決意
短いけど、何気に2時間以上かけて作ったものです。
ここは白玉楼。
そこの居間では鬼龍のユイ、幻想郷の賢者、八雲 紫に白玉楼の主の西行寺 幽々子が座卓を囲んでいた。
「じゃあ、ユイに潜入捜査の報告をしてもらおうかしら。」
紫がおもむろに口を開く。
「…最初に言っておこう。幻想郷を狙っている奴はこの上なく恐ろしい野郎だという事だ。そいつの名はキトラ。俺の知る中で史上最悪な竜人族の元七賢人の1人だ。七賢人はかつて竜人族の政権を握っていた連中とでも言っておこうか。」
そこ後、ユイは潜入時の出来事を掻い摘んで2人に説明した。
「なるほど。大体状況は分かったわ。」
「で、このことは幻想郷の各勢力には伝えるのか?」
ユイが尋ねる。
「本当は大事にはしたくなかったのだけどこうなった以上報告して協力してもらった方が良いわね。」
そう言うと紫は重いため息を吐いた。
「まぁ、頑張って頂戴。」
幽々子は興味ないと言わんばかりに肩をすくめた。
(お互い知り合ってから随分と経つから遠慮が無いんだろうな。)
そんなことを考えながらユイは話を続ける。
「他に何か話がある人は?」
2人にそれ以上話す事が無いことを確認すると、ユイは居間から出て行った。
「それじゃ、弟子の成長ぶりを見ないといけないもんでね。」
そんな言葉を呟いてキトラに言われたあの言葉を思い出す。
(「君、もしかして彼女の事が好きなんじゃないか?」)
「…阿呆らしい。なるべく身軽に生きていたいんだ。守るものなんて少ない方が良い。」
自分に言い聞かせるように言いながらユイは妖夢と修行している場所へ向かう。
妖夢は庭でいつもの様に剣を振っていた。
普段と違うのは妖夢が真剣、「楼観剣」と「白楼剣」を持って修行に打ち込んでいる所だろうか。
無駄なく、太刀を最短の距離で振ろうと意識しているのが感じられる。
上から、横から、下から…
流れる様な動作で斬撃を繰り出していた。
(ほぼほぼ隙を作らずに体を動かすことに特化した剣術か…)
やがて、気がすむまで剣を振り終えたのか妖夢が縁側に戻ってきた。
「よう。」
「え? …ユイさん!?」
「あぁ、ユイさんだがどうかしたか?」
妖夢は顔を赤くして黙りこくってしまった。
いやでもキトラの言葉を思い出す。
(気にするな…妖夢はあくまでも俺の弟子だ。仮に妖夢が俺に好意を寄せていたとしても…俺にはどうしようも出来ない。)
妖夢も何か考え事をしていた様で、しばらく気まずい沈黙が続く。
「ところで…」
「ユイさん…」
2人は同時に話題を切り出す。
「「あっ…」」
再び沈黙が始まる。
「…ユイさんからどうぞ。」
たっぷり10秒は沈黙した後、妖夢が促した。
「いや、俺はお前さんの修行の事だから、それ以外の用件だったら妖夢からで。」
「いえいえ! ユイさんからどうぞ!」
しばらくの応酬の後、妖夢が折れた。
「えっと…その…今日の夜…ここに来て…頂けませんか?」
「別に良いけど。」
簡単な了承の返事に、妖夢は驚いた様な表情を見せる。
「良いんですか?」
「別に構わんよ。断る理由もないしな。」
「そうですか…」
ユイは1回だけ手を鳴らして話題を変える。
「じゃあ、今度は俺の番。お前さん、二刀流だったんだな。」
「はい。そうですが。」
「そうか…じゃあ、今度から二刀流の修行もするか。」
「分かりました。」
こうして、ユイの白玉楼での生活が再び始まった。
夜になった。
月が高く昇り、白玉楼を美しく照らし出す。
魂たちがその光を反射して、まるで光の霞がかかっている様だった。
そんな幻想的な景色の中に妖夢はいた。
「…本当に来たんですね。」
どことなく緊張した様子の妖夢がユイに声をかける。
「何かとモノ好きでね。」
「どういう意味ですか?」
「さぁ、どういう意味だろうな?」
ユイは感情の読めない笑みを浮かべていた。
「もう!」
「ははは、そんなに怒るなって。俺なりの緊張ほぐしだ。」
ユイはカラカラと笑いながら妖夢をなだめる。
