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忘却戦記  作者: 一久一茶
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忘却戦記【Ⅰ】第3話〜夢の始まり〜

こんにちは。一久一茶です。久々の投稿です!




遂に対峙したロウミィとナミ。ロウミィの夢であり生涯熱望した戦いが始まる!



よろしくお願いします!

3



「まあいい。本気で私に挑むなら武器がないとダメだろう」


 手にしていた刀をこちらに放り投げた。受け取り確認すれば、確かに私の剣だ。


「お気遣いありがとう。それはそうとあなたは何も持たないの?」


 もう興奮しすぎて剣のことなど忘れていたのだが、察しがいいのか私が単に依頼対象として戦いたいというだけではないことを理解しているようだ。


 【緋】を抜き払い、構える。


「私はいい。どのみち持ったとてあまり上手くない。それにここにまともな武器などない」


 そう言って、すっとこちらを見据えて立つ姿は一見すると何も構えず立っているだけにも思えるが、違う。重心を安定させ、どこから攻撃を受けても対応できるように立っている。隙がない。


 黙って、睨み合う時間が続く。私とて素人ではない。ナミの隙を探しながら伺う動きを見せて探りを入れる。ただ、それぞれの動きに的確な反応を見せる相手に突破口がないのだ。


「ただ戦いたい戦いたい、ということではないらしいな」


「あなたこそ、私の動きに的確よね。流石よ」


 ただ、ここまで純粋な対人戦は久々だ。いや、人ではないのだが。さて何から入るか、初手から魔法を使った場合、この場に立ち込める妖気にあてられて動きが鈍っても困る。


「魔法でも撃たないのか。その剣を見ればお前は魔法も使えるのだろう?」


 ほら、私が魔法は使えないなと思った途端これだ。恐らく魔力のほんの少しの動きまで感じているのだろう。


「ええ、なんか読まれている気がするし」


 脚、腕、見たところバキバキな筋肉質ではない。がそこそこ鍛えてある。皮膚の微妙な動きを観察しながら、相手の行動を読む。青白い肌に反射する囲炉裏の揺らぎをも見逃さない。でも、相手は動こうとしない。


 体感ではもうかなりの時間が経った気がする。動いていないのに、額に汗が伝う。目に入らないように拭うと、それに合わせて相手も重心を左に変えた。


「よっと!」


 もういいだろう。相手のちょっとした勘違い。そこをついてノーモーションで右手を突き出す。


 が、それすらも見えていたのか、器用に刃を避けつつ柄を持つ手を左の手刀で叩き落としてくる。まあ、初手から本気の突きなどしない。その手刀に合わせるように刃を振り上げる。無理に鋒を返し、剣を手放さないよう握力を込めつつ手首の力を抜いて、肘を脇腹に打ちつけるように、柔らかく鋒が見えづらい角度からスナップをきかせて振り抜く。


「くっ!」


 相手が声を上げる。が、手応えは普通の人の腕を斬ったそれではない。岩にでも打ちつけたような鈍い音が刀身に響く。何はともあれまず一撃当てた。とは言え、距離が近すぎる。回転をそのまま変換して足元を薙ぎ払いながら距離を取った。


「普通の皮膚ってわけがないか、流石だわ」


 この咄嗟の中で躱せないことを悟り、皮膚を硬化させたのか。フワッと着地したナミの左腕を見ると白い皮膚に鱗が見えた。さっきまで人間と同じような皮膚だったのに。


 というか、この一瞬で最後の薙ぎを跳んで避けたのか。強い、それに普通の人ではありえない芸当も当然のようにやってくる。もっと速く、意表を突いた攻撃を繰り出さないと同じことの繰り返しか。


