15話:かつての未来と、今の、フリージア
“終わりを告げるデリータの旅”本編に於いて。
フリージアとデリータ姫が出会ったのはフィアーデの岸辺、深き森の出入り口。
姫様ご一行は、日中に出るはずのない夜の魔獣に襲われた所を間一髪で助けられた。
『危ないわ。何をしてるの、こんなところで』
それが彼女の第一声だった。正しくは文字の進みに合わせたポポポという機械音だが。
眉根を寄せツンとした表情の相手に、驚いた表情をしたデリータ姫が明るく応じる。
『まあ、ありがとう。あなた、つよいのね』
『……ケガはない? ないなら、もう帰りなさい』
『それはダメよ。わたし、ここに用があるの』
デリクエ4章の始まりに、邪悪の種がフィアーデ大陸の深き森の中にある事が示されていた。
真っ直ぐな顔で用があると告げた少女の言葉を、フリージアは黙って聴いている。
『わたし、デリータよ。お父さまはデュシェーヌ王。
王家は、国が乱れたら、平和にするギムがあるの。
ねえ。あなたは、どうしてこんな所に?』
問われたフリージアのバストショット画像が変わる。眉尻を下げて俯いた寂しげな表情。
『……名前は、フリージア。
私も、ここに用があるの。
探しものが、見つかるかもしれなくて』
デリータ姫の画像が、決意を秘めた表情から笑顔に変わる。
『なら、いっしょに行きましょう。
あなたはとってもつよいけど、ずっとひとりじゃ休めないでしょ?』
『……。
そうね。
ええ、いいわ』
了承した彼女は眉尻を下げたままこちらを見て、微笑む。
*フリージアが 仲間に なった!*
テロップが出て、パーティー枠が3人から4人に増える。
デリータ姫、剣士、咒法使い、フリージアの順で深き森に足を踏み入れる。
ローディングが済むと、画面には森フィールドが広がった。
タウンマップ上ではどれだけ操作していても景色の変化はないが、フィールドマップ上ではプレイ時間によって日中と夜間が切り替わる。
画面の左上に凝った装飾の時計のようなものが表示され、右に太陽、左に月が描かれた円盤を針は1時間で一周する。
都合30分で昼と夜の変化がある訳だが、夜タイムはとても厄介だった。
プレイヤーが操るデリータ姫の歩みは遅くなる。
咒法使いが発動する風の咒法は弱くなる。
夜の敵は昼の敵と経験値に差がないくせに攻撃力が高く、しかもやたらと好戦的で、エンカウント率もちょっぴり上がる。
そんな訳でオレはこれまで雑魚狩りの間、日中ギリギリで各大陸に点在する市町村へと入り、ペース配分を間違えて夜になってしまった場合は即座に退魔のハーブを使う。
どこかの町などに一旦入ってさえしまえば時計の針は0時の位置にリセットされるので、そこから継続するも中断するも自分のペースで決められるから楽ではあった。
話は戻るが、フィアーデ大陸。
日の光が届かぬ深き森のフィールドマップにおいて、時計の円盤は右の太陽が隠れ、探索は夜のまま進行した。
当然ながら出てくる敵も攻撃力が高い上にやたらと好戦的。先制攻撃とかしてくる。毒攻撃もある。麻痺攻撃もある。あと1章ボスの色違いとか普通に出てくる。
開発者の鬼。鬼畜の所業。そう呪った小学生時代が懐かしい。
フリージアに助けられながらも夜の戦い方を学び、仲間のうち一番経験値の低かった剣士が5つレベルアップした所で。
突如、地面がぼこぼこと隆起して、妖精族ドヴェルグ種のヴォローが出現する。
レベル上げ担当のオレが本来のプレイヤーを呼びにいく暇もなくボス戦に突入した。
胸に邪悪な種の根を這わせた筋骨隆々な小男ヴォローは、各章のボスとして初めて口を開き、怨嗟を吐く。
『ヒトよ、ヒトよ。呪われし者よ。
我等の剣を奪い 我等の盾を奪い
盗んだ武器で我等を殺す愚かさよ』
セリフが進むにつれてヴォローの胸元から芽が吹き、邪悪の種が宿主を変形させていく。
