邪神召喚 ~誕生編~
「神は死んだ」
高校での倫理の授業中、その言葉を見た時に心が震えた。
田舎の県ではあるが県下随一の進学校。
進学校での倫理の授業なんてつまらない物だ。教えるのは思想や生き方ではなく受験対策。共通テストで倫理を選択するための生徒のための授業にしかすぎない。
それでも、この言葉に触れた時に感じた物は一体何だったのか言い表すのは難しい。
ニーチェは19世紀のドイツの哲学者らしい。
この時代のドイツの時代背景はよく知らない。世界史の知識で知っている限りでは、ナポレオン戦争後のウィーン会議により、プロイセンが力をつけ、ドイツを統一した時代か。
そう言えば鉄血宰相と言われたビスマルクと同じ時代を生きているわけか……
ビスマルクの生没年なんて知らないからどちらがどの程度年上かはわからないけどな。
よく知っているって?
世界史の授業を普通に聞いていればその程度の知識はあって当然じゃないか?
きっと世間的には当然じゃないんだろうな。俺の知ったこっちゃない。
だが、この時代のドイツの宗教事情なんて知るわけもない。だが、ヨーロッパ全体がカトリック、プロテスタントの違いはあれど、バリバリのキリスト教社会だろう。ドイツなんて今の時代になってもキリスト教団体が政権持ってるお国柄なんだし。
そんな中で「神は死んだ」なんて広言するって……
ニヒリズム……倫理の教科書に載っている程度の内容なら理解できる。
それ以上は判らないし、わざわざ調べてみようなんて意識はこれっぽっちもない。
それを理解したからって救われるものでみない。
「自らの確立した意思でもって行動する『超人』であるべき」
御大層なことだな。
神は死んだ……知ってるよ。
クソッタレが!
生まれた時から新興宗教とやらの因縁にがんじがらめに絡まれ、それについては調べられる限り調べたからな。
神とやらが本当にいるのなら、あの腐りきった連中に鉄槌を喰らわしてくれるべきだろう。
最初から話がずれた。そして、愚痴になってしまったようだ。だが、きっと今度もどんどん愚痴が増えてくるだろうから覚悟しておいてくれ。反吐が出そうな話が嫌なら見ないほうがいいな。
俺は高梨彰、17歳の高校3年生だ。
受験生ってわけだな。
その受験生ってのを甘く見ていた。油断だったな。
何気なく受けた全国統一テスト、これが問題だった。
その結果が先程返されたわけだ。
悪かったのかって?
バカ言うな。逆だよ、逆。
実力を出しちまったんだよ。実力を。
まさか、全国1位とはな……ちょっと世間の水準を高く見すぎていたよ。
もともと、俺は勉強が良く出来た。それは知ってた。
だが、世間の高校3年生は夜遅くまで勉強しているって話じゃないか。周りもさすがに進学校って感じでピリピリしてきてるし。
俺はといえば、普通に学校で授業を聞いて、教科書を斜め読みして、黒板に書いてあることを一通り覚えるくらい。ノートとかは昔から取ったとことがない。
どうして黒板に書かれた内容をわざわざノートに書き写すんだ?
そんな面倒なことしなくても覚えようと思って読めば普通に覚えれるだろう。ってことを小学校の頃に言ったら総スカン食らったから、もう口にはしないが……
その程度にしか勉強ってしたことがない俺だったから、世間の秀才連中はちゃんと俺より高得点を取るものだと思っていた。だってテストも勘で書いたところもあったしな。
それが全国1位だと……俺の年齢をヤツラは知っているはずだから、見つかってしまうかもしれない。
こんな田舎で異常に高得点の者がいることがバレたら……
統一テストの成績を外部の者が知ることができるはずがないって?
ヤツラのことを甘く見るなよ。
民間企業の情報なんてヤツラがその気になればすぐに入手できる。特別に高度なセキュリティで守られているものでもないはずだしな。
なんのために俺は部活もせずに目立たないようにひっそりと生きてきたんだ。
俺は小さい頃から勉強より体を動かすことのほうが好きだった。
スポーツ万能っていうやつだ。
小学校低学年の頃、初めて野球をやった時も俺が投げるボールをまともに受けれる同級生はいなかった。高学年に混ざっても同様だった。
中学生に混ざってピッチャーをやったら、どこかの高校のスカウトの人に目をつけられたので身元がばれないように必死で逃げ隠れして、それ以来二度と野球はやらなかった。
どんなスポーツをやっても似たようなことになったので、俺は二度と集団競技をやらなかった。
だんだんまわりもよそよそしくなってきたしな。
じっとしてることは嫌いなので走ったり泳いだりしたが、全力を出すことはしなかった。どこか知らないところでタイムを計られたりいけないから。
どうしたらいいのか、さっぱりわからない。
しかたがない。
母さんに相談するしかないか。
「そうか……しかたないね」
俺の話を聞いた母さんはしばらく目を閉じて考えに耽った後に俺の目を見てそう言った。
いつもながら母さんはキレイだ。
「時間の問題ではあったんだよ。彰がいつまでも世間から隠れていられるはずがない。世間から隠れて生きるには彰の持つ能力は大きすぎる。
だいたいそんなコソコソとした生き方は彰には似合わないよ」
母さんはいつもそんなふうに言うけど、俺のことを過大評価しすぎだと思うんだ。
「でも、どうなんだろう?
