紅狩り
博麗の巫女は隙間妖怪に向けて大幣を突き付けていた。
「いったい何の用かしら? 共産主義者とかいうのに関しては私は何も知らないわよ?」
白を切る霊夢に紫は冷たい視線を向けた。
「…冗談よ。」
「まぁ、あなたがしつこく勧誘されていたこともよく知ってるわよ。そのことに関しては今回は不問としましょう。」
紫は腕を組むとため息を吐く。
「今回は貴方の大好きな妖怪退治だわ。フランが紅魔館から逃げ出したわ。
紅魔館は共産主義を掲げていたから倒してもらいたいの。」
「フランを倒せばいいの?」
「大雑把に言えばそういうことになるわね。」
「おいおい、妖怪の賢者ともあろうお方が随分と簡潔に説明をするじゃないか。」
横から口を挟んだのは魔理沙だ。
「その様子だと霊夢が共産主義者である聖を倒したことはすでに知っているらしいな。」
「えぇ、それで紅魔組も共産主義者だったからそっちはユイに対応してもらったのよ。」
「ふーん読めてきたわ。それでユイが失敗したからその尻ぬぐいとして私がフランを倒すってことになったのね?」
「えぇ、そういうこと。ユイには共産主義の弱小妖怪たちを倒してもらっているわ。
フランがその妖怪たちに担ぎ上げられないようにね。」
そこまで聞いた魔理沙はようやく納得の色を示した。
「じゃあ、私たちがやるべきこととしては一刻も早くフランを探して紅魔館に強制送還すればいいんだな。」
「最初にそういったと思うのだけど…」
「簡潔すぎるお前の話で分かる奴は絶対いないと思うぜ。」
とぼけたように手を頬に充てる紫を魔理沙は突っ込んだ。
「という訳でよろしくね。」
そういうと紫はいつものようにするりを隙間の中に隠れて行った。
「…魔理沙。」
「へいへい。」
霊夢と魔理沙はフランを倒すべく重い腰を上げて博麗神社を飛び出した。
…
……
………
ユイは裂け目を通って無名の丘に立っていた。
その隣には半人半霊の庭師もついている。
「紫さんの情報によると確かここだったよな。」
「『おそらくここ』ですけどね。」
ユイの言葉を妖夢は訂正する。
「どちらにせよ確率はあるんだ。見つからないなら紅魔館からしらみつぶしに探していけばいいだけさ。」
「それは一番手間のかかるやり方だと思うんですが。」
「そうならないようまずはこの無名の丘を隅々まで探索するぞ。」
そういうとユイは陰と陽が腰に指さっていることを確認すると歩き出した。
「結局やることはしらみつぶしなんですね…」
妖夢は苦笑しながらユイの後を追っていった。
数分ほど歩いていると不意ユイは足を止めた。
手で妖夢を制ししゃがむように指示する。
「どうやら。紫さんの推測はあっていたようだぞ。」
ユイが指さす先には妖怪たちの集団が赤い旗を掲げていた。
「本当に赤地に黄色の鎌とつるはしなんですね。」
「それが共産主義者の特徴だからな。」
「どうしますか?」
「今のところあの吸血鬼が祀り上げられている様子はないな。だとしたら好都合、早めに潰しておくに限る。」
そういうとユイは抜刀すると妖怪たちに向かって突っ込んでいった。
「敵襲!」
「急げ同志! 早く対応するんだ!」
妖怪たちの声が響くがそんな声もむなしく妖夢が続いて乗り込むころには既にユイの周りは血の池が出来ていた。
当のユイは返り血を浴びている様子もなく陰と陽の血振りをすると再び鞘に納めた。
軽い金属音と共に剣が納刀される。
「とりあえず一個小隊は撃破したな。」
ユイは妖夢が来るのを確認すると口を開いた。
「え? これで一個小隊なんですか?」
「あぁ、どうやら囲まれているみたいだぞ。」
「大丈夫なんですか!?」
「おいおい、誰にモノ言ってるんだ?」
そういってユイは妖夢に笑いかけた。
「ураааааааааa!!」
妖怪たちが武器を手に2人に突撃する。
妖夢は抜刀すると妖怪を捌き始めた。
「ユイさんも手伝ってください!」
「いや、今回は師匠としてお前さんの力を見せてもらおうか。」
ユイはニヤリと意地悪な笑みを浮かべると近くの木の枝に飛び乗った。
妖夢は焦った様子で刀を構えなおすと妖怪に向かって突撃していった。
「あぁぁぁぁぁ!」
半分自棄になりながらバサバサと切り捨てる。
「いざというときは俺も手伝ってやるぜ~。」
のんびりとした口調でユイは木の上に上ってくる妖怪に掌底を打ち込んでいく。
その際も一切剣を抜く様子はなくその表情には余裕の笑みも浮かんでいた。
対する妖夢はそんな余裕をかます余地もなく焦った様子で刀を振るう。
紅狩りがここに始まった。