「我流、といったところか。無茶な振りをするなお前は。あの刃こぼれも分かる」


 そういえば修理していたと言っていたか。


「あなたもそれは同じでしょ、反応で動いてるのは、ねっ!」


 反応して的確に動いている。決して瞬間的に動けているわけではないし、何かの型で対応しているわけでもない。が、それぞれの動きに正確な返しをしてくる。


 とはいえ一度動き出した流れは止めない。不躾に距離を詰めながら、今度は両手で上段から斬りかかる。すると相手も距離を詰めてきた。相手は避けるのではなく刃より速く体当たりするつもりか。ただ、ここまでは私も読んでいた。下がった頭目掛けて身体を捩り、思い切り後蹴りを叩き込む。が、そこは流石か相手も咄嗟に首を傾け直撃を避けた。肩に踵がぶつかる。軸足の角度を変え、蹴り出した右足に伝わる相手との衝突のエネルギーをのせ、脚を振り子に身体を更に捻って構えたままの剣に回転をのせて振り抜く。これも当たる、が、またもや予想した結果とは違う。


「なっ、ちょっと」


 ガキン、という音とともに剣が動かない。まさかと鋒を見る。なんと、歯で止められるとは。引き抜こうと力を込めるも動かない。仕方ない、両足を浮かせ顔を思い切り蹴った。


「足ぐせの悪いやつよ」


 立て続けに数発蹴ってやっと剣を離してくれた。ただ、ダメージはやはり入っていない。


「あなたこそ。まぁ、次は本気でいくよ」


 まぁ、ここまではアイドリング。ここまで対応されるなら仕方ない、まだ出していない手を出していこう。


 剣に魔力を込める。すると刀身に走る筋が紅く光り、熱を帯びた。【緋】は焔のエンチャントを施した剣。斬りつけるたび、いや振るたびに炎が迸る剣だ。流石調整したてだ、私が送った魔力にほぼタイムラグなく反応してくれる。


「調整の結果、あなたで試してあげるよ!」


 虚空を斬る、目の前が赤とオレンジに染まる。


 ただ、もし鳥居に書いてあった内容から考えるとあまり効果がないかもしれない。ここに封じられている龍天子、巳奈水は氷雨の守り主。氷と水に親和性が高いのは容易に想像出来る。もしナミが巳奈水なら相性は良くない。それでもさっきみたいに歯で止めるなんてことは出来なくなるだろう。


「ふん、では今度は私から行こう」


 その一言を残し、ナミが視界から消える。残像から動いた方向を読み剣を振り抜くも、もちろんこれは当たらない。が、髪の燃えた匂いが鼻をついた。かと思えばその瞬間下から足。咄嗟に後ろに跳び退きながら剣を合わせる。も、これも空振り。かなり速い。エンカウントの瞬間から速かった。でも全く追えないわけではない。


 魔素が集まる気配がした。一瞥すると氷の針が。魔法攻撃もお手の物なのか。まぁ、ここで普通なら避けるのだろうが、ここまでの戦いから傾向は掴んでいる。


「好きにはさせないよ」


 左手をかざし魔法を繰り出す。難しい構築はしない、単なる小火球だ。無詠唱でタイムラグなく魔法を放つにはこれが一番良い選択だろう。大体の当たりをつけそれを飛ばしながら右手にも魔力を込め背後を一閃した。さっきから的確かつセオリー通りに死角をついてくる動きを見せている。ただ、速い。そちらが基本に忠実ならばこちらはそれを読みギャンブルしないと当たらないと踏んだ攻撃だった。


 手応えはない。ただ少し皮膚の焦げた匂いがした。他方私への氷の針は蒸発し湯気が立ち込める。


「場数は踏んでいるか。それとも当てずっぽうか」


 相変わらずダメージが入っているか分からない。フワッと着地したところを見ると大きく避けたが炎が掠めた程度か。どちらにせよ、着地や床を蹴る足音がしない身のこなしはこちらとしては痛い。気配が読みづらい。ただ、案外動き自体は読みやすいのかも知れない。今のも当たりはせずともいい攻撃だった。組み立てはこの方向で、もっと無茶な動きで攻めるといこう。


 再び距離を詰める。恐らくこちらから動けば相手はギリギリまで動かず見て対応してくるはず。当たった。なら初手は魔法。牽制程度でいい。定点で右と後から小火球を。並列魔法発動の演算の影響か妖気の影響か、脳に鈍痛が響くが無視だ。そのまま左へ重心を移し回し蹴りのモーションに入る。