『ヒトよ、ヒトよ。恨まれし者よ。
他を嫉み 己の欲を満たさんと
同族さえも手にかけ続けた醜さよ』
画面が小刻みに揺れる。テレビのスピーカーから、ごお、ごお、と低い悲鳴に似た轟音が上がる。
『此は 土塊より生ぜし命が 地の底より噴く火塊で
熱し溶かした石塊を 金床で打ちし鉄爪なり。
ヒトよ、ヒトよ。罪人よ
我等の罰を 汝らに 今 下さん』
現れたのは緑の斑模様の毛むくじゃらなヒグマ。
言葉通り金属質に鈍く光る鉤爪は大きく鋭い。
小男から凶大な獣に身を変えたヴォローは防御力が高く、通常攻撃は殆ど遮られ。火咒法は効果がない。
1ターン溜めてからの全体攻撃は痛恨の一撃となり、回復要員と化した咒法使いのMPは枯渇寸前。
平日の夕飯前の居間で、初のボス戦で勝利できないどころか敗北を喫しそうで焦るオレ。
パニック状態大絶賛進行中なオレの背後に何時の間にか立っていた姉から、丸めた新聞で頭を叩かれた。
「ア゛ァ゛~~ね゛え゛ち゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛~~」
「なにやってんの、アンタ」
「負け゛ち゛ゃ゛う゛ぅ゛う゛~~~」
「バカだねー。そいつはさあ……」
………………
…………
……
「ぅぇっ、ぇっ……ふぇ~~~」
オレの記憶と呼応したのかと思わしきタイミングでフリージアが泣き出す。
「ああ、ヨシヨシ。寂しかったね」
声の調子からすると、空腹でもオムツ汚れでもなく、バスケットの寝心地がよろしくないのだろう。
近頃は目でオレや旦那様(仮)を追うし、自己主張も随分とするようになった。
抱き上げてもまだ笑いはしないが、口をちょこんと開けてオレの顔をジーッと見上げてくる。
1日の大半を寝て過ごし、昼夜の区別なく乳を飲み、オムツ取り替えの最中にうんこやおしっこをする。
体を持ち上げたままベッドにそーっと立たせてみると歩こうと足を踏み(そのまま下ろすと勿論ベニャーっとなる)、物音を立てると腕をバッと上げて屁をこいて、背中をなぞると尻を振る。
赤ん坊というものは大変だが面白い。
苦労の中に楽しさと愛らしさがあるから世のお母さんは日々のお世話が出来るのだろうか。
オレなんかもう、「ワタシ、ソダテル」とか啖呵切ったけど1日で良いから自由になってみたい。
フリーダムを得たところで村落内じゃ気晴らしナニソレオイシイノ状態だけどさ。
パリラのガラスのマイハートが砕けちゃうか否かは、フリージアの成長につれ我儘ボンバイエがどれだけ炸裂するかにかかっている。カワイイは前提条件として。
今時点では生まれたてのお猿さんから脱却して可愛さ100%、オレの不安をよそに滞りなく成長中で心労50……60……70%くらい? バ、バカな、まだ上がるだと!?
ちなみに旦那様(仮)は心配してナッシンだ。我が子の平穏無事を確信しっぱなしである。
脳味噌が御花畑通り越してパステルカラーなフワフワのコットンキャンディ空間にゴキゲンで漂ってそうなオディロン様。
其奴はゲーム上に生前の様子などほぼないに等しく、フリージアのセリフからも彼女が父の顔を覚えるより早くに死んだ事が判明している。
辛うじて母の口から父は優しいお方だったと聞かされたくらいで、その母もフリージアが幼少の頃に、純化の子を産みし聖母を“騙った”魔女として処刑された。
そんな未来は全力でお断りつかまつる所存なので、どうにか回避方法がないかと残念なパリラくん状態の頭をひねくり回した結果。
明日からオディロン様の御実家ことレーヴェ邸への里帰り予定を組んだのである!
総合評価100pt超え!
ありがとうございます!
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