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第12話


結局倒れてしまった私だけれど、一晩寝たらすぐに治った。やっぱり、ダンジョンマスターはダンジョンの外では弱くなってしまうらしい。衰弱すると言うほど身体が弱くなるわけじゃないけれど、虚弱気味くらいにまで身体が苦しくなる。と言っても、ダンジョンの中に戻ったら、すぐにダンジョン外の息苦しさや倦怠感といったものはすぐに消えて、疲れだけが残った。だから、そこまで深刻な問題だとは思わなくてもよさそうだ。

むしろゴードンさんにご自愛くださいとお説教されたほうが答えた。正論という棍棒で延々とぶん殴られ続けるようで辛い。なまじ、あちらが正しいのだから目も当てられない。


ちなみに夜はゴードンさんの馬車の中で寝た。心配するゴードンさんが背負ってくれたのはいいけれど、地下に行く訳に行かないから馬車の中で大丈夫といった訳だ。

 未婚の女性が~とお説教の内容が一つ増えてしま単だけど、別に馬車は五台もあるんだから良くない?

日本にいる時も女友達がガードが甘いだのあいつは止めとけとかってよくお説教をされてたけど、私そこまで警戒心低くないんだけどね。そもそもアイツって誰ぞや。


まぁ私のお説教話は置いておいて、だ。一晩たった実験結果を見てみよう!


「こ、心の準備は良いですか?」

「勿論です。この実験が上手く行けば、グランフィルドの水事情は一気に好転に向かうでしょう。使う資材もミツロウ以外は比較的安価に取り揃えられるものばかりで実に量産向きです。……本当にヒナ様は特許料はいらないのですか?」

「いらないですって。元々私が考えた訳じゃないし、大体こんな僻地でお金を貰っても使い道がないって前にも言いましたよね?」


 そもそも、この知識は大将から聞いたものであって別に私が考えたわけでも興味があって調べて回ったわけでもない。そんな無責任なものでお金なんてもらえないし、使い道がない。私外に出られないしね。


「そ、そうです! 定期的に私の商会から商隊を出しましょう! それなら定期的に特許料を支払うだけでなく生活に使う物を売りに来ることが出来ます!」

「私の良心が死ぬのでやめてください」


 村々を回るような商隊が、たかだか私一人の為にわざわざ訪れてきたら一体どれだけの負担になろうか。それにそんな毎回来られてもダンジョンだって秘密がバレるかもしれないし、出来ればあまり人を呼びたくない。

 あれ? それならゴードンさんが来ることもゴードンさんの負担になるんじゃ……まぁいっか。ゴードンさんにも水不足解決って狙いがあるっぽいし。

 

 それじゃあ実験の成果を見に行こう! って所でゴードンさんに肩を掴まれた。


「駄目ですよ? ヒナ様は昨日倒れたばかりでしょう。器はこちらまで持ってきて確認して頂くので、ヒナ様はこの場にてお待ちください」

「別に今回は見るだけだから大丈夫ですって」

「ヒナ様?」

「……分かりました。それじゃあ、実験その1の方から確認しましょう」


 ニコリとしたまま無言の圧力を放つゴードンさんに負けてダンジョンの中で待機することになった。

 ゴードンさんは実験その1の穴のそばに座ると、丁寧な手つきでかぶせている布を剥がし始めた。だけど、完全に剥がし、穴の中の器を見たゴードンさんはピシりと固まってしまった。もしかして失敗だったのかな?

 一晩おいたことで、昼夜の気温差の後押しも得られる筈だから結構期待が持てると思うんだけど……。


 心配になりながらも眺めていると、ゴードンさんが満面の笑みでこちらに駆け寄ってきた。

 大事そうに手に持っている器の中には、確かに水が溜まっていた。


「ヒナ様! 成功です! 水が……水が!」

「やりましたね! このやり方なら穴を掘るだけだから子供でも簡単に真似出来そうだし、何よりも安価! ゴードンさんの商会で広げられそうですか?」

「勿論です! これならば足元を見られて水瓶1つを買う為に金貨一枚を払う事に比べれば遥かに良い! 素晴らしい!」

「でも、注意しなければいけません」


 喜んでくれてはいるものの、一晩駆けて得られた水は器に一杯だけ。それも並々と注がれているという訳ではない。確かに水に悩むグランフィルドならば、小さくとも大きな一歩なのだろうけれど、それでもまだ足りない。それに、そんなにたくさん穴を掘って地面の水気を集め続ければ、もしかしたら砂漠化を招くかもしれない。ただでさえ少ない水分を捻り出すわけだからね。