 が、上に跳び避けようとする。やはりそう来たか。右、後、左と私のいる前を強引に塞いだ攻撃に、魔法が発動する前に大きく跳び退くではなくその場で跳んでやり過ごし、着地する流れで反撃しようとしているのだろう。そうはいくか。


「お、りゃ!」


 回し蹴りはフェイントだ。軸足の角度を変え左脚の勢いを後ろに逃しつつ身体を反転、突進の勢いそのままに大きく剣を振り上げ相手へ上段からすれ違いざまに斬撃を叩き込む。


「ぬっ!」


 今度はもろに入った。力任せに振り抜く。腕と身体の回転の向きが無茶苦茶だから肩が抜けそうになるのをギッチリ力を入れて固定しそのまま背中から倒れるように自らの火球を避けた。


 流石にここまで無理して剣で攻撃してくると思わなかったのか、まともに当たった。とはいえ見れば箇所は右肩。左側をめがけて振ったからこれでもギリギリで気づいて身を捩ったようだ。


「うげっ、ったいわね」


 とかいう私も身を投げているわけで、背中をまともに床にぶつけるように着地した。てか住処なら片付けようよ、物が散乱していてなお痛いじゃないか。


「お、お前は馬鹿なのか。無茶苦茶な動きを・・・・・・」


 炎の影響は限定的でも、まともに刃が入ったことでざっくり傷が入った。まず一本とった。


「私は我流。それも当たればいいやってタイプでやってるんで」


「まあ良い、馬鹿が」


 ナミは静かに傷口に手をかざす。その瞬間、びっしりと白い鱗が傷口に集まり、瞬く間に傷を塞いでいく。塞がった頃にはもう白い肌に戻っていた。とは言え、先程まで涼しい顔で立っていたところを見ると、息を荒くし、額に汗が。少しは痛手を与えたか。


いや、龍天子の伝説からするとこの程度で消耗するとも思えない。


「あなた、万全じゃないの?」


「な、何を言っている。私がこれしきで消耗しているとでも」


「ええ、それに動き速いけど見えない程じゃないし」


 この程度な訳がない。悪を統べる龍天子、いくら半妖は妖怪に比べると劣ると伝わっているにせよ、ここまで弱いとは思っていなかった。確かに強い。私の全力を尽くさないと対応は難しい。ただ、現段階で足元にも及ばないと思っていただけに拍子抜けしている。もしかしてとは思ったけれど、この反応は核心をついているようだ。


「それとも本気じゃないの?」


「出しているつもりだが、挑発のつもりか?」


「いいえ、ただね」


 戦えばそれが初めての相手であっても全力か否か、本調子か否かはある程度分かる。ナミは恐らく何かある。今も私は攻撃を受けていない。結果を見れば一方的に私がやり込んでいる形だ。こんな形で、目標を達成してしまうのか。冒険者を目指して約十年、相手の全力を見れないのは悲しい。出来ることなら、理想を求めたい。


「私はあなたの全力と戦いたいの」





 昔と変わらず、代々龍神信仰を受け継ぎ巫女と長老によって治められる村、ハービィー。


 古代からの伝統を残すこの地は故にいつしか古代人の末裔が住むと言われるようになった。彼らが伝統を失わなかったのは、龍神達の存在が大きかったのはもちろんだが、彼らの生き残りが双霊山にわずかながら残っていたことも理由だろう。現在、バービィー近辺に生息する亜龍種が他の地域に生息する竜種と大きく異なっているのは、亜龍種が龍神族の残党であるからである。手足と翼の本数も、亜龍種は翼が退化したものもいるが基本脚四本に翼一対。竜種の翼と脚がそれぞれ一対であるのと比べても別の生き物なのだ。


 そんなこともあってか、実の所ギルドへ亜龍種の討伐依頼が出されることはほぼない。


 何せ信仰の対象なのだから。凄腕冒険者達の間で亜龍討伐が行われているのはそれが超一流への登竜門だと位置付けされているからに他ならず、彼らは依頼ではなく言わば登山家が険しい山を登るかのように、自らの実力を証明するために来るのみ。だからだろう。バービィーの人々は亜龍討伐に来た冒険者には冷たい。その時の気難しく、どこか余所者に嫌悪感を抱いているような印象も、古代人の末裔と呼ばれる所以であるかもしれない。



