13話:女体に転生で夫?がいるって、つまりそういうコトに及びますよね(未遂)
メッチャ痛んだけれど外れてはいなかった顎で、物凄く良い方面に表現すると素材の味が生きてる夕食を咀嚼する。
ぶっちゃけ明らかに旨味やら塩分やらが圧倒的に足りてない。調味料だけの問題ではなくて食材そのものもエグみが強くて土臭い。
汁気不足なせいか全体的に舌触りがボソボソしてる。
さすがは雑穀煮潰し汁とライ麦全粒粉ハードパン。
オレが社会人時代に流行った中世風フィクションなるもので思い浮かぶスカスカのパンに野菜屑の入った薄いスープとかそういうシロモノじゃねえ。
絶対そっちが良かったです(血涙)
白人の唾液量が多い理由が分かった気がする。
知りとうなかった……!
黙々と口に運び続けた食べるものが無くなると、食後の祈り。
「万物に宿る四大元素の精霊よ。今日の糧に感謝します」
「我らを照らし、慈しみ、清め、与え給う全ての恩恵が、我らの善き行いへと繋がりますように」
「私の髪と目に触れた精霊の名のもとに」
飯を食ったら後は寝支度を整える。とはいえ着替えは仕事をしてきたオディロン様だけで、オレはコットなるワンピースを脱いで肌着になれば終了。
毎日のサイクルは、日の出チョイ前の薄暗い内に起きて、日の入り過ぎの暗くなりきった頃に寝る。
健康ゥー。
薄目を開けたフリージアの髪を撫でる。
見えちゃいないが気配で分かる。これが母性本能かーと感動もひとしおってやつ?
オシメを触って確かめる。ズレなし。お漏らしなし。
グズる様子はないが、一応肌着の胸元を寛げておっぱい出しておく。ママこれから寝るから、おなか空いたら自由に吸いなさい。
隣では早くも仰向けで寝息を立てるオディロン様。
腕の中にある小さくて儚い存在の温もりを感じながら目を閉じれば、意識がスウッと遠退いた。
この世界では二相睡眠という方式を採用している。
日没から大体午前二時くらいまでを『第一睡眠』で、二時から一時間ほど起床し、少しばかり活動する。
大抵の人は精霊に祈りを捧げ、他にも勉強に充てる場合や、……その……大人のワ~オ(はあと)な時間に充てる場合もある。
三時から朝までの睡眠が『第二睡眠』となる。
一応の決まり事ではあるが、時間が厳密に決まっている訳ではない。
近所の誰かの諍いや、犬や鳥の騒ぐ声に起こされてしまうのは日常的であり、そういう時に夜間の活動時間を済ませてしまうのもアリだ。
まれに夜中も起きず一晩中寝続ける人もいる。
王族から平民に至るまで時計で管理されてはおらず緩々の睡眠模様で、例外は神官や修道師達くらい。
信仰心を雷に捧げる者は夜間の祈祷が義務付けられている。起床時間も深夜二時~三時固定だ。
しかしいくら厳密な義務とはいえ、やはり一晩寝ていたい人も存在するので、彼らは夜間を抗い難い『闇の魔の誘惑』に耐える苦行に悩まされる。
オディロン様もオレも使命を知覚して打ち震わされた事はないから、寝ていたければ寝ていられる。
ビバゆるゆる。
そういう訳で床に就いたオレは、コーラルの習慣的に目を覚ましてしまった訳である。
旦那様(仮)は妊娠中ずっと夫婦の夜のワ~オ(はあと)を我慢してきたという事情を含め、今の状況を整理してみよう。
フリージアを脇に抱き仰向けになってるコーラル。
コーラルの上に圧し掛からんとするオディロン様。
中身がパリラくんのオレ、超絶ピンチです。
「コーラル、調子は大丈夫かい?」
隣からオレの上に圧し掛からんとする旦那様(仮)の言葉は、調子の前に(オマタの)が付いてそうな質問である。
(オマタの)調子は大丈夫? その真意は性の交を致しても大丈夫かい? というね。ええ。もう。
やだよー、察したくないのに察しちゃうよー。オレだって精神面は健康なアラサーおっさんだもーん。
やだよー、ガワが違うだけで中身同性だよー。男に迫られても無いモノ萎えちゃうしサブイボ立っちゃーう。
だから敢えて素知らぬ態で下腹部を抑えながら顔を少しだけ顰めて見せ、おっぱい飲んでスヤリンコなフリージアを旦那様(仮)の腕に抱かせて労う声音を出して囁く。
「旦那様、今日は我侭を申しました。御免なさい、疲れたでしょう」
「いや、それよりもっと大事な営みができるかどうか」
直球かよ!!!
