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忘却戦記  作者: 一久一茶
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忘却戦記【Ⅰ】第11話〜北限の戦い【開戦】〜

こんにちは、一久一茶です!


無理をして、ロウミィの剣を手入れしたナミ。そこから話の聞かない彼の計画は始まっていた?


では最後まで、是非!

11




 よく考えれば、昨日無理をしてまで私の剣を直してくれたこと、おかしいと今更思えてくる。


 何を隠そう。今、起きてみると隣にナミがいない。それも荷物はおいてあるのにだ。洞窟の奥まで探しに行った、けどいない。となるとやっぱり外に出てしまったのだろうけど。


「グギャアァァア!」


「ガァー!」


 まぁ、この通り。外は一昨日のように殺気が満ち溢れている。ナミが外に何をしに行ったか、この光景を見るだけで。いや、この殺気を感じるだけで分かってしまった。


 ドラニウムを操っているのが魔族だとすれば。彼は仇を憎む気持ちが、そして友を思う気持ちが強いばかりに、ここを飛び出し奴らに一騎打ちを仕掛けてもおかしくない。恐らく昨日は飛び出すことを考えて、しっかり休んでいたに違いない。でも、私の剣だけは飛び出す前に直しておこうと思ったのかな。


 それは、私怨を理由に死地に飛び込むものの思考回路。最早ここに戻る気はないのか、荷物は置いてあるけど、この荷物ですらもう必要ないと思っているのかな。


「ふざけないでよね・・・・・・全く、勝手なことばっか」


 とはいえ置いてかれたものとして、そんな考えは、例え深く練られたものであったとしても納得できやしない。ましてや今はそれが、魔族への私怨なのだから尚の事、腹が立って仕方ない。


 私とて、身体は万全じゃない。それにゾーラが戻ってきたときに私たちがいないと心配するかもしれない。でも、だ。だからといって、まだ知り合ってひと月ほどしか経っていないとしても、もとは私が倒したいと願う目標だったとしても、旅を共にしてまだ数日だとしても。仲間が死を覚悟し飛び出したことを知って、黙って大人しくしていられるほど血は冷たくない。


 すぐに支度をする。恐らく、これが私の知る北限の変の再現だとするならば、彼はこのドラニウムの殺気の中を突っ切ってリングス荒野へと向かっているはず。後を追わないと。彼は、旅の目的など忘れ、目先の敵を倒すことしか考えられなくなっているのなら、このまま待っていても帰ってこないかもしれない。


「今、行くからね・・・・・・よし、そこをあけなさい、貴方達!」


 洞窟の入り口付近には、恐らくナミが出てきたことで場所が割れたのか、多くの亜龍が見える。幸いまだ見つかっているわけではないけれど、ここから打って出るには邪魔だ。昨日のうちにゾーラから貰っていた魔石を一つ握りしめて、啖呵を切る。本当は暖房の魔道具を動かすためにと預かってたものだけど、ここはその魔力を全部使って吹っ飛ばしてやろう。


「爆裂魔法【中】!」


 轟音が洞窟を回る。爆風で髪が舞い上がる。土煙で外が見えないけれど、差し込む光で入り口のスペースが空いたことを確認して、思い切り走り出す。


 相変わらず、ドラニウムは正気ではない。爆音で驚いてはいたけれど、私の姿を確認するや、すぐに追ってくる。ただ、私とて今は山を超えることだけを考えればいい。両脚に力を込めて思い切り突っ切る。


 すぐそばを砲撃が着弾する。飛び散る雪が背中に当たる。でも、走る。


「うわっ!」


 砲撃が当たらないと見るや、攻撃の手段を急降下に変えてくる。寸前のところで避けるも、足がもつれて地面を転がる。


「もう、痛いじゃん!」


 彼らを攻撃はしたくない。操られているだけだから。何も知らなかった一昨日とは違う。【緋】は鞘に収めたまま、背負っていた盾だけを手に取る。


 着地したドラニウム。距離はあるけど尻尾で攻撃されることを考えればゼロに等しい。けど、ここで避けるより、さらに距離を詰めてゆく。


「グギャアァァア!」


 私をめがけた砲撃が、ドラニウムに着弾する。一昨日ではなかったことだ。あの時は私がブランコでドラニウムに肉薄していたら他のドラニウムは攻撃してこなかった。偶発的な突進ならまだしも、砲撃。洗脳魔術がキツくなっているのか。