 さて、話を妖霊大戦後に戻すとしよう。龍天子は結果神器とも呼べる一冠四宝を手放し、最期の最期まで戦い、没した。ただ、この最期の迎え方は些か特殊であった。いや、先祖たちはこうなることを防ぐため、神器を作ったとも言えよう。



 神器を持った龍天子は、完全な妖怪の力を持つとともに、その呪いの全てを神器に定着させていた。つまるところ、この世を去るとき神器を持っていることで魂から呪いを引き剥がし安らかな死後、そして来世を迎えられるようになっていた。龍天子に龍神としての死をあたえる、神器にはそんな役割があったのだ。


 しかし、妖霊大戦にて龍天子ーーー巳奈水は神器を手放し果てた。これにより呪いが残り続けることとなる。



 ひとつ、龍神族が人との間に成した子の魂は死後浄化されない。


 ふたつ、その子の身体は幾度朽ちとも再生し、浄化せぬ魂を再び宿し蘇る。


 みっつ、その子の真の姿は呪われたものとなる。



 三つ目は先述の通り、変化を解けば蛇の姿になってしまうという呪いであるが、ここでの問題は上二つである。


 魂の浄化、神聖教では前世での経験や業、罪や記憶を全て流した上で次の生へ魂が移ることと定義されている。つまり魂に刻まれた全てを『忘れる』ということ。それがなされないということは、生まれたときから起こった出来事全てを忘れることが出来ないということ。嬉しかったこと、悲しかったこと、苦しかったこと、その全てをその時の新鮮な温度で永遠に忘れないということ。


 巳奈水は、死後側近だった妖怪の生き残りの手により双霊山南の麓の森の中、現在北の祠と呼ばれる場所に封印されることとなる。側近も、呪いが残ったことは知っていた。消えぬ呪いがあるならば、せめて慣れ親しんだハービィーで転生するようにと計らったのだ。


 その後、巳奈水は何度も転生した。自らの呪いを解くため、その鍵となる神器を取り戻すために何度も旅に出た。繰り返し、繰り返し、何度も、何度も。



 一度目の転生は、大戦からまだ百年も経たぬ頃であった。この頃、魔人族が隆盛し妖怪の残党狩りが続くなど混乱が続いていた世の中。神器は動乱の中各地に散らばっていた。巳奈水は自らの呪いを解くために旅に出たものの、呪いを背負った彼には辛い世だった。


 妖怪の残党狩り、その中で出会った仲間の死、裏切り。その全てを、どんなに些細なことも忘れられない彼が精神を病むのはもはや分かりきったことだったのかも知れない。少年の心は壊れ、天寿を全うすることなく自ら命を絶った。



 二度目の転生はそこからほとんど時間をおかず。ただ時間は関係ない、一度壊れた心が戻るのは容易ではないのは言わずもがな。忘れることを忘れた魂に、立ち直る術はまだ無かった。



 幾度転生したか。彼の魂が前を向くのに、それから数百年の時間が必要だった。






 奇しくも私が煽っているような物言いになったけど、万全な状態の相手と戦いたい。決してそれは戦闘狂ということではない。二十数年しか生きていないがその人生の大半をこの目標のために生きてきた。あっけなく終わってもらっても困るのだ。


「私は本気だ。何を考えているかは分からないが、お前がその気になったから戦ったのだ。勝手だとは思わないのか」


 見れば、単純調子が悪いわけではないのは明らか。空気が変わったさっきより顔がやつれている。そう言えば魔力を消費したのに妖気の影響も受けていない。


 ナミはこちらを睨みつけている。ただ私から言い返すことはない。ちょうど今回の依頼は討伐ではない、このまま帰ったとしても中に変な人がいたと報告すれば依頼達成だ。戦う気がなくなった以上、もういうことは言った。何か反撃してきても、この間合いと私の余力ならいなすことは出来るだろう。ここは黙ってみよう。


