再会
ユイは暗闇の中で目を覚ました。
焦げ臭い体に顔をしかめながらも現状を把握する。
「起きろ。生きている筈だ、ユイ。」
正面からハスキーな声が聞こえた。
「まさかそちらからお出迎えされるとは思わなかったぜ…クル。」
黒い服装に身を包みところどころ赤いメッシュが入った緑髪、そして緑の瞳を持った女性がユイを見下ろしていた。
つやのある髪の毛は後ろで軽くまとめられている。
「久しぶりだな、ユイ。お前の相方は別の部屋に監禁している。スタンガンの電圧はお前に打った時だけリミッター解除したから彼女に影響はないだろう。」
「まったく、こんな歓迎は久々に受けたぜ。」
ユイは体を起こす。
「お前の力をテストした。だが…鈍ったようだな。」
「冗談じゃねぇ。あくまで新婚旅行に来たんだ。常時戦闘状態な訳ないだろ。」
「ほう、ハネムーンか。成田離婚しないと良いな。」
クルはそういって笑う。
聞きなれない言葉にユイは首を傾げた。
「やっぱりお前の考えている事は俺には読めないな。」
「当然、伊達に『刹那に万策を練る竜人』と言われてはいない。そしてお前はどうやら最近出たのか?」
「おかげさまで、境界を弄るうさん臭い妖怪に助けられたよ。」
「あぁ、八雲 紫か。私も噂にだけは聞いたことがある。何でも式神を使役する式神を持つとか。」
「ご名答。本当は行った事でもあるんじゃねえのか?」
「生憎、今の私は自由に動けない身でね。」
「お前も監禁されている口か?」
「いや、ギャングのボスだ。」
「…ギャング?」
「かつては準七賢人、今は街を暴力で管理するギャング、『Splitted Coffin』のボスだ。」
その時ユイは初めて扉の後ろに銃を持った男たちがいることに気が付いた。
自分の頭を叩いてユイは意識を切り替える。
「あーあー、やめだやめだ。お前に気づかされたのは癪だがどうやら俺も少々新婚旅行から意識を切り替える必要がありそうだな。」
「それでこそ戦闘狂のお前だ。」
「ほざけ、俺だって戦闘ばかりに目が眩んでた訳じゃねえよ。」
「そうでなければ新婚旅行なんて言わないだろうからな。」
「まったく、何を言ってもお前の手の中か…」
ユイは首と腕を回す。
「動きに支障はないな。それじゃ、俺はこれで。あと妖夢返せ。」
「いや、まだ帰さない。」
ユイの顔が険しくなる。
「何を企んでいる?」
「少し君たちに会ってほしい人がいるんだ。」
「会ってほしい奴?」
「まずは君の奥さんを返してからの方が良いかな。」
クルはパチンと指を鳴らすと扉にいた男の1人がどこかに歩いていった。
1分もしない内に男は妖夢を連れてきた。
妖夢は目を覚ましているがまだ意識が朦朧としている様だった。
「おーい、大丈夫か?」
ユイは妖夢の顔の前で手を叩いて意識を確かめる。
「…ユイさん?」
「お、一応意識はあるみたいだな。」
ユイは胸をなでおろすとクルに向き直った。
「で、あってほしい奴は今どこにいるんだ?」
「そうだな、そこの剣士も目を覚ましたようだし紹介してもいいだろう。」
そういうとクルは扉に声を掛けた。
"彼を連れて来てくれ。"
男は頷くと再び歩き出した。
しばらくの間、部屋に沈黙が訪れる。
"彼をお連れしました。"
"ありがとう。悪いが君たちは部屋を出てってくれないか?"
クルが言うと男たちは黙って頷き、去っていった。
「入ってきてもいいよ。」
男たちが去るとクルは日本語で扉に声を掛けた。
コンクリートの床にはあまり似合わないすり足気味の足音が聞こえる。
やがて開けっ放しだった扉から足音の主が姿を現した。
「えっ…!?」
妖夢が驚きの声を上げる。
「どうやらお前は弱くなったようだな妖夢。刀とは曲がらないものだが。」
鯉口を切る様な音が聞こえる。
「ッ!」
ユイは反射的に腕を竜に変え、妖夢の前にかざす。
次の瞬間、ユイの腕には刃が刺さっていた。
「…なんのつもりだ?」
「それはこちらの台詞だ、竜人。私の弟子の教育を何故妨げる?」
「阿保抜かせ。こんな一方的な暴力が教育であって堪るか。」
「そこまでだ。」
声を掛けたのはクルだった。
何処から持ち出してきたのかパイプ椅子に腰かけて足を組んでいる。
「では紹介させてもらうか。彼の名は魂魄 妖忌。かつては白玉楼の剣士にしてそこにいる魂魄 妖夢の師匠、今は忠実な私の右腕だよ。」
そういってクルはユイににっこりと微笑みかけた。




