奔走:藍編
足首をくじきましたぁ!
妖怪の山の頂上付近にある神社。
そこに八雲 藍は現れた。
「あら藍さん、どうしました?」
守矢神社の巫女、東風谷 早苗が藍に話しかける。
「早苗さん、この神社の祭神達にお話があります。案内していただけませんか?」
「分かりました。少々お待ちください。」
「すいません、急を要するので少々も待てません。」
藍のただならぬ様子に早苗は走って案内した。
「早苗~どうした?」
本殿まで来たとき洩矢 諏訪子が早苗に声をかける。
「こちらの藍さんがここの神社の祭神達にお話があるとか。」
「ちょっと待ってね~加奈子も呼んでくるから。」
「少しも待てません。急いでください。」
「そんなに急かしなさんな。」
諏訪子はふっと姿をぼやかすと次の瞬間、八坂 神奈子の腕をつかんでいた。
「うお!」
加奈子が驚いたような声を出す。
「諏訪子! これはどういうことだ?」
加奈子は藍の姿を見ると驚いたように諏訪子に聞く。
「私からお話させていただきます。」
藍は切り出す。
「単刀直入に言わせていただくと幻想郷が侵略されてしまいます。力を貸してください。」
「「「はあ?」」」
3人の声が見事に被る。
「手早く説明させていただきます。」
そういうと藍は本当に要点のみを簡潔に説明した。
「なるほど、ここを拠点に…」
「厚かましいようですがこれはお願いではありません。命令です。そうでもしなくては幻想郷は滅んでしまいます。」
「だってよ加奈子~。」
諏訪子は暢気に言う。
「私たちに拒否権はないと?」
「おっしゃる通りです。作戦は各勢力の代表者が集まって決めます。最初の策は紫様の案を通させていただきます。」
「この戦に勝ったら何がもらえるの?」
諏訪子が聞く。
「幻想郷の安泰です。それ以外に何をお望みですか?」
藍は愚問だとでもいうように答える。
「だってよ~加奈子。協力しようよ。」
「…分かった。我々守矢神社は幻想郷の安泰の為、全力で力を貸そう。」
「ありがとうございます。この後、各勢力の代表者がこの神社に集合しますので、準備の程よろしくお願いします。」
藍はそれだけ言うと消えた。
「さて、早苗。倉庫に行ってあるだけのものを出してくれ。」
「分かりました!」
早苗は走っていった。
「弾幕祭りだね!」
諏訪子は無邪気に言う。
「そんなかわいいものにならないことぐらいはお前も分かっているだろう?」
「…分かってるよ。でもこんな時にこそ誰かが道化師を演じないと士気は上がらないよ?」
「そうだな。ありがとう。」
加奈子はそういうと遥か下に見える人里を見下ろした。
「諏訪子、1つ頼んでもいいか?」
「ん、何?」
「妖怪の山の大天狗のところに行って協力を要請、いや命令してきてくれ。『幻想郷が滅ぶ』ってな。」
「りょ~かい。」
そういうと諏訪子は飛んで行った。
<紅魔館>
紅魔館の当主、レミリア・スカーレットは紅茶を飲んでいた。
そばには十六夜 咲夜も控えている。
その時、藍が現れた。
しかし間を置かずに咲夜が藍を後ろから羽交い絞めにした。
「待ってください! 協力してほしいことがあるんです!」
「月の侵略ならもう結構よ。他をあたって頂戴。」
レミリアが角砂糖を1つティーカップの中にいれスプーンでかき混ぜる。
「幻想郷が滅びてしまいます!」
藍のただならぬ慌てようにレミリアは目を細めた。
「咲夜。」
その一言で藍の束縛は解かれる。
「話してみなさい。」
「ありがとうございます。」
そういうと藍は手短に話す。
「そんなことがあり得るとは思えません。」
話を聞き終えたタイミングで咲夜が口を挟む。
「黙りなさい咲夜。このことに関して紫はどんな策をとったのかしら?」
藍はこれも簡単に説明した。
「ふうん…博麗の巫女を…」
レミリアの目がうっすらと光る。
「そう…悪くないわ。私たち紅魔館もこれに協力しましょう。流石に幻想郷を他の、それも外の連中に支配されるのは癪だわ。」
「ありがとうございます。ではレミリア様には後程わが主が拠点である守矢神社にお連れします。」
「そう。咲夜連れていくことは?」
「紫様次第です。では。」
そういうと藍は姿を消した。
「咲夜、紅茶を用意しておいて頂戴。向こうでも飲めるように。それからフランを呼び出して頂戴。彼女に紅魔館は守ってもらうわ。」
「かしこまりました。」
そういうと咲夜は姿を消す。
「幻想郷…支配するのは私。独自で動けるのが本当は一番いいんだけどそれが出来る戦力が私にはないのよね…」
レミリアはため息を吐くと紅茶を啜る。
やがて、窓の外から金髪の少女が飛び出していくのが見えた。
手には傘を指している。
「館内の方が有利に動けると思うのだけど。」
レミリアは再びため息を吐くと体を伸ばした。
<永遠亭>
「お願いします。協力していただけませんか?」
藍は永遠亭の姫、蓬莱山 輝夜と交渉していた。
「私達だけでここは守れるわ。」
「しかし、周りが潰れてしまえばここも潰れてしまいます。」
「こちらはその気になれば永琳1人でいつまでも守れます。それをどうして勝ち目のない戦の為に捨てねばならぬのでしょう?」
「それはっ…」
「幻想郷が滅びようとこちらは発見される前のように隠れ続けるだけです。」
