新たな双剣の付喪神
ある方のキャラがようやく登場。
正直、また登場するとは思わなかった…
??「なんか言ったか?」
猫「いえ何も。」
ゆっくりと足音が聞こえる。
ここは外の世界にあるキトラの拠点。
その地下室にユイは捕えられていた。
鎖で全身を固定され、更にその周りには檻が、その外にはキトラの竜がいるという厳重警戒だ。
キトラの竜たちは謎の足音に警戒を強めている。
銃剣を構えていつでも攻撃が出来るように努めている。
その時、足音が部屋の入口の前で止まった。
キトラの竜たちが素早く入口に銃口を集中させる。
しばしの沈黙の後、その扉が斬られた。
それを合図に兵士達は集中火力で銃を放つ。
やがて弾薬が尽きたのかリロードを始める兵士達。
しかし、それが狙いだった。
扉を斬った者は素早く部屋に入り込むと兵士たちを斬り始める。
結果的に部屋に残ったのは侵入者と10人のキトラの竜、そしてユイだけとなった。
両者ともに動かずに膠着状態に陥る。
その時、笑い声が薄暗い地下に響き渡った。
「舐められたものだな、え? この『鬼龍』を無視するとはいい度胸じゃないか。」
檻の中にいたユイがいとも簡単に鎖を引きちぎる。
「感謝するぜ、ムラマサ。お前さんが気を引き付けてくれなかったらこんなことは出来なかったからな。」
「ふん、お前ならここの連中なんて簡単に片づけられただろ。」
「いやいや、さすがに常に銃口を向けられた状態で鎖を引き千切るのは難しいぜ。」
そういうとユイは檻を蹴り破る。
「そういえば陰と陽がどこにいるのか知らない?」
ユイが竜たちを睨みつけながらムラマサに聞く。
「知らん。」
「そうかい。」
それを聞くとユイは大量の文字を出現させた。
「それじゃ、そいつらに聞くとしますかね。」
次の瞬間、ナイフが兵士達に襲い掛かる。
当然のようにキトラの竜は飛んできたナイフを躱し、撃ち落とした。
しかし、それがユイの狙いだった。
手近にいた兵士を爪で抉り取ると銃剣を奪う。
そのまま慣れた様子で銃を撃ち始め、数十秒後にはキトラの竜たちは血だまりの中に沈んでいた。
「うん、最近の武器は扱いづらいな。生ぬるい。」
そういうとユイは銃剣を投げ捨て、出入り口に向かった。
「そういえば。」
ユイは振り返る。
「なんだ?」
「お前さん、以前あったときからどこに行ってたんだ?」
「少しばかり外の世界を旅していてな。どうやら『漫画』とか『アニメ』とかいうものでよく登場するから幻想郷の外に出ることが出来たんだ。」
「そりゃおめでとうさん。」
そういうとユイは部屋の外に出た。
部屋にはムラマサが1人取り残される。
「喜ぶべきことなのかねぇ…」
何処か遠い目をしてムラマサはユイの後を追った。
しばらく廊下を歩いていると剣を持った男女に会った。
「黄金、なんか竜人がいるけど。」
「みたいだね、白銀。」
「どうします? 依頼主からは殺せと言われていますが勝てる気がしないんだけど。」
「戦ってもいいけどまだ死ぬ気はないからなぁ。」
「おいおい、敵だったら容赦なくその剣を破壊するぞ?」
しびれを切らしたユイが2人に声をかける。
「だってよ、黄金。」
「痛いのは嫌なんだけど…」
「安心しろ、すぐに遺体にしてやる。」
その脅しを聞くと2人は怯えたように身をすくめた。
刀身がカタカタと音を立てる。
『貴方に降参します。』
2つの声が見事に被る。
「やる気がないねぇ…」
思わぬ不戦勝にユイは呆れたように首を振る。
「で、お名前は?」
「付喪神の黄金といいます。」
「同じく白銀といいます。」
「なるほど、お前さん方と同じような剣の付喪神を見なかったか?」
「陰さんと陽さんですね。こちらです。」
そういうと2人はユイを部屋の前まで案内した。
「一応捕虜っていう扱いなんですけど、同じような双剣の付喪神なんてそうそうお目にかかれないので傷はつけていませんよ?」
「そうかい。」
そういうとユイは扉を蹴破る。
「付喪神ども、帰るぞ!」
部屋の中には人の形を取った陰と陽がいた。
優雅にソファに腰かけ紅茶を啜っている。
「遅かったじゃないか、ユイ。」
「お前らぁ…!」
「心外だな。私たちはそこにいる2人から差し入れをもらっただけだ。」
激昂するユイを陰が流す。
「はぁ…もういい。とりあえず帰るぞ。『5番目の車輪』を殺さないと気が済まん。」
陰と陽はそれを聞くと自分の本体をユイに投げて寄越した。
ユイは慣れた様子でそれを腰に差すと黄金と白銀に向き直った。
「で、お前さん方はこの後どうするつもりだ?」
その問いに2人は困惑したようにお互いの顔を見合わせる。
「それは、どういうことですか?」
「俺の剣にならないか?」
ユイはストレートに質問を投げかける。
「どうせ行く当てがないなら引き取ろうじゃないか。陰と陽の喧嘩をずっと聞いているのも飽きたからな。」
「……。」
2人はまだ答えを出せずにいるようだ。
「じゃあ、お前さん方の状況を説明してやろう。まず、俺に降参した時点でお前さん方はすでにキトラからみりゃ反逆者ってことになる。ここからの居場所を失うことになるんだ。どうだ?」
そういうとユイは腕を組む。
「…私は、あなたについて行きます。どうか、私をあなたの剣にしてください!」
先に白銀が答えを出した。
「…僕も、あなたの剣になります。」
そういうと2人はユイの前に跪き自分の本体を恭しく差し出した。
「お前さん方の身は確かにこの『鬼龍』が受け取った。これからよろしくな。黄金、白銀。」
『はっ!』
2人の返事を聞いてからユイは2振りの剣を受け取った。
「俺が少し目を離した隙に2振りの剣を自分のものにするとはとんだ『剣たらし』だな。」
いつの間にか部屋に入ってきたムラマサがユイに皮肉を投げかける。
「優秀な奴らは敵にするよりも味方にしてしかるべきだろう?」
「ふんっ。」
ムラマサはつまらなそうに腕を組む。
「さて、これから帰るわけだがお前さんはどうする、ムラマサ?」
「俺はまだ外の世界にいるよ、外の世界にも腕の立つ剣士がごまんといるそうだ。そいつらと手合わせをしてみたい。」
「貪欲だねえ。」
そういうとユイは宙に拳を叩き込む。
叩き込んだところからは裂け目が生まれた。
「お前、そんな能力を持っていたのか。」
ムラマサが感心したような声で聞いてくる。
「ちょいとばかし色々あってな。」
ユイはそれだけ言うと裂け目に足を運ぼうとしたが何を思ったのかムラマサに聞く。
「そういえばお前さん、なんで俺がここにいるって分かったんだ?」
「馬鹿か。そんな強大な気配を放っていれば海を越えていても分かるもんだ。」
そういうとムラマサは軽く手を上げて部屋から出て行った。
「…気配の隠し方も修行するとするかね。」
そういうとユイは改めて割れ目に姿を隠した。