 変な間が流れる。この間は私的には何も気にならないのだが、ナミはそうではないようだ。何かを言おうとしてモゴモゴしている。


 その時だった。一応警戒は解いていなかった私の感覚に、ここにいる二人以外の気配が入ってきた。


 とは言え、ナミと対峙している以上目を離すわけにはいかない。視線は動かさず、感覚だけで気配のもとの動向を探っていく。気配は近づいてくる。この場所に入ってくる以上、私の敵である可能性は高い。


 ナミも気配を感じ取っているようだ。ただ、私と違い意識をそちらに持っていくことはない。やはり仲間か。


 そしてその気配は大きな足音をたてて、走って私たちのいる部屋に入ってきた。


「ナミ、大丈夫けなんかあったんかー?・・・・・・って、誰やお前さん!」


 見た目は人間の男。ただ、感じたことのある魔力、亜人か。


「何しとんや、ここはまがりなりにも神聖な場所やど! それにナミもそないに殺気立てて、何興奮しとんじゃアホ」


 痩せ型、ナミよりひとまわり小さな体躯。見た感じとしは私より二十は上か。ただ亜人なら参考にならない。まぁ、戦力的に今のところ敵ではない、そんな弱そうな男がすごい形相で私たちの間に割って入ってくる。


「大丈夫よ、私はもう戦う気はないわ」


「何を言う、こちらとて戦いはじめて煽られて終わりといかない」


「コラええ加減にせぇよ、ナミ! 強烈な気を感じたけ来たら案の定これや。お前この戦い方はあかんて何回言うたらわかんねん」


 この戦い方とはなんだろうか。まぁ、とりあえず剣だけ納めておこう。


「仕方ないだろう。剣はキングドラニウムに預けているのだから。それにゾーラ、余計なことは言うな」


「なんやアホ、お前のこと心配なんや。なんかあったらどうするつもりや! ワシらお前がおらな悲しむんや。だからこないに言うとる。それにお嬢ちゃんは・・・・・・いや、何もあらへん。ナミ、相手はもう剣なおしてんねや。お前もその気なんとかせぇや、死ぬど」


 ポカッとゾーラと呼ばれた男がナミの頭を叩く。


「ちっ、仕方ないな・・・・・・というか余計なことを言うなって言ったじゃないか。なんで言っちゃうの?」


 一瞬フワッとナミの髪がなびいた途端、立ち込めていた妖気が薄まった。それに合わせて目の色も淡くなっていく。そして口調も元通りになった。


「お前は今度こそは真っ当に生きるんやろ? 戦うなとは言わん、ただ妖怪になってやと今のお前じゃもたんぞ」


「だからゾーラってば、何でペラペラ喋るんだい? 一応秘密にしておきたいんだから。特にこの子敵だよ?」


「それはすまん。ただ覚えかんとあかんで。あとお嬢ちゃん、何があったかは大体知っとる。ギルドに依頼が貼ってあったけの。数年前までなら妖気で冒険者も引き返しとったけど今のナミの感じやと戦いは無理なんや。諦めてくれんか?」


 軽いなこいつ、まぁ西の訛りがきついのも多分に影響してるけど。というか私の一存で諦めるならまだいいけど、人から言われて諦めるのは何か違う気がする。


「大丈夫や、依頼の件は分かっとる。わしが何とかするけ」


 そう言ったゾーラの雰囲気が変わる。焼けた肌が不自然に波打ち、むくむくと身体の形が変わっゆく。


「警戒せんでええで、って言うてもするか。あからさまモンスターやけの」


 次に話し始めた時には、小さな、人より少し大きいくらいの竜の姿になっていた。オレンジの鱗、ギョロっとした目にギザギザの背中。この姿は見たことがある。


「あなた、カメレニウムだったのね」


 カメレニウム、変化の能力を持つ亜龍種だ。元々はハービィーに生息していた種で亜龍の中では弱い部類。ただ、基本亜龍は人語を操れることも多いし変化出来ることもあってか、人間社会に溶け込むことで大陸中に広がっている。帝国など多くの国でも竜人として認知されている。私がこの気配を知っていたのも帝都で竜人と話したことがあったからだろう。


