忘却戦記【Ⅰ】第15話〜キングの依頼〜
こんにちは、一久一茶です!
大分開いちゃいましたが、最新話です!
ナミの様子を聞きにキングドラニウム、イースラの元へ向かうロウミィとゾーラ・・・・・・そこでイースラは、ロウミィにある依頼をする。
では!
15
ゾーラの肩を借りて。洞窟は更に奥へと続いている。
道中、多くのドラニウムとすれ違う。住処なのだから当たり前だけど、どうも数日前からの戦いのせいか、力が入ってしまう。けれど、彼らはその度に話しかけてくれる。丁寧に詫びをしてくれるものや、私を褒めるもの。そのどれもが優しい言葉をかけてくれた。
「ロウミィ」
最奥、キングドラニウムのいる部屋まで続く長い廊下を歩いていると、ふとゾーラが声をかけてきた。
「どうしたの?」
「いや、温厚なんはドラニウムの特徴なんやけどな、こと戦いに関しては奴らは厳しい。弱い奴には気遣いなんてないんや。実際カメレニウムたちは弱いけあんまりドラニウムとは親交が深くない」
「だから?」
「その点ロウミィはきっちり認められてるなぁ思うてな。お前どんな戦い方したんや? さっきの奴なんてお前見た瞬間表情がこわばってたやん」
そうなのかな。私は亜龍の表情なんて読めないから分からないけど。
「んーとね。鎖を投げて絡ませて飛んでるドラニウム相手に空中で戦った、ってところかな」
「うわ・・・・・・それ普通やないやろ。見たとこあいつら翼にえらい怪我しとったし、もしかしてあれもロウミィけ?」
「うん。ナミに聞いてさ、とりあえず上空から攻撃されるのに困ってたから翼を狙おうって」
「おー怖・・・・・・ワシも気をつけよ」
「ちょっと、私これでもハービィーの民だから、本当は戦いたくなかったのよ? 何もなくあんなことするわけないじゃない」
「そうかいな」
「・・・・・・もしかして私のこと、戦闘狂だと思ってる?」
「ハハハ、そうやな」
「もー」
戦いのあと。ナミのこともあるけれど、戦いが終わった安堵感があった。冗談に頬を緩めつつ、進む。徐々に、洞窟の中は神殿のような内装に変わっていた。更に進むと、大きな扉の前に着いた。私たちより大きなドラニウムの、更に倍ほどの高さのある扉、その横にいた門番が頭を下げる。
「ゾーラ殿、そしてロウミィ殿。イースラ様に御用で?」
「ああ、ロウミィの怪我の件と、あとナミのことでな」
門番をしているドラニウムは、他より更にひとまわり大きい。見上げると、顔が少し歪んでいる。
「そうでしたか。それよりロウミィ殿、この度は私を含め同胞が失礼しました。魔族ごときの精神攻撃にやられるとは、私も精進が足りませんで」
「いえいえ、私たちも結構派手にやっちゃったんでお互い様です。お顔の怪我もお大事してください」
「ああ、これはそうですね。あの戦いでナミの坊っちゃんに思いっきり殴られましてね。そこで正気に戻ったのですが、歯が何本かやられましたよ」
ナミが妖怪化してはじめに殴ったドラニウムだったのか。最奥の門番を任せられる、どうやらドラニウムの中でも強い個体だったみたい。
「まぁ何や。お前らも操られとったんや。しゃあないな」
「ええ。でもやはり、坊っちゃんの今の状況を考えれば、私たちの責任も多分にあるかと」
「いやいや、あれはあいつが妖怪化して戦ったからや」
「そうですか・・・・・・それにしても、坊っちゃんは変わられましたね。昔と違って、何か人間らしくなったような・・・・・・それこそ、ロウミィ殿と共に旅をするようになったからですか?」
「まぁそんなとこや」
やっぱり、ドラニウムから見てもナミは変わったのか。
「あの!」
「はい、どうされましたか?」
「ナミは今どうなってるんですか?」
ゾーラに聞いても、ちょっとヤバいとしか返ってこないし。
「ああ、坊っちゃんは今イースラ様の部屋でお休みになっています。まだ目覚めませんが、命に別状はないと聞いています」
「まだ寝てるんだ・・・・・・怪我はどうでしたか?」
「どうでした・・・・・・えー、まぁ怪我は治っていますよ。流石に治りが早いので。でも、力を使いすぎで身体にダメージが残ってるので」
