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東方竜人郷  作者: 寝起きのねこ
竜人達の因縁
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悪夢

ユイが、戦場にやってくる。

「さあ、戦の始まりだ!」

森の主である師匠がそう宣言してから3日が経った。

ユイは木の上に立ちキトラが進軍していないかを見張っている。

その横では創筆が退屈そうに小さな筆で栗鼠(リス)野鼠(ノネズミ)を空中に早書きして瞳を入れては森に放っていた。

師匠がいちいちそれを転移させるとしたら3時間は追加されるだろう。

「お前さん、それのせいで師匠の魔法陣の時間がかかっているんじゃねえの?」

「私の知った事じゃないですよ。それにそれをいちいち魔法陣に書き込んでくれる程あの方は優しくはありませんし。」

「そうなるとお前さんの方が残酷に思えてくるな。」

そういうとユイは索敵を再開する。

森を周りながら地形や木の場所を把握していった。

役に立たないのが1番だが、用心に越したことはない。

丹念に調べていく。

「…ん?」

森を半周した所でユイは足を止めた。

地面に手を着いてじっと一点を見つめる。

「どうかした?」

「…斥候隊がいる。多分、5人から8人。少し仕事して来るから森の外の警戒を強化しといて。」

そういうとユイは創筆の返事を待たずに森の中に飛び込んだ。

枝を伝って跳び回りながら魔法陣からゲルカナイフを取り出す。

(足跡はまだ新しい物。という事は俺達が巡回に来る前に侵入されたか。早めに森へ還したいところだ。)

逆手に構えて兵士を探す。

ガサッ。

ユイの耳がその音を聞いたのは調査を始めてしばらくしてからだった。

見てみると、ギリースーツを着た兵士が8人、森の中心に向かって歩いている。

(迂闊に声を出して意思疎通をしない所を見るとかなりの手練だ。)

そんな事を考えながらユイはニヤリと笑った。

ゲルカナイフを腰にしまうと服の右袖を捲る。

紅い鱗に覆われた竜の腕が露わになった。

指の先には恐ろしく鋭い爪が輝いている。

(この気分をアイツらには味わって貰うか。)

ユイは地面に音もなく飛び降りると兵士達を切り裂いていく。

程なくして8つの死体がユイの前に折り重なった。

ユイ2人の兵士からギリースーツを剥ぎ取ると創筆の元へ戻って行った。

「ただいま。」

「おかえり。ただ、ちょっとタイミングが悪かったかも。」

見ると森のあちこちで何かが動いている。

「1000と言ったところか…」

「10くらいはいけるかな…」

そういって創筆はいつの間にか腰に下げていた弓を取り出した。

創筆の持つこの弓は彤弓とうきゅうと言うもので中国神話で9つの太陽を落としたと言われている弓だ。

「ノルマばっかりに気を取られるなよ。あとこれ。」

そう言うとユイはギリースーツを渡した。

「少数で来たらはこいつを被って倒す。なんにせよ姿を見られないほうが良いだろう。奴らの玩具になりたくなければな。」

そう言うとユイもギリースーツを被って陰と陽を呼び出すと言葉を続ける。

「バレないように狙撃してくれ。向こうも何かしらの狙撃武器は持っている筈だから気をつけろよ。」

言うが早いがユイは素早く手を前にかざして空中で何かを掴み取る仕草をする。

手を開くと狙撃銃の銃弾が湯気を上げていた。

「…人間離れしてるね。」

「人間じゃないからな。作戦変更だ。場所を変えるぞ。陽動の可能性もある。陰、陽。そこにいる奴ら近付いてきたら倒しといて。」

そう言うとユイは森へ消えて行った。

創筆も後を追う。

森を1周して見るとどうやら三方から囲まれている事が分かった。

「敵も舐めて掛かったものだ。」

ユイの腕は怒りで常に竜のままになってしまった。

更に鱗が逆立って風鈴とも乾木のぶつかりあっているとも取れる音を立てている。

「ユイさん、相当怒っていますね。」

「なかなかピリピリしているみたいだ。」

そう言うとユイは陰と陽のいる方向へ駆け出す。

「ストレス発散してくる。」

創筆にそんな言葉を残すと、敵陣営の真っ只中に突っ込んだ。

「コンタクト!」

兵士のそんな声と共に銃がユイに向けて発砲される。

ユイはそれらを全て躱してみせた。

上体を起こすと凶悪な笑みが張り付いている。

(さっさと終わらせて戻ろう…)

「お前らさぁ。少し遊んでくれないかなぁ?」

普段のユイからは想像もできないほど気持ち悪いねっとりとした声で兵士に聞く。

「いや、いいやぁ。殺すだけだから。《龍符「殺戮者の烙印」》」

次の瞬間あちこちで悲鳴が上がる。

ユイのスペカにより何人かが倒れた。

戦うには兵士たちはあまりに弾幕というものの恐ろしさを知らなすぎた。

あるものは弾幕に被弾し、あるものはユイの手によって肉塊へと変わっていく。

「血…血! 血! 血!」

楽しげな声が森に響き渡る。

ユイが一振りするだけで、5人が死ぬ。

ユイが1蹴りするだけで3人が死ぬ。

そこから彼は殺戮を始めた。

鼻歌交じりに人を殺す。

ユイの狂気がそこに見えた。

ゲラゲラゲラゲラ!