ヤツラはそんなに俺のことを注意深く探してるんだろうか?
俺としてはそのあたりが信じられないんだけど」
「わたしもあらゆるルートからあっちの動きを調べてはいるんだけど、どうやら探してるみたいよ、根気よく」
「母さんが昔言ってたのは何か飛び抜けた能力を持つ同世代の男を調べてるって話だけど、どうして俺が飛び抜けた能力を持ってるって決めてかかってるんだろう?」
「そのあたりはわたしも不思議なんだけどね。何らかの確信があるみたいだよ」
「変な話だよな。で、いざ見つかったとしてどうしたらいい?
何か対策をしておいたほうがいい?」
「それなんだけどね。
本気でヤツラが彰のことをどうこうしようとしたとして、対策の立てようがないんだよ。わたしの時はまさかと思ってたようでスキだらけだったけど、今度はそうはいかないだろうね」
「どうしたらいいんだよ」
「だから、どうしようもないって。
ヤツラは少なくとも彰の命を奪おうとは思ってないはずだから、どっしり構えてるしかないんじゃない?」
「どっしりねぇ」
母さんは豪快に笑うけど、母さんくらいの行動力が俺にもあればなぁと。
俺が何よりも恐れているのは母さんとの今の生活が壊されること。
少なくとも今こうして母さんと暮らしてる俺は幸せだと思う。
ずっとこうしていたい。
でも、その幸せの時間は残り少ない気がする。
母さんの名は高梨恵、29歳のシングルマザー。
29歳と言ってもとてもそうは見えない。25歳前後にしか見えないし、若作りすれば大学生と言っても信じてもらえるかもしれない。
え、計算が合わないって?
母さんが12歳の時に俺を出産して、俺が17歳だから母が29歳。
計算はピッタリ合うはずだぞ。
まぁ街を一緒に歩いていて親子ですって言っても誰も信じないから、姉ですって言ったりしている。
実は姉って言うのもまったくの嘘ではないよ。
血縁的には母であり、姉でもあるからな。
言ってる意味が判らない?
本当は判ってるんだろう?
それを信じたくないだけで。
言葉の通りの意味だよ。
俺の血縁上の父と、母さんの血縁上の父は同一人物ってことだ。
父から見れば俺と母さんとの関係は姉弟と言えるだろう?
冗談のような話だが本当の話だ。
俺は小さい頃から聞いていたから当たり前のように受け入れていたが、世間的には常識的にありえない話だってことは理解しているから心配するな。
俺も知識としては世間の常識というものを知ってはいる。
だが、父が12歳だった頃の母さんを妊娠させて出産までさせたことは紛れもない事実だ。
そんなことは日本の法律が許さないって?
それも知ってるよ。
だが関係ないんだよ。あの男には法律なんて。
父もそれなりには有名なんだよ。
○○○○って名前を聞いたことない?
そうそう、よく知ってるじゃないか。※※※※教の教祖だよ。
どうしたんだい?
急にソワソワして、あ、そうそう。
この話は他所で話さないほうがいいよ。警察もマスコミも危険だから。
キミだけでなく家族も抹殺されちゃったりするかもしれないしね。
嘘だと思ったらやってみたらいいじゃないか。
名字が違うじゃないかって?
うん、じゃ話を戻そうか。
俺をお腹に入れたまま家出したんだよ、母さんは。
なんか神様のお告げを聞いたからって話だよ、母さんまで神がかってるよな。
どんなお告げかって?
俺と父が顔を合わせた時に1つの世界の終末が始まるらしいよ。
1つの世界ってなんだろな?
まるで世界がいくつかあるみたいな話だろう?