「まぁ何や、これからあれこれ聞けるからええやろ」
「ええ、そこに関してもイースラ様からご説明があるかと」
「わ、分かりました」
心配だ。立て続けに妖力を使いすぎていた。しかも今回はその本性を出して戦ったんだ。どんな状態になっているか分からない。多分ゾーラも昨日の姿をはじめて見たと言ってたから、詳しくは分からないのだろう。
門番が、首を伸ばし大きな扉の中央にある宝玉に角を伸ばした。すると宝玉は青く光り、ゴゴゴ、っと音を立てて扉が開いていく。
「すごい・・・・・・」
魔力で開く扉。帝都でもあまり見かけないし、ましてやここまで大きなものははじめて見た。
開いた先、ドラニウムたちが赤絨毯を挟んで左右に整列しているその先に、一際大きな亜龍が鎮座している。本物の龍なんて見たことないけれど、あれは亜龍なんて呼ぶべきじゃないんじゃないかと思うほど、逞しく、そして神々しくもある姿に私は息をのんだ。
絨毯の上を、進む。そしてその大きなドラニウムの前まで来た。
「よく来たな。キングカメレニウムの孫、ゾーラ。そしてロウミィよ」
※
下界の住民は知らない。しかしながら、二匹の龍と神との戦いは、この世界史上でも一二を争うほど、激しいものになっていた。
イグノの生み出す妖怪は皆、番を倒さんと牙を剥く。番もそれに応じてブレスを吐いた。
対個別の妖怪に関して言えば、龍の力は圧倒的であった。例え相手が集団であろうと、自分たちの目標はすぐ目前にある。故に出し惜しみもなければ、ただひたすらそこへ向かうのみ。ただ、イグノまで届かない。神として戦う力をほとんど持たないイグノではあるが、その分生み出す妖怪の量は凄まじい。しかもそれらは単に壁としてだけではなく、イグノの思念によって生み出されたものであるが故に狡猾で、自らの命を顧みない攻撃を繰り出してくる。二匹の龍も死を覚悟した戦いを見せるが、そもそも死を恐れるなどという感情を持たない集団が相手なのだ。苦戦は必至であった。
番とてそれは戦う中で分かっていた。ただ、苦戦しようとも、戦う。その意思は強かった。母、戦友の仇を討つべく、持てる力を全て注いで。目の前の敵を倒す。
壮絶な応酬を経て、下界には血の雨が降り注いでいた。何かが起こっている、古代人はそれを悟り、皆空を見上げていた。厚く黒い雲の向こうで起こっている何かを、それは見えずともただ一心に。気づけば、下界の戦争は止まっていた。今から思えばそれもそうか。イグノとて神龍の襲撃に全精力を傾けているために、人間たちに介入することなど出来ずにいたのだから。
血の雨は、数日にわたり降りしきっていた。
※
「よく来たな。キングカメレニウム、ゾーラ。そしてロウミィよ」
キングドラニウム、イースラの第一声は、低くしゃがれた、それでいて優しいものだった。
「久しぶりでんな、親分」
「そうだな、ゾーラも元気そうで何よりだ・・・・・・それにしても、大変なことになったな。ロウミィよ、我が同族の非礼を詫びよう。申し訳ない」
「あ、いえ、頭を上げてください!」
私たちだって攻撃したんだ。立場ある方なのだから頭を下げさせたままではいけない。
「そうか。それにしても大変なことになったな。ナミもまだ目覚めん」
「やっぱあかんか・・・・・・ワシもあの姿見たの初めてやけあれやけど、相当消耗するもんなんか」
「ああ、龍化は半妖にとってはかなりの消耗を伴うものらしい。それこそ千五百年ほど前の魔族の襲撃でもそうだ。龍化が原因で死んでいる。奴とてそれは覚えているはず。ただ、忘れられぬのだろう。仲間を失う悲しみを」
千五百年前、恐らく北限の変のことか。と言うことは、北限の変を終わらせた悪魔とは、ナミだったのか。
「ロウミィよ」
「は、はい」
「お主には感謝しておる。奴の人間性を引き出しただけでなく、同族の危機まで救ってもらってな」
「え、あ、いえ。私は単にナミと話していただけですし。それに今回だって、あの状況じゃ戦うしかなかったですから」
「謙虚だな。ただ、結果的にお主らで魔族軍の幹部を撃破したことに変わりはない・・・・・・そこでなのだが」
また、イースラは頭を下げる。
「お主に頼みたいことがある」
