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東方竜人郷  作者: 寝起きのねこ
竜人達の因縁
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察知

妖夢はその日、おかしなことに気が付いた。

いつも井戸の前で挨拶をするユイが来ないのだ。

「ユイさんも寝坊をすることがあるんでしょうか?」

そんなことをつぶやくと厨房に向かい朝食を作る。

完成した料理を盛り付け居間に行くと、幽々子がいつもの位置で待っていた。

しかし、ユイの姿は見当たらない。

「おはよう、妖夢。ユイはどこかしら? いつも一緒にご飯を持ってくるのに。」

「分かりません。きっと寝坊じゃないでしょうか?」

妖夢はそういうと、お皿を座卓に並べユイの部屋に向かった。

「ユイさん。朝ですよ。」

襖の前で呼びかけるが反応がない。

妖夢は思い切って襖を開けた。

「あれ?」

部屋には布団が敷かれたままで、ユイの姿はなかった。

「厠かな?」

妖夢は厠に確認に行くも誰も使っている様子がない。

訝しく感じながらも妖夢は居間に戻る。

しかし、そこには先客がいた。

「お久しぶりね。」

「お久しぶりです、紫様。」

隙間の大妖怪、八雲 紫が額にしわを寄せて険しい表情をしていた。

「妖夢、それでユイはいたのかしら?」

「いえ、部屋にも厠にもいませんでした。」

それを聞くと紫の顔はより一層険しくなった。

ただならぬ雰囲気に自然と妖夢の姿勢が伸びる。

「これで確定的ね。竜人ユイはいなくなった。」

それを聞いた途端妖夢は腹を殴られたような衝撃を受けた。

「それは…どういうことですか?」

「聞いての通りよ。この幻想郷からいなくなったの。」

「極めて異例の事ね。」

幽々子もいつものふわふわとした雰囲気をなくして話に加わる。

「幻想郷に何らかの異分子が侵入してきたのは分かったわ。そのあとにユイがそいつらと戦った跡も確認されている。そして、そこから先は確認が出来ていないの。誘拐されたか、または…」

「分かりました。それ以上は結構です。」

「紫、それはないわよ。もし仮に最悪の状況になった場合、彼の魂が地獄に送られているはずだわ。伝手に聞いてみたけどそういった魂は来ていないみたいだわ。」

紫はため息を吐くと言いなおした。

「分かったわ。じゃあ消去法で彼は誘拐されたことになるわね。」

「でもユイさんほどの実力者を一体だれが…」

「それは藍が知ってるみたいよ。」

そういうと紫は隙間を出現させる。

その中から顔を出したの八雲 藍だ。

「藍、隙間の中から覗いていないでこちらに来なさい。」

「分かりました。」

そういうと藍は白玉楼に降り立つ。

「報告して頂戴。」

「彼を連れ去ったのはエジプトという大陸の砂漠を越え、そこから南下したところにある国の妖怪です。」

藍は解説を挟んで犯人を告げる。

「名前を『輿かつぎ』と。」

「なんの捻りもない名前ね。」

幽々子が苦笑する。

実際苦笑でもしないとやってられないのだろう。

「彼らは4人がかりで輿を担ぎ対象を追いかけます。そして対象を気絶させ、輿に閉じ込めるとその主のもとへと連れて行くのです。」

その時妖夢が何かに気づいたようだ。

藍が頷く。

「恐らくキトラの仕業でしょう。十中八九侵略の為かと。」

妖夢は冷静な藍の様子にかっとなって立ち上がった。

「どうして…そんなに落ち着いていられるんですか…」

「あなたが取り乱しているからです。1人取り乱していれば周りは冷静になれます。」

あまりに事務的な藍の返答に妖夢の目の前は真っ暗になった。

「そうですか…焦っていたのは私だけなんですね。」

「妖夢?」

「頭を冷やしてきます。」

そういうと妖夢は刀を掴み居間を出て行った。

「…幽々子。面倒なことになるわよ。」

紫が神妙な顔で幽々子に言う。

「それは霊夢に言う言葉じゃないかしら?」

「それもそうね。」

「妖夢さんは?」

「放っておきなさい。こちらの方で作戦を立案したら伝えるわ。」

藍の問いかけに紫は答える。

「まず、勢力の大きいところに伝えないといけないわね。」

「ハルヴィアにも伝えないと。」

「藍、思いつく限りの勢力に声を掛けて来て頂戴。霊夢には私から伝えるわ。妖怪の山に集合するよう伝えて頂戴。」

「分かりました。」

藍はお辞儀をするとその場で消えた。

「妖怪の山、ね。」

「あそこの山は急だから守りやすいのよ。」

「どうして守る前提なのかしら?」

幽々子がさらっと質問する。

「それは…」

紫は答えることが出来なかった。

「分かっているわ。あなたがユイを信じていることくらい。そのユイが捕らわれる程の相手が怖いんでしょう?」

「……。」

紫はうなだれた。

「…分からないのよ。もし、守れなかったら、ここはどうなってしまうのか。それが、分からないのよ。」

「あなたは何でも抱え込む癖があるのねえ。なら人間を守りなさい。人間は強い。私たちが消えても守ってくれるでしょう。」

幽々子は優しく紫に言った。

紫はうなずくと座卓に乗せられていた湯飲みを掴むと一息に飲み干す。

「お酒が…欲しいわね。」

「不吉なことは言わないで頂戴。今生の別れみたいじゃないの。」

「そう易々とはやられたくはないわね。まだまだ私はやりたいことがあるんだから。」

「えぇ、戻ってきて祝杯を上げましょう。」

幽々子は微笑んだ。

紫は頷くと立ち上がり、隙間の中に入っていった。

「さて、そこにいるんでしょう?」

「あら、ばれていたのね。」

幽々子の呼びかけに影は答える。

「見たことない娘だけど誰かしら?」

「一応味方よ。あの方のわがままでここに来たんですよ。」

「あの方? まあいいわ。本当はお茶の一杯でも出したいんだけど生憎幻想郷が侵略されそうなの。」

「知ってるわ。あの方はそれを防ぐためにここに来たんだから。」

「そう。じゃあ、この侵略が終わったら歓迎の盃でも上げましょう。」

「宴会のついでに、でしょ?」

「よくご存じね。」

「じゃあ、勝手にここでも守ってるわ。」

「えぇ、よろしく。」

そういうと影は白玉楼を出て行った。

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