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第10話


ゴードンさんをダンジョンに招き入れて分かったことがある。ダンジョンにおいて、侵入者の存在は物凄く大きいらしい。


 ゴードンさんがいたのは3時間と少し程度だったけれど、リソースが30も増えていた。大体1時間に10Pの計算になる。

 お陰一日分の食費くらいのリソース消費が、一食分のリソース消費くらいにまで抑える事が出来た。

 仮に一日ゴードンさんがここにいたら240Pも手に入ったことになる。それだけあれば階層を増やしたり拡張したりといろいろできたかもしれない。

 考えてみればそうだよね。今私が一日5Pとかを得ているのは全部自然回復によるもの。ダンジョンは本来、外からの侵入者によるリソース確保が主であるのだから、ゴードンさんでこれくらい儲けても不思議じゃない。もっと認知度のあるダンジョンなら一日100人以上の人が入ってきそうだし。

 ちょっとだけゴードンさんをすぐに返してしまった事を後悔。ゴードンさんはこの西の荒野は盗賊ですらよりつかない不毛の地って言ってたし、人が来ることなんてそうそうないんだろうな。


 



 と、思っていたら一か月後にゴードンさんが戻ってきた。

 しかも、前回と違い馬車が5台ほど連なっている。唖然としていると、ゴードンさんが満面の笑みでこちらに駆け寄ってきた。


「ヒナ様、お久しぶりでございます」

「お、お久しぶりです。ところで、この馬車の列は……」

「これは前回助けていただいたお礼です。ただ、ヒナ様の欲しいものが分からなかったので、いろいろと種類をご用意させていただきました」

「お礼って多すぎますよ! 流石に貰いすぎです!」

「ですが、ヒナ様に貰って頂かなければ、この荷物を持って帰ることになります。荷を引く馬もさぞ辛いでしょうな~」


 馬車を引いていた馬たちが訴えかけるような目でこちらを見つめてくる。まさか情に訴えかけてくるとは……。

 馬たちの視線に負けてお礼の品を受け取ってしまった。衣服に、宝石に、大量の本。本と言っても羊皮紙や木版、石板に文字を書き込んだものだ。羊皮も木板も資源が乏しいこの国では物凄く貴重なものらしい。確かにこれを持ち帰るとなると馬たちも辛いだろう。そういう事ならありがたく貰っておく。

 それに地味に衣服も嬉しい。一応これまではリソースを使って最低限用意していたんだけれど、服が地味に高いのだ……。


 馬車五台に積まれた荷物をゴードンさんと二人で何とか運び出し終わる。秘密をちゃんと守ってくれているのか、今回も単騎で来たらしい。顔色の悪さからしてまた無理をしたのだろう。私は無言で水とサラダサンドをゴードンさんに手渡す。ノワールを始めとした馬たちも物欲しげに見つめてくるので水桶と干し草を取り出してあげる。つぶらな瞳には勝てなかったよ……。



「やはりヒナ様の手料理は実に美味です。それにこの水のなんと癒される事か!」

「ありがとうございます。それで、今日の目的はなんだったんです? お礼を渡しに、ってだけじゃないんでしょう?」


 この国が危ない状態にあると言っていたのに、お礼だと言ってこんなにたくさん持ってくるなんてお人よしにもほどがある。他になにか思惑があるってのは私でも分かる。


「いやはや、ヒナ様は聡明でいらっしゃる。実は……ヒナ様のあの井戸水をまた譲ってほしいのです」

「水ですか? いいですよ」

「よろしいのですか!?」


 むしろ驚くゴードンさんに驚いてしまう。別に作物と違って井戸水であれば維持費さえ払えていれば永続的に組み上げる事は出来る。食料を分けてほしいという事であれば渋りもしたけど、水であれば全く問題ない。

 前に聞いたこの国の現状からしてもっと無理難題を言われると思ったのに拍子抜けだ。


「流石に食料を譲ってほしいって事なら難しかったですけどね。水であれば、いくらでもいいですよ。と言うか、それを見越してのこの馬車の量なんですよね」

「いやぁ、ヒナ様には隠し事はできませんね。おっしゃる通りです。お望みの対価があれば出来る限りご用意させていただきます」

「それくらいなら別に対価なんていりませんよ……あ、1つお願いしたいことが出来ました」

「な、なんでしょうか!?」


 私はゴードンさんに羊皮紙を見せつつに要望を告げる。


「私に文字を教えて下さい」


 書かれている内容が全く理解できなかった。会話をできるようにしてくれるなら文字も読めるようにしてくれれば良かったのに……

 快く引き受けてくれたゴードンさんは子供に文字を教える用の粘土板を使って教えてくれた。


 外国語に弱いでおなじみの日本人であるが、口頭では言葉が通じる為に文法や言い回しに関しては理解できる。だから覚えるのは単語くらいですむ。

 えっと……『今日は晴天である』で、今日に当てはまるのがこの単語で、晴天がこの単語。で、は・であるを意味するのがこの部分と。

 1から英語を覚え直ししている気分になるけれど、これくらいならなんとかなりそう。


「流石はヒナ様ですね。物覚えが良い。うちの見習いよりも覚えが速いかもしれません」

「そんな事はないですって。自頭はそこまで良くない方ですよ」

「いえいえそれこそ謙遜ですよ。……ふむ。麦12袋を一袋当たり1200グランで仕入れ、1500グランで7袋売り、残りは1350グランで売り切った。儲けはいくらとなりましたか?」