「今晩は…お伝えしたい事が…ありまして。」
妖夢が落ち着きなく話を切り出す。
その雰囲気がいつもと違うのを感じてユイは茶々を入れずにその言葉を聞く。
「えっと…お聞きしたい事がありまして。」
そういうと妖夢は少し間を開ける。
「それで…ユイさんって…気になっている方とかって…いらっしゃいませんか?」
そこで初めてユイが口を開いた。
「いるけども。」
「そうなんですか!?」
「お前さんが俺を呼び出したんだから俺の話に食いついちゃ意味ないだろ…」
「誰なんですか?」
「それは内緒さね。」
ユイは妖夢の質問を流そうとする。
「誰なんですか?」
妖夢が何故か怒った様にユイを問い詰める。
「なんで怒ってるんだ?」
「怒ってません。」
頑なな態度にユイの口角が持ち上がる。
「じゃあ、こう言い換えてやろう。なんで焼き餅焼いているんだ?」
「〜〜〜〜〜〜!!!!」
妖夢が顔を真っ赤にする。
どうやら図星だった様だ。
「この話は無かったことに…」
「出来るとでも?」
「するんです!」
妖夢が意地を張る。
その様子にユイは思わず笑い出してしまった。
「あははは!」
「笑わないでください!」
「ごめんごめん。ちょっとからかいたくなっちゃって。」
妖夢は顔を赤くして後ろを向く。
「これじゃあ…私が馬鹿みたいじゃないですか…」
「どうかしたか?」
「なんでもありません!」
そういって振り返る。
ユイはまだ、楽しそうにしている。
「で、もう1つあるだろ。さっきのは『聞きたい事』今度は『伝えたい事』だ。お前さんにとっちゃそっちの方が本題なんじゃないか?」
妖夢の心臓が一回高く脈打つ。
「そ、それは…」
ユイは何も言わない。
「…どうしても…言わないといけませんか?」
「それはお前さんが決めることだ。自分で決めな。」
ユイの顔は優しげな表情をしている。
「…やっぱり私には出来ません。」
「そうかい。そんじゃ、おやすみ。決意ってのは揺らぎ始めると一気に瓦解するぜ。」
そういって、ユイは後ろを向くと白玉楼に向かって歩き出した。
「待ってください!」
妖夢が声をかける。
ユイは立ち止まって振り返ろうとした。
ぎゅっ。
それよりも前に妖夢が後ろから抱きしめる。
「…本当に…ひどい人ですね。」
「あまり良い教育は受けなかったもんでね。」
その言葉に妖夢はユイを抱きしめる腕に力を込めた。
「…このまま、言わせてください。」
「どうぞ。」
ユイの背中に額を預けながら妖夢は言葉を紡ぎ出す。
「…ずっと、あなたの事が…好きでした…あなたの言動ひとつにドキドキして…あなたの言動ひとつに楽しい気持ちになって…あなたの言動ひとつに悲しい気持ちになって…私はあなたに振り回されっぱなしです。あなたさえ良ければ…こんな半人前な私で良ければ…お付き合い…して頂けませんか?」
ユイはしばらく黙った後、口を開く。
「全くめんどくせえ。俺はお前さんを見送りたくないのによ。竜人の不老永寿が憎いなぁ…同じ気持ちなのにお前さんが死んでも俺はずっと抱えていかなきゃいけないんだからな。だから恋情なんぞ持ちたく無かったんだ…」
そういうとユイは妖夢の腕の中で身をよじるとそっと抱きしめ返した。
妖夢の目からも自然と涙が溢れる。
「ほれ、見たことか。すぐに泣かせちまうんだからな。お前さんもよっぽどモノ好きなんだな。」
「…嬉し涙です。」
妖夢がそっと、涙を拭いながら返す。
「…妖夢。」
「なんですか?」
「ありがとう。」
「どういたしまして。」
(いつか、妖夢とは別れる事になるのかもしれない。いや、確実になるだろう。それでも、こいつが幸せと感じるなら…俺は死ぬまでこの想いを大切にしてやる。)
静かな夜の中、2人の陰が幻想的な景色の中に浮かび上がる。
しかし、それを見るものはいないだろう。
魂魄は光の霧で2人を包み隠し、月の光は柔らかな月光で2人を覆い隠す。
幻想の景色は幸せな恋人達の姿を隠し続けた。
浮ついた感じはなるべく抑えた2人らしく書いてみました。