そこからの母さんの行動力が化け物じみている。
12歳って言ったら小学生だよ、世間的には。
母さんは通ってなかったらしいけど。
それが1人で家出して東京を離れ、遠くの見知らぬ土地へ。最初はここじゃなかったらしいよ。
そして非合法な手段で戸籍を入手して俺を出産したのだ。
生きるために、俺を守るためには何でもしたらしい。その行動力とか俺でも信じられないよ。
今は株などのネット取引で親子2人生活できるだけの稼ぎを得ている。
株取引も目立たないようにこじんまりとやってるだけなんだけど、なんかすごいよ。
何故か母さんが買った株は暴騰するし、売った後に暴落してる。
なんとなくそう思ったのを買ってるだけって言ってたけど。
1DKの小さな貸しアパート住まい。
まだ若くてキレイな母さんの裸身を目にしてしまう機会も多い。
そんな母さんの裸身を見て思わず劣情を抱いてしまう俺……
さすがに自制できてはいる。
マザコン?
否定はしないよ。
でも大丈夫だよ。
父に犯されて俺を産んだ母さんを息子の俺がとか、それじゃあまりにも母さんが可哀想すぎじゃないか。
平和な日々は1ヶ月ほど続いたが、そんな平和な日々は突然終わりを告げた。
学校からの帰り道、俺の前を黒塗りの高級外車が立ち塞がり中から黒服の黒いサングラスをかけた巨体の男たちが4名現れた。
見ればわかる。その4人すべてが鍛え抜かれた男たちであることが。
俺の方と言えば、武道と言えば学校の体育で柔道を習ったことがある程度。
それでも、2人くらいまでならなんとかできないことはないと思う。
だが、4人はちょっと厳しいかもな……
そう思っていたら甘かったようだ。
後ろにも同じような黒塗りの高級外車が止まり、中から同じく4人の男が……
そして、左右の道からも男たちが現れた。
合計16人かよ。全員一流の男たちだ。
しかも、その男たちが素人の高校生1人相手にまったく油断してないっていうんだから、逆に笑っちゃうくらいだ。
どれだけ厳重なんだよ。
「高梨彰様。
誠に恐縮ではございますが、我々とご同行願えませんでしょうか?」
正面から近づいてきた男の1人がそう俺に話しかける。
どうして、おどおどしてるんだ?
「いったいどこへ俺を連れて行こうって言うんだ?
誰の差し金だ?」
虚勢を張っているわけではないが、何故か俺もこんな状況なのに特に怖くない?
どうしてだろうな?
これまで殴り合いの喧嘩とかしたこともないのに……
「申し訳ありません。
それを答える権利を与えられておりません」
大の男がおどおどして答える。別に取って食ったりしないんだが……
俺が一歩前に踏み出すと男たち全員がビクッと体を震わす。
でも、誰1人として逃げ出そうとしない。
きっとここで逃げたら命はないとか思ってるんだろうな。
「んー、人に何か頼む時はサングラスとか外すのが礼儀じゃないのかな?
まぁ俺もビジネスマナーとか学んだことがないから違うかもしれないけど……」
俺がそう言うと、男たち全員が一斉にサングラスを外したので思わず笑ってしまった。
そして正面の男たちを見るとその目が怯えきっているのがわかる。
俺のことを見ながらも決して視線を合わせたくながっている。
こういう時って相手の次の行動を予測するために視線を外しちゃいけないんじゃないのか?
男たちもそんなことはわかっていながら視線を合わすのが怖くてしかたないようだ。
だから、どうしてそうなんだよ!
今の状況は理解できる。
父からか、教団からかは不明だが俺のことがバレて、俺を確保するために男たちがここに派遣されてきたのだろう。
屈強な一流そうな男たち16人というのまでは俺の予想以上だったが。
でも、どうしてその男たちが俺にここまで怯えているんだ?
俺が殺人狂だとか、世界最強の使い手だとか、あることないこと吹き込まれてきたのか?
それでも高校生1人に対してここまで怯える理由になる気がしない。
そしてそれ以上に不思議なのが俺自身の心理だ。
勝てるわけないよな、この状況。
でも、まったく負けそうな気がしない。
俺がちょっと圧をかけたら、こいつら腰を抜かして小便垂れ流しそうな顔つきに見える。
実のところ、こういう状況になったとしたらどうしうかと考えてはいた。
抵抗するか、逃げるか……それともと。
そして出した結論が堂々と乗り込んでやろうと。
そうすればいろいろ疑問に思っていることがわかるだろうと。
でも、今の状況。
想像してたのとずいぶん違う気がする。
この状況でも大人しく言うことを聞くべき?
それにしてもこいつら健気だよな。
全員が全員、泣き出しそうな顔しながら、誰一人として後ろに下がらない。
そう、自分の後ろが絶壁で一歩でも下がったら死ぬって感じの悲愴さが見える。
だんだん可愛そうになってきちまった。
「わかったよ。どこへでも連れてってくれ」
俺がそう言うと、男たちの半分くらいがへなへなとその場にしゃがみ込んでしまった。
そこまで怖かったのかよ!