「え~計算問題ですか? 儲けって売り上げじゃなくて純利益って事で良いんですよね?こっちの計算が10進数なのかも知りませんが、えっと……2850、グラン?」

「正解です。ヒナ様は文字さえ覚えればすぐにでも商人になれるでしょう。なんならフォックス商会に入りますか?」


 ゴードンさんの冗談を軽く流して文字の勉強に戻る。両親の経営云々のやり取りを見ていると、これ以上に面倒くさい事をしているのは分かっているので、商人になるのは遠慮したい。そもそもここから出られないし。


 大体三時間くらいぶっ続けで勉強した所で陽が落ちてきたことに気付く。家のある地下一階と違い、一階には椅子も机も無いので馬車の中で勉強していたから身体がとてもいたい。


「この辺りで休憩しましょうか。一応、ランプと油も持ってきておりますが、お使いになりますか?」

「お願いします。それなら私は晩御飯の用意をしますね。何かリクエストはありますか?」

「で、ではあの瑞々しい野菜をお願いできますか!? お恥ずかしい話、この瑞々しさが癖になってしまいまして」

「分かりました。それならここで待っててくださいね」


 馬車の中にいるように念押ししして、料理台のある地下一階へと降りる。サラダサンドはすぐに出来上がるけど、それだけだと味気ないよね。

 話を聞く限りゴードンさんを始めこの国の人の食事情は極めて劣悪だ。そんな状態であれば栄養状態もさぞ悪かろう。出来るだけ具沢山な料理でも作るか。


 畑から収穫できたニンジンと、リソースからの食材生成でコンソメブロック、ハム、キャベツ、ジャガイモ、ブロッコリーを取り出す。ジャガイモだけは何故かキロ単位でしか取り出せない上に割高だけど、材料に必要だから気にしない。後で自分で使えるしね。

 キャベツはざく切りにして、あとは全部まとめて鍋にぶっこむ。後は火が通るのを待ってポトフの完成だ。私にも出来る簡単料理だからポトフは良く作る。

 ただ、大将の作るポトフとは比べ物にならないんだよね。材料は同じはずなのにどうしてだろう?


 後はキャベツとブロッコリーの残りをサラダにして、塩を振りかけて完成。ドレッシングやマヨネーズでも良いんだけど、大将が前に異世界における料理チートでマヨネーズがどうこう言っていたからやめておく。ドレッシングも同じ理由だ。


 ニンジンはβカロテン__ビタミンA__やカリウムが多く含まれる。βカロテンは造血作用を促進させて血行を良くする他、疲労回復効果がある。また、のどや鼻の粘膜を上部にするから免疫力も上昇させてくれる。カリウムは心臓や筋肉の機能調節をしてくれるし、塩分過剰を改善してくれたりする。

 サラダでお馴染みのキャベツは実は栄養の宝庫だ。身体を作るコラーゲン生成に不可欠なビタミンCの一日の摂取目安をわずか葉っぱ三枚で満たせる上に、胃腸の調子を整えるビタミンU、傷の治癒力を助けるビタミンKと言った栄養がたっぷりだ。

 キャベツと同様ブロッコリーやジャガイモもビタミンCが豊富に含まれているし、ジャガイモに関しては主成分がでんぷんで、エネルギーになる。


 それならハムはどうなのかって? 勿論、ハムの栄養だって馬鹿にしちゃいけない。


 身体を作るタンパク質は勿論の事、夏バテ予防になるビタミンB1、ホルモン生成に必要なナイアシンが豊富に含まれている。ちなみにナイアシンは美肌とかアンチエイジング効果でもあったりする。


 こんな具合にポトフは私程度の女子力でも作れる上に豊富な栄養を摂取できる優れものなわけなのだ。インスタントとは比べ物にならないわけですよ。むしろ今回はゴードンさんの栄養不足を心配してポトフを選んだまである。

 決して私の女子力が低いわけじゃないよ?

 

 お盆に乗せてゴードンさんのいる馬車まで運ぶ。良かった。ゴードンさんはちゃんと大人しく待っていてくれた。



「な、なんて豪勢な料理なんでしょう……。本当にごちそうになっても良いのですか?」

「むしろその為に作ったんですから食べて貰わなければ困ります。私だけじゃ食べきれないから捨てないといけないかも……」

「そ、それはいけません! 分かりました。ごちそうになりましょう」


 遠慮するものだから私が少し処分を匂わすと、すごい形相で食べ始めた。食べ物に困っている人からすると食品ロスなんてもってのほかだよね。せっかく用意したんだから遠慮されても困る。


「う、美味い……この新鮮なサラダサンドだけじゃなく、サラダの葉野菜もシャキシャキと実に瑞々しい。普段の塩塗れの保存食とは比べ物にならぬほどに素材の味を感じ取れる。それにこのスープ。なんと具沢山なのでしょう。それに土臭さを一切感じないという事は、あの井戸水をおつかいなのですね。私だけこんな贅沢をしても良いのでしょうか……?」

「私と縁があったのはゴードンさん。また訪ねて来てくれたのもゴードンさんです。商会の偉い人って事は色々頑張ってるんでしょう? 従業員の為や、商会から物を買う消費者。大きく言えばこの国の為かな? これくらいの役得、受けても罰は当たりませんよ」


 そう言ったらゴードンさんが号泣してしまい焦った。解せぬ。


 



本日の収支


+:141.1

-:64

(内訳

人:4P/1h

馬×5;6P/1h

自然回復:5.1


コンソメブロック:3P

キャベツ:3P

ジャガイモ(1kg):30P

ブロッコリー:2P

ハム:4P

食パン×10:20P

お盆:2P




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