表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東方竜人郷  作者: 寝起きのねこ
竜人達の因縁
67/93

2974年の因縁

「これより、罪魂『キトラ』の十王裁判を開廷する!」

審判の間に裁判長席に座ったヤマザナドゥ・四季 映姫の声が響き渡る。

被告席には霊魂が1つ、周りを札で覆われた状態で漂っている。

その両側には検事と弁護士の2席がある。

しかし、そこに座っているのはどちらも鬼だ。

「ではこれより、キトラの罪状を述べる。」

そういうと映姫は紙を広げて読み始めた。

・殺生 10億8340万9285

・監禁 485万9303

・拷問 94万8920

その他にも数え切れないほどの罪状が告げられた。

「それでは冒頭陳述を始めてください。」

映姫が言うと検事が立ち上がった。

「この者はもはや生物としても、罪深く穢れ切っています。言うまでもないでしょう。言い逃れすることはできません。本来はこのような裁判すら行うのが馬鹿馬鹿しいほどに救いようがありません。彼が殺した約11億という数字。これの大半は面白半分で殺された何の罪もない者達です。どうしてこの者に免罪符など渡せましょう。裁判長今すぐに無間地獄の最下層へ送るべきです。」

鬼が告げると弁護士も同じように立ち上がる。

「この者は純然な悪ではありません。この数字の一部は過去のある独裁者たちが人民を粛清した数も含まれています。それでもかなりの数がありますが無間地獄の中でも6階層程が妥当かと。」

このような主張の後、被告人質問が始まった。

「キトラ、独裁者の粛清は貴方が指示したのですか?」

映姫は訊ねる。

しばしの沈黙の後、キトラの霊魂は答えた。

「あぁもちろん。私が許可したよ。彼らが私に許可を申し立てて、私が許可したんだ。その時の恍惚とした彼らの表情を君らにも見せてあげたかったねぇ。」

キトラが実体を持っているとしたらほくそ笑んでいるに違いない。

キトラは自慢げに語ったのである。

「…ッ!?」

映姫も目の前にしている魂がそれだけの生き物を殺したことを今実感した。

「…そうですか。では独裁者たちを除いてあなたが殺すことを指示した、あるいは殺した人数はいくつになりますか?」

「4億、4億だ。」

キトラは即答する。

「正直、毛沢東には驚かされたよ。私が指示した以上に事故で殺してしまったんだからな。まさか5000万人を餓死させるとは本当に面白い。」

そういうと空気の漏れる様な音を立てる。

笑っているのだ。

映姫の顔は青ざめる。

音を立てて席を立ち上がった。

「貴方は…貴方はッ!?そのような大勢の生き物を殺したことによる罪悪感は無いんですかッ!?」

「無いですね。」

「……ッ!」

「逆に訊きましょう。あなたは死や生滅よりも恐ろしい判決を何人にも言い渡したことへの罪悪感はないんですか?」

「あるわけがないでしょう! 彼らは罪霊なのです!」

「じゃあ、それは正義なのか?」

「そうです!」

「ダウト。」

キトラは映姫の言葉を否定する。

「人間に知恵をもたらしたのは堕天使だ。結局、私も…俺もお前も堕天使が教えた自分の中にある『恐怖による支配』を実行しているに過ぎない。所詮は同じ穴の狢なんだよ。」

映姫は息を呑む。

周りに控えていた鬼たちも警戒態勢に入る。

「あなたは…あなたはいったい…!?」

「少なくとも俺より年下の閻魔にタダで裁かれるほど俺は優しくはないということだ。」

この言葉でキトラは審判の間にいた者全てを敵に回した。

「こいつを無間地獄の最下層へ突き落せ!」

傍聴席から野次が飛ぶ。

それに共鳴するように四方八方からキトラの有罪を求める声が鳴り響いた。

「静粛に!」

映姫が小槌を打ち鳴らすが効果はない。

むしろ爆発的に野次は鳴り響いた。

こうなると警備も押さえつけざるを得ない。

裁判が中止になるかと映姫が覚悟したその時、派手な音を立てながら裁判所の天井を突き破って来る影があった。

野次すらも沈黙させるほどの爆音を鳴らしながら入ってきた者はゆっくりと立ち上がる。

「よう、少し出番が早かったか?」

侵入者ユイはのんびりとした様子で辺りを見回す。

「裁判長、現在の状況は?」

ユイは散歩の調子でも訊ねるかのように映姫に訊く。

「…現在は『被告人質問』です。」

「じゃあ『意見陳述』だ。俺は竜人のユイ。昔はいろいろな呼び名で呼ばれてたけどキトラには『殺戮の魔天』という名で呼ばれていたもんだ。」

ユイは自己紹介をすると勝手に「意見陳述」を始めた。

「俺はキトラへ2974年の無間地獄6階層を求刑する。」

勝手なユイの求刑に映姫は眉をひそめた。

「こいつは確かに救いようのない奴かもしれない。だが非常に…なんて言うんだ? 人間らしい…竜人らしい生き方をしてきたのも事実だ。こいつなりに悩み、考え、計画したのが今までのこいつの生き様だ。そして俺はこいつの生き様を知っている。」

