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02話:幼少期の記憶=横暴な姉ちゃんとゲームキャラに初恋しちゃうオレ

 「ゲーセン通いに青春時代の全てを費やした(カチャカチャ)」

 「家庭用ゲームという革新的な存在には伏して従う他ない(ピコピコ)」


 コントローラーを両手に握り、恥ずかしげもなく我が子に向かって自分達が如何にゲームを愛してきたかを熱弁する中年の男女。

 そんな両親に育てられた姉とオレが、テレビゲームにドハマリするのは当然の結果ではないだろうか。


 六本木に馬鹿デカいビル群が生え、紙幣が刷新され、J-POPがミリオンヒットに一歩及ばなくなってきた狂乱と細分化の00年代中期。

 身近な所ではソ○ーのゲーム機がポータブルになり、任○堂が上下二画面の折り畳み式携帯ゲーム機を出した頃。

 (「とうちゃんディー○スかってー」「おう、いいぞー」の応酬後、オレンジ色の似た奴を手渡されたオレは、実物ってショボいんだなあと妙に納得しつつ二週間ほど樽落としに興じた。チクショウ。)

 小学校高学年に成長した姉は、あるゲームにドハマりした。


 “終わりを告げるデリータの旅”通称デリクエ。

 システムやらバトル画面やらを某ドラ○エやら某FFから華麗にパクっ、失礼、インスパイヤされた、剣と魔法の王道……から、ちょっとスカしたロールプレイングゲーム。

 補足ではあるが、デリクエにおける、プレイヤー側の使う魔法は“咒法”と呼ばれる。魔や呪や邪といったものは敵側の専売特許という製作側のコダワリポインツである。

 当初の売り上げこそポテンヒットだったものの、そこから長年に亘りごく一部でリメイクを切望される程のカルト的な人気を誇る異色作と語り継がれている。


 パッケージの中央を飾るのは、ゆるふわな感じの金髪に、キュートでロリっとな感じの顔をした、ドレス姿の少女デリータ姫。

 プレイヤーはこの愛らしいお姫さまを筆頭に、剣士と咒法使いを含んだパーティを操って、やたら綺羅綺羅しい所謂中世ヨーロッパ風に彩られたワールドマップの上に立ち列を成して移動する。

 そうして各地に蔓延る悪を倒し、中ボス達が悪事に手を染める要因となった七つの“邪悪の種”を潰し、最終的にはその根源となる邪悪の花を“消去”する――というのがストーリーの粗筋だった。


