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これでも勇者です

 

「はぁよく寝た」


 彼女の最初の発言はこうだった。

 そして未だ眠そうな目を擦りながら


「おはようアズマ。もう起きてるなんて早起きなんだね」


 なんて言うもんだから、俺の額に青筋が浮かぶのも許して欲しいものだ。


「おはようイスト。よく眠れたかい?俺は一睡も出来なかったよ」


 ちょっとした皮肉を込めてそう言ってやった。


「……?寝床が変わったら眠れなくなる人なの?それは良くないよ。どこでも寝られるようにしないとこれからも困ると思うよ」


 ははっ、こいつ全く理解してないや。

 俺が寝られなかった理由。

 いや寝なかった理由がな!!


「いやいやイスト、俺は基本的にはどこでも寝ることができるんだ。でも流石に何もない場所でどっちも無防備に寝てしまうのは危ないだろう?」


 これで察しろ!!そして感謝しやがれ!!

 イストも流石に察したのか、あー、と声を上げた。


「私を守っててくれたんだ!ありがとう!」


 なんて言われても俺は許さないんだからな!!

 まぁ感謝されるのは別にやぶさかではないんだが。


「私、寝てても危険が近付けばすぐ気づくから別に大丈夫だったのに」


 ーーーはい?

 つまりは俺の寝ずの番は無駄だったと言うことでしょうか?


「………先に言っといてくれよ……」


「ごめん、まさかずっと起きてるなんて思わなかったから……」


「あ、うん……ごめん」


 怒るに怒れないじゃないか!!

 なんかむしろ申し訳なくなったわ!!


 ……っと、気が抜けたら急に眠気が……


「少し寝たら?私釣りでもしながら待ってるから」


「……そうするよ」


 俺は横になった。

 昨日からの疲れも合わさり、瞬時に深い眠りへと誘われ……イストの釣った魚が顔にダイレクトアタックを決めるまで寝続けることとなった。


 ◇◆◇◆


「もう、謝ってるんだから機嫌なおしなって」


 イストは釣った魚を焼きながら何度か謝ってきた。


「目覚めのキッスを魚とさせられたこっちの身にもなってみろ。一生のトラウマもんだぞ!」


 俺の大事なファーストキスが異世界の魚だなんて、どんな転生主人公よりも辛い経験をしたのだろうか。


「だから悪かったって。私も別に狙ってしたわけじゃないんだから……そう不慮の事故なんだし」


 確かにそうだ。

 だがしかし!魚とキスさせられた俺からすれば事故でもなんでも関係ないのだ!!

 例え今その相手がイストによって焼かれて俺の胃袋に収まろうとしていてもだ!


 とはいえいつまでも拗ねているわけにはいかないので、切り替えていこう。

 そう俺はこの世界では犯罪者で逃走者の身なのだから。


「イスト、村で獲物の肉を売ろう」


 ファーストキスの相手を食らってひと段落ついたところでそう切り出した。

 イスト曰くこの村にはまだ俺の手配書が出回っていない。

 つまりは2人で普通に旅をしていると言えば村には滞在できるだろう。

 その間に狩りでもしながらその肉を売って金を稼げばいいと俺は考えている。


 イストもそれを察したのか


「まぁそれが一番手取り早くお金が稼げそうね。じゃあ村に入る前に1匹狩りに行きましょうか」


「そうだね。今日は俺もついて行くよ」


 寝たから疲労も少しは抜けた。

 2人で入ればそれなりのは狩れるだろう。

 しかし森の中にはまだカリドの部下たちがいるかもしれない。

 慎重にいかなければ。



 2人で森に入る。

 そんなに深いところに行かなくても獲物自体はいるだろう。

 ほらあそこにブラブル(小型)がいた。

 イストもそれに気づき、近くの木の上に登る。

 つまりは俺にタゲを取れと言うことだ。

 この程度なら何も言わなくても分かる。


 俺は剣を抜き、あえて派手にブラブルに向けて走る。


「豚野郎!こっちに向やがれ!!」


「ぶらぁぁぁぁぁあああ!!!!」


 と、まぁ見事にタゲを取るわけなんだこれが。

 そして俺に向けて突っ込んでくるわけよ。

 さてここで俺が取る行動とは……その場に停止した後、右にそれる。

 以上終わり。


「ぶらぁぁ?」


 勢いよく突っ込んでいるので急には止まれない。

 それすなわち………


「刺殺の矢」


 先端を鋭く尖らせ貫通力を極限にまで上げたイストの矢がブラブルの頭を捉え、瞬時に絶命させる。

 これで終わり。

 あとは体を持ち上げそのまま村に運ぶ。


 ………俺の役割必要か?

 俺だってブラブルくらい倒せるんだぞ?


