潜入開始
隙間を潜ったユイは外気に触れると同時に陰と陽の柄に手を掛けた。
しかし、周りには誰もおらず辺りにはだだっ広い湖が広がっている。
(…霧の湖か?)
そして、目の前には赤い館がユイを威圧している。
「なんで紫さんは俺をこんなところに飛ばしたんだ? あそこの連中が何かするような心当たりは…」
そこまで言った時、隙間が開いてポスターが1つ落ちてきた。
「えっとなになに…
『Ищу красных товарищей! Защити Советский Союз как солдат-коммунист!』
『赤い同志を募集中! 共産主義の兵士となってソビエトを守れ!』か…
文字で良かったな。じゃなきゃ読めないところだった。如何せん最近、この能力を使うような事が一切ないからな。」
そうつぶやくとユイは湖の向こうにある館に目をやった。
しばらくポスターとにらみ合って察したようだ。
「あぁ…なるほどね。陰、陽、あの館に向かうぞ。仕事の時間だ。」
「了解、面倒なことはさっさと終わらせよう。」
「何言ってんだ。面倒なことほど楽しんでやるべきじゃないのか?」
「はいはい、それ以上の喧嘩はするなよ。」
ユイは2振りをなだめると湖に向かって飛び出した。
とその時妖精がクナイ弾を飛ばしてくる。
「おっとあぶねえ。」
そんなことを言いつつも危なげなく回避してユイは妖精を睨みつけた。
「悪いけど、ここの湖には用がないんだ。通してもらおうか?」
「だってよ~チルノちゃん。」
「ふん! 最強であるあたいの前に恐れをなして逃げようとしているのかい?」
霧の中から声がする。
どうやら霧の中にもう1人妖精がいる様だった。
「へえ、珍しいな。ここまで攻撃的な妖精が幻想郷にいるなんて。」
「舐めた口を利けるのも今の内だよ! 最強の敵が目の前にいるのに!」
「標的? あぁ、どこにいるんだ?」
「むぅ~! 大ちゃん! こいつを早く倒すよ!」
「おいおい、博麗の巫女は何をしているんだ?」
そういってユイは剣を引き抜いた。
「《氷符「アイシクルフォール」》!」
白い弾幕がユイを呑み込まんと接近する。
それをユイは寸でのところで避け続けていた。
「甘いなぁ…博麗の巫女が退治しないのも納得だ。お前さんは退治される強さもない。」
「何をぉ! 大ちゃん! もっと弾幕張って!」
「これ以上は無理だよ~!」
チルノは大妖精の肩を叩いて鼓舞するがすでに大妖精はくたくたのようだった。
「あたいは最強なんだ!」
「ふむ、その根性だけは素直に評価しようかね。でも、最強ってのは何も立ち向かうだけじゃない。時には相手を見極めて勝ち続けるからこそ最強ってのは最強なのさ。」
そこまでいうと一気にユイは接近し、大妖精の後ろに回り込んだ。
大妖精の腕を締め上げ、陽を喉元に突き付ける。
「こんな状態でもお前さんはまだ俺に向かて弾幕を撃ち続けるのか?」
「大ちゃんを放せ!」
「それはできない相談だ。」
「この卑怯者!」
「何とでもいうがいいさ。でも教えてやるよ。これが勝負だ。」
「《凍符「パーフェクト…」
「チルノちゃん!」
スペルを唱えようとしたチルノを止めたのは大妖精だ。
「駄目、私たちの負けだよ!」
「何言ってるんだよ! まだ…」
「チルノちゃん。」
奇妙なくらい冷静に大妖精はチルノに語り掛ける。
「もし弾幕を撃ったらきっとこの人は私を殺しちゃう。もう二度と私とは会えないんだよ?」
「くぅ…!」
チルノは目に涙を浮かべている。
「分かったよ!」
その言葉を聞くとユイは無言で大妖精を解放した。
「さて、お前さんは最強になる前に考えるってのをお勧めするぜ。本当の最強ってのはお前が思う程きれいじゃないってな。」
そういうと紅魔館に向かってユイは再び飛び始めた。
門の前まで来たとき、中華服に身を包んだ紅 美鈴が姿を現した。
「ここは通しませんよ!」
「今日は珍しく仕事してるんだな? 職場にいながら有給か?」
「えぇ、このままでは首を斬られそうでして…ってそんな訳ないじゃないですか! 《華符「芳華絢爛」》!」
虹の米弾がユイに押しかかる。
紅 美鈴戦の火ぶたがここに斬って落とされた。




