死逢い
「クル、これが昔の仲間か? 私にはもう一撃も耐えられるとは思えないのだが。」
妖忌が淡々と訊ねる。
「まだ彼は遊んでるだけだからね。多分本気を出したらロスは吹っ飛ぶんじゃないかな。」
クルは笑いながら答える。
取り残されたユイは眼を細めて妖忌を観察していた。
「ふーん…」
ニヤリとユイが笑う。
「なるほど、お前さんのその体だったらあの剣術は確かに向いてるな。」
妖忌はユイに向き直る。
「…何の話だ?」
「俺は竜人のユイ。元準七賢人にして現幻想郷の結界の警備員だ。」
「警備員とはまたおかしな。せめて守り人だろうに。」
「まあそうだな。帰ったら紫さんに教えておこうかな。」
「それで?」
「んで妖夢の元師匠だ。お前さんのやり方だと妖夢が潰れるからな。」
妖忌の剣が輝く。
「あぶねぇな。」
ユイはけらけら笑いながら素手で防ぐ。
「今の俺に死角があると思うなよ? クルに言われてやっと意識切り替えたんだからな。」
「…何故奴の意識を切り替えさせたんだ?」
「そっちの方が面白いからだ。」
クルは笑って答える。
「つまりまたお前の手の中か。」
妖忌はため息を吐いて剣をしまった。
「クル、こやつと手合わせをしたい。」
「その言葉を待っていたとも。ユイ、大丈夫だよな?」
「言われずとも。」
「その減らず口をすぐに泣き口に変えてやる。」
妖忌は鋭い目つきでユイを睨みつける。
「望むところだ。」
「まあ落ち着いて。とりあえず場所を移してから始めようか。」
クルの言葉に2人はひとまず殺意を納めた。
「ところで、私の部下たちも誘って観戦したいけど構わないな?」
「拒否したところでお前はやるだろ。」
ユイが呆れ半分に言うとクルはただ微笑んでスマートフォンを取り出した。
「なんだその表札は?」
「おや、スマートフォンを知らないとは…」
「悪かったな、こちとら3000年程度牢獄生活でおまけに時代遅れな郷にいたんだ。最先端なんてとっくの昔に諦めてるっての。」
「そうだな、ざっくりいえば一瞬のうちに他の仲間と連絡が取れる機械だ。」
「ほお、それはまた随分と時代は進化したもんだな。」
「とはいえ、これでも少し古い機種だがな。通信だけなら別に困らない。」
そんなことを話し合っているとクル達は広い会場にたどり着いた。
「ほう…」
ユイが驚きの声を上げる。
「懐かしいか?」
「随分と。あの訓練場そのままだな。」
極端に浅いすり鉢状の観客席に底に当たる部分は鉄の床で出来ていた。
「違うといえば素材くらいか。」
「昔とは違って人間たちは様々なものを発見し、加工し、利用してきた。これもその一環だ。」
「まさか2000年程度でここまで進化するとは思わなかったがな…ほんとうに、人間ってのはすごいもんだ。」
ユイは何処か寂しそうに闘技場を見渡した。
「さて、感傷に浸ってても始まらないしぼちぼち始めるか? それともお前さんの部下が来るまで待つか?」
「いや、始めてもらって構わない。どうせ長くなる。それまでゆっくりと楽しもうじゃないか。」
クルは適当に座席に座ると妖夢を手招きした。
「ここならいい景色で楽しむことが出来る。君の師匠2人がどんな風に戦うのか見てみようか。」
「え…私は…」
妖夢が戸惑っているとユイが軽く背中を叩いた。
「行ってきなよ、あいつはそこまで悪い奴じゃない。」
ユイの言葉に押されたのか妖夢は決心したようにクルの隣に座った。
「では、始めようか。」
妖忌が刀を手に舞台にあがる。
ユイも2振りの剣を手に妖忌に続いた。
一足一刀の間合いで2人は向き合う。
「お前が妖夢の何なのかは知らん。だが、お前の態度は気に食わんな。ヘラヘラとしたその様は見ていて腹が立つ。」
「そうか。」
妖忌の言葉をユイはさらりと受け流した。
「これは言葉の応酬じゃないだろ。俺達の手に持っているものはなんだ?」
「ふむ。腕に自信があるのか、それともただの愚か者なのか――斬って確かめてやる。」
スッと妖忌が間合いを詰める。
気付けば妖忌の刀はユイの喉元にまで迫っていた。
「もらった。」
「阿保か、そんな攻撃今まで何回受けたと思ってる。」
ユイは体をずらすと右手の太極で刀を絡めとる。
素早く妖忌は刀から手を放すと距離を置く。
ユイはそれを追うようなことはせずに刀を妖忌に投げて返した。
「貸し一だ。お前が舐めてかかったことへのな。」
「……!」
妖忌の目付きが変わる。
鋭く、爛々とした目がユイを視界にとらえる。
「なるほど…ただの小童ではなさそうだ。」
「抜かせ、俺のが年長者だっての…舐めんなよ小童。」
本気になった二人の殺し合いが幕を開けようとしていた。




