安息
1週間前に投稿したと思ってたら2週間前だったという驚愕の事実
妖夢は「鳳凰の巣」で机に突っ伏していた。
その向かいにはハルヴィアが座っており、紅茶を前に腕を組んでいる。
「じゃあ、あんたはユイと結婚するのかい?」
「その答えの出し方が分からないからこうやって落ち込んでいるんです~」
妖夢にしては珍しく語尾を伸ばしながら反論した。
「相当堪えたんだねぇ…」
ハルヴィアは笑いながら小皿からクッキーを摘まみ上げた。
「少しは真面目に手伝ってください!」
「まあまあ、私なりにも考えているんだよ? でも結論を出すのはあんたじゃないか。」
「それはそうですけど…」
時は少しさかのぼる。
ユイは彼岸に妖夢を呼び出すとそこで剣を交え、挙句の果てにプロポーズをしたのである。
剣を振るった事の疲労感といきなりのプロポーズに妖夢は付いて行けずに保留にしたのである。
「ほれ、コーヒー。」
「ありがとうございます…」
妖夢は砂糖を入れて黒い液体を飲む。
「…苦いです。」
「そりゃあ聞いてるだけで甘々な話を丁度良くするなら普通よりもちょっと苦いくらいのコーヒーの方が良いじゃないか。」
ハルヴィアはからからと笑う。
そういって妖夢の前に座る。
「私はいいと思うけどね~。問題は…アンタのご主人かい?」
「幽々子は…特に何も言うことはないと思うんですが…」
「じゃあどうして躊躇ってるんだい?」
「初めての事だから怖いんですよ。」
スプーンでコーヒーをかき回しながら妖夢は言う。
とその時、レトロなカウベルが来客を知らせた。
「いらっしゃいませ…ってなんだ、創筆かい。」
「なんだって何よ?」
「いや、なにも?」
不服そうな表情の創筆をにやにや笑いながらハルヴィアは返す。
「コーヒー。」
「はいはい。」
ハルヴィアは手慣れた様子でコーヒーポッドからマグカップにコーヒーを注いだ。
創筆はそれを受け取るとカウンターに座る。
「ところで…珍しいお客さんね。」
創筆が一息つくと妖夢を見た。
「まぁ聞いてやんなさいよ。」
「やだよめんどくさい。」
「妖夢ちゃんはねぇ…」
お節介根性を全開にしたハルヴィアは一部始終を創筆に話した。
「へぇ…そんなことが。」
創筆はマグカップに目を落としながらそういった。
「もう少し苦いコーヒーない?」
「はいよ。」
そういってハルヴィアは厨房に入り込むとカウンターの下をごそごそし始めた。
「…で、あんたはどうしたいの?」
創筆が妖夢を見下ろす。
「私は…」
「私の人生観から語らせてもらうならさっさと結婚しなって感じかな。」
「そうですか。」
「相思相愛でしょ?」
「…はい。」
「何が不安なの?」
「…結婚という物を初めて申し込まれたことです。」
創筆はため息を吐くと頭を振った。
「…3回。」
そういって創筆は指を3本立てた。
「4000年くらい生きてきた私が人生で結婚した回数。」
「結婚したことあるんですね。」
妖夢が意外そうな表情をする。
「私だって長いこと生きていれば好きな人が出来る。全員私より先に死んだけど。」
「それは…変なことを訊きましたね。」
「別に私が勝手に語ってるから申し訳なく思う必要はないわよ。
要はそんなに長生きしても片手で数えられるくらいしか私も結婚したことがないってこと。アンタが何歳なのか知らないけどさ。
だから別にいいじゃん。初めての結婚? なら心配に思うよりもまず好きな人から申し込みを受けたことを素直に喜んだ方が良いと思う。」
そういって創筆はハルヴィアを睨んだ。
「お代わりまだ?」
「今淹れてるところだよ。」
「私が話してる間手が止まってたじゃない。」
「そりゃ見た目によらず人生経験豊富なんだなぁと…」
「店主に向けてない話を聞くのは喫茶店の店主としてどうなのかしらねぇ?」
「そりゃ別にいいじゃないか。面白そうだったし。」
「面白くないわよ。」
「はいさっきより苦いコーヒー。」
「それ今じゃないでしょ。」
「まあまあ。」
そんな話をしていると笑い声が聞こえてきた。
「ふふふっ…あはははっ! ごめんなさい。少し気が晴れた気がします。」
妖夢が楽しそうに笑っていた。
「まあ、なにはともあれ私は賛成だよ。全面的にね。だから、あとは妖夢ちゃん次第。」
「…好きにすればいいんじゃない。」
ハルヴィアは微笑みながら、創筆は不愛想な表情で答える。
「えぇ、そうさせてもらいます。」
そういって妖夢は席を立った。
「お会計お願いします。」
「創筆のおごりだから気にしなさんな。」
「なんでよ!?」
創筆が目を向く。
「そうですね。そうさせてもらいます。」
「ちょっと!?止めてよ! 頼むから!」
「毎度あり~」
「ほざけこのボケ鳳凰がぁー!」
扉を開けた妖夢の後ろで凄まじい怒号が飛び出していた…




