紅い華
ユイは笑いながら妖怪たちを蹴散らしていた。
「そんなもんかぁ! もっと来いやぁ!」
げらげらと狂ったように笑いながら心の底から楽しんでいるように目を光らせてユイは鋭い剣を振るう。
鎌やつるはしを持った妖怪たちが一振りごとに切断されていく。
斬! 斬! 斬!
まるで戦う為だけに生まれた存在の様に自由自在に剣を振るい次々と相手を屠る。
追走する妖夢は静かにユイからもらった「鈴音辰々 心流」を両手に添えユイが零した敵を斬り捨てる。
そこに無駄な動きはなく水を薙ぐようにゆったりと、しかし確実に相手の四肢を分断する。
その様子を上空から見下ろしてた魔理沙はポツリと呟いた。
「やっぱりあいつらお似合いじゃないか?」
「なに言ってるのよ。既にできてるんじゃないの?」
「それもそうだったな。それでも改めてお似合いだよ。辻斬りに、殺戮者だぜ?」
「確かにそれ以上お似合いな2人もいないかもしれないわね。」
霊夢は空からくる妖怪を弾幕で遠ざけながら地上を見下ろす。
魔理沙もゆっくりと飛んでくる弾幕を舞うようにと避けながら同じように顔を下に向ける。
眼下ではユイが紅い華を咲かせていた。
ユイは瞬時に10体ほどの妖怪を捌いているがそれでも体力が少なくなってくると斬り残しも目立ってきた。
今では2振りで6,7体程しか倒せていない。
妖夢の方も息が上がってきており頬や腕にはいくつか掠り傷をこしらえていた。
「ったく、数ばっかりが多いなぁ…これで50体は倒したんじゃないか? こんなにも多いと少しげんなりしてくるぜ。」
ユイはギラギラとした目で敵を睨みつけながら屍を踏みつける。
そこに妖怪への敬意は微塵もなく徹底抗戦の意志を見せつけていた。
妖夢も無言でユイに背中を預ける。
「ほれ、体力は回復しないが傷だけなら治してやるよ。」
そういってユイは文字を展開する。
「ありがとうございます。」
「いいってことよ。陰、陽、お前らの出番だ。」
ユイは持っていた剣を放り投げる。
2振りの剣は宙で人の形を取り、地面に着地するや否や敵陣に向かって走り出した。
「戦車がないのならこちらのものだ!」
陰が珍しく声を荒げて突撃する。
ユイは新たに黄金と白銀を引き抜くと2振りに続いて敵陣の中に躍り込んだ。
とても体力が落ちたとは思えない動きで敵を翻弄する。
傍には妖夢が変わらずに付き添い刀を振るう。
陰と陽はそれぞれのコンビネーションを生かし敵を斬り刻んでいた。
それでも妖怪たちの数は一向に減る様子がない。
「おいおい! 流石に多すぎやしないか!?」
上空で弾幕を張っていた魔理沙も焦ったような声で敵の攻撃をギリギリのところで躱す。
「全く、4対いくつよ!」
霊夢もイライラしたように妖怪を睨みつける。
「《禁弾「スターボウブレイク」》!」
「《幻影「花鳥神鬼楼」》!」
2つのスペルカードが展開されたのはまさにその瞬間だった。
赤と緑の弾幕が儚い音をして散っていく。
「博麗の巫女さん! そんなにのんびりしてるとあっという間にさようならよ!」
創筆が霊夢の視界に現れる。
「へぇ、私のスペカをうまく防ぐなんてやるじゃない!」
空を飛ぶ妖怪たちが一斉に道を空け、フランドールも同じく杖を手に霊夢の前に姿を現した。
フランは3人を睨みつけると弾幕を放ち始めた。
地上でも変化があった。
「おらヘボ弟子! 俺はお前を1人で戦えるようにしつけたつもりだぞ!」
万桜龍が拳だけで妖怪たちを圧倒している。
「ったく、相変わらず丈夫なジジイだ!」
ユイも負けじと言い返す。
