プロローグ
講義中にふと思いついたネタ。
悪ノリしただけだから設定雑です。
「準備はいいな。これより突入を開始する」
「「了解」」
武装で身を固めた男性が3人。覚悟を決めたような表情で洞窟を睨みつける。彼ら三人は国からの要請でダンジョンを調査しに来た冒険者だ。
ダンジョン。それは欲望の巣窟。財と名誉を求める冒険者たちが命を懸けて挑む場所だ。それも、常に命の危険があるのわりには、得られる財はピンからキリまである大博打だ。何なら入った所で百害あって一利なしという意見まである。
かといって放置しておけば大量のモンスターがあふれだすスタンピードの温床となる危険があるため、厄介な場所でもある。そのため、一部例外はあるものの、ダンジョンは基本的に出来る限りコアを壊し駆除することが推奨されている。彼ら三人もそのダンジョンの攻略……の為の事前偵察が目的だ。
ダンジョンは安全マージンをとり長い年月をかけて攻略していくのだが、その中でも新たに生まれたダンジョンと言うのは別次元の危険を有する。なにせ事前情報の一切ない全くの未知の存在だ。偵察隊が生きて戻ってこないこともよくある事なのだ。
その為、偵察隊は切っても問題ない新卒兵か、絶対に戻って来れる熟練かの二極化しがちなのだが、彼らは後者に当てはまる。
「にしてもS級冒険者のクリスの旦那を要請するとは、お国の奴らも力入ってるねぇ」
「マーレイ国の方から圧力かけられて王族ですら極貧生活しているっていうのにな。わざわざ王自ら自腹を切ったって話だ。ま、それだけ事が重大って事さ。何、スープの具がなくなる程度だろ」
「違いねぇ」
「無駄話をしている暇があるならもっと周囲に気を配れ。初見殺しの前例では、中に入った瞬間落とし穴で100を超える偵察隊が全滅、なんてこともある。死にたいのならそれでもいいが」
「へへ。分かってまさぁ」
クリスと言われた青年はS級冒険者であり、冒険者の中では最高峰に位置する人物だ。常に魔物と戦う冒険者の中の最高峰とは、そのまま人類最強の内の一人という事になる。また、クリスに追従する二人もA級冒険者でありその筋では有名な人物だ。今回に関してはクリス自ら志願したという裏事情はあるものの、国が大枚をはたいて彼らを要求する程度には新たなダンジョンと言うのは警戒対象という事である。
事実、雑談をしているように見えて、彼らに隙は一切ない。グリフォンに奇襲をされても返り討ちにする程度の実力はある。この会話もじゃれているだけだろう。
だが、じゃれ合っている間もその視線だけは真剣そのものだ。ダンジョンの初見殺しというのは、警戒をしていても思いもよらないからこその初見殺しであるのだ。高位の冒険者の彼らも決死の覚悟を決めてきている。
「行くぞ。__突入!」
「「おう!」」
何が起きても対処できるように両手を開けて、しかしすぐに剣を取り出せるように構えた三人が一気に突入する。
入口に落とし穴。__無し。
死角からの毒矢。__無し。
天井からの落石。__無し。
モンスターの存在。__無し。
およそ想定されうる初見殺しは存在しない。危険なモンスターがあふれかえっているという訳でもない。しかし、三人の冒険者はダンジョン内の光景に驚愕で目を丸くさせた。ダンジョンの中は___
一面の麦畑だったのだ。
「ど、どういうことだ? ここはダンジョンだろう? 新手の罠か?」
「み、見てみろよ旦那。この麦、相当上物だ。俺の田舎で作ってる麦が家畜の餌に見えるぜ」
「この質の麦にこの実り具合……十数年に一度の豊作ってレベルを越えてるじゃねぇかよ。一体この麦で何人養えるんだ?」
「同感だ。国からの報酬はこの麦に変えて貰おう。これだけあれば村の皆もなんとか冬を越せそうだ___誰だ!」
人の気配を察知したクリスが剣を抜き声を荒げる。その先にいたのは、妙に質の良い様に見える変わった服を着た少女。
少女は真っ青に青ざめ今にも泣きそうな表情で、何の意味があるのか白い旗を必死に振っている。
「こちらに敵意はありません! 全面的に降伏します! 命だけは助けてください!」
全力で白旗を振り、自身の身の潔白を証明する。むしろ清々しいまでに必死な少女の姿に、冒険者たちも戦意や戦闘隊形といったものが頭から抜け落ちてしまっている。これが罠だとしたら高位冒険者全員を引っかけたこの少女は勲章者だろう。
