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東方竜人郷  作者: 寝起きのねこ
竜人達の因縁
25/93

再会と臨戦

間接話ですね、これ。

面白みもクソもございません。

ユイはその日、人生で初めて鳳凰の上で目を覚ました。

「おはよう。調子はどうだい?」

後ろから声が聞こえる。

「…え?」

寝ぼけた頭をなんとか叩き起してユイは状況を整理する。

(自分は今、鳳凰の背中に乗っていて後ろには知らない娘っ子がいる、陰と陽は別にいる竜の背中に乗っている。以上。)

「…どういう状況?」

「それが普通の反応だね。私は張 創筆。とりあえず、今は安全な場所に移動しているから私の話を聞いてほしい。」

そういうと創筆はこれまでの経緯をかいつまんで話した。

「…なるほど。キトラがね…」

そういうとユイは体を起こす。

腹を見てみると血が付き服は破れているが、創筆が話した通り傷は治っている様だった。

「改めて調子はどう?」

創筆が尋ねる。

「う~む。体調は問題ないな。感情面ではかなり不安定だが。」

そういうとユイは右手を後ろの創筆にも見えるよう上げてみせる。

一瞬だけ、ユイの手が鱗に覆われた武骨な竜の腕に変化する。

「イライラしたりするとこんな風に多少影響は出るんだ。」

そう言ってユイは右手を下げた。

その途中でさっきよりも長い時間竜の腕に変化していたのを創筆は見た。

「もうすぐ着くからしばらく待ってて。」

「じゃあ、もうひと眠りさせてもらおう。『阿呆(あほう)は寝て待つ』なんてな。」

そう言ってユイはまた眠りに落ちた。

「ユイ、着いたぞ。起きろ。」

誰かがユイの額を叩く。

パッと目を開くと上体を起こす。

陰がこちらを覗き込んでいた。

「…どこ?」

「創筆殿が言っていた『安全な場所』だ。創筆殿は森の主とやらに許可を取りに行った。」

周りを見渡してみると、雑木林が広がっている。

「なるほどねぇ。あの建物からは随分と離れてそうだ。」

そういうとユイは起き上がる。

「っとと…」

「やめた方がいいわ。あなたの怪我は治っているけど安静にしないと完全に閉じないわよ。」

いつの間にか戻って来た創筆がユイに言う。

「竜人の回復力舐めんな。それに…」

そういうとユイは文字を出現させようとする。

「無理よ。ここは『まほろばの森』。あらゆる物が禁じられる別世界みたいな所だから。」

「幻想郷とは反対なんだな。」

「幻想郷?」

その言葉に創筆は首を傾げる。

「俺の故郷。幻想となった者達が集う所さ。そういえば挨拶をして無かったな。俺は竜人のユイってもんだ。ちょっとした依頼であの組織を調べてたんだ。なんでお前さんがあそこに居たのかは知らんけどありがとうな。」

「私は捕虜となった仲間を助けに行ったんだ。仲間とはいっても私の描いた生き物だったんだがな。私は『絵に命を吹き込む能力』を持っているんだ。それで描いた生き物達が奴らに囚われたんだ。でも…」