「誰がジジイだ! 名前を付けて若くなったんだからもうちょっと評価してくれてもいいじゃないか!」
万桜龍は激昂すると印を結び始めた。
「オン・マリシ・エイ・ソワカ!」
摩利支天の真言を唱えると周囲にいた妖怪たちを一掃する。
「まさか真言を忘れたなんて言わせねぇぞ!」
「ったく、若々しくなって余計うるさくなってねえか?」
ユイはぶつくさといいながらも持っていた黄金と白銀を放り投げると自らも阿修羅の真言を唱える。
「ノウマク・サマンダ・ボダナン・ラタンラタト・バラン・タン!」
ユイの周りの空気がにわかに紅く染まる。
そのままユイは独特の構えを取ると意識を集中させた。
「妖夢殿! ユイから離れろ! あの構えはあれをやるつもりだ!」
陽がユイの構えに気づいて叫ぶ。
妖夢はユイの放つ気を本能的に察知してユイから素早く距離を取ると再び剣を振るい始めた。
「龍闘術賢人ノ型二…『竜爪血華・劣』!」
ユイの手足に文字が浮かび上がる。
危険性に気づいた妖怪たちがユイに群がる。
「殺せ!」
しかし、ユイは落ち着いた様子で妖怪の一体に掌底を打ち込む。
次の瞬間、掌底を喰らった妖怪は爆発した。
その周囲にいる妖怪もそれぞれ様々な箇所抑えて痛みにのたうち回る。
「やっぱりえげつないな。先代の技は…」
万桜龍が妖怪を捌きながら面白そうに笑う。
「全くだ。あんな技を思いついた先代の七賢人は狂ってるに違いない。」
陽もその通りだと頷きながら妖怪を伐採していく。
「味方の骨が凶器になるなんて誰が思うんだ?」
さらりと恐ろしいことを口走りながらもユイは動きを止めない。
次々に痛みでのたうち回っている敵に攻撃を打ち込み筋肉だけを爆破させていく。
妖怪の骨や歯だけがあとに残り爆風により高速で飛ばされる。
周囲を囲っていた妖怪は慎重に距離を離すがもはや後の祭りだ。
ユイが不規則な足捌きで妖怪たちに接近する。
狐の頭をした妖怪に蹴りを喰らわせると頭だけが白骨化し他の妖怪に喰らい付いた。
しばらくするとユイの周りは白骨だらけとなった。
近くの妖怪を斬っていた陰と黄金の剣を取り上げるとそれを手に妖怪たちに斬りかかる。
妖怪たちは蜘蛛の子を散らす様にして逃げ始めた。
しかし、途中まで逃げ出したところに弾幕が襲い掛かる。
「逃げるのはご法度よ!」
フランが上空から弾幕を振りまき妖怪たちの撤退を喰いとめる。
「ひっ…!」
妖怪たちは恐怖に息を呑んだ。
前門の吸血鬼、後門の竜人である。
「おい…どうすんだよ…」
ある妖怪が恐怖の声色で呟く。
それはまさしくここに集まった妖怪たち全員の総意だった。
「Урааааааа!!!」
半狂乱となった妖怪たちはやけくそで叫びユイに突撃する。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
妖怪たちに呼応する様にしてユイも叫ぶ。
互いに衝突し阿鼻叫喚が繰り広げられる。
結果は明白だった。
恐怖に狩られた妖怪たちは本来の半分も力を発揮することなくやがて壊滅した。
安定したのを確認するとユイは霊夢たちのところまで上昇する。
「んじゃ、俺達はこれで紫さんの要件は済ましたから撤退するぜ。」
「ちょっと! この吸血鬼を何とかしなさいよ!」
「俺らの仕事じゃないだろ。」
「じゃあ博麗の巫女として命じてあげるわ! あの吸血鬼を無力化するのを手伝いなさい!」
「へいへい。全く、社会主義も実力主義も大して変わりはねぇな。」
ユイはそうぼやくといつの間にかいなくなっていた万桜龍を心の内で呪いながらフランの弾幕を躱し始めた。