ダンジョンかと思ったら麦畑で、必死に命乞いする人とされる人。なかなか見れない貴重なカオスである。なぜこんなカオスな状況になっているかというと、話は数週間前の理不尽にまでさかのぼることになる。
~~~
「つまりね。缶詰って言うのは一種の革命なのね。そう。食の革命。これによって保存食が一気に発展したし、食料を腐らせて無駄にすることもぐっと減ったのね」
やっと脱線から帰還して講義の内容がでてきたので、缶詰 革命 とだけルーズリーフにメモを取る。今日は食の歴史の筈なのに、ナポレオンは実は背が小さくて落ち着きが無くなる病気を患っていたとか、缶詰はやっぱりサバ缶がおいしいよね、とかずっと脱線していていた気がする。
次のパワポに移ってもう少し詳しい内容を話すのかと言ったところで授業終了の鐘がなる。結局今日も大して進まなかったな。今日の講義で記憶に残っているのはサバ缶おいしそうだけだ。今日の晩御飯は教授の一押しのサバ味噌パスタになりそう。
90分座っていて凝り固まった身体を伸ばしてほぐしているとふくよかに肥えたふくふくボディが視界の中に納まる。
「ひ、姫氏。今日の講義も面白かったんだな」
「だーかーらー。私の名前はヒメじゃなくてヒナだってば“大将”」
「そ、それを言ったらボクの名前も大将じゃなくてノゾムなんだな。フヒッ、こ、このやり取りここまでがテンプレ」
このドモリながら引き笑いをしているのは幼馴染の大将こと山下望。幼馴染と言っても、学区の都合で小中高が一緒だったという腐れ縁だ。元々そんなに仲良くはなかったんだけど、高校時代にいじめられていたこの子をちょっと助けたらなつかれてしまった。今ではなんだかんだで単位を取る為に協力関係にあったりする。
ちなみに大将の理由は体型と口調がドラマの画家さんに似てるから。反対になんで大将が私を姫氏って呼ぶのかは分からないんだよね。悪口じゃないらしいからやめさせてはいないけど。
「面白いと言っても殆どが脱線だったでしょ? サバ味噌パスタはちょっと興味を惹かれたけど。殆ど偉人と料理の話だったし」
「そ、そうでもないんだな。ナポレオンは缶詰の誕生に深くかかわってくる人物だし、魚の缶詰の歴史はとっても古いんだな。缶詰の誕生秘話としては遠征における食料補給が目的で戦争関連が関連していたり、とっても面白いんだな。あ、姫氏知ってるんだな? 食糧事情で言ったら異世界転生でおなじみの中世ヨーロッパの食糧事情は劣悪だったんだな。なにせ固くてぼそぼその黒パンでも庶民の強い味方だったし、水でさえ汚染されていて真水は飲めないと言われているんだな」
「ごめん。大将の話も途中からすっごい脱線してる」
悪い子じゃないんだけど、よく自分の知っている知識を語ってくるのは玉に瑕かな。異世界転生? とかも私詳しくないし、この時の大将は早口だからちょっと聞き取りにくいんだよね。
えっと、この場合大将が言いたいのは……
「つまり、講義としては必要な要素をちゃんと抑えてたって事?」
「そ、そうなんだな。たぶん、脱線に感じたのは教授氏が受講者の興味を少しでも引けるように配慮したせい、だと思うんだな。」
「ふぅん。私としてはお腹がすいたってだけだったけど。あ、大将。今度サバ味噌パスタ作ってよ」
こう見えてと言うか、見た目通りというか、大将は料理がすごく上手だ。よく食べたいものをリクエストすると作って御馳走してくれる。これがまたおいしいのなんの。 最初は大将じゃなくて神って呼ぼうとしたんだけど、土管から復活できないからやめてほしいって断られた。なんで土管の話が出てくるのか分からないけど、たぶんアニメか何かのネタなのだろう。
貰ってばかりだと流石に申し訳ないから材料の代金は押し付けている__じゃないと受け取ってくれない__けど、何故か年に何回かお菓子も作ってきてくれるんだよね。下手をするとお店で売ってるものよりもおいしいから私は役得だけど、負担じゃないんだろうか。
「ま、任せてほしいんだな。きっと姫氏の胃袋を掴んで……ゴホン。舌を満足させて見せるんだな」
「ん。楽しみにしてるね。……で、次の講義は農経だっけ」
「そ、そうなんだな。わ、忘れているかもしれないけど、今日の農業経営論は小テストなんだな」
「あれ!? 今日だっけ!?」
いけない。すっかり忘れていた。確かテストテーマは食料自給における地域風土の格差問題だっけ? あまりにも意味不明すぎて前回の講義寝ちゃってたから全然わからん。