「だが、このまま俺がいなくなると母が心配するから、ちゃんと連絡するようにしてくれ。
あ、言っておくけど、母にちょっとでも危害を加えたりしたら……」
そこまで言うと、かろうじて立っている状態の正面の男が、
「別部隊の者たちが高梨恵様の元にも向かっております。
これから連絡いたしますので、丁重にお伝えさせていただきます」
母さんが無事ならとりあえず問題はない。
俺はそのまま黒塗りの高級外車に乗り込んだ。特に目隠しとかはされなかった。
きっと、ここに戻ってくる日はないんだろうな。
そう思うとごく平凡な街並みの風景がひどく大切にものに思えてきた
黒塗りの高級外車は恐ろしいほどのスピードで走っている。
よく見ると前方を警報機は鳴らしていないがパトカーが走ってるじゃないか。
国家権力の先導付きかよ。VIP並みだな。
「こんなスピードで走って事故とかするなよ」
「彼は国際A級ライセンス持ちですのでご心配には及びません」
俺が運転してる黒服に声をかけると、俺の右側に座った男が代わりに答えた。
国際A級ライセンスがどのくらいのものかという知識はなかったが、きっと難しい資格なんだろう。
高級外車の乗り心地はいいものの、道中は決して楽しいものではなかった。
左右を筋肉隆々の黒服の男に挟まれ、俺が何か聞けば一言二言返してくれるもののそれ以上に会話を続ける気もないらしい。
話していい内容が極めて限られているようで、「それはお答えできません」という返答が半分以上を占める。
それ以上に俺を恐れきっている様子で俺がそんな返答に怒り出さないかびくびくし続けている。
そんな状態で楽しい会話が続くはずもなく、俺も質問を止めてしまった。
そのせいで微妙な沈黙がずっと続いた。
東京都の郊外で車は高速道路を降りてしばらく走ると左に高い塀がずっと続いていた。やがて見えた大きな門を入ると広い庭が続き大きな屋敷の前で車は停まった。
ここが目的地のようだ。
教団本部に連れて行かれると思っていたのだが、どうやら教祖の私邸に来たようだ。つまりここが父の家か。ここから母さんは脱走したんだな。
俺は立派な客間に通された。お茶とお菓子が出されたがそのまま1人その部屋で待たされることになった。
調度品が高級っぽいのは言うまでもない。どのくらい価値のあるものかは俺にはわからないし、特に興味もない。
「ふーん、あなたがお兄ちゃんか」
いきなり横から声がしたので俺はびっくりした。
横の扉が開いたままなのは知っていたが、まったく人の気配など感じてなかったぞ。少なくとも俺はそういう気配には敏感なはずなんだが。
「あ、ごめん、びっくりさせちゃった?」
その声の方を見て俺は再びびっくりした。
中学生くらいだろうか?
まだ幼さの残る女性が全裸で俺の真横に立っていたのだ。
小さいながらも膨らんだ胸はツンと上を向き、薄っすらとした陰毛に覆われた股間は濡れているような気がする。
その裸身を見た瞬間、俺の股間が猛烈に反応してしまった。
「お、勃ってる勃ってる。
いい反応だね。お兄ちゃん、パパよりずっといい男じゃん。
ボクとしようよ。
ボクはパパの子供よりお兄ちゃんの子供産みたいな」
その娘の言うことに俺は混乱した。
パパって言うのは援交してる女性が相手のことを擬似的に呼ぶところのパパって意味じゃいないよな。父親を指すんだろうな、やはり。
そして俺のことをお兄ちゃんと呼ぶってことは、やはりこの娘は俺の父の子供の1人ってことだろう。母さん以外に女の子がいたってぜんぜん不思議じゃないからな。母さんが家出した後に、他の誰かに産ませた子供がきっとこの娘なんだろう。
そして父は母さん同様、この娘のことも犯してるってことか。まぁどこも不思議な話ではないか。世間的には狂った行為でもここでは日常なんだろう。
そんな状況を普通に受け入れてしまえる俺自身がすでに狂ってるんだろうか。
「キミは俺の妹なのか?」
俺はできるだけ優しくその娘に話しかけてみた。狂った状況にあるのはこの娘が悪いわけではないだろう。
「うん、アリサって言うんだ。よろしくね、お兄ちゃん」
アリサって言うのか。全裸のまま自己紹介するときに笑顔がまた魅力的すぎて、目のやり場に困る。母さんにすこし似たところもある。まぁ母さんとも血は繋がってるわけなんだから、それは当然か。でも母さんとは別種の色気のようなものを感じる。
「んーと、できたら服を着てほしいんだけど……目のやり場に……」
俺が目を逸らしながら、そう言うとアリサはほっぺを膨らましながら、
「別に自分の家の中で、しかも家族しか来ないプライベートエリアで服なんて着てなくてもいいじゃん。お兄ちゃんもその制服っぽいのを脱いじゃえば」
そう言って、いきなりズボンのベルトに手を掛けられた。
「待って、待って。しかもどうして下から脱がそうとするんだ」
「だからしようって言ってるじゃん、子作り」
いかん、完全にアリサのペースになってる。いくら俺が股間を膨らましているとはいえ、「初対面の」「中学生くらいの」「妹と」子作りとかする気はないぞ!
