05話:前世結構充実してたと思ったけど女日照りだったわー。縁どこー?状態だったわー。
……いやいやいや。
違うんだカーチャン。言い訳させてくれカーチャン。
軍艦とか戦車とかそっち方面はもっとこう、ガチの奴がいたんだって。
ここにフジツボと腐食跡を付けようとか、ここが泥跳ねで錆びるはずだとか、方角と放射角を計算して砲弾の傷跡付けるようなガッチガチのすげー奴がいたんだって。
そいつはオレがジオラマ作ってると知って近付いて来た微妙に怪しい男よ。
奴の出す細かな指示で、認めたくはないがミニチュアの古兵器は見違えるほどそれっぽくなった。なってしまった。
気付けば一緒に飯を食う仲になり、一緒にクリスマスを呪う仲になった。なってしまったのだ。
戦前から戦後にかけての兵器の進化具合に痺れるんだと熱っぽく語るそいつに、そんなに好きなら自衛隊入れば良いのにと言ったらそれは違うらしい。
あくまで外野のファン目線でいる事が超大事なんだってさ。
奴は今、確かグンマーの辺りに住んでるっけ。
横須賀辺りに就職すれば良かったのにと言ったらそれも違うらしい。
目の付け所が違う奴だったよ。
まあ、そんなこんなで、数々のジオラマやウェポン類は地元の歴研同好会に寄贈する運びとなった
嗚呼と嘆いてハンケチを振り、見送るオレの目に涙。
さらば我が青春。
さらば偉大なる科学の力により現代に甦りし我が卓上トレビュシェット。
何処のミニマリストかというような伽藍堂の部屋で過ごす事数日。
愛し子達との別れの切なさに食欲がちょっぴり減退して、綽名が痩せゴリラになりかける。
方々から声をかけられ「すわモテ期か」と踊り上らんばかりに狂喜したのだが、どうやら温厚ゴリマッチョなパリラが痩身に変身したのが心配だからというのが当人らの証言によって判明し、オレの繊細な心を甚く傷つけた。
同時期に同じ学科の健康志向な健全リア充男女達の集団からプロテインやバナナをもらう。
施されたバナナを食っている姿をウェイ系パーリラーイ共にスマホで写られ交友の輪が広がる。
リア充から生暖かく絡まれた事で戦場ジオラマガチ勢(一名)と疎遠になりかけるも、痩せゴリラがパリラに戻ると安堵したリア充達は朗らかに去って行き、二人の孤高の友情は無事復活する。
振り返ればいい思い出だ。
おいしかったなあ有機栽培バナナ。飲み易かったなあチョコ味プロテイン。また食べたいなあ。
因みにジオラマとクラシカル・ウェポン(ミニチュア版)は大学卒業までに再度部屋を圧迫し、一度目を踏まえた最高傑作達は某文化センターと某公民館に飾られている。
それから、就職。あの会社も何だかんだで居心地が良かった。
世界に名立たる製造系大企業の下請け的な会社で、でも完全子会社じゃなかったから、色んな企業から色んな部品を受注生産してたっけ。
一緒に働いてたのは「ついに工場も大卒を取る時代か」なんて大袈裟におどけてくる部長を先頭に!
歓迎会のカラオケで某機動戦士縛りする課長!
豪放磊落な外見のくせに酔うとすぐ寝る主任!
課長に追随して某昭和ライダー縛りする先輩!
女児向けアニメに詳しくならざるを得なかった育メン先輩!