そういうとユイは魔法陣から巨大な書物を3つ取り出した。

「やめろ! そいつを開けるんじゃない、殺戮の魔天!」

キトラが焦った様子で叫ぶがユイは気にすることなく書物を開いた。

そこに書かれていたのは緻密な竜人生の計画、リスト、結果、考察、改定をびっしりと竜人文字で書き連ねたものだった。

「これは…?」

「キトラの人生計画だ。そしてこの書物の1番最初にはこんなことが書かれている。」

そう言いながらユイは先頭に書いてある文字を指さす。

「『全ては竜人の為に』。こいつはどんなに自分の手を血で汚そうとも根底にあるものを決して変えようとはしなかった。確かに俺はこいつの策略で長い時を失った。だが、それは俺の身勝手が起こした結果だ。そしてそれを他の七賢人は知っているし知っているからこそ、6人しか揃わなかった七賢人を破壊したし破壊された。この2974年というのは俺の身勝手な数字だ。という訳で改めて俺は、2974年の無間地獄6階層を求刑する。」

ユイはそう言い切った。

審判の間は沈黙に包まれる。

皆が皆、キトラの帳簿をまじまじと凝視していた。

「これは…」

閻魔の1人が呟く。

「どうする、ヤマザナドゥ 四季 映姫? お前さんは馬鹿じゃないはずだ。どう結論を出せばいいのか分かっているだろう?」

ユイは語り掛ける。

「…判決を言い渡します。」

映姫の行動に十王がざわつく。

本来なら一度裁判を閉廷して十王で相談したのちに判決が言い渡される。

それを映姫は独断で判決を出した。

「罪魂キトラに2974年の無間地獄第7階層、『磔』に処します。」

映姫の出した判決も異例中の異例だった。

本来無間地獄に落とされたものは362兆8800億年の間罰を受け続けると言われる。

それを3000年で終わらせることなぞ、閻魔にとっては許されざる判決であった。

「ふざけるな!」

当然のように十王の1人が激怒する。

「無間地獄は獄卒たちが誇りを持って刑期を終えるまで罪魂を捌き続ける! その獄卒たちの誇りをあなたは傷つけるのか!?」

他の十王も同調する。

「貴女は閻魔失格だ!」

映姫には審判の間にいる者全員から雨あられと非難が飛んだ。

中には傍聴席から物を投げる者もいる始末だ。

その時、ユイのいるところから半径5mにひびが入り、轟音が鳴り響き、裁判所を揺らした。

「ん? あぁ、すまん。うちの女神さまが十王どもにお怒りの様だ。」

ユイはこともなげに言う。

「女神?」

「殺戮神カーリーだ。」

そういった瞬間、審判の間が凍り付く。

これは比喩ではなく、物理的に凍り付いたのだ。

机には霜が降り、机に手を付けた十王を縛り付けた。

「あなたたち…彼女の言うことが不満なのかしら?」

ユイの口から女性の様な抑揚を持った声が発される。

その声を聴いた十王たちの顔が引き攣った。

「当たり前だ! こんな脅迫まがいのことをしている以上お前も捌いてやる!」

「神が閻魔を裁けるのかしら?」

十王の反論をカーリーはぴしゃりと叩く。

「あぁ捌いてやる! 玉帝様にお前を捕えさせて捌いてやる!」

カーリーはそんな十王に興味がないと言わんばかりに指を鳴らす。

次の瞬間、その十王は悲鳴を上げるまでもなく氷漬けにされ粉々に砕けた。

「…さて、そこのかわいらしいヤマザナドゥさんの判決に何か不服のある方は?」

再度カーリーは聞くが異議を申し立てられる者はこの審判の間にはいなかった。

「あぁ、そういえば誰かこんなことを言っていなかった?『貴女は閻魔失格だ!』って。それは…どうするのかしらね?」

「撤回します!」

十王たちが声をそろえる。

「まったく、そんな風におりこうさんなら最初からそんなことは言わないで頂戴。」

そういうと審判の間は解凍された。

ユイの瞳が赤くなり少しふらついた後、軽く頭を叩いて平衡感覚を戻す。

「さて、キトラ君を誰か無間地獄の最下層に連れて行ってあげてくれ。」

ユイはドア付近を固めていた鬼2人に呼びかける。

鬼たちは慌ててやってくるとキトラの霊魂を捕えた。

「…殺戮の魔天、よくもやってくれたな。」

「別に、よかったじゃないか。まぁ、3000年したらまた会おうや。慾滅懲龍さん。」

「……。」

キトラは無言で審判の間を出て行った。

こうして2974年の因縁は終結したのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