俺が必死でズボンのベルトを押さえていると、アリサも面白がってジッパーを下げてくる。もみ合いの状態になってアリサの胸が俺にあたったりして気持ちいい……ゲフンゲフン、いや、なんでもない……困ってしまう。
「アリサ、そのくらいにしておけ」
またもや、横から声が聞こえた。今度は太い男の声だ。
今のわちゃくちゃの状況では別の人の気配を感じられなくてもしかたないな。
そう自分を慰めるが人の気配に敏感っていうのに自信なくなってきたよ。
俺は一瞬で緊張感を取り戻した。
いよいよやって来たのだろう……父が。
父はそこに立っていた。全裸で……
しかもその股間を隆々と勃起させて……
なんでだよ!
「すまないな。途中でアリサがいきなり消えてしまってな。
途中だとなかなか元には戻らんものだ、わかるだろ?」
わからねぇよ!
だが意外と常識的なのか、こいつ。内容はぶっ飛んでるけど。
とりあえず、目下の者に謝るとか、想像もしなかった。
股間からは目を背けるとして父の体は立派なものだった。
60歳超えてるはずだよな、確か。
だがしっかりとした筋肉に覆われ、血色もいい。
お腹も全く出てはいないし、肌にシワもない。
40歳くらいと言っても信じる人はいるだろう。
写真で顔は見たことあるが、あれって10年以上前の写真だったはずだよな。それでも若いなって思ったのだが、その写真とまったく変わっていない。
母さんといい若作りの血筋なんだろうか?
「アリサ、話が終わるまであっちへ行ってなさい」
「ちぇっ、せっかくチャンスだと思ったのにな」
口ではそう言いながらアリサは素直に部屋から出ていった。最後に俺に向かってウィンクをして。
父はガウンを羽織ると俺の前の椅子に座った。とりあえず、全裸のまま話し始めるとかいう非常識な行動じゃなくて一安心だ。
「さすがだな」
「え?」
何がさすがなのかさっぱりわからないんだが……
「誰もがワシと目が合うと萎縮してガクガク震えだしてしまうものだ。さすがにお前は違うようだ」
そりゃまぁいろいろと悪い噂も多い新興宗教の教祖に睨まれたら萎縮するわな。
「どこから話すべきかな……」
そう言ったかと思うと父はいきなり目を閉ざして考え込んでしまった。っていうかいろいろ話し聞かせてもらえるんだな。
「ワシは神ではない」
目を見開いたかと思ったらいきなりそんな言葉から始まった。
何を当たり前のことを、と思う反面、「我は神なり」と言い出さないことに驚きを感じた。生き神様扱いされてるはずなんだよな、教団では。
「しかし、どうやらヒトでもないようだ」
こう続いたからガックリきた。神でもなくヒトでもない、じゃあなんなんだ?
「神になれなかった何か。神にはいろいろ足らない何かなんだろう」
その言い方はずいぶん自虐的だ。
「小さい頃からいろいろまどろっこしく思っていたことがある。
何故こんな簡単なことが皆にはできないんだ。
何故普通に話してる内容が理解できないんだと」
そのことに俺はギクリとした。俺もよく感じていたことだったからだ。
「反面、1つのコンプレックスがあった。
不能だったんだよ、女性に対して……」
え、さっきはあんなに隆々と……それに子供も何人かいるはずだよな、俺を含めて……
「いろいろな鬱屈もあって、ワシは宗教に救いを求めた。
厳しい修行をすればすべての疑問に答えは見つかると信じて……
だが、そんな都合のいい話はあるはずはないな」
おいおい、それって教祖が言っていいセリフじゃないだろ。
「そんな中でワシは1つの言葉を聞いた気がする……『より高きものを目指せ』と」
だんだん新興宗教の教祖っぽい怪しげな話になってきたな。このあたりから眉につばをつけて聞いたほうがいいかもしれない。
「それが神の声かどうかはわからない。『大いなる存在』とワシは呼んでいる」
その言葉は聞いたことがある。教義でよく出てくるらしい。ちなみに教義を読んだことはない。母さんも読んでないそうだ。
「それからワシはますます修行に打ち込んだ。
滝に打たれるとか言ったありふれたものから、断食をしてみたり、針山の上を歩いてみたり……」
それって本当にできることなの?
