外界
夜深く、2人は白玉楼の庭にいた。
外の世界用に誂えられた服を着て背中にはスキーバッグを背負っている。
「2人ともいるわね。」
隙間から紫が出てくる。
「この服少し動きづらいですね。」
「そうか?」
「ユイが普段着てるのは藍に外の世界から調達させたものだからかもしれないわね。」
「だったら俺も新調する必要あったか?」
「そこはノリよ、ノリ。」
「ノリで俺の服を新調させられる藍の身にもなってやれよ…」
「別にいいじゃないの。2人とも準備万端かしら?」
「問題ない。」
「私も同じくです。」
「そう、それはいいわね。それじゃ、楽しんで。」
そういって紫は隙間を開く。
ユイは慣れた様子で足をかけ、妖夢もそのあとに続いた。
「ふふふ…楽しんでらっしゃい。外の世界の最先端、アメリカをね。」
紫は笑うと隙間を閉じた。
隙間の外に出た2人はあんぐりと口を開けた。
「なんだこれ…」
目の前に広がっているのは高層ビルの群れ。
「大きいですね…」
「俺も見たことはあるが下から見るのは初めてだな。」
ユイはぱっと近くの新聞に目をやる。
「どうもここはロサンゼルスって地域らしいな。」
「何で分かったんですか?」
「新聞にロサンゼルス時報って書いてあった。それがどれくらい広いのかは分からないがな。とりあえず地図を手に入れないと話にならん。」
そういって2人は歩き出す。
しばらく歩いていると男がユイにぶつかった。
"あぁ、ごめんなさい。"
そういって男は走り去ろうとする。
「待った。」
走り去ろうとする男の腕をユイは掴んで止めた。
"お前何をした?"
英語でユイが問いかける。
「ユイさん?」
妖夢が心配そうに声を掛けるがユイはそれには取り合わず男の持っていたカバンに手をやる。
"何をする!?"
"確認だよ。"
そういって取り出したのは財布だ。
"これは俺の物だ。お前が…盗んだ。俺の財布を。"
"そんなこと…"
"オーライ。でもこれは俺の財布だ。だが俺にも慈悲はある。行け。"
そういってユイは男の背中を押した。
男は慌てたように走って去っていった。
「全く、ここはあまり治安のいい街ではないらしいな。」
そういってユイはバックパックに財布をしまった。
「ユイさん英語話せるんですか?」
「少しだけな。ハル姐に習ったんだ。」
「いつから?」
「昨日だな。」
「昨日勉強しただけであそこまで話せるんですか!?」
「とはいっても結構押し込んだから簡単な英語しかしゃべれないけどな。」
「普通の人は1日であそこまで話せるようにはなりません。というかそもそも紫さんは今回の行き先を――」
「藍がこっそり教えてくれたぞ。」
「だからって言葉の習得が速すぎませんか?」
「お生憎、竜人種は妖怪だから人間が頭がいいっていえば総じて頭が良くなるもんさ。」
そういってユイは歩き始める。
「さて、妖夢さんや。どこに行きたい?」
「そういわれましてもここの観光地すらも分からない状況ですからなんとも…」
「だよな。やっぱりロサンゼルスの地図を探すしかないか。」
そういうと辺りを見回した。
「しかしまぁなんというか…不思議な世界だな。」
「外の世界ですからね。隔絶された幻想郷とはまた違って来るんでしょうね。」
そういって歩いていた妖夢はふとユイのバックパックに目をやった。
「ユイさん、そこに何かついてますよ?」
「ん?」
ユイは妖夢の手に持っている物を受け取る。
「これは…丁度探していたロサンゼルスの地図だな。それから手紙。ご丁寧にどちらも英語だ。」
ユイはそういうと手紙をポケットに入れて地図を開いた。
「ご丁寧に観光地まで目印つけてある…」
流石のユイも呆れたように呟く。
「…とりあえず適当に歩くか。」
「目的地は?」
「目印の付いているハンティントン・ライブラリーってところに行ってみるか。」
「結局決まってるんですね。」
そういいつつ妖夢も満更ではなさそうな顔を見せる。
「ちなみにそれはどんな観光地ですか?」
「そうだな…どうやら図書館らしいな。とはいっても植物園に美術館と色んなものも集まっているらしいが。」
「そうですか。俄然楽しみになってきましたね! まずは植物園からです!」
「そういえばお前さん庭師だったもんな…」
「何だと思ってたんですか!?」
「剣士とばかり…」
「それは聞き捨てなりませんね?」
「悪かったって…」
そんなことを話し合いながっら2人はロサンゼルスの町を歩き続けるのだった…




