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偶像隷我 ゼェーナガン  作者: ネビィー
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第二話

「怜樹」

 死角を突いた攻撃に反応が遅れ、怜樹がよろける。

 倒れるのをしっぽで受け止め、攻撃のきた方向から遠ざけるように体の後ろに持ってくる。

「誰だ」

 言葉を叫ぶとともに、その敵を睨みつけた。

「大丈夫?」

 問いかけるが返事がない。目線すら合わないことが、危険度を教えてくれる。

「毒か」

「ああ、魔物には麻痺毒だが、人間は死に至る毒だ」

 無意識に出た言葉だが、よほど自慢なのかべらべらと喋り始める。ほんとに組織の質が落ちたと実感せざるをえない。

 こいつが口を開くたびに不安は消え去り、怒りが高まる。だが、問題はもう片方だ。最初にあらわれた魔物。

 奴はやれやれといった感じで首を振っている。どうやら作戦通りではないが、想定内という面持ちだ。

 その無問題(モウマンタイ)って表情の意味を知る必要がある。

 さそりの魔物がもう一人に歩みよる。

「なぜ、我慢できないのですか」

「フン」

 なんか言えよ。不敵な笑みを浮かべても、お前の小物感はもう消せないからな。

「あなたのせいであの魔物を相手しなければならない。だから、一緒に行きたくなかったんですよ」

「お前のおかげで大きな問題にならない」

「他人の能力を当てにするのは三流ですよ」

 …なんか説教が始まったらしい。だが、わかった。人前に姿を晒したのはそのためか。

 奴らが話をしてるうちがチャンスだと、怜樹を揺らして起こす。

「……病人を揺らさないでくれ」

 どうやら意識はあるようだ。

「大丈夫か」

「死んでも絶対にお前の世界に転生してやんねぇから」

 僕らの世界、転生とかやってないんだよなー。

「なんか、怒ってる?」

「いいや、俺は前からこんなんだ」

 なんか雰囲気違うんだよな。

「お前の方が怒ってるんだろ」

 片目をあけて、こちらを見てくる

「ああ、だから両方ぶっとばす」

「怜樹、必ず解毒薬を作るから、忍者をおびき寄せながら、距離をとれるか」

 怜樹が首を向けて敵を確認する。まだ、話が続いているようだ。

「作り方は?」

「僕の能力だ。詳しくはあと」

 今は時間が惜しい。相手はまだこちらが身動きとれないと思って油断している。そこを突く。

「ふー。じゃ、いくか」

 深い呼吸とともに怜樹が起き上がる。

「怜樹、忍者の能力はものを見えなくすることだ」

「オーケー」

 怜樹がクラウチングの姿勢になる。

「五分で済ませる」

「折り返し十分だな」

「耐えれるか」

「死ぬまで持たせる」

 そういうと二人同時、別方向に走り出す。

 二人とも振り向きはしなかった。

 僕は敵へと一気に距離を詰める。魔物たちは斜め後ろに飛んで離れようとする。

 睨んだ通り、最初の魔物は、軽いステップで回避し、臨戦態勢をとる。

 対して、さそりの魔物は大きく飛んで、まだ地に足が付いていない。

「そこが致命の差となる」

 ターゲットをさそりに絞り、さらに加速する。

 敵の着地とともに、顔面をしっぽで殴りぬく。

「来なよ。卑怯者」

 しっぽで煽る。

「てめぇ」



 雲透が視線誘導をしてる間に忍者の背後に回り込む。だが、すぐに気付き、振り向かれる。

 もう少し休憩したかったが、落ち着いて場を見ているな。追跡したり、見えなくしたり、どうやら、視覚に特化した魔物らしい。だったら全力で逃げても問題ないだろう。

「じゃあな」

露骨に本を見せて走り出す。

「「そっちはまかせた」」

お互いに相方に言葉を交わす。

「「まかせろ」」



 驚くべきことだ。あの毒を浴びて人間が走っていられるなど。

 ……さらに言えば誘導されている。

 レイキと呼ばれていた人の子は茶色の髪を紺色のヘアバンドで押さえつけ、オレンジのシャツにこれもまた紺色のジャケットを前を閉めず着ていた。ジャケットの端が走っている勢いでなびいている。

 どうやらここは近くのシャッター街で、人がまったくいない。

 裏路地の幅が細くなるほど、彼の命も終りに近づいていく。

「いつまで逃げるんです?」

 質問には、角待ちの奇襲と以下の返答が返ってきた。

「雲透が来るまで」

 ……もう少し洒落た返しはできないものだろうか。

 ああ、無理なのかと自己完結する。

 思考がもうまともではないようだ。

 さっきの評価を撤回しなければいけないようだ。

 ならばさっさと仕留めてしまおう。そう思い、自分の武器(針のクナイ)を取り出し投げようとした時、

 人の動きが変わった。さっきのふらふらした走り方ではなかった。路地の角を三つ四つ曲がると、背後を取られてしまう。こちらのスピードを速めたのにも関わらずだ。

 「くっ」という呻きとともに二度目の奇襲をクナイを投げてけん制した。下手に投げたクナイは人の子の眉間に直進し、人の子が反射でこれをかわした。お互い後ろに飛びのき、また人間が逃げる態勢となった。

 土地勘だけで埋められる差ではないはずだ。

 これがさっき毒を受けた間抜けな人間の動きなのか。毒で体がやられている男の思考なのか。

一体どっちなんだ。こいつは毒の影響を受けているのか。

 そう考えている内に、男は倉庫のような建物の中に窓から入っていった。

 男が入った窓の横に立ち、中を覗きこむ。

 ここが最後の山場と決め、覚悟を決めた。

 まさか人間にここまでするとはな。

 落胆するような笑みが出る。

 建物の中には金属製の棚がいくつも等間隔で並べてられていた。

 三度目の奇襲はすぐに分かった。後ろから腕が伸びてくる。それを体を右回転させながら掴み、前方へ投げ飛ばす。

 人間はとっさに頭と首を手で押さえながら地面に落ち、勢いのまま棚に背中を打った。

立ち上がりも走り出しも遅く、クナイで仕留めるのは簡単だった。

 クナイは右の足首と左右の太ももに1本づつ刺さった。

「ああぁ」

 人が痛みに苦しむ。それでも睨みつけてくる目が死んでいない。人は右足を引きずりながら、奥の部屋へ逃げていった。

 人間の姿を見て、落ち着きと自信が戻ってくる。

 部屋の奥で男は壁を背にして座っていた。

 呼吸は荒く、空気画面抜けているような ヒュー、ヒューという音が聞こえる。

 俺に気づくと、気道を確保するように顔を上に上げた。目の下は紫色に滲んでいた。

「よく死んでいませんね」

 無意識の賞賛を送っていた。

「死んだ方が都合がいいんだけどな」

「でもそれじゃあいつらが生きた意味がなくなっちまう」

「ほらよ」

 男は懐から本を出し、投げた。

 私が二歩歩みを進めて止まると、男はケラケラとわらい、ネタ晴らしを始めた。

 男がボールを曲げるとすぐ後にパァンと鳴って私の目の前を通ったコルクが地面にあたって止まった。

「忘れもんだよ」

 見るとコルクにはどこかで投げた針状のクナイが通されており、その針が地面に軽く刺さっていた。

「ここ祭り用の倉庫でいろいろあるんだ」

「あー負けた」

 男は背中を引きずりながら右側に倒れていった。

 男の頭が地面につくと同時に目の前の壁が砕けて散った。そして、瓦礫の後ろから白い手が伸びてきた。



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