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 イストが村から戻ってきた。

 どうやらここはドスキモス王国の片田舎マグニアというらしい。

 村人も少なく手配書も出回ってないようだ。

 森を1つ隔てただけなのにここまで届いていないのは伝達能力自体が低いのかそれともあの国王が無能なのか……


 しばらく潜伏するには問題なさそうなところである。

 しかし潜伏するにしても問題が1つある。

 そう、俺とイストは金を持っていない。


 カリドを倒してから家に戻ることもなく、ここまで駆け抜けてきた。

 持っているものとすればそれぞれの武器と防具、あとはちょっとした救急袋くらいだ。


 村に入ったとしても泊まるところも確保できはしない。

 イスト曰く、小さいが宿自体はあるとのことだが、それでは意味がない。


 とりあえず今日は村の外れにある河原でキャンプを張ることにした。

 とは言っても、キャンプ道具があるわけではないので焚き火だけなのだが。


 食べ物には困らなかった。

 だってイストは狩人の弟子だ。

 森で獲物を狩るのも捌くのも普通にこなす。

 夜の森に入って30分もたたないうちに獲物を狩って帰ってきた。


 疲れ切っていて流石に狩りについていく体力はなかったので俺は河原に残ったが、何もしないわけにはいかないと思って河の浅瀬に入って魚を取ろうとした。

 しかしこれがなかなかうまくいかない。

 結局何も取れずにイストの狩ってきた獲物の肉をもらった。

 ……情けない。

 だが腹が減ってはなんとやら。

 遠慮なくいただくさ!


 飯を食っている間は会話もなく川のせせらぎと焚き火が弾ける音だけが2人の間に響いた。

 これが普通のキャンプならば風情があっていい光景だろう。

 しかし俺は逃走者。

 風情など感じてはいられない。


 そして飯を食い終わった頃にイストが


「……ねぇアズマ、本当の話聞いてもいい?」


 と切り出した。

 ここまでひたすらに逃げてようやく落ち着いて話せる環境になったのだ。

 ともに逃げてくれたイストには話しておかなければならない。


「……俺は魔王を倒すためにこの世界に召喚された異世界人なんだ。他にも30人いる。嘘をついていてすまなかった。そしてカリドが言うようにドスキモス国王から犯罪者として追われている」


 イストはあまり驚いた顔はせず、そうと言って続きを待っていた。

 彼女が知りたいのはその先なのだろう。

 つまりなぜ追われているのかーー


「イストは俺が勇者の能力を持っていると言ったら信じるか?」


「……信じる……とは言い切れないけど、持っていてもおかしくはないと思う。だってアズマの成長速度の異常さには驚かされたもの。あれは流石に何か特別な力がない限りできない芸当だから……何かしらの能力は持っているとは思っていたよ」


「じゃあ……この世界に召喚された31人の中に勇者が2人いたらどう思う?」


「そんなのは有り得ない。どちらかが偽物で紛れ込んだ可能性を考えるかな」


「なぜそう言える?」


「この世界に伝わる有名な言伝えがあるの。『世界に魔王が現れしとき、1人の勇者と29人の仲間を召喚せよ。さすれば世界は救われる』っていうね。この世界の人間なら誰でも知っているくらい。だからそれは有り得ないって言えるの」


 なるほど……言伝えか。

 それで勇者が2人いると分かったとき、あの場にいたこの世界の奴らが動揺したのか。


「アズマは2人の勇者のうちの1人なの?」


「ああ、そうだ。俺ともう1人勇者の能力を持った人間がいたんだ。……で、なぜ俺が追われるようになったのかなんだが、それは俺が召喚に巻き込まれた……違う集団の人間だったからなんだ」


 よくわからないと言った表情でイストは首を傾げた。


「つまり……本来であれば召喚陣が発動した部屋にいた30人だけが召喚されるはずだったんだが、たまたまその部屋に用事があった俺が入り込んで1人余分に転移者が増えたってわけだ。そしてその転移者がなぜか勇者の能力を持っていて、国から犯罪者として追われることになったんだ」


 できる限りわかりやすく言ったつもりだが、果たしてイストは理解してくれただろうか?

 これ以上分かりやすくは俺にはできんぞ……


「……まぁなんとなくは分かったわ」


 イストがそう呟いたので俺はほっと胸を撫で下ろした。


「でも1つだけ分からないことがある」


 なんですと?


「なんでアズマと一緒に召喚された人たちは、誰1人として否定しなかったんだろう。普通ならアズマは自分たちの知り合いだとか言うものじゃないのかな?そうすれば手配書も出回らないんじゃないかな?」


 確かにそうなのだが。

 彼らがそう言ったところで国王は聞き入れないだろう。

 その理由はイストがさっき自分で言っていた。


 言伝え


 それはこの世界の住人たちに強く根付いている。

 勇者は1人。

 2人は有り得ないと。


「多分否定はしてくれているだろう。そう信じたい」


 そうAクラスの29人が否定してくれなくても1人だけは絶対に否定しているはず。

 それだけは確信が持てる。

 あいつだけは俺が本物だと分かるはずだ。


 なぁ新堂……


 それからしばらくの沈黙が続いた。

 イストなりに何か思うところがあったのだろうか。

 少し気に入らないと言っだがその理由はあかさず、横になって寝始めた。


 ただの河原で無防備に両方寝るのはどうかと思ったので俺はイストが起きるまでは寝ずの番をすることにしよう。


 さてさてこれからなんとかして金を稼がなければ……いやそれだけじゃない。

 身を隠す場所の確保も先決だな。


「ステータス」


どうせ変わらないのに何か変化があればと願ってステータス画面を開いた。


「あなたは勇者です」


変わりなく大きく表示された文字。


やはり変化なしかと画面を閉じようとしたとき、その文字の下に小さく文字が浮かんでいることに気がついた。


「運上昇(微)」


たった4文字のしかも本当小さく書かれた文字に俺は引き寄せられた。

これはいったい……いや、なんとなくわかる。

これはアビリティだ。

知らぬ間に取得していたのだ。


逃走を開始してからついていると思う出来事は何度かあった。

その要因はこれなのだろう。

もしかしたらあのステータス画面にはこれからもアビリティが増えるのだろうか。


これはこまめに確認の必要がありそうだ。


ちょっとした高揚感と期待で胸が躍った。

イストが起きたらそのことを話そう。


次の日の朝が来るまでイストは1度も起きることはなかったが…………




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