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伝説の自由戦士(ハンター)がオカマだった件  作者: ぷちミント/キャラクターと設定原案:空星きらめ(にじさんじ)と愉快な仲間たち
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中編。オカマの怒りは神をも超える。

「さて。やるんならさっさと始めましょう。あたしたちは時間が限られてるから」

「時間? 太陽を物ともしない特異体質ヴァンプなのに?」

 不可解そうに眉を顰める女神。

「ええ。先生生徒には、学校って言う拘束があるの。ご存じないでしょうけど」

「ああ。そういえばあなた、人間に混じって生活してるんでしたわねぇ」

 

 嘲笑を含んだ、張り付けたような笑い顔で、

 女神は、表情通りの言葉を叩きつける。

「言ったはずよ。あなたにあたしの生き方を、どうこう言う権利はないって」

 オッドアイのうち、鈍かった黄金の側に光が宿る。

 そしてそれは同時に、黄金の光彩に自らの家紋を示す力の発露。

 

「ズイルバー。開放なさい」

 ヴラドの少し落ちた声のトーン。主として命を下したその言霊を受け、

 従者は無言で頷いた。

 

魔鎖縛開放狼鎧顕現メイジー・ウェアウルフ

 静香に、しかし力強く発されたヴォルフの、

 ズイルバー・ヴォルフガングの言葉。その音が消えると、

 少年の肉体に変化が現れた。

 

 首から下、体の中央に、鎖のように一本線が出現し、

 その鎖のような線は、瞬く間に少年の前身に広がった。

 そうしてできあがったのは、青い体毛に包まれ銀色の鋭い目をした

 二足でしっかりと大地を踏みしめる、一匹の狼だった。

 

 

 開戦の合図とばかり、ズイルバーは僅かに腰を落とし突撃の構え。

 その姿勢をした直後、青い残光が女神に向けて走った。

 そこから続く、女神を襲う閃く無数の光。

 その光を寸でのところで躱し続ける女神は、

 さながら妖精と戯れているようだ。

 

「かわらず、見事な爪捌きね」

「己の肉体が鈍るならば、それは戦士として質が落ちたのと同じことです」

 好戦的なステップを踏み込みながら、態度と裏腹に

 激しく攻め立て続けるズイルバー。

 

 二人の動きを眺めるだけならば、幻想的な舞踏の光景だろう。

 しかしその実態は、幻想的とは程遠い超越者の舞闘である。

「いい動きねズイルバー」

 言いながら狼のあるじは、その右手を握り、

 その親指と人差し指を合わせ、引き絞るように構える。

 

 ヴラドの指先が輝きを帯びる。それを感覚で理解し、人差し指を開放する。

 その指先の光は、鋭い矢のように女神に向けて飛ぶ。

 それが着弾するより前に、ヴラドは二射 三射と打ち続ける。

 しかし女神はヴラドの放った光、魔弾をズイルバーの攻撃を捌くついでで

 払い消している。

 

 ヴラドは指以外をまったく動かしていない。しかし、一射するたびに、

 数度のまばたきを挟む。それにより、

 ヴラドの表情は徐々に険しくなっていく。

 その変化をズイルバーの攻撃を捌きながら見て、余裕の含み笑いをする女神。

 それと目が合って、ヴラドの動きがだんだんと雑になり始める。

 

「しっかり狙わないと、わんちゃんに当たっちゃうわよ」

 含み笑いしたまま、そう挑発的に忠告してやる女神キラミエル。

 

「ほんっと、いい性格してるわね」

 言葉の直後、人差し指に集まっていた光が掌に広がり、

 その光が球体へと変化、それを捕まえるように指五本で握り、

 ヴラドは投げつける。

 命中する刹那、女神が動いた。

 

 一瞬腰を落としたと思う間もなく、女神は蹴りを伴って飛び上がりながら逆さに縦一回転した。

 美しくひらりと舞う金髪と銀の衣、そしてスラリと長い脚。

「ぐっ!」

 予想外の反撃に、ズイルバーは弾き飛ばされる。

 しかし、空中でこちらも縦回転し、体勢を立て直し着地。

 

 魔力の球体は、放った当人に蹴り返るも、ヴラドは横薙ぎの手刀で切り払った。

 

「流石は神の蹴り。上半身がグラつきましたよ」

 平然を装うズイルバーだが、一滴の冷や汗がその威力を物語る。

「流石は、ヴラド・キラメ・フォン・オッカーマン・イチカラーリアの従者ね。

並みの存在なら、今の一撃で体が半分になってるところよ」

 

 わざと本名のフルネームを、それを嫌がる当人の目を見ながら言う女神。

 当人とその従者は、女神の態度に歯噛みする。

「さ、夜はまだ始まったばかり。楽しみましょう」

「そういうのって、あたしの側が言う台詞よね、大概」

 

