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閑話・グランフィルド王国

毎度のことながら、こんな状況あるわけねーだろというマジレスは受け付けません。


「冒険者クリストファー殿がいらっしゃいました!」

「うむ。すぐに通せ」


 グランフィルド王国王宮にて、伝令がそう告げると玉座の主は即座に頷いた。すると、伝令を担当していた衛兵もすぐさま対応し、今王に告げた人物を案内する。

 本来であれば長い儀礼や手順を踏まなければいけない所であるが、この人物に対してだけは王は全て省略し迅速に対応するように心がけている。


「冒険者、クリストファー。南の荒れ地の探索より帰還しました」

「うむ、ご苦労。して結果の方はどうであったか?」

「は。南の荒野も北と東の荒野と同様、非常に厳しい状態にあります。やはり何処も源流封鎖の解除はされていないかと」

「やはりそうであったか……」


 王__アートルシュ・フランフィルド10世は疲れたように項垂れる。クリストファーの報告の内容がこうであることは分かってはいたものの、実際に事実として突きつけられてしまうとキツイものがある。

 だが、既に三度目ということもあり、王の様子を気にする事なくクリストファーは淡々と報告を続行する。


「サウルカッサ村、ウルスサーラ村、スールサウラ村の3村はいずれも壊滅状態。現状、一番マシな状態のサウルカッサへ集まり統合が村間の会議で決定しました。辛うじて村から馬で一晩駆けて到着する範囲内に何とか使い物になりそうな井戸は2か所程掘れましたが……」

「いや、分かっている。むしろそれだけあれば上場であろう。大儀であった」


 例え、2か所井戸を掘ろうとも、3つの村が合わさってしまえばその人口を賄えるほどの水としては圧倒的に足りない。井戸自体が粗悪である上に、作物を育てるのにも水が必要であるのだから。合併したこの村もそう遠くない未来にまた別の場所へと避難することになるだろう。

 しかし、むしろ一晩で足りる距離に2か所も水源を確保できたというのは、今のグランフィルドにおいては最上の報告だ。何せグランフィルドの何処に行っても似たようなものか、それよりも悪いのだから。

 アートルシュ王のそばに控える青年が苦し気に進言する。

 

「父上! やはり、マーレイに降るほか我が国に未来はありません! これ以上籠城した所で破滅以外に道は__」

「黙れ! そんな事余が一番わかっておるわ! 既に属国となる申し出も、上納金も、貢物も、この国にできる手は全てとった! その結果どうだ!? 南の源流封鎖は解かれたか!? これ以上、一体何をすればいいというのだ!」

「いえ……差し出がましい事を口にしました」

「五月蠅い五月蠅い五月蠅い!」


 瘦せこけ、カサカサに乾いた王の叫びが謁見の間に響き渡る。


 グランフィルドは大陸『グラウンドセブルス』において、最も広大な国土を有する王国だ。内陸国ではあるものの、岩塩や金属鉱山は不思議と各地で採掘が出来、潤沢な資源となっていた。更に四方を巨大な山脈に囲まれた盆地であり、その山脈連から流れ込む栄養豊富で尽きることの無い水資源のお陰で農業も盛んに行われており、大陸の中で最も豊かで、200年の歴史ある大国であった。___50年前までは。


 今より50年前、何を血迷ったか南の山脈の向こうに存在するマーレイが国家予算数年分を費やしてグランフィルドに流れ込んでいた全て川の源流の流れを強引に自国側へと捻じ曲げたのだ。

 マーレイ国だけではない。一体どんな密約があったのか、北西南の山脈の向こうの国々も同様に源流を塞き止め、押し変え、奪っていった。


 全ての水源を潰されたグランフィルドからすればたまったものではない。元々水は山脈から流れてくる川に頼っていたのだ。それがなくなってしまえば一瞬のうちに干からびてしまった。

 雨でも降ればよかったのだろうが、生憎と雨雲は全て山脈を越えてくるときに全て雨水を吐き出し、グランフィルドに届くころにはカラりと乾燥した風しか流れてこない。

 この五十年の間に富んでいた土壌は全て枯れはて、草木の緑は全て失われた。今では農業どころかその日の飲み水にすら困窮する程にまで弱ってしまった。王族ですら泥水を啜ることが贅沢に該当するほどに。


 日に日に民は他国へと流れて行き、長き歴史を誇りとし共にこの国を守ってきた筈の貴族たちもその姿をだんだんとくらましている。

 はっきりと言ってしまえば、この国は詰んでいるのだ。


 事の発端であるはずのマーレイ国は高い上納金を収めれば源流を開放するとは言ってきてはおり、先代の王から延々と収めてきているにも拘らず、解放される様子はない。

 