「そんな修行はなんの答えも導き出してはくれなかった。
ワシは悩み様々な宗派に教えを乞いに出向いたものだ。しかしどの既存宗教もワシとの問答にまともに答えを出してはくれなかった。
そうこうしているうちに勝手にワシを師と仰ぐ輩が勝手に集まってきたが、そんな有象無象はワシになんの寄与もしなかった」
やってることが道場破りみたいなものだな。そうやって新興宗教として人が増えていったわけだ。
「そんな折、1つの転機が訪れた。
1人の女性との出会いだ」
恋バナになるのか……父親の恋バナとかあまり聞きたい話ではないんだが……
「教団……そう、その頃にはいつの間にかワシの取り巻きたちが教団なぞを作っておったのじゃ。その教団の信徒の連れたいた娘、確かその時は14歳だったはずだ。
その娘と初めて会ったその時、ワシのイチモツが初めて勃起したのだ」
おいおい……なんて話を聞かせてくれるんだよ……
ロリコンだったことにその時気づいたって話じゃないのか?
「ワシはそのまま、その娘を貰い受けた。そう、その両親はすぐワシに娘を献上したぞ。宗教に狂った信徒とか哀れなものだな」
お前が言うんじゃないよ!
本当にもうツッコミどころ満載だな。
「たった一度のまぐわいで妊娠したよ。その娘が産んだのがお前の母親だ」
え、俺のお祖母ちゃんの話だったの?
それで、お祖母ちゃんはどうなっちゃったんだろう?
「可哀想にその娘は産後の肥立ちが悪く死んでしまった……」
そうか、死んじゃったんだ……
「ワシも悲しんだよ。世間的に言う初恋でもあったし、初めての相手でもあったわけだし……」
そりゃまぁそうだろうな。そのあたりは同情するよ。
「あの娘ならきっといい子供をたくさん産んでくれたはずであったし……」
そういうふうな悲しみ方は同情できないが……
「小さい頃のお前の母親は可愛かったぞ。そしてとても賢かった」
そりゃそうだろ。
「ワシはまさしく目に入れても痛くないくらいに可愛がったものだ。
言っておくがその頃は純粋に父親として可愛く思っていたぞ。
ワシもあたりまえのヒトだと自分のことを思っていたからな、まだあの頃は」
その頃はそうだったんだな。だが当たり前のヒトは14歳の女の子を孕ませようとはしないものだと思うよ。
「ワシがヒトではなくなったのはお前の母親に初潮が訪れた直後だ。
ワシは自分で自分のことを信じられなかったよ。それまで目に入れても痛くないほど可愛がっていた娘を見て勃起していたのだぞ。
まだワシにもヒトとしての理性が残っていたから、必死で自分を抑えようとしたんだがダメだった。ワシの中にいるヒトでないものが泣き叫ぶ娘を犯していた。
その時をもってワシはヒトでなくなった」
確かにそういうことをしたヤツはヒトじゃないな。そしてそんな話を普通に聞けてしまっている自分はいったいなんなんだ?
「お前の母親はワシより高度な存在なのかもしれないな。その後、何かを感じたのだろう。ここからうまく逃げ出して、今の今まで逃げおおせていたわけだ。
ちなみに、お前の母親が家出して2年後にワシの股間が反応した女性がまた1人現れた。それがアリサの母親だ。そのときもまたアリサは無事に産まれたが母親は助からなかった……」
話は終わりか?
懺悔ってわけじゃないよな。
いったい何が言いたいのかさっぱりわかないんだが……
「ワシが本能に従ってヒトとしての生き方を捨てて取ってきた行動は間違っていなかったということだ。『より高きものを目指せ』という大いなる存在からの言葉はここに達成できたわけだ」
立ち上がったと思うとそう言って俺を指差したのであった。
俺?
「なにをきょとんとしている?
お前は今の話を聞いて自分は違うと言えるのか?」
「俺は違う……
俺はヒトだ……
俺はあんたみたいな化け物じゃない……」
俺は必死で否定した。
「何故こんな簡単なことが皆にはできないんだ。
何故普通に話してる内容が理解できないんだと、お前はそう感じたことはないか?」
まさしく俺はそう感じたことが何度もあった。俺は何も言い返せなかった。
「それならどうだ?