「おおっと、冒険者の前でこの感じやと勘違いされると困るけ言っとく。ワシに交戦の意思はこれっぽっちもあらへん。ただお嬢ちゃんも、手ぶらで帰るってのは困るやろ? 依頼は調査やったけなんか住んどった痕跡さえ持ち帰ればそれでええ感じやてギルドのねぇちゃんから聞いとる。そやけワシの鱗でも一枚剥がして持って帰れや」


「ゾーラっ! いいのかい? まぁ僕ももう気持ちも冷めたから戦いたくないけれど、大事な鱗剥がさせるなんて」


「ええんやええんや。これでこの場が収まるならな」


「ありがとうゾーラ・・・・・・あ、でも・・・・・・いや何でもないよ」


「え、あ、いや、あの、言いにくいけど・・・・・・ゾーラさんでいい? あなたの鱗持ち帰ってもギルドは納得しないと思うわ」


 亜龍とはいえど弱い種の鱗。かなりの年月強い瘴気で調査が進まなかった経緯から考えても多分「そんなはずないと思うんだけど」って答えが返ってくる確率は高い。


 有り体に言えば、こんな弱っちい亜龍が住んでいて瘴気が漏れるはずがない、第一この亜龍も瘴気で数分持たず死んでしまうだろ、って突っ込まれるのが関の山だと思ろう。


「中々失礼なこと考えてるかもやな。しかも二人揃って。ただワシかてただのカメレニウムやあれへんのや。そこんとこは安心せぇ」


 聞けば、カメレニウムの中でもかなり長命らしい。ざっと百年は生きているそうだ。そして血筋的にもカメレニウムの中の長、キングカメレニウムの血が濃いからその辺は安心すれば良いと話してくれた。


「ここはワシらの聖地やってことでもええし、ワシの別荘やて伝えてくれてもええ。ただ、ナミのことだけは秘密にしておいて欲しいんや」


 いや、確かに今回に関しては異論はないけど、とは言っても、私とて譲れない部分がある。


「今回はそれで良いわ」


「今回は? どゆことやそれ」


「それより聞きたいことがあるのよ。私も感じたし、ゾーラさんも言っていたけど、ナミは本調子じゃないのよね?」


「ああ、そやね」


「理由は? いつ頃回復するの?」


「なんでそんなこと気になるんや」


「私、龍天子を倒すことが夢なの。でもね、今回は本調子じゃないから戦うことをやめたわけ」


「なんや、物騒やな。まぁ、お嬢ちゃんがどう考えてる言うてもナミは今んところ無理や」


「それは何故?」


「んなもん、今会ったばっかりのお嬢ちゃんが知るべきやない。それにナミの問題やからな」


「おーい、また余計なこと言ってるよね? 良い加減にしてよ」


 ナミは何かを隠している。それも子供のように恥ずかしがったりする。


「いいわ、じゃあ私ここに通うから」


「え?」


「は?」


 ナミの秘密が分かるまで、そしてこの男が本調子になるまで。ちょうど私には時間が出来た。じっくり観察して、それに合わせてトレーニングして。こうなったらからには必ず倒す。私の目標だから。


「んー、まぁええか」


「ちょっとゾーラ!」


「お前、もう言うわ。こでもせんと変わらんど?」


「いや、でも」


 ナミは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。まぁ、相手がどう思おうと私は通う。


 結局、その後特に会話もなく私は祠を後にした。これから私の夢の実現に向けた具体的で濃い日々が始まる。そんなウキウキと共に。




to be continued


ここまで読んで頂きありがとうございます!


不本意ながら戦いをやめたロウミィ。ここから討伐目標との奇妙な日々が始まる。その中で変わる二人の意識と、二人の知らぬ間に忍び寄る脅威が物語の行方を大きく変える。


次回も楽しみに! 一久一茶でした!

Twitter @yuske22798218 フォロよろしくです!

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