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救われて痺れる

 

 体をゆさゆさと揺すられ俺は目を開けた。

 窓から見えるのは夜空。


「おはようアズマ。師匠が帰ってきたよ。挨拶して」


「ん……了解」


 ベットから立ち上がりイストと共に師匠の部屋とやらに向かう。


「師匠入りますよー!」


 おう入れと中から声がする。


 扉を開けると短い白髪。

 顔に目立つ傷がある。

 風格のあるおっさんだ。


「この度は助けていただいてありがとうございました」


「……おう気にするな、困ったときはお互い様だ。……ところでお前さんアズマっていうんだったな?こんな森の奥で倒れているたぁ、何かあったのか?」


 事情はイストから聞いていなかったのだろうか?

 まぁいいや。

 とりあえず俺はイストの時と同じくこの森に迷い込んで疲れて倒れたと説明した。


「……なるほどな。まぁ行く当てがないならしばらくここにいるといい。だがそれ相応には働いてもらうがな」


「はい!ありがとうございます」


「よし、そうと決まれば明日から早速働いてもらおう。俺とイストは狩人だ。森で獲物を狩って街に売りに行く。素人のお前に獲物を取れとは言わないが、荷物運びくらいは頼めるか?」


 荷物運びで食と住が手に入るならいくらでもやる。

 それ以前にここを出ろと言われても、俺に生きてゆく術はない。

 ならば


「任せてください!」


 俺の答えにカリドはニッと笑って答えた。


「じゃあアズマ、倉庫にいきましょう。荷物運びとはいえ武器と防具がなきゃ危ないからね。じゃあ師匠おやすみなさい!」


「ああ、明日も早いから早く寝ろよ」


 一礼してカリドの部屋から退出した。

 狩りなんてしたことがないから少し楽しみだ。

 どんな獣がいるのだろう。


「倉庫はこっちだよ!そこで捕まえた獲物を捌いたりもするから覚えててね」


 俺は先行するイストについて倉庫に向かう。

 逃亡者の次は狩人か。

 なんだか俺異世界してんな。

 暗く沈んでいた俺の心に少しばかりの光がともった。


 ◇◆◇◆


「……アズマ……か」


 お気に入りの葉巻をふかし俺は紙に目を落とす。

 紙に書かれているのは東健吾本人の人相書き。つまりは手配書だ。

 しかも懸賞金は通常の値よりもはるかに高く設定されていた。


「しかしこいつは何をしたんだ……」


 普通、罪人だろうと生捕りが求められるだろう。

 しかしこいつの場合生死を問わないだなんてな。

 まぁいい。捕らえさえすれば俺は億万長者だ。


「さて……どうやって捕まえるか、もしくは殺すかな」


 俺は口に溜まった煙を吐き出し考えを巡らせるために目を閉じた。


 ◇◆◇◆


「ここが倉庫よ。ねぇアズマは武器とか使ったことがあるの?」


「いや全くだな。授業で剣道をしたくらいかな」


 ごく一般人の俺が武器を握ったことなどあるわけがない。

 しかも剣道をしたと言っても防具をつけて面打ちや小手打ちを軽く習ったくらい。

 剣道部のような竹刀捌きはできるとは思わない。


「けんどう?なにそれ?」


 おっとつい元の世界の話をしてしまった。

 この世界に剣道など通じるわけがない。

 俺が異世界人だという尻尾を掴まれるわけにはいかないのである。

 今頃俺の手配書なりが出回っているだろう。

 バレないようにしなければ。


「俺の国特有の訓練だよ。竹で作った剣を使って相手と打ち合うんだ」


「ふーん、竹の剣ってのは珍しいけど、普通に剣の稽古と同じなんだね。そういえば師匠がアズマは東国の人間じゃないかって言ってたけどどうなの?」


 東国といえば東国なのだが……

 ジャパンというわけにはいかないのである。