お前には同格の友人がいるか?」
「友人ならたくさんいる!」
俺はそう言いながらも不安感であふれた。本当か?
「本当に友人なのか?
たまたま遊ぶのに都合がいいから友人だと言っているだけではないのか?
お前はその友人に悩み事を相談したことがあるか?
お前はその友人のために損得抜きで何かできるか?」
俺は何も言い返せなかった。
「お前は女性に興味を持っているか?」
「あんたと違って俺は不能とかじゃない!」
俺はそう言いながらもまた不安になってきた。
「お前の高校は共学だったな。クラスの半分は女性だろう。その女の子たちを性的な目で見て興奮するか?
不能じゃない?
母親と同居していたな、お前が性的に興奮する相手はその母親ではないのか?
それはヒトとして正常な反応か?
そうそう、先程アリサにも勃起しておったな。
あの2人はきっといい子供を産んでくれるだろうよ。そんな2人にだけ勃起しているお前はワシと同じではないか!」
一番痛いところを突かれてしまった。母や妹に欲情している俺はまさしくヒトではない……
俺がガックリと項垂れていると、父の声色が優しくなった。
「自分がヒトでないと認めることは辛いことだ。
すまなかったな。荒療治のような真似をして……
とにかくそうやって誕生したのだ。より高度な存在としてのお前が」
俺もようやく落ち着いてきた。
自分がヒトではないものと認める気になったのだ。
「ちょっと待って下さい。
どうして俺がより高度な存在なんですか?
同じくヒトじゃないものとしてもより高度なものとは……」
父は少し言葉を考えていたようだがゆっくりと話し始めた。
「ヒトだけでなく、あらゆる生物には格というものがある。
若いものはなかなかその格というものがわからないものだ。
子犬がライオンに吠えかけたりするようにな」
その例え話は聞いたことがあるけど本当なのか?
「ヒトでもそうだ。
子供の頃はなかなかわからないが、ある程度年齢を経れば誰でもわかるようになる。生物としての格にな」
そういうものなんだろうか……
「ヒトはなかなか格の高い存在であることは間違いないな。
だからヒトは猛獣を必要以上に恐れない。その危険性を認識していながらな。あきらかに非力であるにも関わらず、大自然に立ち向かっていける。他の生物たちとは違い恐れを乗り越えられる存在であるんだ」
ヒトとは偉大なりってことか……
「そんなヒトから見ても、ワシやお前は恐ろしい存在なんだよ。
生物としての格があきらかに違っている。
お前の母親やアリサはその中間くらいの存在と言えるな。だからお前の母親が小さいながらも独力で生きていけたのも何の不思議でもない。
まぁ、あやつの場合は見た目の可愛らしさとかも利用したであろうが……」
先程までと違って母さんのことを話すときもとても優しい目をしている気がする。
「ワシやお前と普通に接するのならばともかく、敵対しようとするなら、もう怖くてまともに立ち向かえやしない。お前の迎えにやった連中も猛獣相手に素手で立ち向かえと言われても平然としていられる連中のはずなんだがな」
それがあの有様か。確かに怯えきっていたな。父の命令でなければ一目散に逃げていたに違いない。
「ワシには判るよ。伊達に何十年も生きてはいないからな。
お前はワシより格の高い存在だ。
まだ経験も浅いし、自らの能力もまるで見出だせてはいない。
だが、その現在の状態でさえもすでにワシを凌駕しておる。どれほどの存在になるか想像もできない」
そこまで話して父は一息ついた。そしてより優しき言葉で話を続けた。
「お前の消息を聞いて、ワシは大いなる存在にお伺いを立ててみた。
大いなる存在はすでにお前のことを知っていたよ。お前のことをより高度なものと認め、喜んでおられた。
どうやら、大いなる存在はお前を別の世界に招きたいようだ」
「別の世界……
そんなものがあるのですか?」
最近、小説やアニメでよくある異世界とかのことだろうか?
そんなものは虚構の物とばかり思っていたのだが……
「あるのだろうな……ワシには想像もできないが、大いなる存在がそう言うのならば……」
そんな世界があるとして、俺はそんなところへ行って何をするんだろう?
「大いなる存在が言うには、その世界の神となり導けと」
神……確かに俺はヒトとは違うのかもしれないが、決して全知全能とかではない。
神を信じない俺が神になるとかありえないだろう?
「大いなる存在がそう言うのなら、別の世界はあるのだろうし、お前はそこへ行って神となるのだろう。その未来はすでに決まっているようだ……
だが、ワシはお前と最後に話をしたかった。すべてお前に話しておきたかったわでだ。そのためにこうした場を用意させてもらった。
手間を取らせたな」
父はすべてを話し終えたかのようだ。
自分がなすべきことをなし終えた。そうした満足感に浸っているように感じられる。
「ここからはワシのただの提案だ。聞くもよし、無視するもよし」
あっという間に父が老けたような気がした。さっきまであれほど生命力に満ち溢れていた存在が急に年齢相応の初老の存在に変わってしまった。
「この世界で子供を作ってはいかないか?
