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東方竜人郷  作者: 寝起きのねこ
竜人達の因縁
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神々

「ぐっ…」

綿月姉妹の猛攻にハルヴィアは反撃の仕様が無かった。

(陰と陽みたいだな。)

どちらかを攻撃しようとするともう一方が防ぐ。

豊姫の立て続けに振られる扇子にハルヴィアの体も限界を迎えつつあった。

「案外しぶといですね。」

依姫が言う。

「ここで死んだらそれこそ地上からの笑い者だからな。」

ハルヴィアが依姫に拳を叩き込もうとする。

しかし、豊姫の扇子で拳を防がれてしまった。

扇子を殴ったとは思えない衝撃がハルヴィアに走る。

「ッ!」

ハルヴィアの体が衝撃で一瞬固まる。

その隙を依姫が逃す筈もなかった。

鋭い斬撃がハルヴィアの体に入り込む。

「ッガア!」

吐血しながらハルヴィアは吹っ飛ばされ、先に倒れていた妖夢の隣まで転がった。

「…これで終わりですね。」

「えぇ、そうね。」

月の使者のリーダー達は短く言葉を交わした。

周りの景色が段々とぼやけていく。

「…させるか!」

ハルヴィアが起き上がるがもう止めることは出来ない。

別の能力が干渉するまでは。

それは一瞬だった。

ぼやけていく世界に1つの裂け目が生まれた。

「誰だ!?」

依姫が物干し竿を構えるが次の瞬間、その物干し竿が依姫の手から消えた。

世界が鮮明に戻る。

「…まったく、どいつもこいつも俺を甘やかしやがって。そんなんだから俺も増長するんだ。」

依姫の喉に物干し竿を突き付けているのは誰であろうユイだ。

捲れたパーカーから見える包帯は真っ赤に染まり切っていた。

「お前は!?」

依姫が口を開く。

「喉元に刃物を突き付けられている時喋らないことだ。うっかり声と別れを告げたくは無いだろう。告げる声が残っていればだがな。」

ユイは笑う。

「阿呆な弟め。呪いが掛かっているのになんで来た?」

ハルヴィアが声をかける。

「ちょっとした殺戮神とお話してね。面白そうだからって力を貸してもらったんだ。さて、お前さん方。こっちに非があるとはいえ俺の家族を完膚なきまでに叩き潰した代償を払う覚悟はあるんだろうな?」

ユイの瞳には荒々しい怒気が燃え盛っていた。

「…何が望みですか?」

豊姫がユイに聞く。

その問いにユイは物干し竿を依姫の腰に付けていた鞘に素早く滑らせて収める。

「こちらの要望は1つ。伊邪那岐を降ろせ。」

歯に衣着せぬ物言いに依姫は苦笑すると祝詞を唱えた。

「大和を統べる大いなる父『伊邪那岐命(いざなぎのみこと)』よ、黄泉醜女を足止めした山葡萄と筍を両手に持ちてここに降臨せよ!」

依姫の顔が苦しげに歪む。

しばらくした後、依姫が顔をあげるとまったく違う口調でユイに話しかけてきた。

「我が伊邪那岐命である。綿月 依姫の呼びかけに応じここに降臨した。竜人よ、お前は何を望む?」

ユイは答えた。

「竜人のユイと申します。この身に宿る黄泉醜女の置き土産を除くべくここに天祖様をお呼びした次第です。」

伊邪那岐はそれを聞くとため息を吐いた。

「またアヤツか…厄介者の使い方には我も手を焼いておる。そうだろう、殺戮神?」

それを聞いた瞬間、今度はユイの顔が歪んだ。

「そうね。どこの世界にも厄介な存在はいるわよねぇ。天祖神さん?」

ユイの口調がガラリと変わる。

「…カーリー。何故お前が月にいる?」

「そうねぇ。この子の力で。素敵な子よ? 力を持ち、能力を2つも持ち、愛する人を持ち、愛される親しさを持つ。私を恐れる人は多くいるけど愛する人は1人しかいないもの。」

「その者から出ていく気はあるのか?」

「今のところないわねぇ。居心地が良いし踊ったら楽しそうだもの。」

伊邪那岐の顔が面倒くさそうになる。

「去れ。我もここで月を破壊するのは流石に骨が折れる。」

「そうね。でも、きっちり置き土産は解呪していって頂戴。」

「言われずとも。」

そういうとカーリーに櫛と髪飾りを渡した。

「では。」

その言葉を最後に伊邪那岐の気配が消えた。

依姫がその場に崩れ落ちる。

「あらあら、脆い子ね。伊邪那岐も伊邪那岐だわ。ギリギリまで私と話してたなんてね。」

そういうとカーリーも消えた。

ユイは少しふらついた後、頭を何回か軽く叩き辺りを見渡した。

倒れているハルヴィアと妖夢に気づき駆け出す。

「ハル姐、生きてる?」

「なんとかね…それより妖夢ちゃんの方を見てやりな。」

そう言われて、ユイは妖夢の方に目をやった。

「致命傷になりそうな傷はない。大丈夫そうだな。」

妖夢は気絶しているだけの様だ。

ユイは妖夢を背負う。

妖夢は少し身じろぎするとユイの背中で心地良い定位置を発見したらしくそこに落ち着いた。

「ふふっ、お嬢様だな。」

ユイは愛おしそうに妖夢の髪を撫でる。

綿月姉妹方を向くと同じ様に妹を背負った豊姫と目が合った。

「地上の民も強いんですね。少なからず私も見下していたところがあったのかもしれません。」

そう言うと軽く頭を下げた。

「よせやい。地上の民は穢れた存在、月の民は潔き存在。それは月の考え方だ。堕天したくなったらいつでもどうぞ。『魔天』がお出迎えしてやる。」

そう言うとユイは虚空に裂け目を作った。

「ハル姐。帰るぞ。《隙間「夢幻幻想郷」》もこれでお役御免だ。」

ユイは妖夢を背負ったまま裂け目を潜ると地上の故郷、幻想郷へと帰還した。

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