「な、何ですか?」
「魔族軍の撃退だ」
「え? 魔族は引いたんじゃなかったんですか?」
副団長であるガゼビルを失ったのだ。それにゾーラの話を聞いていて引いたものだと思っていた。現にゾーラもびっくりした顔をしている。
「いや、まだリングスに駐屯しておる。偵察させたものから聞いた故確かだ。恐らくなのだが、まだ幹部クラスがいるのやもしれん。それこそ、お主らが戦った者より、更に上の」
「そんな・・・・・・で、でも私一人じゃ無理です。ガゼビルだけでも苦戦しましたし、それに今はこんな身体です!」
脇腹の傷は今も痛む。ざっくりと開いた傷は血こそ止まっているけど、ここまで歩くのにもゾーラの肩が必要なほどなのだ。あの時、空から見た数の魔族を相手するなんて、とてもじゃないけど無理だ。それにガゼビルより強い相手が居たんじゃ、勝負にならない。
「分かっている。お主の怪我はここで治す」
そう言って、イースラは横に控えていたドラニウムに視線を送る。
「ロウミィ殿、これを」
「こ、これは?」
「竜の涙だ」
何と、竜の涙だなんて。飲めばどんな重傷であってもたちまち癒えるという秘薬。透明な液体の入った小瓶を渡されたけど、本当なのかな。帝都じゃそんなものは存在しないともっぱらの噂だったけど。
「いいから飲め。飲めば分かる」
「ロウミィ、疑っとる思うけどそれ、ほんまもんやど」
ゾーラもそう言うなら、と小瓶の栓を捻り、一息であおる。
「んぐっ!」
「初めは少し傷が痛むだろうが安心しろ」
ちょ、それは飲む前に言ってよ。それに少しじゃないし。
やられたときくらい脇腹が痛む。が、すぐにそれは収まりはじめる。額に滲んだ脂汗を拭った頃には、さっきまでの痛みはたちまち消えていた。
「え? ちょ、ほ、本当に?」
「おいこら!」
咄嗟に、来ていた服を捲って巻いてあった血の滲む包帯を解く。するとそこには私の知っている、白い肌が見えた。
「ロウミィ! 人前で、しかも男の前で脱ぐなやアホ」
「え、ああ。ごめんなさい」
ありゃ、恥ずかしい。今気づいたよ。だってゾーラは別としても、目の前の男は人型じゃないんだから仕方ないじゃん。
でも、本物だ。私自身傷口を見ていないけど、実際何もなかったみたいに綺麗だし。
「治ったようだな」
「何処でこれを? てっきり、想像上のものだと思ってました」
「フハハ、そこは知らんでも良い。それより、これで怪我の件は解決だな・・・・・・あと、魔族との戦いには何もお主だけを戦場に出すわけではない。我らと共に戦ってくれぬかと言っておるのだ」
ドラニウムの力はここ数日で嫌と言うほど分かった。彼らが味方につくのか。
「戦場を駆けるにも、超えるにも。相棒がゾーラでは物足りぬだろう?」
「親方や、誰だって得手不得手があるんやで。ワシらの種族が戦いに向かんのは分かっとるやろ。そんな言い方せんといてぇや」
「まぁ、なんだ。ゾーラよ。お主にも出てもらうつもりだ。こと戦いに関して言えば我が同族はお主より遥かに強い。ただ絡め手となるとな。お主の力も必要なのだ。何せ敵はあの量だ。出せる戦力は惜しまぬからな」
げっ、とゾーラの顔が引きつっている。この人戦いに出ないつもりだったのか。
とは言え、魔獣の中でもドラニウムは格別の強さを誇る。それにゾーラの支援魔術の腕は確か。私一人じゃ力不足でも、彼らが居れば乗り切れるかもしれない。
「イースラさん」
「何だ」
「よろしくお願いします」
「そうか、やってくれるか」
「ええ。ここまで関わった以上、見て見ぬふりは出来ません。私も、冒険者ですから」
「そうか。感謝する。我はナミの治療とここの防衛をする。だが、同族全てを出す故許して欲しい」
最後そう言い残し、イースラは奥へ入っていった。恐らくそこでナミは眠っているのだろう。ナミが心配だ。けど、竜の涙があれば問題ないのかもしれない。
今は、イースラに任せておこう。
「業火姫の本領発揮やな?」
「そうね。精一杯やらせてもらうわ」
この時ばかりは、業火姫と呼ばれても特段気にならなかった。それは、竜の涙の効能かなにかで身体が興奮していたのか、あるいは・・・・・・
※