迫んのやめろよ!!!
フリージア起きちゃうだろ!!!!!
「まだ、少し……」
「少し?」
あっ、オマエそこ聞くんだな?
言うぞ。痛い事言っちゃうぞ?
「……裂けていまして」
下半身をチラッと見下ろしてから告げると、暗闇でもあからさまにオディロン様の顔色が引いた。
そうだよ。アナタサマが今抱っこしてる子ひり出したお陰で現地妻のオマタまだ裂けてんだよ。アナタとイタしたオマタがイタタってやかましいわ。
な? 突っ込んで聞くんじゃなかったろ? 玉ヒュンだろ? こっちは玉ヒュンどころの騒ぎじゃなかったけどな!
痛い事を申し上げたオレは平然としたもので、父親の腕の中で大人しく寝る良い子ちゃんの薄紫色したポワポワの髪を撫でる。
やわらけー。さらさらー。母性ホルモン溢れるー。
「……ハイ、ワカリマシタ」
下半身が意気消沈としたオディロン様はそう答えて、力なく身体を横に潰れさせた。
よっしゃ! 折れた!!!
内心でグッとガッツポーズを決めてベッドの上で正座すると、性の交モードを強制終了させられた青年はやはりベッドの胡坐を掻き、色々と諦めた溜息を吐いた。
項垂れたオディロン様は首の据わっていないフリージアを慣れない手つきでこちらへ渡す。
ヤる事がなければ夜間の活動時間は祈りに使う。
食事の時とは違い、寝室における奉唱は室内の者が全員で、つまり家長のみならず女も口を開けて声を上げる事が求められていた。
オレは瞼の裏にすらすらと浮かぶ、日々を恙無く送れる事への賛美を、膝の上に抱いた我が子にも聞かせる。
感謝します、四大元素の精霊よ
感謝します、私を識る水の御方よ
私は飢える事がありません
私は乏しい事がありません
私を緑の地に住ませ、憩う水辺を下さいました
感謝します、四大元素の精霊よ
感謝します、私を識る水の御方よ
私は災いを恐れません
私は病を恐れません
慈しみ深き御方、あなたが共に在るのですから
感謝します、四大元素の精霊よ
感謝します、私を識る水の御方よ
あなたは無数の雨となり
あなたは私の身を清める
命の日々が続く限り、あなたの膝元に私は居ります
祈りを終えて目を開けると、金色の双眸が真っ直ぐにこちらを見上げていた。
丸い宝石に似たそれに、まるで発光しているかのような錯覚を覚え、どきりと心臓が脈打つ。
前世では生まれたての赤ん坊はツルベかガッツの二択だと聞いた事があるのに、フリージアは恐ろしいほど整った無垢な真顔だ。
「……ムゥフ」
可愛い鼻から息が漏れたと思うと、アカンボの尻を支える手の平に、布越しにデュユユっと柔らかいモノが出てきた質感が伝わった。
じっとり、あったか。
フリージアは溜息から二拍ほど置いて、「ゥ、ゥ、ゥウフフーン」と機嫌の悪い泣き声を上げ始めた。
真面目な顔してうんこかよ!
構えて損したわ!!
ブックマーク、評価、感想ありがとうございます
誤字脱字等は大丈夫でしょうか
次話の更新は25日にさせていただきます