残笑
追記
気が付けばこれが90話になっていました。
なんと驚きか…
中三の秋に初めて早一年半…
時間の流れる速度というのは早い物です。
単純計算で一か月に5話も書いていることになっていました。
はえーすっごい。
一週間に2話有るか無いかくらいの頻度で投稿していたんだなあと考えるとすごく感慨深いものがあります。
ネタバレになりますがもうすぐ終わりが近づいていますので私としてもとても感慨深いものがあります。
もう一つの作品である夢創伝の方はあまり更新こそ出来ませんでしたが同じくらい愛のある作品でそちらももう少しで終わろうかなと企んでたり企んでなかったり…
とにかくリアルの知り合い以外の方からも評価していただいたことと私自身がすごくこの作品に愛を注いでこれたからこそこんなにも長く続いた秘訣なんじゃないかなと思っています。
この小説を読んでくれている全ての方に感謝を込めて、東方竜人郷第90話、ぜひお楽しみください!
長々と失礼しました!
妖忌は夜のロサンゼルスの中、川岸のフェンスに体を預けていた。
その周りには2人の護衛がさりげなく立っている。
「師匠。」
名前を呼ぶ声に、妖忌はゆっくりと振り返った。
「妖夢か。」
そこから英語に切り替えて部下に指示を出す。
"出来れば2人だけで話がしたい。監視できる距離でいいから席を外してくれないか。"
"分かりました。ゆっくりお楽しみください。"
そういうと護衛は近くのカフェテラスに腰を下ろした。
「師匠…その服に合ってないですね。」
「それは自分が一番分かってるつもりだ。」
妖忌は呆れたように目を回した。
妖忌はジャケットとジーンズに身を包んでおり、お世辞にもそれは似合ってるとは言い難かった。
「…変わったな、妖夢。」
「師匠は変わってませんね。」
「おかげで成長することの大切さを改めてあいつには学ばされたわい。」
妖夢は妖忌の隣にまで歩み寄った。
「あなたがいなくなった時、私は漠然とした不安に駆られました。」
「…だろうな。」
「あなたが何か言ってなかったかと考えたとき、私は剣を思い出してそれを実行しました。」
「……。」
妖忌は無言でタバコを取り出して火をつける。
「でも、それは間違っていたんでしょうか?」
「儂は良くも悪くもお前に剣しか教えられなかった。その事実が正解か、不正解かを見出すのはお前だ。」
「帰ってきませんか? 幽々子様も待っていらっしゃいます。」
「…帰れない。儂はここでギャングになったのだからな。」
「どうしてギャングなんかに…」
「長くなる話だ。何か飲み物を片手に話そうじゃないか。」
妖忌が目配せすると護衛の1人が慌てて店の中に駆け込んだ。
「全く、最近の若者は配慮が欠けていかん。日本語で話しているからいい物の盗み聞きとは感心しないな。」
「やっぱり盗聴してたんですね…」
妖夢が苦笑する頃には護衛は既にこちらに向かって走って生きているところだった。
"ココア2つでよろしかったでしょうか?"
護衛の質問には答えずに妖忌はコップを受け取ると顎で戻るよう指示した。
「ほれ、あいつのおごりだ。」
妖忌は1つを手渡した。
「さて、何故ギャングになったかの前に結界をどう抜けたかの方が先か――」
―――
白玉楼を抜け出した儂が一番最初に向かったのは博麗大結界だった。
理由は簡単な話で、自分の腕が外の世界でどれだけ通用するのかが知りたかったからだった。
時を切る要領で結界を切り、外に出た儂は文化の違いをまざまざと思い知ることになったのだ。
外の世界において刀なんてものは既に時代遅れで、鉛玉が高速で飛び交う世界だった。
それでも、そんな世界でも剣の腕が比較的役に立つ場所がこのギャングの世界だった。
最初は小さなギャングの集団に入ることにした。
そこで指示された暗殺命令をただただこなしていった。
だが、そこに私の目標を敵えるような相手はいなかった。
結局そこの集団を滅ぼすと日本に望みがない事を知った。
そして中国を彷徨っている時だった。
モンゴルとの国境付近でクルと出会った。
剣の腕を買われた儂は声を掛けられ、共にアメリカに渡った。
そして、儂の目標とあいつの目標を達成できる土地を模索した結果、このロサンゼルスが最も適していることが判明した。
ギャングの集団が数多く存在し、尚且つ広い土地がある。
儂らは弱小なギャングの集団を次々と呑み込んだ。
そして気が付けばロサンゼルスで5本の指に入るギャング、「Splited Coffin」が出来ていた訳だ。
―――
「ところでクルさんの目標とは…」
「分かりやすい目標だ。住民に迷惑が掛かる事のない暴力の世界を作り上げる、と。」
「それは可能なんでしょうかねぇ…」
「ロングビーチからトーランスまでを本部は占領している。土地的に重要な場所ではないがこれからゆっくりと包囲網を形成し、ロスを占領するつもりだ。」
「えっ? 本部ですか? という事は…」
「各州ごとに最低でも5つの支部がある。そこでじっくりと領土を拡大してロスを呑み込むのが大まかな考えだそうだ。
恐らくその時点で幻想郷の50倍以上の規模の土地を組織は手にすることになる。」
「50倍…すごい規模ですね…」
「外の世界は広い。そのことをあいつは幾度となく教えてくれた。だから儂はその恩を返すためにあやつの目標に協力する。幻想郷に帰れない理由だ。」
「…そうでしたか。」
「こんなのがお前の祖父で失望したか?」
「いいえ、とても素敵だと思います。」
妖夢は微笑みかけた。
「つまらん世辞を…ところで、あいつはお前の恋人か?」
妖忌は何処か寂しそうに訊いた。
「いいえ、私の夫ですよ。」
「そうか…あれがお前の夫なら苦労しそうだな。」
「かもしれませんね。危なっかしい方ですから。」
「お前も儂から見れば危なっかしい孫娘だ。」
「そうですか?」
「あぁ、どこまでも儂の教えを忠実に貫き続けたのだからな。それが間違っているのかなぞ考えもせず、剣のみを振り続けてきた。
それが日常に置き換えたことを考えるとゾッとするわい。」
妖忌はたばこの煙を吐いた。
「儂は幻想郷に戻るには外の世界を知りすぎた。戻ってもいいが馴染めないだろう。だから儂の事は忘れて新婚旅行を楽しんでくればいい。」
「師匠…」
「辛気臭い話は終わりだ。戻ろうか。」
「はい!」
妖夢は笑顔で返した。
歩き始めると妖忌の傍にいた護衛がやってきた。
"妖忌さん、スパイの話で信憑性の高い話が入ってきました。"
"なんだ?"
"最近ちょっかいをかけていたフロックスの奴らが本格的に拠点に攻め込んでくるとの情報です。そこにいるお嬢さんには一時的に別の場所に待機して頂いた方が良いかと。"
"心配はいらん。"
"ですが…"
"あいつも剣士だ。ユイほどではないにしても腕は立つ。"
妖忌はそれ以上有無を言わせずに妖夢に話しかける。
「妖夢、少し手伝ってほしいことがある。」
「何ですか?」
「どうも近所のギャングが攻め込んでくるそうだ。力を貸してほしい。」
「…えぇ、喜んで。スキーバッグが飾りにならなくて済みました。」




