剣と杖
先に攻撃を仕掛けたのはパチュリーだった。
「《火符「アグニシャイン」》、《水符「プリンセスウンディネ」》」
2つのスペカを同時に展開したパチュリーは宙に浮いたままユイを睨む。
ユイもパチュリーを見据え返し、剣を構えた。
上空へ飛び上がり体を捻って弾幕を躱す。
その合間にも弾幕は次々と展開され攻撃は苛烈さを増していた。
「《竜進「月詠のそぞろごゝろ」》」
龍の弾幕がパチュリーの弾幕を食い荒らす。
「まだよ!」
パチュリーは弾幕をさらに展開した。
「そうかい! こちらとしてはさっさと終わらせたいのが本心なんだがな。」
そういうとユイはパチュリーに接近した。
「こあ!」
ユイの目の前に赤い髪をした小悪魔が出現する。
その直後、小悪魔が大玉を速い速度で打ち出し始めた。
「うおっ!?」
ユイは驚いた様だがすぐに体勢を立て直し高速で壁を走り出した。
「逃がさないわよ!」
パチュリーが魔導書に魔法陣を書き込みユイを追跡させる。
ユイは疾走を続ける。
光の様な速度で動くユイを姿を捉えることはもはや不可能に近かった。
(これは…空気に叩きつけられて息が難しい! 白玉楼も空気が薄いように感じたが結界のおかげで多少は守られてたのか。)
そんなことを考えながらユイは魔法陣から陰と陽を引っ張り出す。
「おいおい、随分と酷いじゃないか。『活躍の場をくれてやる』って言いながら…ってこれどういう状況だよ!?」
陽は自分の置かれている環境に初めて気が付いたようだった。
「騒がしいぞ、陽。ユイ様の邪魔をするな。」
「誰だって驚くわ! なんで戻ってきたと思ったらこんなくそ寒いところに!」
「そういうところがうるさいと私は言っているのだ。」
「お前最初は『騒がしい』って言ってたじゃねえか! いつ『うるさい』ってお前は言ったんだ!?」
「はいはい、お前ら二人ともうるさいぞ。」
ユイは剣の状態でも喧嘩をする二人をなだめる。
「これから集中するんだ。だから少し静かに、というか黙っててくれ。」
そういうとユイは走った状態のまま眼を半眼に開き、剣を構える。
「竜人流剣術、『釣瓶落とし』!」
かッと目を見開き、結界の壁を蹴ってパチュリーに接近する。
空気の層が予期せぬ客の襲来に驚き容赦なくユイを叩く。
そんな衝撃をものともせずユイは構えを作った。
両腕を交差させて腰に置き剣先を勢いに任せて流す。
自然と回る体の遠心力を使って向かってくる魔導書を容赦なく切り捨てる。
途轍もない風圧の中ユイは眼を地面に向け続けていた。
目を見開くパチュリーを視界にとらえた瞬間、ユイは力任せに剣を振るった。
刹那、爆音と共に衝撃波が空気を震わせる。
「ふぅ…ねぇあなた。私のお姉様に何をしたの?」
土煙の中ユイの体はいとも簡単に跳ね飛ばされた。
「ッ!?」
ユイは驚きを隠せないでいた。
(俺の攻撃が弾かれた!?しかもいとも容易く!)
空中で1回転して無理矢理着地する。
そこにいたのはただひたすらに紅い存在だった。
金の髪に水晶の羽、手には謎の形状をした黒い鉄の杖を持っている。
「フラン…あなた…」
レミリアはもちろんパチュリーも驚いた様で目を丸くしてフランドールを見つめていた。
「お姉様、私のことで気に病んでるなら気にしないで。
何のことかよく分かってないけど社会主義っていうのを広めようとしたのも私のイメージを払拭したかったからでしょ?
でも、私1人の為だけに紅魔館のみんなが傷付くなら私は地下で引きこもりでも何でもしてやるわ。」
そういうとフランは杖をユイに向けた。
「ねぇ、侵入者さん。正直言ってあいつを殺しかけたところまでは褒めてあげてもいいわ。だって嫌いだから。
でも愛されているって分かったから、分かったからこそ…あなたがコンティニューできないのさ!」
「全く、やれやれだ。こんな重労働だって知ってるなら俺は手を引いたんだがな。紫さんからそれとなく聞いてるぜ。残念ながらお前さんは幻想郷内でもかなり危険な部類にいる以上、俺はお前さんを無力化しないとな。」
ボロボロになったパーカーの袖を捲ってユイは混淆した剣を二振り、《御太刀「鉱龍剣 白金」》《御太刀「混淆剣 太極」》を構えた。




