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初めて竜人郷で英語のタイトルを付けた気がする1話。
包み隠さず言えばあれですがただの後片付けです。
「あーあ、失敗しちゃったわ。まあいいや、まだ始まったばかり。まだ策はある。」
妖怪の山のとある滝の裏で少女の姿をした烏天狗は紙に文字を書き込みながら頭を掻いていた。
「必ずやこの幻想郷をあなた様の手に納められるようにいたします――キトラ様。」
少女はそういってうっすらと邪悪な笑みを浮かべた。
その手には先ほどまで広げられていた紙を手に持っていた。
「――へぇ。残党は全員殺したつもりだったけどもまさか幻想郷内であいつの信奉者がいるとは想定外だったな。」
少女の後ろから声が聞こえてきた。
「――ッ!?」
「よう、この様子だとあんたがあの異変の黒幕っつーか元凶っぽいな。」
素早く声の主から距離を置くと振り向く。
そこにはせせら笑うような表情を浮かべたユイが佇んでいた。
一切の武装をせずにユイは飄々とパーカーのポケットに手を突っ込んでいる。
(こいつは――竜人のユイ! 殺さなくてはあの方の為に!)
「まったく、困ったもんだぜ。あの紫さんが式神だけじゃ物足りず俺やハル姐の付喪神共まで狩りださせて捜索させたんだからな。」
ユイは少女の警戒など意に介していないかのように語り続ける。
「それに烏天狗って奴はどれも似たような面してるもんだからな。お前さんを探し出すのには随分骨が折れたぜ。」
「――どうやって私が干渉したと。」
「あぁ、それに関しては妖怪の同志に少々お話を聞いてな。地底に見慣れない奴らがいるって話を聞いたもんだから降りてみたらちょいと変わった奴がいたもんだからな。
そいつらと協力したって訳だ。」
そういってユイは懐から紅葉の葉を象った団扇を取り出す。
団扇は葉脈のところで真っ二つに分かれていた。
「これ、どうも個体ごとに団扇が違うらしいな。んで丁度そこに居たいかにもな人間どもを締め上げてみるとこんなものも出てきた。」
そういって今度は魔法陣の中からユイはあるものを取り出した。
魔法陣から出現したのは幻想郷には本来ある筈の無いものだった。
AK-47。
その普及率は世界に及んでいるが原産国はロシア、否ソビエト社会主義共和国連邦だ。
「そこからは話は簡単だ。こいつを誰が注文したのかを問い詰めてみたところ業者はこの団扇を取り出したって訳だ。」
中々、遠回りだろ?、そういってユイは不敵に笑った。
「キトラは死んだしソビエト連邦とかいうのも滅んだ。お前はこれ以上滅んだものに何の価値を見出すんだ?」
「黙れッ!」
ユイの問いかけに少女は叫ぶと半分になった団扇を取り出して一振りした。
洞窟内に風が吹き荒れる。
「キトラ様は死んではいない! 我々はあの方の再臨を求めている! あの方は決して――貴様の様なクズになぞにやられることはないッ!!」
「あっそ。」
少女の叫びをユイはバッサリと切り捨てた。
「俺もてめぇみてーな雑魚にやられるような奴じゃねえよ。」
そういうが否やユイは姿を消した。
(消えた!?)
「後ろだ間抜け。」
瞬間、少女は背中に衝撃を感じた。
「龍闘術、『心無』」
少女の口から尋常でない血が零れる。
「キトラ様――」
ユイは心臓部に撃ち込んだ掌底を外した。
支えを失った少女の体は力なく崩れ落ちる。
「ったく…あまりいい気分とは言えないな。そうは思わんかい、隙間の紫さんよ?」
「あら、幻想郷に仕えるならこんなことは日常茶飯事よ?」
「俺は幻想郷に仕えてはいない。あんたに雇われているだけだ。」
隙間から上半身だけを出した紫はふわふわと漂う。
ユイはつまらなそうな表情で少女の体を足でひっくり返した。
「こいつでいいか?」
「えぇ。これで違ったら他の裏切り者がいるってことでもう少し調査をする必要があったから助かったわ。」
「俺はこれで撤退するぞ。妖夢にもいろいろ事情を説明しないといけないからな。」
「フランを抱きしめたこと?」
紫はにやにやと笑いながら訊ねる。
ユイはそれには応じず黙って少女の顔を眺めていた。
「――あぁ、チャオシャオニャンか。」
ユイは思い出したように呟く。
その顔は何かを堪えているような表情をしていた。
「チャオシャオニャン?」
「集落があったころからのキトラの愛人だ。」
「あら、それはお熱いこと。」
「阿保か、日本語に直せば鳥の小娘だ。中国語で小娘は売春婦。まあ、色んな訳し方があるがな。」
――要はキトラへの愛を利用されたただの奴隷だよ。
そういうとユイは外に向けて歩き出した。
(俺やバルトみたいに竜人の中にも生き残ってる奴がいるってことか…
キトラみたいな野心持ちはあまりいなかった覚えがあるから大丈夫だと思いたいが…)
考え込みながらユイは洞窟の外に出ると白玉楼を目指して飛び始めた。