 説明書によればデリータ姫という名前は消去の女性名詞から付けたらしい。

 いやデリートの女性名詞て。消去する人(デリーター)ちゃうんかーい。

 小学校中学年時点のオレでもさすがにツッコミを禁じえなかったわ。


 何でこんなに詳しいのかと言うと。

 夢中で一周目をプレイし。

 取り損ねたアイテムの収集に二週目を終え。

 イベントの分岐がありそうな箇所を探る為に三周目へと突入していた姉が。

 フィールドマップでの単純作業に飽きてしまったせいだ。


 ストーリー展開は気になるが戦闘ループに飽きた姉と、好きなゲームなら何度やっても全然飽きないオレ。

 そこから導き出されるのは小中学校の姉弟にありがちな無慈悲の強要である。


「レベルあげ たのむ」


「いやオレもやりたいのあるんだけど」


「レベルあげ たのむ」


 そう。“はい”を選ぶまで進まない例のやつ。

 他のゲームでも何度やらかされた事か……。


 お陰でウサギっぽい雑魚敵(ホーンド・ヘア)には火属性の咒法がよく効くとか、鳥っぽい雑魚敵(ハーピー)には風属性の咒法が効きにくいとか、エトセトラ、エトセトラ。

 なんかもう、自力で地道にめっちゃ攻略法確立したけどな。雑魚敵に対してのみな。

 気軽にデリクエ雑魚マスターと呼んでくれ。ごめん。嘘。忘れて。


 前述に対し、はて、と思われるやも知れない。

 いや、回りくどい物言いはやめよう。今の感覚からすればこう考えて当然だろう。攻略サイトやゲーム系wiki、SNSを駆使して効率よく進めればいいのにと。

 しかしそれは中々に御無体な話だ。

 何故ならオレがデリクエをやらされていたのは、前述した通り00年代中頃、小学校中学年の時期である。

 当時における両親は、それくらいの親御さんにまだまだありがちな『小学生なんかにケータイ持たせるのはまだ早いよね』系おとうさんおかあさんだった。

 その頃は某社の開発したiモード文化が百花繚乱の勢いを見せたガラケー全盛期に当たる。

 ケータイで得られる情報には偏りがあって、PC閲覧前提のホームページなんかレイアウトが崩れて文字が縦一列なんて事もザラ。

 今みたいにちょっと気になりゃいつでもスマホでスイっとはいかない、微妙に不便さが残る絶妙な時代なのだ。


 ゲームの攻略に有用なのは本かインターネッツのBBSであり、ケータイ持ってない子供が取れる手段は自動的に本一択となる。

 そして小学生男子の主な移動手段はチャリである。行動範囲は広く思えて実は狭い。

 暮らしていた地方都市の郊外にはチェーン経営書店が一軒だけ。


 この書店の品揃えがまた悪い事。連載中のコミックスや出版直後の小説など各種娯楽書籍がある他は、専門書など皆無。

 極め付けにゲーム雑誌の棚周辺である。“そこ”こそが、背伸びしたい年頃のオレにとって人生最大の鬼門。

 常に小刻みに体を揺らしてデュフってる系おにいさん&おねえさんが常時生息していたのだ。


 想像してみてくれ。

 財布のマジックテープを時折意味もなくバリバリいわしちゃう系男子に立ちはだかる、このとんでもなく(よこしま)な肉壁を。

 怪しいおにいさん&おねえさんは雑誌に顔を突っ込むように俯いて立ち読み中。たまにぷるぷるして小さく吹き出したり悲鳴を上げる。

 しかも隣の人の背中を急に叩いたりする。不規則な動きが恐ろしすぎる。

 ン年後にはオレも彼らの仲間入りを果たすのだが、まあ、それは、脇に追いやって棚にでも上げておこう。


 とりあえず、話を小学校中学年に戻して。

 近所の本屋にある目当てのコーナーには近づけやしない。あるかも分からぬ攻略本を求めて繁華街へ向かうにはチト遠い。

 おこづかい月千円の身分には、他人のゲームの攻略本なんて買ってやるのはバカらしくもある。


 インターネッツに繋がるパソコンは父と母の主寝室。しかもそのパソコンは自作で、OSはペンギンのやつ。

 学校で習うパソコンのOSはウィンド○ズ。

 そう、ウチのは使い勝手が全くもって分からない!


 という訳で、オレは誰からも何の助力も得られぬまま、「ゲームは平日2時間、休日は4時間まで!」の家庭ルールに縛られた空き時間の大半を、デリクエのレベル上げに費やした。


 そういえば。

 あの頃の遊園地というと、世間では夢の国ディ○ニーラ○ドや富○急ハイ○ンドなんかだろうけど、我が家ではジ○イポ○スだった。

 両親はオレと姉に小遣いを与えて施設内に解き放つやアーケードゲームコーナーに入り浸る。

 休みのたびに色んな所へ遊びに連れて行ってくれた一方で、新作ゲームの発売日には夫婦のどちらかが有給使って一日中ゲーム画面と睨めっこしていたものだ。家庭ルールどこいった。

 嗚呼、典型的なチョイダメ両親。


 何の話だっけ。パソコン? 違う、デリクエだ。本筋に戻そう。

 思春期が始まる前かつウンコちんちーん卒業後のオレは、黙々と切々とフィールド画面でレベル上げをさせられていた。

 そしてこのゲームで、産まれて初めての恋をした。



 フリージア=イーリス・フォン・レーヴェ。通称フリージア。

 ブラウン管越しの彼女は淡い紫の髪と黄色の目の(説明書によれば、髪はすみれ色、瞳は雄黄色)整った容姿をしている。

  髪を高い位置で一つに結い上げて、ほんのりオレンジがかった金色の瞳を刺すように光らせてツンと澄ました表情をした、どこか陰のある謎めいた人。

 それはゲームの画質では表現しきれない、繊細な水彩画で描かれたイラストを見れば納得できた。


 彼女はストーリーの途中でパーティーに加入する謎めいた年上のお姉さん的キャラクターで、デリータ姫に比べて同じ咒法を使っても性能が良く、特に風の咒法なんて桁違いだった。


 謎めいて陰があって可愛いと綺麗を両立させてる系カラフルおねえさん。

 そう。小学校中学年男子にドストライクだ。

 オレは彼女に首ったけ。


 姉に指示されたレベル上げではフリージアを最優先させた。

 並み居る雑魚達の中でも、かなりの強敵にあたるナイト属からのみドロップする激レアアイテムの、ステータス上昇(某ドラ○エのたねと非常に良く似た)“~~の巻物”をフリージアに貢いだ。貢ぎまくった。

 仲良しこよしな他のパーティーメンバーから一歩引いていて、プライド高そうなくせに時折ポツンと寂しげなセリフを表示する、強く美しく可愛い咒法剣士(フリージア)を何としてもカンストさせたかったのだ。

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