始動
短めです。
申し訳ない。
その日、ユイは付喪神の報告で目を覚ました。
(ユイ、起きてください。)
敬語を使いながらも名前が呼び捨てなのは本来の主人がハルヴィアだというところがあるからだろう。
(なんだ? こんな朝っぱらから。)
ユイは眼を擦りながら布団から抜け出す。
(妙な身なりの大男が4人ほどいます。巨大な棺を担いでいます。)
(お前さん方で倒せないか?)
(残念ながら相手にされていません。攻撃が通らないようです。)
(分かった。すぐに向かう。)
ユイは着替えを素早く済ませると陰と陽を魔法陣から取り出す。
「仕事だ。妙な男4人が侵入しているらしい。」
4の剣はユイの手の中で軽く震えた。
障子を開けると、そのまま白玉楼を飛び出し報告を寄越した付喪神のもとへ向かう。
「件の奇妙な男どもは?」
ユイが尋ねる。
「どうやら、あなたを狙っているようです。」
付喪神が答える。
「上等。バラバラにしてやる。」
ユイは不敵な笑みを浮かべると敵が来るのを待つことにした。
しばらくすると、遠くの方から土煙が立ち昇るのが見えた。
その土煙の中から現れたのは確かに奇妙な男たちだった。
銅でできたような肌に腰布のみを巻き付け、棺を担いでいる。
「見たことがないな…」
そんなことを言っている間も男たちはどんどん迫ってくる。
やがてユイの近くまで来た頃、男たちは棺を下ろしどこからか警棒を取り出した。
無言でユイを取り囲む。
「こんな朝っぱらから人の安眠を邪魔しといてただで済むと思うなよ。」
ユイは軽い殺気を放ちながら男たちに言う。
しかし、男たちはその殺気を物ともせずに近づいてくる。
「しょうがない。陰、陽、やるぞ。」
「はいよ!」
「承知!」
ユイは二振りを構えると、地面を踏み込んで男の1人に斬りかかった。
ざっくりと男の腹が斬れる。
しかし、その中身を見てユイは驚いた。
「おうおう、正気か?」
男は銅でできていた。
「ユイ! そいつは『輿かつぎ』だ! 古代エジプトの式神の一種で、目標を絶対に逃がさない!」
陰が叫ぶ。
「どおりで死なないわけだ!」
ユイは続けざまに剣を振るい輿かつぎをバラバラにした。
「次!」
振り向きざまに別の輿かつぎの首を撥ね、とんだ頭にさらに蹴りを入れてもう一体の輿かつぎにぶつける。
しかし、首を撥ねられた輿かつぎは胴体だけで跳びあがっていたユイの足を掴む。
「嘘だろ!」
ユイは背中から地面に叩きつけられた。
地面に亀裂が走り、ユイの息は一瞬だけ止まった。
「がはっ!」
自分の腹を力任せにたたき吐血しながらもユイは気道を確保する。
そのまま、ユイは手のひらに文字を出現させると、輿かつぎに叩きつけた。
次の瞬間輿かつぎが錆び付き、塵になった。
「錆びれば易々とは回復できまい!」
残る輿かつぎは2体、ユイの能力と身体能力を事前に見ていたためか警戒して中々隙を見せない。
しかし、ユイは侮っていた。
後ろに音もなく近づいたのは、最初にユイに斬り刻まれた輿かつぎだ。
何の躊躇いもなく棍棒をユイの頭に振り下ろす。
ユイはその一撃に対応することなく打たれ、倒れた。
「「ユイ!」」
陰と陽が人化するが何かする前に輿かつぎ達に手首を掴まれ、無力化させられた。
輿かつぎ達は近くにいた付喪神も倒すとユイと剣に戻った陰と陽を棺に閉じ込めると、陰に沈んだ。
ゆっくりと事態は動く。
キトラが幻想郷に魔の手を絡め始めた。