「いいじゃない、お互い存在の生き方にはこだわらないってことよ」

 楽しげに切り返す女神。本当に楽しそうなその様子は、神と言うには幼い振る舞いであり、

 自分が種族の生き方を拒んでいる関係上、どうこう言える立場ではないと思いながらも、

 その今日これまでとのギャップに、ヴラドは苦笑いした。

 

 

*****

 

 

「はぁ……はぁ……空が、白んで来たわね」

「あら、一晩程度でバテちゃうの? 500年前は、三日三晩遊んでくれても平気だったじゃない」

「あの、戦いが、遊び……?』

 肩で息をしながら、500念越しに衝撃の真実を聞かされて、

 呼吸が一瞬止まるヴラドとズイルバー。

 

「だってわたくしは、ただ戦場にいただけだもの。

面白そうだから見てたのよ。で、ずば抜けた力を持つあなたを見かけて、

どんなものかと声を書けたの」それから三日三晩、

ずっと遊んでくれたじゃないの」

 

「声を書けた? 不意打ちで巨大な魔弾打ち込んでおいてよく言うわよ。

そのおかげでこの混ルルの地形が変わったんだから」

「そして、多くの被害が出た。人間どころか我々人と違う存在の多くが、

あの一撃で骸さえ残らずに、文字通り消えてしまった……!」

 その破壊の後を思い出したのか、二人の表情が怒りに染まる。

 

「よけられなかったあのたちが悪いのよ」

 

「それが、神の言い分か」

 ヴラドの口調がかわった。そして雰囲気も男性のそれに。

「え?」

 女神が間の抜けた表情になった。初めてヴラドの「男」の面を見たのだろう。

「主。今日の授業に差し支えます」

 

「わかっている。お前もその姿を長く続けるのは、生徒としての生活に差し支えるぞ。

お前がわたしとナニカあったと思われるのは、人間関係上好ましくなかろう」

「わかっております、ヴラド様。昼行燈のわたしですが、

それでも一線を越えたと思われるのは好ましくありません」

「そうだろう。ならば、このふざけた女を、一撃で叩き返す」

 

「あら、ずいぶんと強気ね。いいわ、そのハッタリ、確かめてあげる。

いらっしゃい、吸いて永らえし者の王。一撃、殴らせてあげる」

「また辛酸をなめることになるぞ、まあいい。辛酸を飲み干すがいい」

 言うと深く息を吸い、そして呟いた。

 

「醜く気ぶくれして好まんのだがな。吸結貴ドレインクリース

 

「な? ルル・ラーハの魔力を、吸い込んでるですって?」

 

「そして、主の体躯は膨れ上がり、それと同時に膂力と魔力は増大していく。

わかるか女神。あの時、主は本気で戦ってはいなかった。

あくまでも、あの姿を保ったままでの本気だったのだ。

お互いに、遊びだったと言うことだ。それでもその心は

わたし同様猛っていたが」

 

「これが、真祖の力だと言うの?」

「さて、準備はできた。覚悟はいいか?」

 体躯が倍ほどに膨れ上がったヴラドは、右の拳に力をこめる。

 すると、それによって右腕の筋肉が更に盛り上がる。

「言った以上、わたくしは言葉を曲げません。来なさい!」

 

 答える代わり、深く息をまた吸うヴラドは、右腕を体をひねるほどに引く。

 ーーそして。

 

「お帰りは、あちらよっっ!!」

 

 一歩踏み込むのと同時、全ての力と体重を右腕から拳へと渡し、

 最高のタイミングで女神に命中する動きで、

 真っ直ぐに拳を放った。

 

「また、遊びに来るわよ!」

 

 白んだ空に溶け込むように吹き飛びながら、女神キラミエルは帰らされた。

「ふぅぅ」

 呼気を吐くのと同時に、まるで空気が抜けるように急速にヴラドの体が縮み、

 このルル・ラーハに来る時よりも、僅かに細くなってしまった

 

「顔面を全力で殴るとは、主も人が悪い」

「いいのよ、あれぐらいやっても。だって、あたしの怒りに触れたのだから。

むしろ顔面に拳の跡がつく程度で済んだんだから、ありがたく思うといいわ」

 

「そうですか」

 呆れた息と共に吐き捨てると、「魔鎖自縛リストール」と呟くズイルバー。

 呟きの後、青い体毛がズイルバーの体の前中央に集まり、

 一本の青い線となり姿を消した。すると、ズイルバー・ヴォルフガングの姿は、

 ヴァニラ・キラーリアの生徒へと戻った。

 

「さ。帰りましょう。校長への報告もあるし、日常もあることだしね」

「はい、ヴラド様」

 その言葉を聞いたヴラドは、「だ め よ」と右手の人差し指を左右に振りながら言う。

 

「……失礼いたしました。ヴァニラ先生」

「よろしい」

 満足げに頷くと、元来た道を先に歩き出す。

 そして従者は、それに続いてまだ白い空の中を歩いて行く。

 ーー彼等の日常に向かって。

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