 グランフィルドをむしゃぶり尽し、搾れるだけ搾り取り骸の国となった後に意気揚々と国を簒奪するつもりなのだろう。

 最も、現時点でさえ攻められてしまえば一瞬で敗北してしまうのであるが。マーレイはその絶対に勝てる戦争の費用すら出し渋り待っているのだ。


 それがわかっているからこそ、アートルシュ王の怒りである。


「マーレイのハイエナ共に頭を下げて民が助かるのならば、この頭喜んでいくらでもさげてやる。だが、実際には源流封鎖が解かれる事などないではないか! 神に祈れば雨が降るのか!? 悪魔に魂を売れば水が湧くのか!? 教えよ! 余は何にこの命を捧げればいい!?」

「父上! 落ち着いてください!」

「王よ! 貴方の悲しみは痛い程分かります! 何卒お怒りをお沈めください!」

「ゲホッゲホッ___すまなかった。涙はとうに枯れ果てたというのに、怒りは一向に収まらなんだ。兎に角、水だ。水さえあればグランフィルドは甦るというのに……」

「恐れながら王よ。既に50年の貧困によって民は飢えております。グランフィルドは食料という鎖にも他国より縛られている事を忘れてはなりません」

「……あぁ。そうだったな」


 宰相の耳の痛い一言にアートルシュ王は肩を落とす。先代から引き継いだ王国始まって以来の問題ではあるが、自身の代で収束させられる気が全くしなかった。

 第二皇子を水問題を同じく抱える砂国へと留学させ、水問題解決方を学ばせたりと悪あがきはしているがどうにも芳しくない。報告によるとどうやら『葉のない棘のなる植物』が砂漠においても多量の水を保有する効果があるそうだが、繁殖力はそこまで高くないそうなのだ。

 

「すまぬ。話を戻そう。クリストファー殿、今回の報酬も麦でよいのか?」

「はい。此度もノースエルドへと麦をお送りください。」

「あい分かった。……しかし、S級冒険者であるそなたであれば他国でも引く手数多であろうに。粗悪で中身のスカスカな自国の麦を報酬に頼り切りな余がいう事ではないが、生まれの村を守る為に他国へ赴いたりはしないのか?」

「お言葉ですが、いくらマーレイや他のクソッタレの方が豊かでも、奴らの犬になるくらいなら悪魔の下僕にでもなった方がマシです」

「そなたの高潔さには頭が下がるわ。……それで、なんだが」


 王は歯切れ悪そうに口ごもるが、自分でも無理を言っている事を理解しているのでどうにも言い出すことが出来ない。だが、すでに三度も同じことを繰り返せばクリストファーも苦笑交じりに察する。


「分かっております。西の荒れ地の調査ですね?」

「う、うむ。西は既にほとんどの民が別地域へと移住しているが、何があるか分からんからな。どうかよろしく頼む」

「はっ!」


 S級冒険者であり、また優れた魔法使いでもあるクリストファーは水源探知の魔法が使える。北、南、東の地域の探索の際もこの魔法で小さな水脈を必死に探し、粗悪で小さいながらも井戸を作り国に、民に貢献してきた。大きな戦闘こそしていないものの、この国においてはクリストファーは英雄や救世主と言われる程に知名度が高い。

 西の荒れ地は他の三方と比べても最も広大で、それでいて最も荒れている。既に一部では砂漠化も始まっているほどだ。あまりに酷い為に西にあった都市や村々はほぼ全滅状態で、生き残った民も別地域に移住済みではある。しかし、広大という事はそれだけ可能性もあるという事。

 水脈がある事に一縷の望みをかけて、調査をしない訳にはいかない。この国はそんな藁を掴むような真似をしなければならない程に追い込まれていた。


「クリス!」


 王命を受け、謁見の間を立ち去ろうとするクリストファーを、先ほど王に物申した青年が呼び止める。青年は王と同じ金の髪に青い美しい目をしている。だが、残念ながら痩せて肌も唇もカサカサに乾いている所までも同じであった。皇太子であっても貧窮を分け合わざるを得ないこの国の現状を如実に表していた。

 皇太子__アルバートは真剣な目でクリストファーを見つめ、そして頭を下げた。


「クリス……よろしく頼む」

「えぇ。分かってますとも」


 短いやり取りながらも二人のやり取りに謁見の間の全員が息を飲む。これよりクリストファーが向かうのは、既に死に絶えた絶望の大事なのだから。

 

 そしてクリストファーは知らない。これより向かう地にいるのは、祈っても雨を降らさぬ神でも水を湧かさぬ邪教の悪魔でもなく、正真正銘の理不尽がいる事を。



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