赤く染まる幻想郷
お久しぶりです。
この作品完結後の更に後の作品が思い浮かんでしまったりしたのでそちらを書いていました。
なるべくペースを取り戻せるように頑張ります。
見てる人は…流石に居ないよね?
「さて、あなたには一仕事してもらおうかしら?」
紫がユイに白玉楼で切り出したのはもはや恒例行事である。
まだ日も昇っていない朝早くからたたき起こされたユイはあからさまに不満そうな顔をしている。
「…何の様だ? 出来れば日が昇って俺の目も覚めてからの方が望ましいんだが…」
「えぇ、あなたがシャキッとしていた方が望ましいのは私も同じよ。」
そういうと紫はパチンと指を鳴らした。
次の瞬間、ユイは頭の中が冴え渡っていくのを感じた。
「これで目が覚めたわね。」
「まったく、そんな境界までいじれるのかよ…」
目が覚めてしまったことで眠るに眠れないユイはしぶしぶ布団から抜け出した。
魔法陣を展開して入り込み、しばらくすると寝間着から普段着に着替えたユイが魔法陣から飛び出してきた。
腰には4振りの剣を既に差してある。
「で、親愛なるわが主は何をご所望かな?」
やや皮肉めいた口調でユイは訊ねる。
「そうねぇ…簡単に説明するわ。」
そういうと紫は隙間を広げて手招きした。
ユイは慣れた様子で入り込む。
「ここなら誰もいないから聞かれる心配はないわね。貴方に依頼するのは社会主義者の抹殺よ。」
「社会主義?」
聞きなれない単語にユイは首を傾げた。
「簡単に言えば危険思想よ。」
「ほう、どんな思想なんだ?」
「そうねぇ…何処までも平等であるってことかしら。」
「なんだ、別にいいんじゃねえか?」
あっさりとした概要にユイは口をはさんだ。
「えぇ、実力主義の幻想郷でなければそういう見方が出来るわね。」
「あぁなるほど。」
察しの良いユイはすぐに結論にたどり着いた。
「平等であるということは強い妖怪も弱い妖怪もすべて平均を強制させられるってことだよな?」
「そうね。それだけでなく里の財産もすべて平等化され、私たち妖怪にとっても重要な人間が没落してしまうわ。」
ユイは紫の言葉に違和感を感じた。
「妖怪にとっても?」
「えぇ、ある人里には『稗田家』と呼ばれる幻想郷の歴史を記録している一族がいるの。一族が滅んでしまったら妖怪の記憶も霞れてしまうわ。」
「そうなると力の弱い妖怪たちは消滅し、大妖怪でも軍縮を迫られると。」
「いいえ。弱小妖怪たちは強大化するわ。」
「どういうことだ?」
「弱いから人間と同じように徒党を組むの。そうなると『○○の妖怪たち』という風に集団で恐れられ、いずれは1体1体の力も大妖怪に匹敵するようなものになってしまうわ。」
「なるほど。つまり下剋上が起こってしまうと。」
紫は神妙な面持ちで頷いた。
「正邪みたいなただの下剋上ならいいのよ。ただ今回の物は規模が大きすぎる。すでに人里の半数が社会主義に染まりかけていて指導者も現れているわ。」
それを聞いたユイの表情は険しくなった。
幻想郷は妖怪たちの保護区である。
そのために必要なのは1つ。
人里に指導者を作らせない。
里長はいたが今まで指導者を持たなかったおかげで妖怪たちは駆逐されることなく存在することが出来ていた。
「なるほど。流石に規模が大きいな。」
「そうよ。もしこれ以上社会主義が強大化した場合幻想郷にいまだかつてない混乱がもたらされるわ。」
「キトラの襲撃で団結することの味を占めた感じか?」
「えぇ、そうね。残念ながら彼の襲撃の所為で人々はまとまることの重要性に改めて気付かされてしまったの。」
「まったく、今頃改心しているのかどうかはともかく厄介な置き土産を…」
ユイは愚痴をこぼした。
紫は隙間を開いた。
「これからあなたにして欲しいのは社会主義陣営の錯乱よ。首謀者は霊夢が突き止めてくれるでしょう。」
「まったく、いいように使われてるなぁ。」
ユイは頭を掻くと隙間を潜って外に出て行った。
「さて、これで始まったわ。社会主義の連中も恐らく完全に気付くでしょうね。宣教者が何人も消えているのだから…」
紫はそういうと手を当てて笑いを零した。
その後ろには無残な姿の労働者達が無機質に隙間の中を漂っていた。




