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オレが母ってなんだそれ!?  作者: 嶌与一
一章:気付いたら、出産!?
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04話:転生はしたけど女々しく過去を振り返るタイプの天パのゴリラ(パリラ)だから。オレ。

 そんなこんなで? どういう訳か?? 出産中にオレとしての記憶が甦り。

 というかハッと気が付いたら出産中で、むるぶりゅんっと赤子をひり出して意識が遠退いたと思ったらもう翌日でした。


 ……えっ? どういう事?


 子をひり出したって事は女体よ。オレ。

 はあ?


 目が覚めたら、こう、一息つくたびに、オレじゃない何か、過去? が雪崩れ込んでくる。

 この身体の持ち主の人あかんぼ産むの怖かったらしいよ。なんでだろうね。考えたくねえわ。

 そういうのが脳の内部で何も整理つかないまんまゴチャーっとしている。可視化したら積読の山が崩れた汚部屋って感じ?

 目に見える範囲の色んな本の表紙は曲がっててプラモの箱も傷だらけな感じ?

 そしてコバエもプーンいわしてる感じの。


 キャパシティは一人分でギリギリなのに、生まれたてのホヤホヤ赤ちゃんがいて、更にオレの脳内には見知らぬ誰かが混在なうってやつだ。

 古いか。うん。


 いやあ、それにしてもね。鼻からスイカ出すくらいって本当だな。

 比喩ってレベルじゃねえわ。もう二度と絶対にごめんこうむる。

 こうむらせてください。


 「はぁー……どうしよ」


 いやだって、ねえ? 出産って。

 おっぱいあるー! とか、棒と竿がなーい! とかさあ。

 女体化ならではの騒動を起こしたいけど激痛と驚愕と当惑がそれ以上だよ。


 つーか出産もそうだけどさっきだって朝も早よから張った乳めっちゃ絞られたわ。あれすっげーいてーのな。

 なんでも初絞りの乳は毒があるから赤ちゃんにはやれないからだってさ。


 疲労困憊で全部どうでもよくなり始めてきたわ。よくねーけど。


 部屋は暗くてじめじめしてて、何かどことなーく臭くて、ベッドは窮屈で寝心地悪くて。

 前世と今世が入り混じった頭を抱えるオレの胸は、じぶんのだって実感がてんで湧かないボインボインなおっぱいで。

 隣で古ぅい風呂敷みたいな布でグルグルに包まれた赤ん坊はまるでおサルさんみたーい。うわーお。


 もうね、情報過多で肩ズーンなるわ。


 頭ん中の整理整頓無理だわ。

 せめてこの下り一年前にズレ込んでてくんない?


 オレ華奢ー!? 何でー!? とか。

 男が迫ってくるんですけどー!? とか。

 お前がママになるんだよ! いやオレ男なんでマジ勘弁していやああああー とか。

 そういう素敵面白イベント発生したはずじゃん。テンコ盛りできたじゃん。

 ナニ立て込んでんの? 何で一遍にやんの? 個々に消化するもんじゃないの???


 なんてメタ的な視点も考えざるを得んよ?????



 とりあえず……うん。

 赤ちゃん寝てるし、誰もいないし、考えるタイムっぽいからそうしよう。

 なんかよく分かんないガワの記憶もある事だけど、まあそこはちょっと一旦置いとこう。



 オレがオレ自身だった頃を一つずつ手繰る。

 父ちゃん(カマゴリラ)母ちゃん(ナベパーマ)。姉ちゃん。(オレ)



 直近の記憶は、そうだなあ。アラサー社会人だったなあ。

 どうにかこうにか地元の公立大学出て、製造系の子会社的な企業に入って、まあそこそこ充実してたわ。

 実家暮らしで気楽に過ごしてたな。ナイスシングル。


 この調子でもうちょい過去行ってみよう。小学校はさっき思い出したから、そっからだ。

 両親の血が上手いコト発現して、二重まぶたに大きめな目、筋の通った鼻梁と、柔らかい巻き毛のオレは、そりゃあもうモテた。

 天使扱いされたのも一度や二度じゃない。


 が、それも思春期前まで。

 中学二年生から段々と背が伸び、手首や喉が太くなり、頬骨が発達した。

 猫っ毛が多少硬くなった所で縮れ麺や金束子にはならなかった事だけが不幸中の幸いだが、一年後には無事に天パのゴリラ誕生。

 父ちゃんのゴリラ成分大炸裂である。


 中学三年生からずーーーーーっと、綽名は天パのゴリラか、略してパリラ。

 同学校にゴリラがもう一人いたのでオレに“パ”は欠かせなかった。懐かしいわー黒ゴリさん。


 黒ゴリさんには幼馴染の可愛い彼女がいたが、オレにはいなかった。

 やだー! 思い出したくなかった記憶の扉が開いちゃーう!!