輝夜は背を伸ばし毅然と言い放つ。
藍はうなだれるしかなかった。
「姫様。」
その時永琳が襖をあけてやってきた。
「永琳、お客様を連れ出してもらえるかしら?」
永琳は輝夜の目をじっと見つめた。
「そうですね…あなたは何のためにここに来たの?」
永琳は藍の方を向くと尋ねる。
「幻想郷の侵略を食い止めるためのご協力を乞いにまいりました。」
「私は却下よ。」
永琳はため息を吐いて額に手を当てる。
「姫様、何をなされるおつもりですか?」
「別に何も。」
「であれば、護る範囲をこの迷いの竹林を幻想郷に広げればいいだけではないですか?」
「それが嫌だと言っているのよ。」
永琳はひとつ手を叩く。
それだけで引き締まった空気が生まれる。
「○○様。」
永琳は輝夜を月の発音で呼ぶ。
「どうしてもだめですか?」
「えぇ。」
すると永琳は畳に膝をつけた。
「この通りです。幻想郷の安泰の為、お力を貸していただけませんか?」
永琳は頭を下げて平伏した。
藍もそれに続く。
「…○○、あなたはなぜ幻想郷の連中に加担するのかしら?」
輝夜は扇子を広げると永琳に問う。
「なぜでしょうね。自分でもよく分かりません。ここに来る患者を治療しているうちに情が移ったのかもしれません。どうか、私だけでも幻想郷の為回していただけませんか?」
輝夜は目を閉じる。
しばらくの時間が経った。
「八雲 藍、わが永遠亭は幻想郷の為そなたたちに力を貸しましょう。しかし、きっちりと守ってきてください。それが条件です。」
「っ! ありがとうございます!」
藍は顔を上げると再び深く頭を下げた。
「早く行きなさい。こちらからは永琳と優曇華、それからてゐを妖怪の山に送ります。」
そういうと輝夜は扇子を閉じた。
「必ず、守ってきてください。」
「「必ずや。」」
永琳と藍の声が重なって響いた。
<神霊廟>
神霊廟の前に藍が姿を現すと大勢の道士が藍の周りを囲っていた。
「何用だ!」
藍の正面で腕を組んでいる物部 布都が声を上げる。
「ご相談があって参りました。豊聡耳 神子様にお引き合わせ願いませんか?」
「断る! なぜあの賢者の言うことを我々が易々と信じよう?」
布都が両手を藍に向かって突き出す。
(まずいっ!)
藍は本能的に布都に向けて弾幕を放つ。
「《天符「雨の磐舟」》!」
布都はスペルカードを発動する。
藍は素早く飛び上がると弾幕を回避し始めた。
「このもののけめ!」
弾幕を放ちながら布都は叫ぶ。
「チッ!」
藍は舌打ちすると弾幕の隙間から機会をうかがう。
「貴様の皮で太子様の帯を作ってやる!」
「式神を倒すと皮が出てくるんでしょうか?」
「貴様を討ち取った証拠があればよいのだ!」
「話を聞く気は毛頭ないようですね…なら!」
藍は素早く地面に降り立つ。
一気に布都との距離を詰めると襟首をつかみ上げ、のど元に爪を沿わせる。
その手は妖狐の手になっていた。
「物部様、ここの主である、豊聡耳 神子様に会わせて頂けませんか?」
「ぐっ…」
布都は頷いた。
藍は手を離すと頭を下げる。
「大変失礼しました。」
「いや良い。」
布都は豊聡耳 神子の元へと案内する。
「布都、それはどうした?」
「少しばかり失礼を働いてしまいまして。」
豊聡耳 神子は驚いたように執務机から出てきた。
「これはうちの布都が失礼しました。」
神子は頭を下げる。
「こちらも焦りすぎておりました。申し訳ありません。」
「して、要件というのは?」
藍は説明した。
「幻想郷が…」
「滅ぶ…」
規模の大きな話に2人の道士は唖然とする。
「どうか、力をお貸しください。それぞれの勢力間で思うところもあるでしょう。しかし、外の干渉で何かあってはそれも叶わなくなってしまいます。」
「分かりました。全力で協力しましょう。」
神子は案外すんなりとうなずいた。
「ありがとうございます。では、わが主がこちらに来るまで今しばらくお待ちください。」
藍は姿を消した。
「さて、布都。屠自子と一緒に道士たちを集めて襲撃に備えてください。」
「はっ!」
布都は頭を下げると扉を出て行った。
「しかし、前代未聞ですね。」
神子の声はその場に響いて消えた。
<命蓮寺>
「そうですか…外の世界の人間が…いたわしいことです。」
命蓮寺の住職、聖 白蓮は悲しそうに目を伏せた。
「このままでは人里のものにも被害が出てしまいます。力を貸していただけませんか?」
「もちろんです。争いは好きではありませんが人々に被害が出るなら話は別です。喜んで協力させていただきます。」
白蓮は頷くと地図を持ってきた。
「私たちはどこを守ればよろしいでしょうか。」
「申し訳ありません。まだ決まっていないのが現状です。妖怪の山で各勢力が集まりそこで話し合いがあります。紫様が迎えに来るのでそれまでは各自で対応してください。」
「承知しました。」
白蓮はくるくると地図を丸めると編み笠をかぶり立ち上がった。
「他の者たちにも知らせてきます。足は多い方が良いでしょう。」
「ご協力感謝します。」
藍は頭を下げると消えた。
「さて、ぬえからあたってみますか。」
白蓮はそう言って足袋を履き空へ飛び出した。
聖編は書きません。
というか書けません…
猫さんの体力が…
そのうち書きますから勘弁してちょ~




