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オレが母ってなんだそれ!?  作者: 嶌与一
一章:気付いたら、出産!?
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07話:レア度で例えるとRとRの間に生まれた子がURだった。的な?

いやオレ(コーラル)もノーマルの突然変異(前例多分なし)だからある意味URなんだけどね?

 「コーラル、よく頑張ったね」


 「ありがとうございます、オディロンさま」


 記憶を引き継いでいるから、目の前の相手が自分の旦那様(仮)だとすぐに分かった。

 碧がかった薄い水色の瞳を輝かせ、深紅色の髪を若干乱した相手が力強く肩を抱いてくる。割と痛い。

 相手もそうだが、コーラルの髪も青みのある深緑色で、瞳は色鮮やかな紅桃色だ。


 視界を華やかにする色彩を起点にして、続け様に、脳内で専門用語が飛び交いそうな気配がビンビンし始めた。


 あーっ! これ絶対に混乱するやつ!!


 抱いてあげてください、と、口から自然と言葉が出た。

 旦那様(仮)はオレの提案に対して少しだけ目を丸くした後、嬉しそうに応じる。


 という訳で、時間稼ぎに成功である!! ちょっと脱線するが、コーラルの知識を引っ張り起こす作業に入ろう。




 新しいオレの身体はコーラル=ティールというのが正式名称名らしい。平民の出だから姓はない。

 名は瞳の色と髪の色に由来する。珊瑚色(コーラル)鴨の羽色(ティール)


 旦那様(仮)即ちオディロン様は、オディロン=バルカン・フォン・レーヴェという。

 彼の名もまた、色を由来とする。歯玉石(オドントライト)に肖ったオディロン、それに深紅色(バルカン)


 当然だが、髪色や虹彩は遺伝する。混じったり、隔世遺伝で違うものが発現したりもする。


 そして何といっても重要かつ残念な事に、色というものは、親から子へと受け継がれる際に段々と濁っていく。

 これを鈍化といい、穢れた、悪い意味を持つ。


 何故なら、この世界では四大元素(テッセラ・リゾーマタ)が根底にあり、その根源の物質(アルケー)は火、気、水、土の順で貴賎が決まり、鈍化とは土に近づく事を意味するからだ。


 瞳と髪の色は人の手で変える事が出来ない、四大元素(テッセラ・リゾーマタ)の精霊の御技(みわざ)とされている。

 生まれる前の(プシュケー)にどんな精霊がどんな順番で触れるかにより決まる。

 先に触れた方が瞳の色を作り、後に触れた方が髪の色を作る事から、例えば王家は金髪碧眼が多く、それは青い空、つまり気の精霊と、黄色い太陽、つまり火の精霊に愛された印とされた。


 根源の物質(アルケー)を司る精霊達には相性があり、自らを打ち消す作用を持つ精霊を好まない。

 血脈が続くにつれ、先祖代々の魂に触れてきた手垢のようなものが段々と積み重なっていく。

 そうして鈍化が進み続ければ瞳と髪の色は濁りきり、終には精霊のうち分け隔てなき受け皿である土の精しか見向きもしない『色無し』に身分を落としてしまう。


 高貴な者は色を持つ。身分卑しき平民は、濁りきった茶色や濃灰色といった色を持たざる者ばかり。

 四大元素(テッセラ・リゾーマタ)の価値観が絶対だからこそ、『色無し』に生まれてしまえば、例え高貴な家の者であっても、良くて放逐、悪くて死産。


 高貴な家系は同系統の組み合わせ同士で婚姻を結び、鈍化を鈍らせる努力をするが、やはり完全には防げずに段々と精霊の愛を失っていく。

 事態は悪化の一途のみを辿ると思われるが、しかし極稀にではあるが、鈍化の正反対、即ち純化をする者も現れる。

 だからこそ、(あや)かな純化を果たした者は、生まれ持った色を宝石の名で寿ぐ。


 この極稀の事象は連綿と守られてきた高貴な血族だけに限られる、はずであった。卑しい者からは現れない、はずであった。

 レーヴェ地方にある村落も例外なく、コーラルの父も、母も、兄弟姉妹も、村人の誰もが濁った焦げ茶色の髪と目。

 なのに彼女ただ一人だけが妙な色彩を帯びて世に転び落ちた。


 そう。コーラルは。今のこの、オレの身は。

 系譜に貴き血の一滴も混じっていない完全なる『色無し』の家に生まれながら(・・・・・・)生じようのない(・・・・・・・)純化を果たした稀有な異物だ。


 女中としてレーヴェの家に召し上げられるまで彼女は名無しの家庭でほぼ居ない者扱いだったりしたが、その辺りはドロついているから、また後の話にするとして―――


 ―――どうしましょう。

 今世(?)のオレの体(♀)が異常な件について。



 さーて、オレとオディロン様の間に生まれた赤ん坊はどうでしょう。

 うわあー(棒) すげー(白目)

 金色の瞳に淡い紫色の髪だー。



 なんということでしょう。

 今世のオレの可愛い子が空前絶後な件について。



 コーラルの知る限りにおいて斯様に光沢を放つ“色持ち”は見た事がない。

 この子は母親では足元にも及ばぬほど、いっそ空恐ろしいくらいの見事な純化を示している。

 つまり……どういう事だってばよ?


 「これは、もしかすると、咒法を発現できそうだね」


 とオディロン様。

 ウワーオ。今世のオレの可愛い子が摩訶不思議パワー使えるっぽいよスゲー。


 ……ん? 咒法?


 旦那様(仮)の言葉が脳のどこかをカリッと引っ掻く。

 違和感の正体を追うよりも先に、コーラルの過去が奔流となって溢れ出した。


 旦那様(仮)、オディロン様、と、言葉や思考の中で相手に敬称が伴うのは、身分差が理由だ。

 旦那様が(決定)ではなく(仮)である諸事情も、身分差が主にある。


 この旦那様(仮)。

 正式名称は先ほど述べた通り、オディロン=バルカン・フォン・レーヴェ。

 姓持ちな上にフォンを冠する事から導き出される通り、身分が高い。

 国土の凡そ六分の一ほどの領地を代々受け継ぐ貴族様……の、その領地を三分割した、一地方(レーヴェ)における家令の嫡子なのだから。


 高貴な者。色を持つ。或いは、色無し。それに貴族。家令。

 これらの意味はオディロン様と一緒に学んだ。


 コーラル。

 彼女の瞳と髪を見てそう名付けたのは当主様。

 その言葉で、時に笑いながら、時に抱きつきながら、稀に拗ねた声で、彼女を呼んだのは、オディロン様。


 コーラルの記憶の殆どが、オディロン様を起因としている。

 なら、世界の仕組みを学ぶ前は。名を持つ前は。

 この体の持ち主だった彼女は、どうしていたのだろう。

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