 オレを可愛がってくれた幅広い女性層は成長期を迎えると波が引くようにササーッと綺麗に去って行き、残ったのは野郎共だけ。

 あっ、でもゴリラ成分が見えてない奇特なおばちゃん達は居たな。おばちゃんも女性だわ。ごめんねおばちゃん達。


 いやでも、あの差。差ったらないわ。海割ったモーセもビックリに違いないくらいのササッー!(迫真)だったもの。


 お陰さまでね、もう、ものっすっごいグレそうになった。

 同年代の応対の変化や思春期故の不安定さを憤り、暴力で発散するのが近道に思えた。

 しかし、おばちゃん達の視線が今までと変わらず優しかったのと、何より姉ちゃんが怖かったので、オレは周囲の求めに応じて三枚目を演じつつ真面目に高校へ進学した。

 黒ゴリさん(と、その彼女)とは高校が別になったため、類人猿ズは無事解散。


 余談だけど黒ゴリさんと幼馴染の可愛い彼女の結婚式に呼ばれた時、幸せなカップルと非モテなオレの対比に大泣きしすぎて「おホモ達……?」の噂が立ちかけたっけ。

 更に余談だけど二人の赤ちゃんを見せてもらった時、ぷーぷー寝てる赤ちゃんの顔覗こうとしたら、黒ゴリさんに「寄るな、天パが伝染(うつ)る」と威嚇されて最終ゴリラ大決戦が勃発しそうになったっけ。


 高校でもパゴっさんやパリラと呼ばれ、オレのアイデンティティは永遠に“パ”なのかと少しビビった。

 白熱した、運動会! ……は、クラス旗製作と綱引きの最後尾。

 みんなで作った、学園祭! では、文字通り大道具係。

 楽しかった、卒業旅行! に至っては、繁華街でオトナのお店の客引きに遭い、最終日の現地空港で他校の引率と間違われた。

 卒業式でトランペットがパーと音を出すたびに同級生達は静かにざわめいてこちらを盗み見、威風堂々なんか失笑の嵐だった。


 大学じゃあ何故か既にパリラが定着していたので、もう、“パ”を甘んじて受け入れる他ないと悟ったオレだよ。


 大学。そう、大学だ!

 自由に使える金銭と行動力は大人並でありながら子供でいられた最後の時代!!

 ビバ・モラトリアム!!!


 ウチから通えるけど、どうせだから経験してみなさいと両親の用意したアパート(ユニットバス付き1K)に放り出されだな。

 家賃学費以外の生活費をバイト代で賄うだけの完全なる自由(フリーダム)を手にしたオレはだな。

 崇高な高等遊民っぽく振舞い始め、ものの見事にジオラマ道へとドップリ嵌ったのだ!


 え?

 彼女?

 いねっす(笑)

 いたことねっす(笑)

 だって愉快な天パのゴリラだし(笑)


 モラルを守って単位さえ取れればオールオッケーな緩ーい気風。

 通っていた中高や地元の小さな建物とは桁違いにデカい総合図書館。

 食費光熱費を差っ引いたバイト代と余暇という有り余るリソースの殆どをジオラマ(アタナトイ! スパルタ! マムルーク! ユサール!)に注ぎ込んでたら一年と経たずに自宅がクラシカル・ウェポン(ミニチュア版)で一杯になった。




 小さなジオラマに囲まれて幸せに暮らしていた大きなパリラくんのアパートに、ある日、パリラくんのお母さんが様子見しに来ました。

 そして開口一番に、「愛宕わい!」と叫んだのです。


 お母さんは当時メチャクソにハマっていた芸人の「○○わい!」を真似た叫びと共に凄い勢いで室内を漁りました。

 それはもう掘り返しました。

 一頻り荒らして戦車や戦艦がない事を確認すると、「大和魂はどうした!」と舌打ちして、タッパーに詰まった惣菜類を置いて嵐のように帰って行きました。


 パリラくんは、お母さんのいう“やまとだましい”がなんなのか、よくわかりませんでした。

 でも、お母さんの白和えは今日もおいしい、ということは、よくわかりました。

 おしまい。




 ……いや終わらねえけど?!

終わりません

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