 有効かもしれないけど、万が一の危険も考えておかないと。手遅れになってからじゃ遅いからね。その説明をゴードンさんに説明すると、眉を顰めてうなる。


「成程。地中の水分を過剰に吸収すれば、今以上に乾いた地になる可能性があると……道理ではありますが、いささか残念ではありますね。折角の水生成法が使いすぎてはいけないとは……」

「あ、でも事件その2ならその心配はありません! なんてったって空気中の水分ですからね。風が吹けばいくらでもリセットされます」

「そう、ですね。では、次の実験の結果を見てみましょう」


 そう言うと、ゴードンさんはワルカウォーターに設置した器の確認に行った。こっちが成功してくれれば実験その1とは違い何の危険も無く水を生成することができる筈だ。

 期待に胸を膨らませる私とは裏腹に、ゴードンさんは少しだけ渋い顔で器を持ってきた。その器の中にはさっきの器の半分も水が入っていなかった。


「ヒナ様……残念ながらこちらの実験は芳しくありませんでした」

「うーん……こっちはうろ覚えの上に専門知識があるわけじゃないですからね。仕方がないですよ。ちなみに、どんな感じでした?」

「どうやら網から器までの伝い方が良くないらしく、殆ど地面に水がこぼれていたようです。証拠に網の下の土が湿っておりました。っあ!ですが、これでも水が得られると言うのは凄い事です!」

「大丈夫ですよ。それくらいならば私達みたいな建築の素人じゃなくて、もっと専門家に頼めば改善して貰えるはずです。そもそも、これは試作品の小型ですからね」


 少なくともこの試作品は本当のワルカウォーターの10分の1にも満たない。水をとらえる網は大きいければ大きい程に表面積が大きくなる。10倍の大きさなら表面積は実に100倍になる計算だ。素人作成の試作品でも水が集められたのだ。専門家に1/1スケールで作って貰えばどれだけの大きさになるだろう。

 まだまだ希望はある。


 そう説明すると、渋かったゴードンさんの顔は一気に明るくなった。


「成程。それもそうですね。そうですね! であれば、私が商会の全総力を使って完成させて見せます!」

「あはは。頑張ってください。一応、すぐに戻って試せるように、ミツロウとかの材料の方は用意させていただきますね」

「ヒナ様それは……いえ、ありがとうございます。ヒナ様の善意、ありがたく頂きます」


 別に善意って程大層なものでもないんだけどなぁ。


 で、結局五台の馬車の内、3台に水の入った革袋を。残る荷台にワルカウォーター用の網やミツロウ、布を詰め込めるだけ詰め込んだ。

 ノワールを始めとした馬ーズにもたっぷりと水をやって英気を養わせたし、たぶん道中は大丈夫だろう。


「お礼をしに来たにも関わらず、むしろ私どもの方がこれほどまでに厚く出迎えていただき、何と申し上げればよいか」

「あはは。ゴードンさんたら堅苦しいですよ。前にも言いましたけど、困った時にはお互い様ですって」

「ある程度成果が出ましたら報告に参ります。この度のお礼はその時にでも。次にあるときにまでには、自力で食糧事情の方を解決出来るように私達なりに努力してみます。それでは!」


 そう言い残すと、立ち去っていった。多分、帰ったらすぐにワルカウォーターの研究試験が始まるんだろうな。帰るときのゴードンさんの目が意欲に満ち満ちてたし。


 でも、水の次は食料問題か。


 そりゃそうだよね。水だけじゃ人は生きていけないし、食料生産ともなればどれだけの水がいるのか。自分で何とかするって言ってたから手出しするのも無粋かもしれないなぁ。

 苦笑しながらダンジョンブックを取り出し、ダンジョンのレイアウトページを開く。


【農耕エリアLv.1】:50P

 ・植物成長促進効果(20%)

 ・植物品質向上効果(20%)

 ・連作障害軽減効果(Lv.1)

※注意:農耕エリアは非戦闘エリアです。ダンジョンマスターは一部の罠を除き、戦闘モンスターや罠を設置・レイアウトできません。それでもよろしいですか?


 どうやら今回はレベルなんてものがあるらしい。一回で済むかと思ったら結構リソースと時間がかかるかもしれない。しかも、戦闘モンスターを配置できないって、地下と合わせて二階層しかない私のダンジョンじゃ痛手どころの話じゃない。私モンスターにリソース割いたことないけど。

 割と馬鹿な事してるって自覚はあるよ? でも、結構この国の問題に深入りしちゃったし、ここまで知っておいて知らんぷりはちょっとね。

 ここまで来たら私にできる事は全部やろうと思う。大将風に言えば、農業チートのスタートだ。




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