温泉と追跡者
ユイのスペカのリストを間違えていくつか消してしまった(;_;)
ユイの手を掴んでこいしはどんどんと温泉街を歩いて行く。
「おい!速いって!もうちょいゆっくり歩けないのか?」
ユイは悲鳴に近い声でこいしに呼びかける。
しかし、こいしはユイの言葉など聞こえないかの様にズンズンと歩いて行く。
何度か角を曲がってしばらくの間大通りを引っ張られていると巨大な建物が見えて来た。
その建物まで来た時、こいしは立ち止まった。
「着いた。ここだよ。地霊温泉。」
「お前さん、俺の言葉を聞いていたか?」
「え?何か言ってたの?」
「はぁ…なんでもない。ありがとな。」
そう言って建物の中に入ろうとした時だった。
「にゃ〜ん」
猫がユイに鳴きかけた。
見ると黒に赤のまだら模様が混じった猫がユイに向かって鳴きかけている。
「ん?黒猫か。しかし、珍しいな。」
そう言って頭を撫でようとしたその瞬間、猫が煙に包まれた。
「なんだ!?」
驚いて飛び下がると周りも異変に気がついたのかサッと煙から距離を置く。
その煙の発生地にはさっきまでの猫の姿はなく、ゴスロリの様な服に身を包み燃える様な赤毛を三つ編みのツインテールに束ねた猫の耳を持つ少女が立っていた。
少女は辺りを見渡すとゆいを指差して言った。
「お前…こいし様を誘拐しようとしたな。」
「疑問形じゃない以上お前さんに何を言っても聞かないだろ。」
「よく分かってるじゃないか。と言うことは認めるんだな。」
「この温泉まで連れてってくれるって言って連行されただけだ。」
ユイは後ろの建物を指差した。
少女は不満そうに眉をひそめる。
「立場を逆にすれば許されるとでも?」
「お前さんの都合のいい様に喋れば許してくれるとでも?」
「質問に質問で返すことは愚か者のすることだ。」
「お前さんの中で答えは決まっているのにそれをわざわざ口に出して問うのは馬鹿のする事だ。」
「あたいは死体運びのお燐だ!普段は自ら人を襲うことも無いがお前は数少ない例外になりそうだ。」
「嬉しいね。一度死体運びに運ばれてみたかったんだ。」
「ふん、舐めた口を叩けるのも今だけだ。すぐに火車に乗せて灼熱地獄の燃料にしてやろう。」
「生きてるうちに聞きたくなかったかも。」
「怖気付いたか?」
「いや、竜人は耐火性だったわ。《一太刀「陽剣 太陽龍」》、《二太刀「陰剣 太陰龍」》。」
ユイがそう言うと、両手に二振りの刀の様な片手剣が現れた。
右手には陽の光の様に薄く輝く「陽剣 太陽龍」が握られている。
左手には反対にこの世の闇を表す様な黒いオーラを放つ「陰剣 太陰龍」がある。
しかし、どちらの剣も革の鞘に包まれて刀身を確認することはできない。
「あたいも舐められたもんだ。《猫符「キャッツウォーク」》!」
お燐のスペルカード発動で弾幕が生まれユイに向かって行く。
ユイはと言うと二振りの剣をゆったりと構え向かってくる弾幕をじっと見据える。
「どうした?あたいの弾幕に恐怖で動けなくなっちまったのか?」
「いや、避けるまでの無いな、と思ってさ。」
そう言うとお燐の撃った弾幕が全て散った。
「一体何を…?」
「こいつらは竜の鱗でできていてな。竜の鱗は時に弾幕を防ぐこともできる。そんなものを剣にしたらどうなるか。まあ、さっき見た通りだ。切り捨てることができる。捨てないかもしれないが。」
「くっ!まだだ!」
「いや、終わりだよ。俺もこれ以上野次馬を守るのは流石にめんどくさいんでね。」
いつの間にかユイはお燐の後ろに回り込んでいた。
右手には刃渡り25㎝ほどのナイフが握られており、お燐の首筋に添えられていた。
「刃物程度であたいが死ぬとでも?」
「なら所詮は猫。水でもぶっかけてやろうか?」
そう言うと、お燐の顔が引きつった。
果たして何かのトラウマでの思い出したのか、それはお燐のみぞ知るだ。
「説得力がないかもしれないが一応行っておこう。俺はあの無意識娘にこの地霊温泉に連れてこられた。ただそれだけだ。隙間の妖怪に地底の空から落とされはしたが。」
「そんな嘘が通じるわけないだろう!」
「あ〜そうそう、その隙間妖怪からこの温泉を紹介されたんだっけ。確か『向こうの方々に言ってある』、てな。」
「私は聞かされてない!」
お燐が叫ぶと人垣の中から声が聞こえた。
「お燐、ここにいたのね。」
その声が響いた瞬間野次馬たちがさっと散り出した。
「ん?一体誰だ?」
見るとピンクの髪の少女が立っている。
ユイが疑問に思う間も無くお燐が猫へ戻った。
「しまった!」
猫はその少女の足元に行きその場にうずくまった。
「…?」
「いいえ、式神ではないわ。私のペットよ。」
「考えてることがわかるのか!?」
「さとり妖怪ですもの。申し遅れたわね。私は地霊殿の主、古明地さとりよ。紫から連絡は貰ってあるわ。この地霊温泉旅館でゆっくりくつろいでいって頂戴…それから私の心を読む能力がどう言う仕組みで出来ているとか考えないでもらえるかしら?意識がある状態で解剖されてるみたいな気持ちになるのだけれど。」