「いや、俺には出身国ってのがないんだ。両親が旅をしている間に生まれたからね。しかも旅の間で両親を失って1人で生きてきたから」


「……そうなんだ。ごめん、嫌なこと思い出させたね」


 素直に謝られると嘘をついている俺は罪悪感というものに囚われる。

 ここまでよくしてくれる彼女には本当のことを伝えたい気持ちになる。

 しかしそれは絶対にできないこと。

 俺の正体がバレれば誰もが裏切るに違いない。


「いいよ、もう昔のことだから。それよりも剣とか見せてよ。狩りは初めてだから少しワクワクしてるんだ!」


「……ふふ、あなた面白いね。ほとんど剣を使ったこともない人がそんな簡単に狩りなんてできないよ。だからしっかり荷物持ちがんばってね!」


「なにをー、俺だってやってみせるさ!近いうちにな!」


 正体は明かさないが彼女に辛い顔をさせないことはできる。

 ……不思議なことだ。

 元の世界でほとんど女子と話したことがない俺がイストとなら普通に話すことができるなんて。

 ……雰囲気が新堂と似ているからだろうか。

 なんてな。

 まぁ明日から忙しくなりそうだ。


 それから1週間、俺はカリドとイストについて狩りを教わり、そして空いた時間でイストから剣を教わった。

 最初は2人についていく体力もなく獲物を持つ力もなかった。

 何度カリドから荷物持ちすらできないのかこの役立たずが!!と言われたことか……

 イストにも白い目向けられてたしな。

 仕方ないだろう俺は普通の高校生だったんだから!


 しかし3、4日経つにつれそれは自然と身についた。

 2人について行けるようにもなったし、獲物も担げるようになった。

 俺の急成長には2人も驚いていた。


 なぜそんなに急成長できたか?

 おそらくは勇者の能力に関係しているのだろう。

 こういったことからも俺は本当に勇者なのだと思う。

 しかしそれは誰も認めてくれない。

 今この世界にいる勇者は佐々木であり、俺は勇者の名を騙る犯罪者なのだから。


 そして1週間が経った今日、俺は初めて狩りに参加させてもらえることになった。

 剣の腕もイストと渡り合えるほどになった。

 これはあくまで剣の話でイストが弓を使うと近づくことすら困難なんだけどね。

 

 それはさておき今日最初の相手は黒い猪『ブラブル』だ。

 大きな体に肉が詰まっていて、それがまた絶品だ。

 街でもそれなりにいい値で売れるらしい。


 ちなみに剣を扱う俺が敵と対峙し、木の上からカリドとイストが弓で獲物を仕留めるという陣形だ。

 正直俺が一番辛い位置にいると思うんだが、カリド曰く、一番危険なところにいることが成長への近道だとのこと。

 まぁ、つまりは死ぬ気でやれということらしい。


 ぶらぁぁぁぁぁあああ!!!!


 凄まじい鳴き声だ。

 でももうブラブルは怖くない!

 どこからでもかかってきやがれ!!


 後ろ足で地面を蹴り、俺目掛けて勢いよく突っ込んできた。

 その突進を俺は剣で受ける。

 勢いを相殺できるくらいにまでは俺も力をつけた。


「いまだ!カリドさん!イスト!」


 敵の動きを止めて、俺は彼らのトドメを待った。


 カリドの弓は弦音を発しない。

 それ故にいつ矢が飛んでくるか分からないがおそらくすでに矢を放っているだろう。


 ドスッ!


 肩に小さな衝撃が走る。


「えっ……」


 それと同時に体に痺れが走り、その場に倒れ込んだ。

 カリドが狙撃をミスった?

 いやそんな筈がない。

 この1週間カリドが狙撃を失敗したことなど一度もなかった。

 それはつまり……


「悪いなアズマ……いや、東 健吾と言った方がいいか?」


「カ……リドッ!!」


 倒れる俺を見下ろし、ニヤッと笑う男がそこにはいた。


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