拾われて救われる
鳥の鳴き声で目を覚ました。
いつもならばベットの上で二度寝といきたいところではあるが今はそうはいかない。
なにぶん穴の中なのだ。
人が1人入れる程度の穴。
寝転ぶこともできず座った状態でいつの間にか眠りに落ちていたみたいだ。
奇跡的に見つからなかったのは本当に運が良かったと言うしかないだろう。
しかしずっとここに隠れているわけにもいかないだろう。
ここには食料もなければ水もない。
城からどれくらい離れているかも分からないがそうたいして離れていないのはたしかだ。
なにせ森に入ってすぐのところにあった穴だからな。
あまりに近いと最悪巡回の警備兵に見つかる可能性だってある。
だから今は身を隠しながら少しでも遠くへと逃げる必要があるだろう。
森の中にもまだ警備兵はいる可能性はある。
警戒は怠らずに行こう。
「ステータス」
「あなたは勇者です」
その記載に変わりはない。
「は、どこに国から追われるような勇者がいるってんだよ……」
さて、とりあえず進もう。
俺はひとまず穴から顔を出し、周囲を観察する。
穴の周りには人はいない。
しかし
「これは本当に運が良かったと言わざるを得ないな」
穴の周りにはくっきりと複数の足跡がついていた。
おそらくこの周りを何度か往復したのだろう。
もしその1人でも穴の中を覗いていたら……
俺は穴から脱出し、足跡とは真逆の方向に歩みを進めた。
ちなみに格好は制服のブレザーを腰に巻き、カッターの袖はちぎった。
ほんの少しでも制服を改造してバレないようにしたかった。
ただの気休め程度だがしないよりかはいいだろう。
歩き始めてから30分くらいだっただろうか。
森は徐々に深くなる。
しかしそっちの方が身を隠すにはちょうどいいだろう。
しかし森を歩くのは初めての経験だ。
生まれてこの方キャンプなどには行ったことがない。
昨日からの疲労も相まって、足は鉛のように重い。
少しでも前へ、前へ。
逃げろ、逃げるんだ。
すると左の方から水の流れる音がした。
川があるのか?
体を音のする方へと向ける。
そして歩み出す。
数分もしないうちに森が開け、目の前に川が現れた。
川のほとりにしゃがみ込み顔を川につける。
そしてそのままガブガブと水を体の中へと流し込む。
一日ぶりの水分だ。
体に染み渡るという感覚を初めて味わった。
水がこんなにもうまいとは思ったことがない。
俺はしばらくの間水を体の中へと流し込み続けた。
そしてその場に倒れ込む。
あれ……意識が朦朧としてきた。
ここで寝るわけにはいかない。
こんな丸見えの場所で寝てしまえば……………
そこでプツンと俺の意識は途絶えた。
◇◆◇◆
「師匠!今日も大量ですね!」
「あったりまえだろ!!俺を誰だと思ってやがる!」
「さすが元最強の狩人ですね!!」
「誰が元だ!今もだろうが!!」
「あでっ!もう叩かないでくださいよー……って師匠!川のほとりに人が倒れてますよ!」
「こんなところに人が?珍しいこともあるもんだな。……にしてもなんか変な格好してやがるな」
「おーい、おにーさん?生きてますか?って呼吸はしてるっぽいから生きてはいるんだろうけど。師匠どうします?」
「まぁ意識がないなら連れて帰ってやれ。ほっておいてそこで死なれたら俺も胸糞わりーからな」
「分かりました!よっと……じゃあ師匠帰りましょう!!」
「たく、普通に男を抱え上げるたぁなかなか力持ちになったもんだな。しかし黒髪に黄色がかった肌……東国の人間がなんでこんなところで倒れてるのか不思議なもんだな」
◇◆◇◆
パチっパチっ
何かが弾ける音がする。
焼ける匂い……いや香ばしい匂いがする。
腹の虫が鳴きやがる。
それもそうだ。
昨日から何も食ってないんだから。
「飯!!」
「うわぁ!びっくりした!!」
「ってここは……?」
ばっと起き上がると俺はベッドの上だった。
おそらく木で作られた家……ログハウスか?
そして俺の傍に同い年くらいの女の子がいた。
ベージュ色の長くて綺麗な髪。
瞳の色は薄い青色。
外国の女優のような美しい女の子だ。
「ここは私の師匠の家だよ。あなた川のほとりで倒れてたのよ。覚えてないの?」
もちろん覚えている。
しかし不覚にもあんなところで倒れてしまうとは……
気をつけなければならないな。
「あなた名前は?」
「俺か?俺はアズマ。えっと……助けていただいてありがとうございました」
「お礼なら師匠に言いなよ。あなたを助けるって決めたのは師匠だから。それはさておきあなたお腹空いてるんでしょ?ちょうどシチューが出来てるからこれ食べて」
器に注がれたシチューを渡された。
この匂いがまた食欲をそそる。
器を受け取り、そのままかきこむ。
「あっつい!!!」
「当たり前じゃない!!あなた馬鹿じゃないの?」
つい空腹で我を忘れていた。
「ゆっくり食べなよ。別に食べ物は逃げたりしないんだからさ」
木のスプーンでシチューをすくい、少し冷まして口に入れる。
「…うまい……!!」
「当たり前よ。私、料理は得意なんだから」
その後も夢中で1日ぶりの食事を楽しんだ。
その様子をじっと見つめる彼女。
まるで新妻のような視線だ。
少し緊張する。
「……き、君の名前は?」
少し緊張に耐えかねたので未だ聞いていなかった名前を聞く。
「私はイスト。この家の主人カリドのもとに弟子入りしているの。ところであなた、なんであんなところで倒れていたの?この森の奥に来る人間なんてそうそういないのに」
非常にまずい質問だ。
いや、間違いなく誰でも聞く質問ではあるが。
倒れていたところを助けてくれた恩人に嘘はつきたくないが、俺の事情は絶対に話すことができない。
国に追われているなんて言えば、そのまま捕まえられて突き出される可能性だってある。
だったら……
「森に迷い込んでうろうろしているうちに意識を失ったんだ。普段森とか山に入らないから疲れちゃってね……」
ちょっと苦しいかなと思いながらもそう言った。
「ああ、慣れてない人にはこの森は少し厳しいのかもね。それに迷い込んだってなるとかなり歩き回ったんじゃない?だから疲れて倒れちゃったのね」
意外にも納得してくれた。
再び俺の運に感謝。
この世界に来てからというもの運が良すぎると思う。
「まぁ体調が良くなるまではここにいるといいよ。師匠もそれくらいなら許してくれると思うし」
「悪いな助けられてばかりで。お言葉に甘えさせてもらうよ。どの道行くところがないんだ」
「……?まぁいいわ。さ、しっかり食べて休んで早く元気になってね。元気になったら、しっかり働いてもらうから!」
うえぇ……
やっぱりそうか。
でも気を使わなくていいぶんこちらとしてもありがたい。
「じゃあ遠慮なく休ませてもらうわ。シチューごっそさん。うまかった」
「うん。じゃあ師匠が帰ってきたら悪いけど起こすね。師匠目が覚めたのに挨拶なしじゃ怒っちゃうかもしれないから」
「それは怖いな。よろしくお願いします」
軽く返事をして部屋から出て行った。
……まさか森の中で食と住が手に入るとは。
一時的なものとはいえありがたい。
ただやはり安心はできない。
警戒は怠らないでおこう。
そう思いながらも目を閉じると深い眠りへと落ちて行った。