 しかしイスト曰く、私がやった方が確実性が高いし、無駄に傷つけないからとのことで……

 俺は単なるおとり要因なのだ。


 さて俺のプライドがいつも通り傷つけられたところで早速村に入ろう。

 としたら入口で止められた。

 まぁそりゃそうだ。

 猪を担いだ人間を不審に思わない人はいないだろう。


「女の方はは昨日もきた人間だったな。確か狩人とかなんとか……」


「そうですよ。私たちは2人で旅をしながらいろんなところで狩りをしている旅人兼狩人なんですよ。ところがですね……ちょっと賊に襲われたもので、お金がなくなってしまったものですから、このブラブルを村で買い取ってもらえる人はいないかなと思って来たわけなんですよ」


 イストの説明は完璧だ。

 俺との打ち合わせ通りに説明している。


「なるほど……それは災難だったな。それでブラブルを男が担いでいるというわけだ。それなら村長のところに行くといい。捌きさえすれば良い値で買ってくれるだろう。なにせ今この村は高齢化が進んでな。若い奴らはみんなドスキモスに行ってしまったからな……狩りができるやつってのがいないんだわ。だから肉なんてなかなか食えねぇからな」


 どこの世界でも田舎の過疎化はあるんだと思った。

 しかし俺たちからしてみれば好都合だ。


「村長の家は村の中央部、屋根に風見鶏が立っているところだ。行けばすぐ分かるだろうから行ってみてくれ」


「分かったよ!ありがとう!」


 門番のおじさんに軽く礼を言って俺たちは村長の家へと向かった。

 やはり見慣れない男がブラブルを担いで村を歩くのは不審に見えるのだろう。

 村人達は警戒の目を向けている。


 そしてしばらく歩くと風見鶏を見つけた。

 入口には村長の家と丁寧にも掲げてある。

 なんと親切な仕様なのかと思う。


 イストが扉をノックし、


「ごめんください!」


 と声をかけると、中から老人の声で返事があり、しばらくして玄関が開いた。


 そして玄関から顔を出したおじいさんが俺たちの姿を見るなり、腰を抜かしてひっくり返ってしまった。


 そりゃそうだ。

 玄関開けたら猪を担いだ男が立っていたら誰でも驚くわな。

 そこに気がつかないとは少し反省だ。


「お、お前ら何者じゃ……!」


「あー、驚かせてすみません。私たちは旅人兼狩人なんですけど、お金がなくて困っていて門番さんにこの猪を買い取ってくれるところはないかと聞いたらここを紹介されたので持って来たんですけど……」


「なんじゃ……ワシもついに幻覚が見えるまで年老いてしまったのかとおもったぞ……して、そのブラブルを買い取って欲しいんじゃな?買い取ることは問題ないんじゃが、この村も過疎が進んでおってな……あまり金は払えんがそれでも良いか?」


「私たちは構いません。なんなら捌くところまでやります。懐事情が厳しいのは村をみてなんとなくそうじゃないかとは思ってました」


 若い人手がいないからか、あまり村の整備がされていないように見える。

 道に草が生え、村を囲う柵は壊れ、荒廃した畑もある。

 過疎とは都会に住んでいればなんとも感じないことだが、実際に目の当たりにすると辛い現実に思える。


「そこでなんですが、私たちが捕らえた獲物を安く村に仕入れます。なのでその見返りとして、私たちに少しの間この村に滞在する場所を貸してはいただけないでしょうか?具体的にはブラブル1体で……」


 イストは村長の横にしゃがみ、2人でヒソヒソと話す。

 俺はお金の単位は一切分からないので話には参加できない。


「なんと!!そんな割安で良いのか!?こちらとしても肉が手に入って、労働力も手に入るなら、住む場所くらいいくらでも提供するぞ!!少しの間と言わず、いくらでもこの村に滞在するといい」


 あっさりと承認してくれた。

 イストが提示した条件ってのが相当破格なものであったのだろう。

 腰を抜かしたままの村長の顔が素晴らしい満天の笑みになっているからね。


「交渉成立ね!じゃあ早速このブラブルを捌こうと思うのだけどどこか場所はある?」


「それならうちの裏手の庭を使うといい。それと君たちの滞在場所なんだが、ここから左斜め向にある宿に泊めてもらうといい。ワシが許可したといえば無償で泊めてくれるはずじゃ」


「分かった!ありがとう村長さん!じゃあ早速捌こう」


「ああ、了解」


 村長の家の外を回って裏手に行き、ブラブルを捌いた。

 そして肉を村長に預けて俺たちは宿へと向かった。

 宿の主人は村長の言った通りに言うとすぐに一部屋用意してくれ、俺たちは部屋に入り……すぐに寝てしまった。


 昨日寝づらい場所で寝れていなかったと言うこともあったのだろう。(イストは違うだろうけどな!!)

 次に目を覚ました時には眩しい光が窓から入り込んでいた。

 そう次の日になっていたのだった。



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