 砲撃は苛烈を極めている。急降下攻撃も威力が違う。最早着地を考えていないような降下を繰り出してくる。その中を、盾で砲撃をいなしながら進む。




 半時間ほどたっただろうか。ちょうど、西の山と東の山との谷が見えた頃だった。


 内臓が浮いて震えるほどの爆音が辺りにこだましたのだ。


「な、何?」


 聞こえたのは恐らく谷の向こう。リングス側からだ。ドラニウム達もその音に驚き、更に高くに飛び上がる。


「何の音よ・・・・・・って、これって」


 すぐに分かった。微かだけど、妖気を感じたからだ。


「あそこね!」


 私にとっては、目的地が明確になった。でもそれは、ドラニウムとて同じだったのか。高くに飛び上がったまま、音の方に飛んでいく。


「ま、待ちなさいよ! もう! 目立ってどうするのよって、わわわ!」


 再び走り出した、が、すぐに背中を誰かに掴まれる感覚を覚えた。すぐに足が浮き、地面が遠くなる。


「ちょっと、離しなさいよ! もう!」


 仕方なく【緋】を抜くと、慌てたような、聞き慣れた声が聞こえた。


「ちょ、ちょ、待てや! ワシやワシ!」


「え、ぞ、ゾーラ?」


「せや! 全く待っとけて言ったやろ。アホが」


 見上げると、オレンジの身体が見えた。前脚には魔道具を持っている。これは浮遊魔法を強化する魔道具だ。余程急いで帰ろうとしてくれたのか。だからこそ今も私を掴んで飛んでいられるのだろう。


「ご、ごめん」


「ごめんやない! どうなっとるんや、ナミはどこや!」


「分からないのよ。朝起きたら居なくて、外のドラニウムも殺気立ってて」


「あのどアホが! あんやろこのままやと二の舞やぞ! どの辺におるか検討はついとるんけ?」


「さっきの爆発音は聞こえた?」


「おお! もしかしてそこか?」


「ええ、妖気を感じたからだ多分そうだと思う」


「よっしゃ、ほな急ぐぞ」







 神龍は、自らが神格化されていたことを知っていた。広がる戦火、犠牲となる古代人。それに心を痛めていた。彼らは妖怪たちをまとめる存在でもあったが、それに対する古代人をも含めてまるで自分の眷属のように思っていた。


 だからだろう。彼らも古代人への介入を始めた。とは言えそれは、イグノとは逆の方向で。戦争の仲介したり、天候を操り荒れた大地を潤したり。中には人間に変化し、直接的に動くものも現れる。ただ、そうまでしても、戦乱の世はそう簡単に収まることはなかった。全世界に影響を及ぼせる神に比べて、たとえ強大な力を持っていたとて自ら個別で当たらねばならない神龍ではどうにもならなかったのだ。


 広がる戦火と、進む技術革新。それにより更に苛烈な戦いが起こる。そんな悪循環の世を回る中で、次第に神龍はイグノの企てを知る。


 私を通じて、常にイグノは古代人を見ていた。否、イグノだけではない。他の神々も同じように。醜い、血で血を洗う争いは、神々の古代人に対する意識を変えるには充分すぎた。


 イグノは言う。この生命は滅ぼさねばならない、と。はじめは神々も消極的ではあった。この介入がまた先の悲劇の再現になるのではないかと。ただ、それを超えるような戦乱を見て、次第にイグノの言葉が受け入れられるようになっていく。







 事態は深刻だった。


 谷を越え、双霊山の向こう側が見えた。リングス荒野、妖霊大戦の影響で三千年間草木が生えない場所となっているそこは、今の時期だと雪が降り積り白銀の景色となる。


 でもどうだ。今はびっしりと埋め尽くす魔族の群勢。もはや足元の白が見えないくらいだ。


「やべぇな。これは」


「そうね、こ、これは・・・・・・」


 見れば、群勢は止まっている。どうやらドラニウムをなんとかしてから安全に攻め入るつもりなのだろう。山肌にはドラニウムの他にも点々と魔獣が居る。


「想像以上や。ここまで来とる思わんかった・・・・・・いや、今はナミやな。あのアホを探さんことには」


「でも、ここまでいるんじゃ・・・・・・でも、さっきの爆発音凄かったからわかるかな・・・・・・」


 ゾーラに旋回してもらう。どこにいるのか、首を目一杯まわして探す。


「あっこやないか?」


「何処?」


「ほらあの、大きい岩のあるとこや」


 そこに向かって降下していく。飛びまわるドラニウムたちに紛れて。


 居た。見ればすごく目立っていた。


 雪が真っ赤に染まっている。それも結構な範囲で。そこに数十体の魔獣が倒れている。その中心で、見慣れた銀髪と、それに対峙する赤髪の男が見えた。


「あれって・・・・・・」


「ああ、ワシも手配書で見たことあるわ。ヤバいぞあれ」


 近づいて分かった。ナミが対峙する男、私も帝都のギルドで見覚えがある。赤い髪に灰色の狼の頭。鎧こそ着ているが見た目は狼そのものが二足歩行しているような。そして、その体躯はナミの倍ほどある。


