温泉とさとりと洋服と
ユイは地霊殿の主古明地さとりに温泉の中を案内されていた。
さとりの側にはお燐も付いていたがちょくちょくとユイの方を警戒するような目つきで覗いている。
「…あのさ、いくつか質問いいかな?」
「こいしのことは諦めてるわ、あの子は自由奔放で捕まえるのも大変だもの。お燐は私のペットだけど、地霊殿をうろつく魑魅魍魎を食べて妖怪化したのよ。他に何か質問はあるかしら。」
「恐れ入りました。」
「うわべだけで取り繕ってもすぐにわかるわ。」
「こりゃ敵わないな。」
ユイは苦笑まじりに呟くとさとりの隣に並んだ。
さとりを挟んでお燐が鋭い視線を送るがユイは気にしない。
その時、ユイの耳が騒ぎ声を拾った。
「お!宴会でもやってるのか。」
「えぇ、でもそこそこ遠い場所よ。彼女たちは一度暴れると手がつかないから。」
「ほぉ、後でちょいと顔出して見るか。」
「彼女たちの宴に飛び込むのは自殺行為よ。死にたいなら話は別だけど。」
「考えておこう。」
「いく前提に聞こえるのは気のせいかしら。」
「気のせいだ。」
さとりは呆れたような声を出す。
さとりの案内を聞きながらあちこちを進んでいくと突き当たりに赤と青の暖簾が見えた。
「ここが温泉よ。」
「この布切れはなんだ?」
「本当に何も知らないのね。外の世界ではどうやって生きてきたんですか。」
お燐がバカにしたような声を出した。
「これは男と女の浴場を分ける暖簾というものよ。」
「なるほど、粋な事をするね。」
「それから気をつけて、ここには人間も来るけど彼らは多種族を警戒する。あまり絡むと目をつけられるわよ。」
「ご忠告どうも。それから俺が今何考えているのか読んでもらっていい?」
「…?ごめんなさい。あなたが何を考えているのか分からないわ。」
「成功。心を読まれる感覚を覚えてそれに対応できるような気持ちをうまく持つんだな。」
「心が読めないようにしたの?」
「こちらの方で防いだ、っていうのが正しいかな。それじゃ、世話になります!」
そういうとユイは男用の暖簾をくぐって行った。
さとりとお燐はただ立ち尽くすばかりだ。
「…恐ろしい童ですね。…さとり様?」
さとりの目には動揺の色が浮かんでいた。
心なしか、顔が光っているように見えるのは気のせいではないだろう。
「あの短時間で私に対抗できる力を持つなんて…。紫に改めて彼について聞く必要があるわね。」
そういうとさとりは元来た道を引き返し早足で歩き去った。
一方ユイは、湯船に肩まで使っていた。
「ひゃ〜、極楽極楽。そういえば温泉、あの七賢人のジジイどもは持ってたな。あいつらが毎日のように通うわけだ。だめだこりゃ、長い間眠ってた所為でか記憶を思い出しづらいなぁ。」
そう言ってのんびりと湯に使っているとユイはつい、うとうとしてしまった。
しばらく船を漕いだ後、ユイは露天風呂に向かった。
「ほう、こりゃ見事だ。」
湯船の奥には庭があり両脇には桜が一本ずつ立っている。
桜と桜の間には白石が敷き詰められており、庭の真ん中には小さな川と対岸を結ぶ橋が架かっている。
橋の下をくぐる川は湯船に流れ込んでいた。
ユイはゆっくりと湯船に浸かり、川の合流地点付近で腰を下ろした。
川は温泉になっているのか湯気が出ている。
「気が向いたら来ようかな。う〜ん。毎日通う可能性もあるからやめとくか。」
そう言ってしばらく湯を楽しんだ後ユイは風呂を上がった。
脱衣所で藍から貰った荷物を開く。
中には黒の長袖の服と灰色のフード付きのパーカー、隙間の模様をあしらった黒いデニムパンツが丁寧に折りたたまれて入っていた。
ズボンの丈は若干長めで長さを調節できるようになっている。
さらに、ダークグリーンのミリタリーキャップと厚底のハイカットスニーカー、さらに赤と黒のチェック柄ブランケットまでついていた。
「なんだ、意外と気が利いてるな。可愛い狐め。帰ったらお礼しとくかな。」
そんなことを言いながらユイはそれらに袖を通した。
流石に帽子とスニーカーは屋内では着れなかったので荷物入れに放り込んでおいたが。
脱衣所から出たユイはしばらく暖簾を背にして耳をすませていた。
「おし、あっちか。」
そういうとユイは宴会をやっているという場所に向けて歩き出した。
入浴シーンって意外と書くのが大変なのを実感しました。思わずのめり込むようにかける人は本当にすごいと思います。今回の小説はよくいえば接続回、悪くいえばごまかしです。宴会で気が荒い連中と言ったら…彼女達しかいないよね。「彼女達」に覚えのない方はググって来てください。「旧地獄街道をゆく」を聴きながら書いていました。東方ゲームは一切持ってないからやってみたいなぁ。