ちなみに講義の内容で分かる通り私は農業系の大学生です。元々親がやっている会社が農業分野にも進出だ!とかいってその先駆けとして私に農業知識を学んでこいと投げ込まれた。どう考えても考えが甘いし外部から詳しい人を招いた方が手っ取り早いけど、高校当時の私の進路も決まってなかったから都合がよかった。実際学んでみると結構楽しいしね。
ん? 大将? 別に農業の家系でもなんでもない普通家庭らしいよ? なんで農業大学に来たのか聞いてみたけど、農業王に俺はなるとかはぐらかされた。
一夜漬けならぬ十分付けで頑張るか……? いやでもあの講義の担当教授厳しいからなぁ……あぁ、いっそのこと大将の言う異世界転生でもできれば現実逃避できるのに。
『だったら逃避しちゃえばいいのに! 』
「へ?」
「は、範囲は分かってるからノートは貸せるんだな。代わりに今週末に映画でも………あ、あれ? 姫氏?」
大将こと山下はしばらくキョロキョロと周りをみるが、早乙女の姿はどこにもなかった。言うタイミングを逃したかと肩を落としながら講義室を後にした。
この後、早乙女の失踪届が出されることになるが、それはまた別の話。
「ででん! 毎度おなじみ転生スロットのコーナーです! 」
「は?」
気が付くと背中に羽のあるバニーガールが司会するステージの上にいた。見知らぬバニーはいるものの、さっきまで一緒にいた大将の姿はどこにも見えない。あるのは、バニーの隣には大きなスロットマシンが設置されていて上にスキルやらステータスやら、大将が良く口にしていたゲームのような項目がびっしり書き込まれている。
観客らしき人達が熱狂していて少し怖い。しかも、恰好が古い歴史の本の挿絵に掛かれているような変な恰好をしているから余計に怖いんだけど。
「あの、ここはどこですか?」
「今回の転生者は華のJD! 早乙女 ヒナちゃんです! 意気込みはどうでしょうか?」
「いや意気込みもなにもここはどこ__」
「なるほどー! どんな当たりを引いても頑張るそーでーす!」
駄目だ。このバニーガール人の話を全く聞く気がない!? そのウサ耳は飾りか! というかホントにここどこなの!?
状況が掴めないままにウサギが私の経歴を話続ける。学歴から最近の趣味までつらつらと喋り続けているのは突っ込んだほうがいいんだろうか?
軽く恐怖を覚えて茫然としていると、バニーが私をスロットマシンの前へと誘導する。
「張り切ってどうぞー!」
「えぇ……こ、これを引けばいいの?」
レバーを引くと一斉にスロットが回転し始めて、流されるがままにスロットのボタンを押していく。
止まった所はペケマークが並ぶ。もしかしなくても、これは良くないよね?
「スカ、スカ、スカ、スカ……残念! スキル無し。ステータスはそのまま。称号も加護もなし! 見事に大外れだぁぁぁぁ!」
「「「HAHAHAHA!」」」
「ひっさしぶりに見たぞ! こんな不遇www」
「ここまで来たら全部しょっぱいので揃えてほしいな!」
「さて、最後の種族のスロットを止めてもらいましょう!」
なんだか物凄く笑われているような気がするけど、仕方がないので最後のボタンもぽちっとなと言った具合に押し込む。
最後に止まったスロットには洞窟のようなイラストが描かれていた。あ、最後だけはペケじゃないんだ。
「おぉっとぉ! これはまた稀によく見る珍カードだ! 種族はダンジョンマスターに決定!」
「マ・ジ・かwww」
「ステ補正無しって事は本体は今と変わらず人間並みだろ? 現代日本人程度とかwww死ねるだろwww」
「いやいや、むしろダンジョン資源で賄えるからなんとか……いや、初期リソースは本人のスペックで変動するから、日本人クラスじゃ最低値? あ、察し」
さっきから笑われているけど、最後の結果がよほどひどかったのかもっと笑いの声が大きくなってきた。ダンジョンマスターって単語は友達の“大将”が時折楽しそうに語っていた気がする。チート主人公がどうのって言ってたけど、こうも笑われると流石にムッとする。
「はぁーい! 皆さんご注目! ダンジョンマスターに当選しましたので、景品のダンマスブックをヒナちゃんに贈呈致しましょう! 詳しい内容はここに書いていますので落ち着いたらゆっくりご覧ください。転生者特別措置法にのっとり最低限その時代、転生先の国の言語を分かるようにして転生していただきまーす!」
はい?
バニーが指を鳴らすといきなり視界が暗転して私は何処かへと落っこちてしまった。
大将はモブです。主人公に好意を抱いていますが、モブです。これ以降出てきません。