そこまで言うと創筆は口を噤んだ。

結果は言わなくても分かる。

「そうかい…」

ユイは黙って近くの木に飛び乗り枝に腰掛ける。

その様子に創筆が目を丸くする。

「その木、3mぐらいあるんだけど。」

「3m?」

「…10尺ぐらいあるのにどうしてそんな軽々と飛び乗れるの?」

その問いにユイはからからと笑う。

「訓練すりゃ出来るようになるさ。」

「忍者じゃあるまいし。」

創筆が呟く間にユイは木の上で何やら作業をしている。

「魔法陣は使えるのか。ありがたい。」

魔法陣の中に手を突っ込むとヤツメウナギの塩焼きを3本取り出した。

「食う?」

「じゃあ遠慮なく貰おうかな。」

それを聞くととユイはヤツメウナギを一本放って寄越した。

創筆は危なげなくそれを受け取ると、かぶりついた。

「なんであったかいの?」

「あっためたから。」

そういうとユイは左手の平を見せる。

魔法陣があり、そこから陽炎が揺らめいていた。

「魔法が使えるなら使わない手は無いと思ってね。」

そういうとユイもヤツメウナギを食べようとするが何を思ったのかその手を止めた。

「…頂きます。」

そう呟いてヤツメウナギを食べ始める。

食べ終わるとユイは地面に飛び降りた。

「陰、陽。しばらく休んでな。」

そういうとユイは魔法陣を開いて陰と陽をしまった。

魔法陣を閉じるとユイは創筆をじっと睨む。

「…何かあった?」

「……」

ユイは手に持っていたヤツメウナギをナイフ投げの容量で投げる。

「え?」

創筆が気づいた時にはヤツメウナギが目の前まで迫っていた。

しかし、ヤツメウナギは空中で止まっている。

「…バレてねえとでも思っていたか? そんな玩具みてぇな隠蔽で。」

「流石と言ったところか。只者じゃないな。」

創筆の目の前で声の主は姿を表した。

中国神話の神のような服装をした老人だ。

「森の主をやっている。名は…」

「ない。知ってるさ…師匠。」

そういうと師匠と呼ばれた老人は笑った。

「随分と強くなったようだな。ユイ。」

「おかげさまでね。師匠。」

「創筆、少し外してくれるか?」

創筆は無言でその場を離れた。

「ユイ、挨拶がわりは忘れちゃいないだろうな。」

「忘れちゃいないさ。」

そういうと2人は可視化出来る程の凄まじい殺気をみなぎらせる。

「懐かしいね、師匠。ところで自然界に消し飛んだんじゃないの?」

「消し飛んだのとは少しばかり違う。実際には成功していたらしいな。そのあとに死神が迎えに来て、閻魔の元で少し世話になって今じゃ閻魔お抱えの宦官だ。」

「随分と出世したな。」

「身軽だった方がやりやすかったんだがな。」

そういって、苦々しい顔をする。

ユイはカラカラと笑った。

「じゃあ、始めるか。」

師匠はそういうと、印を結ぶ。

ユイは師匠とは違う印を結んだ。

「ナウマク・サマンダ・ボダナン・エンマヤワカ!」

「ノウマク・サマンダ・ボダナン・ラタンラタト・バラン・タン!」

2人が唱えるとあたりに風が吹き2人は不思議な気を放っていた。

「阿修羅か。お前さんらしい。」

「そっちこそ。閻魔天なんてどんな皮肉だ。」

そういうと2人は戦い始める。

武器はない。

己の体を剣とし、盾とし、力の続く限り戦い合う。

拳や足が相手に飛んではお互いに流され、躱され、防がれる。

「なるほど、こっちの腕はあまり修行していないようだな。」

「少しばかり修行出来なかったもんでね。」

「2974年もか?」

「2974年も。」

そういうとしばらく無言で応酬を続けた。

「ほい、まだまだだな。」

師匠はそういうとユイの胸に拳を叩きこみ勝敗を決した。

「痛ってぇ。」

吹っ飛ばされたユイは胸を撫でながら戻ってくる。

「甘い甘い。降神術も少しはやっておけ。」

「分かったよ。」

「さて、時にユイよ。」

師匠がユイが投げたヤツメウナギを齧りながら語りかける。

その側にはいつの間にか創筆がいた。

「なんだ?」

「創筆から聞いたんだがキトラが動いているって本当か?」

「…恐らくな。俺の憑神が言ってた。」

「となると、ここがバレるのも時間の問題か。キトラの事だ。まるで盤上の遊戯でもやるかのように兵に指示を出してここを攻めるだろうよ。」

そういうと創筆が顔を青くする。

当然だろう。

ユイは修行で師匠がいかに強大な力を持っているのか知っている。

創筆など簡単にバラバラに出来る。

「で、ここは師匠の物なの?」

「そうなるな。気に入っていた森だが。」

「阿呆らしい。師匠の力でどうにでもなる。」

「なるほど、どうやら儂はポンコツの弟子を持ったようだな。」

「ポンコツって…」

師匠は途中まで齧っていたヤツメウナギを丸呑みにする。

「いいか、ユイ。儂が身軽でいたかったのは神格化するのを防ぐためだ。しかし、閻魔の宦官になってみたらどうだ? 見事に神格化しちまったんだよ、コンニャロめ。儂の専門は降神術を使った武術。それが降神する神がどこにいる。そのせいであちこちからやっかみを受けてんだよ。さらに信仰が少ないせいで、神力も半分出すのでせいぜいだ。だから、『森羅万象に属する能力』が欲しかったんだよ。おかげで『半端を司る神』なんて言われる始末。半分あればアヤツらの半分は消し飛ばせるだろうな。もう半分はお前ら2人で飛ばせるか? 出来るとは思えん。姿を眩ませるしかもう無いんだよ。」

そういうとどこからか杖を出してユイの頭を小突く。

「やめろって。分かったよ師匠、やってやるよ。俺を舐めすぎだ。」

「出来るもんか!」

「ガキか!」

「年齢なんか考えていたらそれこそ腐っちまう!」

「分かったから頭小突くのやめろって!」

ユイは杖をむしり取ると半分に折る。

「師匠、この森は何処にあるんだ?」

「埼玉。」

「現在地は一応あるのな。何処にあるのかは知らんけど。じゃあ転移させろ。」

「時間がかかる!」

「いちいち狂乱ヒステリーすんな! いいか師匠! 俺が時間を稼ぐ。その間になんとかしろ。俺への教えを忘れたか?『使える物は親でも師匠でも使え』だ。なら師匠が弟子を使わなくてどうする。」

それを聞くと師匠はポン、と手を打った。

「そんなことも教えたな。なんとなく。」

「なんとなくってどうなんですか…」

創筆が口を挟む。

「了解した! じゃあ転移させるから一週間持ちこたえろ。」

「はいよ。」

「ちょ、ちょと待ってください! 一週間も待たないといけないんですか。」

「この森を全部転移するんだから当たり前だろ。森の地形や生態系を半分の力でやらにゃいけんのだからな。」

創筆の焦った声に師匠が答える。

「長すぎますよ! もう少し短く出来ないんですか!?」

「「短いだろ。」」

ユイと師匠の声が被って創筆に向かう。

そんな様子に創筆はため息を付いて答えた。

「さあ、戦の始まりだ!」

そういう師匠の目は楽しげに輝いていた。

さあ、戦のお時間だ!

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