血の雨が降り頻る。この数日間は、後世にてこう呼ばれている。
『悪夢の始まり』
と。
戦争は確かに止んだ。ただ、妖怪の血が降ったことで、下界に妖気が満ちることになった。また単純に、空から赤い雨が降る光景は人々に恐怖を与えた。
妖気と、恐怖。この二つが揃えば、その後何が起こったのかは想像出来るだろう。
地上は再び、戦闘の渦に包まれた。古代人と、妖怪、そして血の雨から生まれた何か。三つ巴の戦闘は私も見ていた。天界の戦闘が激化すればするほど、下界に燃え移る様は正しく、悪夢。
誰かが、祈る。神々へ向け、天界へ。どうかこの悪夢を止めてくれないか、と。しかし、その声は届くわけがなかった。
やがて神に祈るものすらいなくなった。この『悪夢の始まり』という名、それはこの惨状を表すと共に、もうひとつの意味を持たせたもの。
この数日を境に神は死んだのだ、と。
※
明朝出撃。イースラとの会合の後、そばに控えていたドラニウムから聞いた。
「ふぇーやっぱり寒いなぁ」
洞窟の外へ出る。東の山の頂上からリングスを見下ろすけど、雲海でここからじゃ地上の様子は分からなかった。
「そりゃ寒いわなぁ・・・・・・まあ、ロウミィ。絶対死ぬなよ」
「ええ。分かってるわ・・・・・・そちらこそよ」
「分かっとる。頑張ろな」
ゾーラは本来の姿に変化して、後方へ飛び去っていった。
「じゃあ、よろしくね。ミンさん」
「ええ、分かりました。私絶対、ロウミィさんの役に立ちますから!」
私はミン、ドラニウムの女の子を見上げる。今朝洞窟を出る前に、この子とペアを組んで出撃することを聞いた。歩兵としてではなく、ミンの背中に乗って騎兵として戦うのだ。可愛い声に見合わない、立派な体躯を見て頼もしい反面、少し心配事が。後脚の方から背中へよじ登りながら、ふと頭によぎった。
「ねぇ」
「はいっ! どうしました? 振り落とすなんてことはしませんよ?」
背中の上から話しかけると、ミンは見当違いの言葉を返してくる。いや、確かに人を乗せる為の器具なんてないから、背中に直に乗ることになるからそれも怖いっちゃ怖いんだけどね。
「ああ、そこはよろしくね。でも、リングスで戦うときなんだけど、私ここからじゃ剣が届かないんだよね」
「わわわ、ま、魔法で戦うんじゃないんですか? てっきり剣は飾りかと」
「いやいや何でよ。杖も持ってないし・・・・・・でさ、地上戦になれば一旦下ろしてくれない?」
「え、でも・・・・・・」
「ミンも戦うんでしょ?」
「それは勿論です!」
聞けばミンは女の子ながら、戦いに関して言えばドラニウムの中でもかなりセンスが良いらしい。彼女単体でも強いなら、基本地上で戦いながら時折背中に乗るほうがお互い自由に動けるかもしれない。
「私も背中に乗りたいときは声かけるし。じゃないと私、魔法は火しか使えないからさ。ミンも空から攻撃したいときは私を乗せてね?」
「そうなんですか? なら仕方ないですね。そうしましょう!」
さて、ここからは長い戦いになりそうだ。冒険者として、仲間と戦うこともたまにはあったけど、五十を超える、しかも亜龍の群れとの共闘ははじめて。それに、相手も数千を誇る数、厳しいのは目に見えている。
けれど、私は意外と落ち着いていた。
私に出来ることをやるだけ。出来ないことは仲間に振ればいい。仲間も弱くないんだから。作戦通りに、ただひたすらに。
「じゃあ、行きますよ! 掴まっててくださいね!」
「ええ!」
出撃を告げる、ドラニウムたちの咆哮が谷にこだますると、皆一斉に飛び上がった。私たちもそれに続いて、凄い勢いで上空に。リングスまで十数分。もうすぐ始まる、私史上一番厳しい戦いへ。
そしてこれは、人間たちにとっても重要な戦い。リングスの戦いは、第二ラウンドへ突入する。
to be continued
ここまで読んでいただきありがとうございます!
まぁ、読者の皆さんなら、リングスの戦いはあれで終わりじゃないのは分かってたかもですね。
ですが、ここからがクライマックスです。次回もひとつよしなに。
では次回。一久一茶でした!
Twitter 一久一茶 @yuske22798218




