領域
なんかあっさりと書いたかな?
もう少しちゃんとした戦闘文章を書けるようにしないと…
クルは観客席で始まろうとしている試合を見ていた。
「妖夢ちゃん、どちらが勝つと思うかな?」
「…分かりません。ユイさんも師匠も私よりも強いですから。」
「そうだね。もっともな見解だ。かくいう私にも断定はできない。ただ…ユイが勝つんじゃないかな?」
「経験の差ですか?」
「ご名答。それでもあいつは随分と…今年で2975年かな? 少なくともそのくらいブランクがあるからね。」
「2974年眠っていたそうです。」
「…あの牢獄で眠ることが出来たならどれだけ幸せだったことか。多分彼は眠れず、死ねずで耐えてきたんじゃないかな。あそこはそう言うところだ。」
「入ったことが?」
「…依頼されて設計したのは私だ。」
妖夢が息をのむ。
「私は彼が思っている程にいい奴ではない。キトラほどじゃないにしても4桁程度の人間は私の策で殺してきたし、5桁程度の人間を苦しめ続けた。間接的だった分余計質が悪いかもね。」
そう言うとクルは舞台に目を戻した。
「そう言う意味ではあいつが羨ましいよ。殺される側も顔も分からない奴に殺されるよりも顔が分かっている方がまだ救いがあるかもしれない。」
観客席にはちらほらと人が入ってきた。
ゆっくりと戦いは進行していた…
「中々恐ろしい剣術だな。こりゃお前さんにはぴったりな訳だ。」
ユイは防戦一方になっていた。
2刀流から4刀流に切り替えたにも関わらず妖忌はユイの攻撃を全て弾いていた。
更に受け流されていることで剣の持ち替えが効かず、陽は地面に転がっている。
「その程度で随分と思い上がったものだな、ユイ。」
「うん、やっぱり歳を食うと『老害』って奴になるのかねぇ…」
ユイはぼやきながら妖忌に蹴りを放つ。
妖忌はそれを受け流そうとした。
「龍闘術、『幻速』。」
「なッ!?」
妖忌は素早くユイから距離を離した。
加速した蹴りが宙を切る。
その場に小さな竜巻が吹き荒れる。
「無論、剣だけならな。」
ユイはニヤリと笑う。
「…下衆が。」
「勘違いしてるようだから言わせてもらおうか。俺は剣士じゃない。傭兵だ。戦いに使えるものは何でも使うってことをよく覚えておきな。」
ユイは剣を魔法陣の中に放り込んだ。
周りから驚きの声が上がる。
ユイは短剣を取り出すと妖忌に向かって走り出した。
妖忌も警戒したように脇差しを抜刀し、2刀流の構えを取る。
それを気にする様子もなくユイは姿勢を低く構えて妖忌の間合いに入りこんだ。
妖忌の鋭い突きが放たれる。
それを短剣で簡単に弾き上げるとユイは足元に潜り込んで妖忌の足を払った。
側転の要領で地面に手を付くと体を跳ね上げて着地、正面を素早くユイに向ける。
ユイの姿はなかった。
「ッ!」
反射的に左に刀を振るう。
金属同士がぶつかり合う音がして凌ぎの削り合いに入った。
ユイは短剣を逆手に持ち妖忌は刀を正手に持つ。
一見ユイが不利に見えたが先に刃を引いたのは妖忌の方だった。
その隙を逃さずにユイは突きを放つ。
しかし、それを見越した妖忌が脇差で短剣の軌道を逸らす。
刀が首元を刈る直前、寒気を感じた妖忌は軌道を強引に変えると左手に狙いを変える。
ユイは左手を軽く下げると刀を陽で防いだ。
「まさか潜り込んだのはその剣を取る為だったとはな。これも全て計算ずくか?」
「んな訳あるか。戦場で長々と考えられる程俺はお利口な頭を持ってねえよ。」
「まさか本能で…」
「当たり。俺の戦いってのは基本的に自動運行だ。如何にして効率的に素早く殺すかっていうな。」
ユイは陽を妖忌の首元に持っていこうと動かす。
そうはさせじと妖忌も全力で力を掛ける。
一歩間合いを詰めるとユイは妖忌の足を引っ掛けた。
素早く身を捻り刀が振るわれる。
斬撃は軽く顎を引かれただけで空を切った。
地面を滑りながら距離を取ると妖忌は息を整える。
ユイは陽を右手に持ちなおすと短剣を腰にしまう。
次の瞬間、左手には陰が握られていた。
「魂魄 妖忌、お前さんは確かに強い。その体の柔軟性においては俺以上だ。だが、筋力にモノを言わせた相手だとそれは圧倒的に不利に働く。」
散歩道の途中、偶然通り過ぎるように妖忌に歩み寄る。
「こんな至近距離とかな。」
突風があたりを襲う。
妖忌は目を見開いた。
刃の根元がが首すれすれでぴたりと止まる。
妖忌は刀で動かすことすらできなかった。
じっとりとした汗が首筋に流れる。
「まだ続けるか?」
ユイが笑って問いかける。
沈黙が会場を支配する中、剣士は持っていた刀を静かに取り落とした。
わっと会場が歓声に包まれる。
ユイはそれに応えず刀を拾うと妖忌に差し出した。
「俺は戦いで生き延びることを追求し続けた。剣術だけじゃない、体術、武術、魔術、呪術なんかも俺は手を出した。」
茫然とする妖忌にユイは笑いかける。
「その点で剣術を極め続けたってのは俺はすごいことだと思うぜ?」
「…私は、負けたのか。」
「戦いはな。剣だけならお前さんの方が腕は確かだな。」
「いいや、剣をとってもお前は一流だ。全てを一流にこなすのは常人の成せる物ではない。それを知れただけでもいい機会だった。
他人に強制するのではなく自分の庭だけで満足するのも大事なことなのだな。」
妖忌はそう言って少し口角上げると刀を受け取った。
より一層大きな歓声が巻き起こる。
クルは座席に座ったまま、微笑んで拍手を送っていた。




