記されることも多いが、そもそももう一万年ほど前の話。私とて、戦争時は世界の全てを記録するではなく、神々の望み通り激戦場を記録していたため、周辺の情報のみしか覚えていないのだ。







to be continued

ここまで読んで頂きありがとうございます♪


ここ最近、中々戦闘シーンから遠ざかっていたので読者の方からすれば「やっとかよ」って感じですかね。とは言え【Ⅰ】の物語も佳境。この先はどうなることやら


それではまた。一久一茶でした!


Twitter (一久一茶 @yuske22798218)

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