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逃走中の戦闘

 

「戦うたって2人でこの人数相手できんのかよ!」

「そうだぜ!諦めて大人しくボコられとけや!」


 俺たちを囲みゲラゲラと笑う。

 ……8人か。


「イスト、半分いける?」


「余裕、なんならもう2人もらってもいいくらいよ」


「それはありがたいけど、半分ずつでいこう。……俺も戦闘経験積みたいし」


 この世界で生きていく中で今自分に最も必要なスキル。

 それはためらいを消し、人を殺すこと。

 元いた世界なら殺人は犯罪で、ごくごく普通の生活を送っていた俺からすれば無縁のことだ。

 だからこそ人を殺すのは躊躇うし、怖い。

 カリドの時のように、憎しみに支配されていれば、なにも思わず殺すことが出来るだろう。

 殺人犯も愉快犯でもない限り、動機があるからこそ人を殺せるのだ。

 じゃあ今はどうだろう。

 たしかに俺を殺そうとする奴らが目の前にいる。

 しかしカリドの時のようにこいつらに憎しみや恨みの感情を抱くことができない。

 つまりそう言った感情なしで人を殺す……いや殺さないといけないのだ。

 だから早く慣れたい。

 これからもあるであろうこう言った機会のために。


「あーん?お前今余裕とか言わなかったか?この人数差見えてないわけじゃないんだろう?」


「えぇ、もちろん見えてるよ。でも有象無象がいくら集まっても結局は有象無象にすぎないのだから」


「……舐められたもんだな!てめぇらこいつらに分からせてやれ!自分たちが今置かれてる立場ってやつをな!!」


「「おおぉ!!」」


 8人が同時に俺達向けて飛びかかる。

 しかし動きは単調でただただ殴りかかる、斬りかかるそれだけなのだ。

 これならブラブルの方が考えて行動していると言わざるを得ないだろう。


「殺すのは嫌だけど命は惜しいんだ。だから……ごめんなさい」


 俺は正面の男の胸に剣を突き刺し、その状態で横に振るった。

 皮膚を貫く感覚、人の肉が千切れる感覚。

 全てがはじめての感覚だ。

 改めて自分が人を殺したということが身に染みる。


 しかし今はそれに囚われるわけにはいかない。

 微妙にできた隙間から脱出し、誰もいないところに着地して男たちの方に向き直る。

 どうやらイストもうまく脱出したみたいだ。

 今度は俺たちが賊を挟み込んだ形になる。


「アズマ!半分は任せるよ!!」


「了解!!」


「なにが半分だ!!運良くよけられたからって調子に乗るな!!」


「運良くか……どうやら俺はこの世界に来てからその運に助けられることが多いみたいだ。逃げる時も、カリドを倒した時も、そして今も!」


「この世界だ?何を言ってやがんだ!」


「こっちの話だから気にしないで。別に君たちが知らなくてもいいことだし、知ったところでもう消える命なんだからどうでもいいでしょ?」


 俺は敵を最大限に煽った。

 理由は簡単残り3人の目をイストの方に向けないため。

 半分は自分が相手をすると言ったからな。


「調子に乗りすぎだなクソガキが!!今お前は俺たちを完全に怒らせた!!殺すだけじゃ済まさねぇ。肉片にして犬の餌にでもしてやるよ!!」


「あれ?俺を肉片にしてもいいのか?肉片にして国王の前に持っていってもそれが俺と証明できなくなるぞ?そんなことも分からないのかな?」


「殺す殺す殺す!!!」


 向かい合う3人はそれぞれ剣を抜き勢いそのままに突撃してきた。

 しかし一人一人速度が違う。

 全く連携の取れていない攻撃だ。

 タイミングが違えば1人ずつ対応することも可能だ。


 まずは1人目。

 細身で小柄ないかにも素早そうな男。

 武器は小型ナイフ。


 自慢の速度を生かして懐に入り込もうと画策したのだろう。

 身をかがめ勢いよく突進してくる。

 しかしただそれだけ。


 動きが見えていればどってことない。

 突進される前に軌道から外れてタイミングを測って剣を振り下ろす。


「がっ!!」


 急には止まらなかったのだろう。

 短い叫びと共にゴトッと何かが落ちる音がした。

 多分それを見たら俺は血の気がひいてしまうので見ない。


 そして再び剣を正面に戻す。

 2人目。

 中肉中背。

 いかにも俺と同じでこれと言った個性がないと言われていそうな男。


「よくもチビを!!」


 剣を上に上げ、いわゆる上段の構えでこちらに向けて走ってくる。

 漫画とかでよく見るけど、実際にあの格好で走ってこられると滑稽な姿に見えてつい笑いが出てしまった。


「うぉぉぉぉ!!」


 上段から振り下ろされる剣を左側に移動して避ける。


「甘いわ!!」


 振り下ろした剣を途中で止め、Vの字を描くように避けた方に剣を振り上げる。


 これは流石に避けられない。

 俺はそれを剣で受ける。


「いまだ!デカ!たたっきれ!!」


「んだもー!!」


 3人目。

 巨漢で動きが遅いがその体に見合った大剣を俺目掛けて振り下ろす。


 剣と剣に挟まれた。

 そこで剣を少し逸らし、受け止める力の方向を変えた。

 そしてしゃがみ込んでバックステップで後ろに下がる。

 するとどうだろう。

 力の方向を変えた男の剣は俺の剣を滑り巨漢の男の剣と思いっきり衝突。粉々に砕け散った。


「んだも!!」


「お、おい!デカ剣を止めーーーーー」


 大剣の間合いに入ってしまった中肉男はそのまま真っ二つに斬られてしまった。

 これも見ないようにしなければ……


 そして最後にバックステップで下がったあと、足に踏ん張りをきかせてデカの心臓目掛けて突撃し……その肉を貫きデカの命を奪った。


 これで半分。

 戦ってみれば案外あっさりとしたものだ。

 この世界に来て3つ奪ってしまった。

 しかし……仕方ない。

 そう言ってしまえば、気が楽になる。

 俺は猟奇的なのかもしれないと思う。

 ……いや、これも勇者の能力の影響なのか?


 あれこれと考えるうち、イストの方も片付いたらしい。


「強くなったねアズマ!4人を相手に無傷で圧倒するなんて。出会った頃からすれば考えられないよ!」


「まぁイストのおかげかな」


 そうでもないよと言いながらでも少し嬉しそうに後ろ頭をかいている。


「……そういえばテリヤは?」


 周囲を見渡してもテリヤの姿はない。


「逃げたみたいね。私たちを捕まえられないと分かった時点で逃走するなんてみっともない……」


「まぁ戦わなくて済んだならそれでいいんだけど……ってイスト、早くここから離れよう」


「そうだった!おそらく追手は後ろからも来てるだろうから急ぎましょう」


 そして俺たちは駆け出した。

 走り続けた疲労、戦闘による疲労。

 鉛のように重い足を必死に前に出して森を駆け抜けた。


 そして………それ以上戦うこともなく森を抜けることに成功した。

 目の前には柵で囲まれただけの小さな村がある。

 疲れ果てた俺はその場に座り込んだが、まだ余裕すら見えるイストは村の様子を見てくると言って、1人で村へと向かった。


 ここまで来るのにおそらく10日くらいたっただろうか。

 俺の異世界での逃亡はまだ続く。



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