吼える
霊夢と魔理沙は紅魔館に来ていた。
「フランは何処かしら?」
ボロボロの紅魔館の中ベッドにぐったりと横になっているレミリアに霊夢は詰め寄る。
「こらこら霊夢。いくら吸血鬼とはいえ重症患者だ。」
「そんなの知ったことじゃないわ!」
「血も涙もないな。」
「そもそも何で美鈴は仕事をしてないのよ!」
「さっきのしてきたわ。」
「はぁ…まあいいわ。霊夢、まずは私の服から手を放しなさい。吸血鬼でも窒息死はするのよ。」
レミリアは霊夢の腕を掴むと無理矢理外した。
霊夢は目を見張るとパッとレミリアから手を外す。
「あんた…」
「えぇ、今の私は恐らく普通の人間でも殺せるでしょうね。」
レミリアは淡々とした口調で告げる。
「だから、さっさと答えだけ言ってあげるわ。それを聞いたら早く出て行きなさい。『私の妹は南西に向かった』。以上よ。」
そういうとレミリアは瞼を閉じた。
霊夢はそれを聞くと窓を開けた。
「魔理沙、さっさと行くわよ。南西といったらあそこしかないでしょ。」
「ふーん。そういうことか。」
魔理沙も納得したように声を上げる。
「魔法の森ね。」
「無縁塚だな。」
2人が同時に言った言葉は見事にすれ違っていた。
「…いや、確かに南西だけどさ。」
2人の間に気まずい沈黙が流れる。
「まあいいわ。先に魔法の森から調査を始めましょう。そっちの方が距離が短いし。」
霊夢の提案に魔理沙は頷いた。
「そうだな。どうせならそういうことにするか。」
互いに覚悟を決めると2人は窓から飛び出した。
「で、どうするの?」
「あぁ、実は魔法の森に知り合いがいるからな。そこの3人に頼っていみるつもりだ。」
「3人? アリスは分かるけど…もう2人は誰?」
「創筆と万桜龍だ。」
「あぁ…創筆ねぇ…」
創筆の名前に霊夢は苦い顔をした。
「あいつにはいい思い出がないのよ。あのうさん臭い妖怪の所為でね。」
「お前もお前で抱えてるんだな。」
魔理沙は苦笑しながら箒を加速させる。
「まぁ、そんなトラウマがあるならさっさと終わらせようぜ。」
霊夢も無言で加速して目の前に見えた魔法の森に突っ込んでいった。
……
…………
………………
「なるほどね。つまりはその赤い服着た吸血鬼の女の子を見つけ次第無力化して紅魔館という建物に連れ帰ると。」
創筆は気軽な様子でとぐろを巻く竜の上に座っていた。
竜はくつろいだ様子で寝息を立てている。
「そういうこと、できれば万桜龍にもそれについて言ってほしいんだが…」
「それについてはもう聞いているぞ。魔法使いに巫女。」
ふいに霊夢は寒気を感じた。
振り返ると逆さに飛んでいた万桜龍が霊夢の顔を覗き返していた。
「ッ!?」
霊夢は慌てた様子で距離を取り、お札を構える。
「おいおい霊夢。気にすんなって。あいつの神出鬼没ぶりは紫と同じくらいだぞ?」
「~~~~~ッ!」
霊夢はイライラした様にお札をしまう。
「後はアリスだけだな。」
「アリスからは俺が言っとく。」
「そう。じゃあ、私達も簡単に探索してから無縁塚に行きましょうか。」
……
…………
………………
霊夢は釈然としない顔つきで無縁塚に向かっていた。
その隣を魔理沙が箒にまたがって並走している。
「結局創筆があらゆる動物を描いても見つからないってことはやっぱり無縁塚にいるってことだな。」
「でも蜘蛛ってある? それもデッカイ奴。」
「私もたまに見かけたことがあったがどうやらあいつの蜘蛛だったんだな。」
「あんなのが妖々跋扈していたなんて信じられないわ!」
「今回は協力してくれたんだからいいじゃないか。」
「……。」
霊夢は沈黙すると速度を上げた。
魔理沙も無言で肩をすくめると速度を上げ霊夢を追いかけ始めた。
しばらく飛んでいると無縁塚の広陵な土地が2人の目に飛び込んできた。
「なあ霊夢。あれ、半人前じゃないか?」
「らしいわね。あいつも共産主義者かしら?」
「いや、よく見てみろ。その隣に紫の竜人がいる。つまり今のところあの2人は仲間だ。」
魔理沙は箒を急降下させてこちらを見上げている2人の前に着陸した。
「よう、ひょっとしてあの妖怪から頼まれたのか?」
魔理沙の呼びかけにユイが答える。
「まぁそんなところだ、白黒魔女。えっと…」
名前が出てこないのかしきりに頭を掻くユイに妖夢が耳打ちする。
「魔理沙か、霧雨 魔理沙。すまんすまん。最近の魔法の森はどうだ? 白玉楼にいついて長いもんだから忘れてたけど俺の家は?」
「お前の家? あぁ、綺麗なもんだ。住んでるのかと思ってたよ。」
「ってことは紫さんがいろいろ気を使ってくれたのか。」
そんな他愛もない話をしていると霊夢も地上に降りてきた。
「ちょっと! そんな話をしに来たわけじゃないでしょ!」
「あぁ、そうだったな。そういえばフランを見かけなかったか?」
「フラン? あぁ、あの吸血鬼の娘っ子か。知らないな。俺達はその吸血鬼が祀り上げられる前に共産主義の妖怪どもを全滅させに来たんだからな。」
ユイの隣で妖夢が無言で頷く。
「ん? ってことは…」
霊夢が青ざめる。
「あぁ、そういうことか…」
ユイも同じ結論にたどり着いたのか頭を押さえる。
「つまるところ…?」
妖夢が恐る恐る訊ねると霊夢とユイは同時に口を開いた。
『既に吸血鬼は祀り上げられた。』
その言葉が合図となったのか4人を囲うように妖怪たちが現れる。
「あーあ。そういうことか。」
魔理沙はため息を吐くと飛び上がった。
「博麗の巫女、お前さんは空からくる奴らを抑えろ。俺と妖夢で地上の連中は抑える。」
「分かったわ!」
霊夢も魔理沙の続いて飛び立つ。
『同志フランУрааааааа!!』
妖怪の大群が口々に叫びながら突撃する。
「ったく、うらうらとうるせぇ連中だ。幻想郷の津々浦々にこんな輩がいると考えるとゾッとしないねぇ…」
そういうとユイは剣を引き抜いた。
「妖夢、耳塞げ。」
「え?」
「あんなものを聞かされたらこちらとしても叫びたくなるもんだ。」
そういうとユイは剣を地面に突き立てた。
「幻想郷の境界警備員はここだァァァァァ!」
ユイは空気をびりびりと震わせて咆哮した。
「Урааааааа!!!」
「うおあぁぁぁぁぁ!!!」
叫び声をあげて両者は戦闘を開始した。