「ガゼビル・・・・・・勅命作戦団副団長・・・・・・」


「奴の仕業か、ドラニウムがおかしいんわよ」


 魔人族の中でもエリート、魔王軍の幹部。人狼であり、群れで行動する魔獣の指揮系統や精神を混乱させて戦う。トーロウでの作戦で初めて人間族と戦い、トーロウ領土を奪ったとして各地のギルドに手配書が貼られているほどの大物だ。


「てか、ナミの目の色ヤバいんちゃうか! なんぼナミとはいえ、本調子やないやろアイツ」


 ガゼビルは自らの背丈ほどもある槍を振り回しながら、ナミへ襲いかかっている。ナミも正確に避けてはいる。ただ、一瞬見えた瞳は黒。妖怪の力で戦っているということは、いずれ限界が来る。


「ゾーラ、もう一度高く飛んで!」


「お、え、ええけど、何するつもりや!」


「いいから!」


 助太刀するしかない。すごい動きで槍を捌いているけど、左手が血だらけだ。きっとあの爆発音、ドラニウムと戦ったあの時に見せた、黒い腕を使ったのかもしれない。


「これぐらいでええか?」


「ええ。じゃあ、急降下で一気にガゼビルまで突っ込んで!」


「は? お嬢ちゃん・・・・・・」


「途中で私を離してくれていいから! 私だけで突っ込む!」


「アホ! んなもんこの高さ、お嬢ちゃんの身体が持たん」


「大丈夫だから! 私だって素人じゃないのよ。それに、急がないとナミが!」


「しかしやな。いや、でもな・・・・・・ああぁぁああ! もうええわ、どうにでもなれぇぇぇえええ!」


 ぐるっと、縦に回ったゾーラ。それに振られて強烈な重力がかかる。内臓が飛び出すような感覚の後、大きく羽ばたいた音が聞こえたと思えば、とんでない速度で私と二人との距離が縮まっていく。


「ゾーラ!」


「おう!」


 手放されたその瞬間、盾を構え直して魔術を構築する。普段ならきっちり脳内で詠唱するけど時間がない。無詠唱で省略構築した魔法陣を右手にかざし、痛む頭が割れるほど、喉がはち切れるほどの声で叫ぶ。


「ナミ! 避けてえええええ!」


 すぐに私を見ずに跳びのくナミ。一方ガゼビルは、思いもよらない声に、咄嗟に私を見た。が、遅いよ。


「爆裂魔法【大】!」


 魔法を放った刹那、盾に身を隠すように丸まる。


「グオオオオ!」


 閉じた瞼を突き抜けるほどの光とともに、爆音が響く。耳鳴りで途中から音が聞こえないけど、感覚でまだ自分が空中にいることが分かる。爆風で吹き飛ばされたようだ。


 目を開き、地面を探す。意外と音が聞こえないと時間は長く感じるものだ。冷静に受け身を取り、雪の上を転がる。


「オノレ、ダレダ!」


 次に音を取り戻した頃には、土煙と水蒸気の霧の中、紅く光る目で睨むガゼビルの、低く割れた声が聞こえた。


「ナミ! 大丈夫?」


「ああ、ただお前の爆撃で危なかったぞ」


「へへへ、ごめんって。じゃ、助太刀するわよ」


「助かる」


 視界が晴れた。間近で見るとその身体の大きさは凄いけど、ガゼビルとてさっきの爆発は痛手だったのか。黒い煤と所々血が垂れている。


「ヌ、ドコカデミタカオダトオモエバ。オノレゴウカヒメダナ。ウワサハキイテイルゾ」


「こちらこそよ。あなたみたいな大物がこんなところに。登山か何か?」


「フハッハッハッ! コレハオモシロイナ。ワガハイカデアレバホメテイルトコロデアルゾ。タダ、ダナ」


「何? 私はあなたに褒められても何にも感じないけど」


「ワレノカラダヲキズツケタ。ソノダイショウ、オオキイゾ」


 グワっと、赤の瞳の中の黒い瞳孔が開く。強烈なオーラに、息が止まりそうになる。


「ナミ、行くよ!」


「ああ」


 【緋】を抜いて、構える。魔人とは何度か戦ったけど、ここまでの大物は初めてだ。脳を焦らせようと鼓動を早める胸を落ち着けるように、深く息をついて目の前の強敵を見据えた。




to be continued

最後まで読んでいただきありがとうございました!


次回、魔王軍の大物との戦いが幕を開ける!


ではまた。一久一茶でした!


Twitter 一久一茶 @yuske22798218

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