白玉楼で夢に見たあの光景が目の前にあった。

通り抜けざまに兵士に斬りかかる。

相手を締め上げてその銃を撃たせて仲間を殺させた後、首の骨を折る。

「殺せ! 怯むな! アイツを抹殺するんだ!」

兵士の虚しい声が響き渡る。

しかし、手を出せる兵士はもういなかった。

ユイがその兵士の前に立った。

「ねえ、仲間はどこにいるの?」

まるで花畑で遊んで来た子供の様にユイはその兵士に聞く。

「しっ! 知りません!」

それが最後の言葉だった。

ユイは頭を力の限りに押し潰す。

兵士の頭は血飛沫と共に砕け散った。

(モットダ…モットモット…)

その時後ろに何かが飛んで来たのを感じて振り返りながら避ける。

見ると創筆が弓をユイに向けて立っていた。

「いくらあなたでもやりすぎです。これ以上は私が相手します。」

普段のやや軽い口調が今は完全に消え失せていた。

「あなたは…血ヲ落トスノ?」

「血は落としません。あなたは私の希望を落としましたから。失望というやつです。」

「血…無イ。モットダ…モットモット…」

その様子に創筆は弓を引く。

「あなたを獣として狩らせていただきます。『殺戮の獣』として。」

「獣? 血…血…血…? 血ィ…」

ユイはニヤリと笑う。

もはやまともな思考は残っていない様だ。

その時、陰と陽が創筆の側に現れる。

「協力するぞ、創筆殿。」

「あれが狂気だ。ユイが必死に押さえ付けようとしてきた無意識のな。あれもまたユイだ。」

「つまり無力化しろと?」

「殺すなと言いたいだけだ。四肢を捥いでもアイツを無力化するぞ。」

そういうとスラリと陰と陽は腰に下げていた自分の本体を引き抜いた。

その様子にユイはゲラゲラと笑う。

「戦の前にコイツと戦う事になるとはな…」

陽のつぶやきが風に流れる。

ユイと創筆達の戦闘が開始した。

創筆は後ろに下がって次々と弓を放つ。

陰と陽は逆にユイに斬りかかって行った。

息のあった剣技がユイに襲い掛かる。

しかしユイはそれをいとも簡単に防ぎ、時にはお互いの剣をわざとぶつける様な立ち回りをする。

しかし2人はそんな失態を冒すことも無く、逆にユイを追い詰めるような立ち回りをしていく。

さらにユイは創筆の矢も避けなくてはいけない。

戦況は創筆側に傾いた。

真言をユイが使うまでは。

「オン・バザラ・ヤキシャ・ウン!」

その瞬間凄まじい気迫で陰と陽が創筆の所まで吹っ飛ばされる。

「狂気の状態で降神術だと…」

「しかもなかなか厄介そうな奴を降ろしたみたいだぞ。避けろ!」

陰が叫んだその直後、何かが創筆達の周りを破壊した。

跡には草1本も残っていない地面が姿を見せた。

「あれは…」

ユイは金色の気を全身に纏ってあのゾッとする笑みを浮かべている。

「金剛夜叉明王。天界の北を守護する明王だ。ああなった以上、簡単には近付けん…おっと危ねぇ!」

創筆の呟きに陽が答えた。

陽の説明の途中にユイが気を扱った攻撃をして来たので陽は1度攻撃を避ける事に集中する。

「血…血…」

ユイは右の掌を陽に向けている。

その時、陰はある物に気が付いた。

(左手のあの黒いリボン…妖夢殿の物か…)

陰は必死で頭を回転させた。

「陽! 創筆殿! アイツの左手にあるリボンだ! アレがユイの目に入る様にするんだ!」

「分かりました!」

「おうよ!」

陰は真っ直ぐユイを睨み付ける。

(ハルヴィア様の為にも、必ずアイツを無力化してみせる!)

暴走したユイを無力化する為の作戦が始まった。

やばいねぇ。

あまりこの言葉は好きじゃないけど今回ばかりは使っても良いと思う。

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