……色々と濃い面々に囲まれてギコギコトントンギャリギャリゴトンな忙しい日々。
生活面を心配した両親に実家へと引き戻されたオレが、モノヅクリに忙殺されて彼女いない暦=年齢を黙々と更新し、アラサーに足を一歩踏み入れた頃。
姉ちゃんは中々の好青年(公家顔の公務員)と出会い、付き合い、そこそこ規模の結婚式を挙げる事になった。
前触れのない報告を、オレは思わず二度聞きした。いや、三回くらい「エッ?」って言った。
母ちゃんは二人の交際を把握していて、父ちゃんも娘が嫁ぐ可能性から目を背けたい程度には察していた。
何とも知らざるはオレばかりという訳であるが、べったりしてない姉弟なんてそんなもんである。
しかもその挨拶はというと、「あたし結婚するからー」と、実にサバサバ系を通り越した何か逆に酷い有様。
言葉の後には「はいコレよろしくー」と祝儀袋をタイミングよく放ってくる余計なオプション付き。いらねえ。
紅白紐で飾られた封筒の裏には二の後ろにゼロが五つ繋がっていて、要するに大企業の下請け企業入社三年目平社員の手取りが吹っ飛んでなお余りある勢いの二十万。つれえ。
勿論めでたい祝いの場に水を注すような非常識さは持ち合わせて居ないオレだよ。
かつ幼少期における姉の暴虐極まる恐怖政治と、思春期後のちょっとした面倒見の良さを知っている我が身は、ハイワカリマシタと勝手に答え指定の枚数分ピン札を用意してピシッと向きを揃えて袋に入れていた。
以前に記述したが、黒ゴリさんと幼馴染の結婚式も近い時期にあった。
ジオラマを没収された哀れな痩せゴリラにバナナをくれた優しき健全リア充男とプロテインをくれた健全リア充女の結婚式も。
こうした思いもよらぬ出費が、大学以来願い続けて止まない一人暮らしを順調に遠退けさせてゆくのである。
入籍と婚儀を済ませた姉はトントン拍子にめでたく懐妊し、すくすく大きくなった腹を抱えて里帰り中の事。
小学生の頃にハマリまくったあの“デリクエ”を製作したゲーム会社から、件のゲームに関する重要な発表があります! と世間の一部を騒がす予告がババンと打ち出された。
予告の直後には早速某大型匿名掲示板に"ソシャゲは嫌だと祈るスレ”が立ち、姉ちゃんは朝な夕なに御祈りレスを捧げていた。
祈りといっても>>1にホグ○ーツの組み分け帽子っぽいAAが鎮座しており、ひたすらソシャゲはいやだ……と打ち込むだけの作業だけど。
スリザ○ンか。ソシャゲ=ス○ザリンなのか。それでいいのか。
里帰り中、姉ちゃんの夫は義理堅く、毎日定時終わりにペコペコしながらウチに来た。
母ちゃんにテーブルに座らされて飯食わされて、風呂まで入らされて。
「晩酌しようよー」「泊まっていきなよー」とダダこねるウザい父ちゃんの誘いをどうにかこうにか断り。
毎度毎度口元を緩ませて姉ちゃんの腹を撫で、ついでに姉ちゃんの頬をムニムニ揉んで、ペコペコしながら帰った。
呆れるような楽しいような記憶に思考が侵食されて、じわじわ死んだ時の事まで脳裏に流れる。
麗かな秋の土曜日。久々の家族日帰り旅行だーと盛り上がる姉ちゃん。ひゃっほーと追随する母ちゃん。
子供用品を取り扱うナントカ本舗的な店で小ちゃなツナギの服を買って、姉ちゃんの調子が良いようだからと、父ちゃんの運転で近場の山へ紅葉狩りに。
ゆっくりと流れる景色の中で青い空に映える色とりどりのカエデにイチョウ、ヤマザクラ。祖父母の受け売りで指差すオレに、家族は関心の声を上げて目を向けた。
窓を開けると涼しい風が充満して、姉ちゃんが目を細めながら、「顔が乾燥しちゃう」と口先を尖らせた。
休憩と昼食を兼ねて麓の蕎麦屋。
そこでオレは。不本意な駐車をキメに来たセダンに撥ねられたんだ。
一話ごとの文字数はこれくらいで問題ないのか
もっと少ない方がいいのか
悩みどころです