どうやらアリサはお前のことを一目で気に入ったようだ。
それはそうだろう。あやつにも目はついておるからな。子供を作るのならワシとの間よりお前との間を選ぶだろう」
いきなり何を言い出すんだ。
アリサは妹だろ、俺の。
そこまで思って急にバカバカしくなった。何を急にヒトの常識に縛られているんだ。さっき気づいたはずだろう。俺はヒトではないことに。
そう気づいて、先程見たアリサの裸身を思い出して俺の欲情は急に増幅された。
「それとも相手は母の方がいいのか?
たぶん、あいつもお前が本気で求めるのなら、それを受け入れてくれると思うぞ」
それを言ってほしくはなかった。
俺が母さんを抱く……
想像しただけで俺の頭の中は爆発しそうだ。俺はずっとそれを望んでいたのではないのか……違う。そう思いたい。
俺は自分の心が判らない……
「何も迷う必要はない」
頭の中で言葉を感じた。
それが父の言うところの大いなる存在であるとすぐに理解できた。
存在としての格、神なんてチンケな存在ではないもっと大いなる存在。
どうやらそれを表す言葉は俺の語彙の中にはない。父もそうだからこそ大いなる存在と言ったのであろう。
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俺は父の後を継ぐことになった。
急に老けてしまった父は教祖を引退し俺が次代教祖を襲名したのだ。
母さんも招き、妹であるアリサも一緒に平和な家庭を築いた。
俺はアリサも母さんも抱くことはなかった。
ヒトであることを辞めたとしても、ヒトのように平和に暮らしてもいいじゃないか。
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俺は母さんと暮らしてた街に帰った。
父から聞いたことなど忘れたように再び母さんと2人で暮らすことを選んだ。
高校を普通に卒業し、県内の国立大学へ進学し、その後小さな会社へ就職した。
そのまま母さんと2人で穏やかに暮らした。
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俺はアリサを抱いた。
アリサとの間には可愛い女の子が産まれた。
そんな孫を父は今度こそ愛おしく感じていたようだ。
「もうそんな必要もないからな」
そう言って父は自らの男根を切り落とした。
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俺は母さんを抱いた。
盛りのついたケモノのようにひたすら母さんを貫き続けた。
母さんは俺のすべてを受け入れてくれた。
だが決して子供を宿すことはなかった。
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俺は家を出た。
アリサや母さんと一緒にいれば俺の本能が2人を襲ってしまう日が来るに違いない。
そう思ってすべてを捨てて家を出た。
1人の平凡な女性に出会った。
優しい女性だった。
それが恋であったかどうかは判らない。
俺はその女性に対してずっと不能であったが、彼女はそれでも構わないと言ってくれた。
俺は彼女と平凡な一生を終えた。
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俺は修行の旅に出た。
父が若い頃にしたという修行を自らなしてみたかったのだ。
修行で自分の体をいじめ抜くことは苦しいことではあったが充足感があった。
ヒトとの交わりを断って、より高みを目指す。
そんな生涯も悪いものではなかった。
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俺は政治家となった。
すでにヒトを超えた存在である俺にとって人心を掌握し、政界のトップに立つことは容易いことであった。
俺の力は日本にとどまらず、世界を舞台に活動を続け、俺の指導の元に世界から戦争はなくなり、世界平和を実現することが出来た。
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俺は怒りを抑えられずに父を殺した。
教団から追手がかかったが、俺の敵ではなかった。
ただ、父の仇と俺を狙い続けるアリサにだけは参った。
だが、アリサはどうも本気で俺の命を狙っている感じではない気がした。
俺は海外へ逃亡したがアリサも俺を追い続けた。
そんなアリサに狙われ続ける日々をいつの間にか楽しんでいる俺がいた。
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俺は……
俺は……
俺は……
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俺はしばらくして目を覚ました。
目の前には父が座っていた。
今のは夢?
何十年もの人生を何度もすごしたような気がする……
一吹の夢ってやつか。
大いなる存在が見せてくれたのだろう。
「行きましょうか」
大いなる存在に導かれ異世界へと旅立った。
続きの異世界での物語は構想は練ってありますが、まだ書いていません。
もし、この話がある程度人気がでるようなら小説化するつもりです。
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あっとこれ書いておいたほうがいいかな?
この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
本当に何もモデルとかないからね!