間話
Aクラス側(新堂目線)の話
「警備兵たちよ。やつを捕らえるのじゃ。勇者を騙る不届き者を捕らえ処刑に処すのじゃ!」
国王がそう叫んだ時、健吾はすでに走り出していた。
私が名前を呼ぶ暇もなく、部屋から出て行った。
「何を逃しているのだ!!城の警備兵を総動員させろ!!なんとしても奴を捕らえるのだ!!奴は処刑される身。生死は問わぬ!早く捕まえるのだ!!」
ーー生死は問わない。
それってつまり健吾は殺されるってこと?
私の大切な幼馴染みがこんなわけのわからないことに巻き込まれて……殺されるの?
そんななってないよ。
「国王様!!どうかどうか健吾を殺さないで!!健吾は……健吾は……!!」
「何を言うか救世主殿!!奴はこの救世主召喚に紛れ込んだ悪魔なのだぞ?さらに勇者の名を騙り、あまつさえわしを騙そうとした。その罪絶対に許せぬ!!奴の首を世界に晒すまでは絶対に許さぬ!!」
「そんな……」
その言葉に私は力なくへたり込んだ。
「仕組まれた転移……2人の勇者……紛れ込む悪魔……実に素晴らしいでござるな!!拙者も東殿確保に力を注ぐでござる!!」
……え?何を言ってるの大田くん?
健吾を捕まえる?そんなことしたら健吾は殺されちゃうよ。
「なんでそんなこと言うの大田くん!!健吾が捕まったら殺されるんだよ!!」
思ったことを口に出して叫んでしまった。
しかしそうしてしまうほど大田くんの言ったことは常軌を逸していた。
「何をおっしゃいますか、新堂殿?」
大田くんは私の言葉を鼻で笑い、
「あくまで本物の東殿を殺すのではありませぬぞ。拙者が確保するのはこの転移に紛れ込んだ東殿の皮を被った悪魔にござる。悪魔を殺すのは勇者サイドの役目にござる!!」
と饒舌に語った。
その言葉にクラスのみんなも、納得といった表情を見せている。
東じゃなくて悪魔なら殺されても仕方がないと。
しかし私は……私には分かる。
そう彼が偽物ではなく本物の東健吾だということが!
話し方、雰囲気、匂いどこをとっても東健吾その人なのだ。
幼馴染みの私だからこそ分かるのだ。
だから健吾を捕まえる訳にも殺される訳にもいかない。
「では皆よ、魔王討伐とあの悪魔を殺す任のためにこれから力をつけてもらう…………」
その後もいろいろ国王が話していたけど、何も覚えていない。
右も左も分からない異世界に放り込まれて、挙句犯罪者となった大切な幼馴染みに対する不安と、それを悪魔呼ばわりして殺せと命令する国王、それに納得するクラスメイトに対する憎しみが私の中で渦巻いていた。
健吾……お願いだから無事でいて……
◇◆◇◆
転移した日の夜。
私たちには1人一室ずつ自室が用意されていた。
とは言っても四畳半の部屋にベッドとクローゼット、そして椅子が1つ用意してあるだけの簡素な部屋だ。
もちろんテレビや化粧台などもない。
風呂トイレは共同。
私は自室に案内され、部屋に入ってすぐにベッドに倒れ込み、蹲って泣いた。
健吾のことが心配で心配で心配で………
そしていつの間にか泣き疲れて寝てしまった。
部屋をノックされた音で目を覚ます。
時間はもう夜だろうか。
あたりは真っ暗だ。
「………だれ?」
夏帆かな?
部屋から出てこない私のことを心配してきてくれたのだろうか?
「……俺、塔矢だけど」
思いもよらない人物の声に私はドキッとした。
なんで佐々木くんが私を訪ねてくるの?
その疑問だけが浮かんできた。
「翼大丈夫?夕飯にも顔を出さなかったから心配だったから訪ねたんだけど……入ってもいい?」
「……私は大丈夫だから」
そう答えた。
今部屋には入ってきて欲しくなかった。
1人にして欲しかったのだ。
しかし佐々木くんは
「大丈夫そうには聞こえないよ……入るね」
そう言ってガチャリと扉が開いた。
入ってこないで!そう言いたかったが言う間もなかった。
部屋に鍵をかけていなかった私の失敗だ。
部屋に入るなり、ベッドでうずくまる私を見て近寄ってくる。
「ここ…座るね」
そう言ってベッドの端に座った。
なんでそこなの?
向かいにある椅子でいいじゃん!
「本当に大丈夫?」
「…………」
私はとりあえず無視をすることにした。
こういう勘違い野郎は何を言っても自分本意な理解をする。
つまり私がここで大丈夫だから出ていってと言っても、心配だからそばにいるよとかなんとかいうのだろう。
だから私は無視をした。
「まさか悪魔が東くんに化けているとは思わなかったね……翼にはショックだよね。幼馴染みに化けられてたなんて」
「…………」
「でもよかったじゃないか、あれが東くん本人じゃなくて。俺も安心したよ。もしあれが本人だったらって思うとゾッとするよ」
何を根拠にそんなことが言えるの?
「……俺もまだ異世界に来たっていう実感は湧かないし不安だけど、でも翼のことは俺が守るよ!!だから安心して!!」
「…………」
「困ったことがあったらなんでも言ってくれよな!力になるからさ」
「…………じゃあさ、国王に健吾を殺さないでって言ってよ」
「え?」
「力になってくれるんでしょ?じゃあ健吾を殺さないでって、助けてあげてって言ってよ!!」
思わず叫んでしまった。
我慢の限界だった。
この男の励ましの言葉が気持ち悪くて気持ち悪くて……
「な、何を言っているんだよ翼……?彼は偽物なんだよ!!」
「何を根拠にそんなことが言えるの?佐々木くんは健吾を見分けることができるの?できないでしょ?できないのに偽物とか勝手に決めつけないで………っ!!」
気づけば私は佐々木くんに抱きしめられていた。
「お、落ち着いてよ翼!大丈夫、大丈夫だから」
背中をさすられる。
嫌悪感しか感じない。
気持ちが悪い。
「俺がそばにいるから、安心して」
彼にとっては優しい言葉をかけているつもりなのだろう。
しかし私にとってはただの気色の悪い男でしかない。
「落ち着いた?」
優しい顔でそんなことを言ってくる。
「離して……」
「え、あ、うん」
私の冷たい声に彼は驚いていた。
おそらく彼の中では私はもう完全に落ちたと思っていたのだろう。
佐々木くんは確かにイケメンで女子からの人気も高い。
他の子ならこれで必ず落ちていただろう。
「……出ていって」
「……えっ?」
「出ていってって言ったの!!」
「……ごめん焦りすぎた。でも本当に困ったことがあったら言ってね。それじゃ」
ようやくベッドから立ち上がり部屋から出ていった。
ストレスが溜まる時間だった。
怒りと憎しみをこんなにも感じたのは生まれて初めての出来事だ。
今は無性にお風呂に入りたい。
全てを洗い流してしまいたかった。
私はベッドから立ち上がり、お風呂に向かった。
体を洗い、湯船に浸かっても考えるのは健吾のこと。
彼は無事だろうか。
捕まったと報告がないことからまだ逃げているのだろう。
お願いだから無事でいて。
私にできることはそれしかなかった。




