四面楚歌
博麗 霊夢は守矢神社の一角にいた。
隣には霧雨 魔理沙の姿もある。
「これで何日目よ?」
霊夢がうんざりしたように言う。
「たしか…3日目だな。」
魔理沙はやや顔を上げて、思い出した。
霊夢はいらいらしたように部屋の中を歩き回る。
「これじゃあ、監禁じゃないの。紫は私たちを監禁する為にこの守矢神社に呼んだのかしら?」
「そもそも、外の世界の連中が攻めてくるっていうのもなんかしっくりこないというか…」
「もしかして嘘を?」
「あくまでも可能性の話だ。」
紫が嘘をついている、という話に霊夢は食いつくが魔理沙は落ち着いて流した。
「あら? そんなに知りたいのかしら?」
そんな声と共に扉から霍 青娥が姿を現す。
「人間の好奇心は昔から変わらないわね。私が神霊になる前は不老不死を求めた人間が一体何人いたことかしら? 何人かは神霊になり、何人かは亡霊になったけど。」
底の見えない微笑みを浮かべながら青蛾はゆっくりと近づいてきた。
「邪仙が何の用かしら?」
霊夢が大幣を構えながら青蛾をにらみつける。
「私は貴方達を解放しに来ただけよ。あの隙間妖怪の所為でうんざりしてるんでしょう?」
ワザとらしく霊夢の大幣に驚きながらも青蛾は言葉を紡ぐ。
「どうかしら? 珍しく無償で解放してあげるんだけど。」
「外はどうなってる?」
魔理沙は青蛾に聞く。
「あら、私はもう幻想入りした身よ? 外の世界の状況なんてどうして知ってると思ったのかしら?」
「じゃあ、聞きなおそう。幻想郷はどうなってる? 紫は嘘を吐いているのか?」
青蛾はやや考えた後、こう答えた。
「それはこの檻から出れば自ずと分かるんじゃないかしら?」
霊夢は頭を傾げる。
「何か話せない理由でもあるのかしら?」
「私は口下手だから。」
青蛾はいけしゃあしゃあと嘘を吐く。
「とにかく、お望みなら私が手を貸すということですわ。貴方達は真実を知りたくはないのかしら?」
霊夢と魔理沙は目線だけで会話を始める。
(青蛾のことどう思う?)
(私にそんなこと聞かないで頂戴。あんたの意見を聞きたいくらいよ。)
(あの邪仙のことだから何か企んでいるのは確かだ。でもその企みに乗らないと私らが外に出れないのも事実。)
(でも、策にはめられた以上私たちは絶望する可能性高い。)
(文字通り生殺しって訳だ。芳香がそのいい例だろう。)
『……。』
「お二人とも、決まったかしら?」
「…私はここから出るぜ。」
魔理沙がそういうと立ち上がる。
「博麗の巫女さんはどうするのかしら?」
「…あぁ! 分かったわよ! でも、あんたが何か企んでるってわかった時点で退治するからね!」
「あら、いままで私が何か企んだことがあったかしら?」
飄々とした様子で青蛾は首をすくめる。
その様子に霊夢は無言で大幣を突き付けた。
「分かったわよ。約束は破らないわ。」
青蛾はやや焦った様子で約束する。
やや有利に立ったのが余程嬉しかったのか霊夢はにやりと笑った。
(ふふふ、本当に簡単な人間だわ。好奇心を少しくすぐったらあっという間に私につくんだから。嘘は言ってないわ。何も言っていないだけで。)
青蛾の心の声のように青蛾は嘘はついていない。
幻想郷の状態について何も言っていないだけで。
「さぁ、ここが外よ。自分の目で真実を確かめてらっしゃい。」
そういうと青蛾は扉に手をかけ、一気に手前に引く。
『えっ…?』
霊夢と魔理沙の声がそろう。
そこに広がっていたのはあちこちで煙の上がった幻想郷。
山の麓は侵略者たちがぐるりと囲っている。
幻想郷は滅びつつあった。




